Heart to Heart
第49話 「あいあいがさ」
「いってきまーす」
わたしは家の奥にいるお母さんに声を掛けて、
勢い良く玄関のドアを開けました。
「……今日は、あまりお天気良くありませんね」
外へ出てすぐ、わたしは空を見上げました。
ちょっと曇ってます。
午後には雨が降り出すかもしれませんね。
わたしは家に戻って、傘立ての中から、
折りたたみ傘を一本取り出しました。
「…………」
ですが、ちょっと考えます。
……多分、まーくんは傘なんて持って来ないでしょうね。
だったら……、
わたしは折りたたみ傘を戻すと、大きめの傘を持ちました。
……うふふ♪
これで、まーくんと相合傘です♪
わたしはルンルン気分で、外に出ようとしました。
「…………」
ですが、もう一度、考えます。
どうせ相合傘をするなら……、
と、わたしは持っていた傘を戻して、
さっきの折りたたみ傘をもう一度取り出しました。
「うふ……うふふ……うふふふふふ♪」
ついつい笑みがこぼれてしまいます。
これで、まーくんと…………(ポッ☆)
「うふふふふふふふ……♪」
ああ……お天気の神様、お天気の神様。
もし、本当にいらっしゃるのなら、
今日の午後、絶対に雨を降らせてくださいね☆
ザーザー……
ザーザー……
「うふふ……うふふ……うふふふふ♪」
放課後――
やりましたっ!
思った通り、雨が降りました!
と、昇降口から外に出たわたしは、雨が降っているのを見て、
心の中でガッツポーズをとりました。
うふふふ♪
これで、まーくんとの密着相合傘です☆
わざわざ小さい折りたたみ傘を選んで持ってきた甲斐がありましたね。
さて、まーくんは…………いました!
わたし達のクラスの下駄箱の近くにまーくん発見!
やっぱり、傘は持って来なかったみたいで、
困った顔をして空を見上げています。
うふふふふふ……♪
まーくんと相合傘♪
まーくんと愛々傘♪
あっ、ちょっと字が違いますね。
……てへ☆
わたしはスキップ混じりで、まーくんに近付きました。
「まーくん……傘、忘れたんですか?」
「あ? ああ」
「じゃあ、わたしのに入って行きますか?」
「そりゃありがたいけど……いいのか?」
「もちろんです♪」
「じゃあ、お言葉に甘えさせてもらうかな」
やりましたっ!!
これで、これで……まーくんと密着相合傘です☆
まーくんの言葉に、わたしは再び心の中でガッツポーズを取りました。
「まーくん……それじゃあ、行きましょうか」
いそいそと傘を開くわたし。
「おう」
そして、わたしが開いた傘の下に、まーくんが入って来ました。
と、その時……、
「あっ! まーくん! さくらちゃん! 一緒に帰ろ!」
傘を持ったあかねちゃんが走ってきました。
「あれ? まーくん、傘持って来なかったの?」
自分の傘を開きながら、あかねちゃんはまーくんに訊ねました。
「ああ。だから、さくらの傘に入れてもらおうと……おっ!」
と、そこまで言って、まーくんは言葉を止めました。
何かを……ジッと見ています。
その視線の先にあるもの……。
それは、あかねちゃんの傘でした。
「あかねの傘の方が大きいな。じゃあ、俺はあかねの方に入れてもらうよ。
それなら、誰も濡れずに済むからな」
……。
…………。
………………えっ?
まーくんのその言葉に呆然とするわたし。
「俺が持ってやるよ。背の高さが違うからな」
まーくんはあかねちゃんり傘をヒョイと持ちました。
「うん! ありがと、まーくん♪」
と、一つの傘の下に入って、仲良く歩いていくまーくんとあかねちゃん。
ああっ! そんなっ!
まーくん! わたし、ちょっとくらい濡れたって平気ですよ!
だから、だから、わたしと……、
「おーい! さくらー! 早く来いよー!」
「さくらちゃーん! 何してるのー!」
そんなわたしの心の声も届かず、まーくんはあかねちゃんと一緒に、
わたしを手招きしています。
「うううっ……まーくんとの相合傘……」
今朝、ヘタな策を労したりしなければ……、
と、後悔の念に苛まれながら、
わたしはトボトボとまーくん達の後を追ったのでした。
ううっ……これが無欲の勝利というものなのでしょうか?
<おわり>
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