Heart to Heart

    
第55話 「もしかして修羅場?」







 
――チュンチュン


「ん……?」

 窓の外から聞こえてくる小鳥の囀りに、俺は目を覚ました。

「……朝、か?」

 気が付くと、俺は机に突っ伏して眠っていた。

 確か、昨夜は夜遅くまでプログラムの復旧作業をしてたはずだけど、
どうやら、途中で眠っちまったみたいだな。

「むぅ〜……腹減ったなぁ」

 と、寝起きでぼやける目を擦りながら体を起こすと……、


 
パサッ……


「……ん?」

 俺の背中から、毛布がずり落ちた。
 どうやら、誰かが眠っている俺に掛けてくれたみたいだな。

 でも……誰だ?
 って、今、俺の家でこんなことが出来るのは、一人しかいねぇわな。

 とりあえず、毛布を拾ってベッドの上に放り、
俺はパジャマを脱いで、部屋着に着替えた。

 そして、軽快に階段を降りると……、


 
クンクン……


「……ん?」

 キッチンから漂ってくる食欲をそそる匂いに、俺は鼻を鳴らす。

 ……うむ。
 コーヒーとバタートースト、それにハムエッグと見たっ!

 匂いから献立を予測しつつ、俺は誘われるようにキッチンへと足を運ぶ。
 そこには……、

「あ、誠さん、おはようございます」

 エプロンをつけて楽しげに朝食を作るエリアの姿があった。
 しかも、エプロンの下は、昨夜貸した俺のパジャマだ。

 男物のパジャマの上にエプロンをつけた少女。
 …………グッド!!(爆)

「どうしたんですか? ボーッとして」

「あっ、い、いや……」

 まさかエリアの姿に見とれていたとは言えず、
俺は軽く咳き払いをして誤魔化す。

「わりぃな。わざわざ朝メシ作ってもらっちゃって」

「いいえ。これからしばらくお世話になるんですから、
このくらいは当然の事ですよ」

 と、エリアはテーブルの上に料理を並べながら、ニコリと微笑む。

「もうすぐ用意出来ますから、誠さんは顔を洗ってきてください」

「ああ、そうするよ」

 俺はエリアの言葉に頷き、洗面叙へと向かう。
 が、途中で立ち止まり……、

「エリア……」

「はい?」

「毛布……ありがとな」

「い、いえ……誠さん、昨夜は遅くまで……私の為に……」

 俺が毛布の件で礼を言うと、
エリアは恥ずかしそうにもじもじとエプロンの裾を掴む。

 ……なんか、可愛い。

 と、そんなエリアを微笑ましく思っていると……、


 
ピンポーン……ピンポーン……


 玄関のチャイムが鳴った。

「あ、お客様ですね」

「俺が出るよ」

 エリアをキッチンに残し、俺は玄関に向かう。

「……誰だ? こんな時間に」

 首を傾げながらドアノブに手をかける。

 ……はて? 何かが引っ掛かるな。
 この違和感……昨夜も感じたぞ。

 そう……何かを忘れているような気がする。

 と、そんな事を考えつつ、俺は玄関を開けた。
 そして、その瞬間、違和感の正体に気付いた。

「まーくん、おはようございます♪」

「おはよう、まーくん♪」

 玄関を開けると、そこにはさくらとあかねがいた。

 ……そうだった。
 思い出した。

 来週の日曜日にプールに行く約束をしてて、
今日はその日の為に一緒に新しい水着を買いに行く予定だったんだ。

「まーくんに朝ご飯作ってあげようと思って、ちょっと早く来ちゃいました」

 てへっと可愛く舌を出すさくら。
 同様に、あかねも被っていた麦藁帽子で口元を隠して、上目遣いで俺を見る。

 いつもなら涙が出るほどありがたい二人の申し出。
 しかし、今朝はちょっとばかし事情が違う。

 ……とにかく、変な誤解されない内に、ちゃんと説明しとかねーとな。

 と、俺がエリアの事をどう説明したら良いか悩んでいると……、


「誠さーん! 朝ご飯出来ましたよー!」


 キッチンから、俺を呼ぶエリアの声が飛んできた。





 
ドタドタドタドタッ!!


 二人はその声に素早く反応し、
キッチンへと駆け込んで行く。

「お、おい! ちょっと待て! 二人とも、俺の話を聞けっ!」

 俺は慌てて二人を追い駆ける。
 だが、ひと足遅かった。

「……知らない女の子が、朝ご飯作ってる」

「……しかも、
まーくんのパジャマ着てます」

 俺がキッチンに入ると、
そこには、エリアを見て呆然と佇むさくらとあかね姿が……、





 ……終わったな。





 わなわなと体を震わせる二人の姿を見て、俺は死を覚悟した。
















「まーくんっ!!!」


「どういうことなのーっ!!!」








<おわり>
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