Heart to Heart
第48話 「見上げてみれば」
「……じゃあ、お茶を淹れてきますから、
ちょっと待っててくださいね」
「おう……」
ある日の午後――
俺はさくらの家を訪れていた。
理由は、ただ借りていたビデオやらCDやらを返しに来ただけだ。
学校で返しても良かったのだが、結構数があって荷物になるからな。
で、今、俺はさくらの部屋にいる。
俺は借りていた物を返して、サッサと帰るつもりだったのだが……、
「せっかく来たんですから、もうちょっとゆっくりしていってください」
……というさくらの申し出を断り切れなかったのだ。
ったく、俺が家に来たってだけで、
あんなに嬉しそうな顔されちゃあ、断れるわけねーじゃん。
てなわけで、俺はさくら部屋に通されたわけだが……、
「……落ち着かん」
さくらがお茶を淹れに行ってしまったので、
俺は一人、部屋に取り残される。
で、所在無げに、俺はキョロキョロと部屋の中を見回す。
シンプルなベッド――
風になびく薄手のカーテン――
出窓に飾られた小さな花の鉢植え――
棚の上に並べられたたくさんのペンギンのぬいぐるみ――
さくららしい、可愛くて落ち着いた雰囲気の部屋だ。
ちゃんと整頓されてるし、掃除も行き届いてるみたいだな。
俺の部屋とは大違いだぜ。
でも、やっぱり居心地は悪い。
いくら相手が付き合いの長いさくらでも、
女の子の部屋ってのは落ち着かないものなのだ。
「……とにかく、座るか」
俺は、とりあえずベッドに腰掛けた。
「…………」
……ちょっと待つ。
まだ、さくらは来ない。
「…………」
……さらに待つ。
だが、まだ来ない。
「…………」
ぽふっ――
何となく、寝転がってうつ伏せになる。
すりすり――
さらに、何となく、枕に顔を埋めてみる。
……。
…………。
…………いい匂い。
「……って、変態か! 俺は!」
ヤバイヤバイ……ちょっちトリップしちまったぜ。
我に返った俺は、ゴロリと寝返りを打って仰向けになる。
そして、天井を見上げた瞬間……、
「ぶっ!!」
俺は思い切り吹き出していた。
そこには、2メートルくらいに引き伸ばされた
巨大な俺の顔写真が!?
「…………」
さくら……気持ちは嬉しい。
嬉しいけど……これは勘弁してくれ。
と、俺はゆっくりと身を起こし、頭を抱える。
そこへ、さくらが戻ってきた。
「まーくん、お待たせしました…………?」
お茶をのせたお盆を持って部屋に入って来たさくらは、
俺の憔悴しきった顔を見て、首を傾げる。
「……まーくん、どうしたんですか?」
キョトンとした顔で俺に訊ねるさくら。
「さくら…………これは何だ?」
と、俺は天井を指差す。
「あ、これですか?」
天井に貼られた写真を見上げ、さくらは頬を赤らめる。
「……ステキですよね」(ポッ☆)
「…………(汗)」
……もう、何も言うまい。
<おわり>
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