Heart to Heart
第32話 「決まり事」
「おーい、あかねー」
「はーい」
俺が呼ぶと、さくらと一緒にキッチンで洗い物をしていたあかねが
トテトテとこちらに駆けて来る。
「な〜に? まーくん」
「ちょっとここに座りなさい」
「うん!」
俺の言葉に頷き、あかねはソファーに腰掛ける俺の隣りに
ちょこんと座った。
「えへへへ♪ どうしたの、まーくん?」
そして、楽しそうにニコッと微笑む。
俺はそんなあかねの頭に左手をのせると……、
なでなでなでなで……
「みゃ〜……(ポッ☆)」
いつものようにあかねの頭を撫でた。
なでなでなでなで……
「ふにゃ〜〜〜♪」
俺に頭を撫でられて、
猫の様に嬉しそうに喉を鳴らすあかね。
なでなでなでなで……
「うみゅ〜ん♪ 今日はいっぱい撫でてくれるんだね?」
「おうっ! せっかく久しぶりに晩メシを作りに来てくれたんだからな。
これはそのお礼だ。それに、今夜は二人とも泊まっていくんだろ?
だったら、今夜はい〜〜っぱいなでなでしてやるからな」
「えへへへ♪」
嬉しそうに顔をほころばせるあかね。
う〜ん……愛いやつ。
「ねえねえ、まーくん」
「ん? どした?」
「たまには、頭以外のところもなでなでしてほしいよぉ(ポッ☆)」
と、あかねは両手をもじもじさせながら、恥ずかしそうに言う。
……頭以外のところ?
それって…………ゴクッ。
生唾を飲み込む俺。
そして、俺はゆっくりとあかねに手を伸ばす。
「そ、そーかそーか。頭以外のところか……それなら、ここかなぁ?」
「ふにゃん☆」
「このへんはどうかなぁ?」
「うみゅん! くすぐったいよぉ☆」
俺の手が動くたびに、
あかねが可愛い声を上げる。
そんなあかねの反応に、
俺の手の動きは、徐々にエスカレートしていく。
「ここか〜? ここか〜? それとも、こ〜こ〜か〜な〜?」
「何をしてるんですかぁーっ!!」
すぱぁーーーんっ!!
「ぐはっ!!」
調子にのっていた俺は、
さくらに背後からフライパンで張り倒されてしまった。
ぬう……いつの間に、洗い物を終わらせたんだ?
「まーくん……何をおやぢクサイことしてるんですか?」
「……な、何のことだ?」
と、詰め寄ってくるさくらに、俺はそっぽを向いて答える。
ここまで来てシラを切る俺も、結構いい根性してるよな。
「今、あかねちゃんにえっちなことしてましたね?」
「そんなことしてないぞ。ただ頬を撫でたり、
アゴのしたをくすぐったり、背中を擦ったりしてただけだ」
これは事実である。
決して、胸とかお尻とか、ましてや……なんかには全然触ってないぞ。
「本当ですか?」
「本当だって」
んじぃ〜〜〜……
う゛……そんな疑わしげな目で俺を見るなよ。
「…………じゃあ、証拠を見せてください」
「んなもんどうやって証明しろってんだよ?」
俺が訊ねると、さくらは頬を赤らめて……、
「……わたしにも同じこと、してください(ポッ☆)」
と、恥ずかしそうに言った。
なんだよ……まったく。
なでなでしてほしいならしてほしいって、
素直にそう言えばいいじゃねーか。
こいつは、何を恥ずかしがってんだ?
「ったく、しょうがねーなー」
俺は軽く苦笑すると、さっきまであかねを撫でていた手を、
さくらの頭にのせようとした。
が……、
「ダメェッ!!」
「おわっ!!」
突然、あかねが俺の左腕に跳びついてきた。
そして、両腕で俺の左腕をギュッと抱きしめる。
「こっちはあたしのなの! だから、こっちでなでなでしちゃダメっ!」
そのあかねの意味不明の言葉に、俺は首を傾げる。
「……何、言ってんだ? おまえ」
「うにゅぅ〜〜〜〜……」
あかねは俺の左腕を抱きしめたまま、何も言わない。
「まーくん……わたしは右手でお願いします」
「…………は?」
「ですから、右手で撫でてください」
「あ、ああ……」
俺はさくらの言葉が理解できぬまま、
さくらの頭に右手をのせる。
そして……、
なでなでなでなで……
「あ……(ポッ☆)」
さくらの頭を撫でた。
その間、あかねは何も言わない。
ただ、嬉しそうに、俺がさくらを撫でる姿を見つめている。
「……右手なら、いいのか?」
「……わたしとあかねちゃんで決めた事なんです。
まーくんの右手はわたし専用、左手はあかねちゃん専用って」
「…………なるほどね」
そういうことだったのか。
しかし、ンな事、本人抜きで勝手に決めるなよな。
と、ちょっと呆れていると……、
「あ、ちなみに……」
――ちゅっ☆
「ここは、二人の共有です♪」
「そうだよ♪」
――ちゅっ☆
「…………」
俺はさくらとあかねの不意打ちに、呆然としてしまう。
「ンフフフ……♪」
「えへへへ……♪」
二人は唇に指を当て、上目遣いで俺を見つめ微笑んでいる。
……ったく、こいつらは。
「そうかそうか。そんな決まり事があったんだな。
じゃあ、俺も何か決まり事を作ろうかな」
「え? それって、どういうの?」
「ふっふっふっ……それはだな……」
俺は悪戯めいた笑みを浮かべ、そして……、
「お前達はぜ〜んぶ俺専用だぁーーっ!」
がばっ!!
「きゃ〜♪」
「うみゃ〜ん♪」
俺にソファーに押し倒されて、
さくらとあかねは嬉しそうな悲鳴を上げる。
そして、俺は……、
なでなでなでなで……
なでなでなでなで……
なでなでなでなで……
なでなでなでなで……
「ふみゃ〜〜〜〜……♪(うっとり)」
「はふぅ〜〜〜〜……♪(うっとり)」
その夜は、寝る時間までたっぷりと
二人をなでなでしたのだった。
<おわり>
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