Heart to Heart
第44話 「まーくんがいっぱい」
昼休み――
昼メシを食べ終えた俺は、机に頬杖をつき、
何やら作業に没頭するさくらとあかねを眺めていた。
二人とも、机の上に裁縫道具を並べて、
黙々と、楽しそうに針を動かしている。
「……なあ?」
「何ですか?」
「な〜に? まーくん」
俺が声をかけると、二人は手を止めてこちらを向く。
「お前ら……何やってんだ?」
「何って、見ての通り、ぬいぐるみを作ってるんですよ」
「そうだよ。『まーくんぬいぐるみ』だよ♪」
と、二人は作りかけのぬいぐるみを俺に見せる。
それは、UFOキャッチャーの景品にでもなりそうなくらいの大きさの、
俺に似せたぬいぐるみだった。
「いや、それは分かってるんだけどな……」
そう、それは分かっている。
俺が訊きたいのは、そんな事じゃない。
「お前らさ……それ、昨日も作ってなかったか?」
いや、昨日だけじゃない。
一昨日も、一昨昨日も……もう、2週間くらい前から毎日のように作っている。
「そんなにたくさん作ってどうする気だ?」
俺が訊ねると、さくらとあかねはクスッと微笑む。
「そうですね……あかねちゃん、今日のでそろそろ最後にしましょうか?」
「うん。もういっぱい作ったから、充分だよね」
と、さくらとあかねは頷き合う。
どういうことだ?
何だか、わけがわかんねーぞ?
まあ、何か企んでるのは確かみたいだけど。
「まーくん……今日の放課後、わたしの家に来てください。
そうすれば、全部わかりますから」
「…………わかった」
と、いうわけで、放課後、俺はさくらの家へとやって来た。
「おじゃましまーす」
勝手知ったる他人の家。
俺は真っ直ぐさくらの部屋に向かう。
そういえば、さくらの部屋に入るなんて久しぶりだな。
前に来たのは……中学を卒業する少し前だっけ?
……なんか、妙に緊張するぜ。
「……入るぞ」
俺は少しドキドキしながらも、さくらの部屋のドアノブに手をかける。
そして……、
ガチャッ――
俺はゆっくりとドアを開けた。
その途端っ!!
ドドドドドドドドォォォーーッ!!
「ぬおおおおおーーーっ!!」
大量の『何か』が部屋の中から押し寄せて来て、
俺は『それら』に呑み込まれてしまった。
「な、何だ、何だっ?!」
『それら』を掻き分け、俺はさくらの部屋の中に入る。
そこには……、
「ふにゃ〜ん♪ まーくんがいっぱい〜〜〜♪」
「はぁ〜……し・あ・わ・せ♪」
溺れる程に大量の『まーくんぬいぐるみ』に埋もれ、
恍惚の表情を浮かべるさくらとあかねがいた。
「なるほど、そういうことか」
俺は妙に冷静に納得しつつ、
『まーくんぬいぐるみ』に埋もれた周囲をゆっくりと見回す。
……で、これ、どうすんだよ?
<おわり>
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