Heart to Heart

     
第39話 「そんなに見つめちゃ」







「さて……どうすっかな?」

 俺はベッドの上で胡座をかいて、悩んでいた。

 目の前には二つの人形……いや、抱き枕がある。

 ――『さくら抱き枕』と『あかね抱き枕』。

 前に、さくらとあかねに作ってくれるように頼んだやつだ。

 ……まさか、本当に作ってくれるとはな。
 まあ、それはそれで嬉しいけど。

「嬉しいけど……困った」

 よく考えたら、抱き枕ってのは一つあれば充分なんだよな。
 でも、俺の前には二つある。
 つまり、今夜はどちらか片方にはご遠慮願うしかないわけだ。


 
カッチカッチカッチカッチ……


 静寂に包まれた部屋の中で、時計の音だけが響く。
 すでに、時計の針は日付を変えていた。

「う〜〜〜〜ん……」

 それでも、俺は悩み続ける。
 そして……、

「……許せ、さくら」

 そう一言謝り、俺はさくら抱き枕を机の椅子の上に置く。

 結局、今夜はあかね抱き枕を使う事にした。
 理由は単純。あかねの方がさくらよりも先に持ってきたからだ。

 どちらを先に使うか。
 それをどんな理由で決めるか。

 俺は、ずっとこのことで悩んでいた。

 馬鹿馬鹿しい事かもしれないが、とにかく、何か理由をつけないと、
自分が納得できなかったのだ。

「……じゃあ、おやすみ」

 俺はさくら抱き枕の頭をポンポンと叩き、
電気を消して布団に潜り込んだ。

 そして、あかね抱き枕を抱きしめて、目を閉じる。



「…………」



「…………」



「…………」



「…………眠れん」

 俺はむくっと体を起こした。
 そして、椅子に座るさくら抱き枕を見る。

「…………」

 さくら抱き枕は、そのつぶらな瞳でこっちを見つめている。
 まるで、さくらが寂しげにこっちを見ている様だ。

 ……これだ。
 原因は、これだ。

 そんな瞳で見つめられたら、
物凄く罪悪感に苛まれてしまうじゃないか。

 俺は無言で椅子を回して、さくら抱き枕に背を向かせた。

 ……これでよし。

 俺は再び寝転がる。



「…………」



「…………」



「…………」



 
がばっ!!


「だああああああっ!! 分かったよっ!!
一緒に寝ればいいんだろっ!! 一緒に寝ればっ!!
だから、そんなに背中に哀愁を
漂わせるんじゃねぇーーっ!!









 で、結局……、

 俺は二つの抱き枕を一生懸命抱きしめて眠ったのだった。








<おわり>
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