Heart to Heart

      
 第41話 「成敗っ!」







「きゃああああああっ!!」


 いつものように自分の部屋で漫画を読んでいると、
一階からさくらの悲鳴が…………って、またこのパターンかいっ!?

「最近、多いぞ……この展開」

 と、タメ息をつきつつ、俺は階段を駆け下りる。

「どうした?」

 と、リビングに顔を覗かせると……、

「「まーくんっ!!」」

「おわっ!!」

 さくらとあかねが物凄い勢いで跳び付いて来た。
 二人の体を抱きとめて、俺は少しよろける。

「ど、どうした? 何があった?」

「ま、まま、まーく〜〜〜〜ん」

「あ、ああああああ、あれ……」

 と、何かに怯える二人が指差す先には……、


 
かさかさかさかさかさかさ……


 人類の敵がいた。

 その並外れた生命力によって、
恐竜が闊歩する時代から生き続けている生命体。

 その名は、コギブリ!!

「いやーっ! 動いてますーっ!」

「うみゃあーんっ! 気持ち悪いよぉーっ!」

「だぁああーっ!! 落ち着け落ち着けっ!」

 取り乱す二人を宥めつつ、俺は手近にあった雑誌を丸める。

 そして、這い回るゴキブリにそろりそろりと近付いて行き……、

「うりゃっ!!」


 
パシィッ!


 と、気合一閃!
 コキブリ目掛けて雑誌を振り下ろす。

 しかし……、


 
ばさばさばさばさっ!


 
うおっ!! 飛んだっ!!


 奴は俺の攻撃を飛んでかわした。
 しかも、そのままこっちに向かってくる!

「ぬおっ!!」

 俺は体を横に捻ってそれをかわした。
 すかさず敵を追撃する。


 
ばさばさばさっ…………ぴとっ


 そして、壁に止まったところを、第二撃目っ!!

「うらっ!!」


 
ばしぷちっ!


 雑誌を伝って感じる何とも嫌な手応え。

 ……どうやら、殺ったみたいだな。
 壮絶な闘いだったぜ。

 俺はティッシュを箱から何枚か引き抜き、
見るも無残かつ気持ち悪い奴のなれの果てをそれで包むと、
ポイッとゴミ箱に放り込んだ。

「ほれ、もう大丈夫だぞ」

 と、リビングの外に退散し、顔だけ覗かせている二人に呼びかける。

「まーくん……怖かった!」

「ふみゃあ〜!」

 よほど怖かったのだろう。
 さくらとあかねは俺にすがり付いて来た。

 ったく、普段は
絶対無敵、元気爆発、熱血最強のクセに、
たかがゴキブリが怖いだなんて……やっぱり女の子なんだなぁ。

「……しょーがねーなー、お前らは」


 
なでなでなでなで……
 
なでなでなでなで……


 そんな二人の頭を、俺は優しく撫でてやる。

「ありがとうございます☆」


 
――ちゅっ☆


「ありがと、まーくん☆」


 
――ちゅっ☆


 頬に感じる柔らかくも心地良い感触。

 それも、何度も何度も……、

 へへ……こんなお礼が貰えるなら、コキブリ撃退も大歓迎だな。

 そう思いつつ、俺は二人の頭を撫でながら、
キスの嵐に身を委ねるのだった。








 そして、次の日――

 放課後、浩之のところでちょっとした用事を済ませた俺は、
自販機で買ったコーヒー牛乳をちゅーちゅーやりながら、教室に戻った。

 そういえば、今日はさくらとあかねと葵ちゃんが掃除当番だっけ。

「せっかくだから、一緒に帰るかな」

 と、教室の戸に手をかけた、その時……、

「きゃあっ!! ゴキブリッ!!」

 中から葵ちゃんの悲鳴が聞こえた。

 やれやれ……また俺の出番かな。

 と、昨日の一件を思い出し、
俺はちょっと期待しつつ戸を開けようとした。

 しかし、それよりも早く……、



「あかねちゃんっ! そっちに行きましたよ!」

「成敗っ!」


 
かきーんっ!!


「………………ねえ……もう、大丈夫?」

「はい。もう大丈夫ですよ、葵さん」

「うん! お空の彼方に飛んでっちゃったよ」



 ……という、一連のやりとりが聞こえてきた。

「…………そういうことか」

 あ〜……つまりなんだ。
 さくらもあかねも……ゴキブリ、一応平気なわけだ。

 ようするに、昨日のは……、

「あいつらは……」

 俺は眉間のシワを揉みほぐしつつ、
再び戸に手をかけた。

 あの二人に、思いっ切りツッコミを入れる為に。





「…………」





 でも、ちょっと思い止まって……、





 ちょっと考えて……、








 ……何も聞かなかったことにした。

 理由は、言わなくてもわかるだろ?(爆)








<おわり>
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