Heart to Heart
第38話 「華麗なる成長」
「うみゃああああっ!!」
部屋でゴロゴロと寝転がって本を読んでいると、
突然、一階からあかねの絶叫が聞こえてきた。
「な、何だ何だ?!」
俺は慌てて起き上がり、部屋を出て、階段を駆け下りる。
……って、前にもこんなパターンなかったか?
と、思いつつ、声がした方、風呂場へと向かう。
脱衣所の戸の曇りガラス越しに、さくらとあかねの姿が見えた。
そういえば、今夜は泊まっていくって言ってたっけ。
で、一緒に風呂に入っていたわけだな。
「どうした、あかね? とりあえず入るぞ」
ガラッ――
と、ごく自然を装って戸を開ける俺。
そこには、床に座り込んでしまっているあかねと、
そんなあかねに困り果てているさくらの姿があった。
…………ちっ、二人ともしっかりバスタオル巻いてやがるし。
と、内心舌打ちしつつ、俺は二人に訊ねた。
「一体、何があったんだ?」
「それが……わたしにもさっぱり。
一緒にお風呂に入ってて、先にあかねちゃんが出たと思ったら、
突然、あかねちゃんが叫び声を上げて……」
「で、こうなってたってわけか?」
と、床に座るあかねを見ると、さくらは頷く。
……ったく、こりゃ本人に聞いてみるしかねぇか。
俺はあかねの側にしゃがみ込むと、
出来るだけ優しく声をかけた。
「なあ、あかね……一体何があったんだ?」
「…………」
しかし、あかねは何も言わない。
……いや、違う。
何か小さな声でブツブツと言っている。
俺はあかねに顔を近付けて、耳を澄ました。
「…………うみゅ〜……にきろ〜」
…………は?
にきろ?
にきろ……?
ニキロ……?
……2キロ。
なるほど、そういうことか。
「あ、あかねちゃん……もしかして……」
「太ったか?」
「うわあああーーんっ!!」
俺の一言に、あかねが大声で泣き出す。
「まーくんっ! 今の一言はちょっと無神経過ぎますよ!」
さくらにしては珍しく、凄い剣幕で俺を睨む。
「な、何だよ……たかが2キロだろ」
「女の子にとってはその2キロが重大なんです!」
「は、はい……そうですか」
さくらの迫力に、さすがの俺もたじたじである。
しかし、たかが2キロでここまで大騒ぎするもんかね?
男の俺には、つーか食べる量の割には
太らない体質の俺には一生分からんことだな。
「で、まさかダイエットするなんて言い出すんじゃねーだろうな?」
「…………ダメなの?」
あかねの答えに、俺は肩を竦める。
やれやれ……どうやら本気でやるつもりだったらしいな。
「あのさ……お前、背が小さいよな?」
「…………うん」
「つまりだ、お前はまだまだ成長期にあるわけだ。
俺やさくら以上にな」
「うん……でも、体重増えてる」
「成長してるんだから、体重が増えるのは当たり前だろが。
その証拠に…………ほれ」
ぐいっ!
「にゃんっ!」
俺はあかねを半ば強引に抱き寄せ、
あかねの頭を自分の胸に押しつけた。
「ほら……ちょっとだけ背が伸びてる」
そう言って、俺はあかねの頭を撫でてやる。
「まーくん……分かるの?」
俺のなでなでにうっとりしながら、あかねは俺を見上げる。
「分かるさ……いつも見てるからな」
「……まーくん」
「いつも、こうして抱きしめて、こういして頭を撫でてるから、
俺にはよく分かるよ」
そう……俺にはよく分かった。
抱きしめた時の頭の位置が少し上になっていた。
なでなでする時の自分の手の位置が少し上になっていた。
だから、俺には、あかねの成長がよく分かった。
「それに……ちょっとだけ胸も大きくなったかな?」
「もう……まーくんのえっち(ポッ☆)
俺のからかうような一言に、あかねは顔を赤くして、
両手で自分の体を隠す。
そして……、
「えへへ♪ そっか……あたし、大人に近付いたんだね」
と、嬉しそうに微笑んだ。
「そうそう。一歩一歩近付いてるんだよ、お前は」
「良かったですね、あかねちゃん」
「…………あたし、ちょっと確かめてくる!」
あかねはそう言うと、風呂場に駆け込む。
……風呂場でどうやって確かめるつもりだ?
あ、そういえば、中に鏡があったっけ?
なるほど。鏡で自分の成長した姿を見ようってわけか。
と、そんなあかねの行為を微笑ましく思っていると……、
「まーくんっ!!」
不機嫌な顔をして、あかねが風呂場から出てきた。
「まーくんのうそつき!!
あたし、全然大人になんてなってなかったよ!!」
そして、ブンブンと振り回し、怒りを露にする。
「はあっ? 何言ってんだ、お前?
ちゃんと少し背も伸びてるし、胸も大きくなっとるだろが」
「それでも大人になってなかったよ!」
「何でうそなる?」
「だって生えてなかったもん!」
「何がだっ!?」
あかね……そのボケはちょっとヤバイって。(大汗)
<おわり>
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