Heart to Heart

      
第28話 「ラブレター」







「ぬおっ!!」

 朝……。

 いつものように学校に登校して……、
 いつものように下駄箱を開けると……、

 そこに、一通の手紙が入っていた。

 こ、これは、まさか……っ!?

 震える手で、俺はそれを手に取る。

 可愛らしい薄いピンク色の封筒。
 そして、それの口を閉じるハートマークのシール。

 ……間違い無い。
 これは、世に言う『ラブレター』という奴だ。

「まーくん、どうしたの?」

「どうしたんですか?」

「うおっ!!」

 さくらとあかねに後ろから話し掛けられ、
俺は慌ててそれを懐に突っ込んだ。

「いや、何でもねぇ。俺さ、ちょっち便所寄ってから行くから、
お前らは先に教室に行っててくれ」

 そう一気にまくし立てると、俺は便所へと走ったのだった。








「ふぅ〜……あぶねぇあぶねぇ」

 男子便所の個室に駆け込み、俺はホッと胸を撫で下ろした。

 こんな物騒なシロモノ、さくらとあかねには絶対に見せられねぇな。
 もし見られたら、一体どんな恐ろしい目に遭うことか。

 そう思いつつ、俺は懐から例の手紙を取り出す。

 ……ラブレターか。

 考えてみれば、こんなの貰うの生まれて初めてだな。
 何せ、俺には、物心ついた頃からさくらとあかねが側にいたから、
こんなモン貰う必要がなかったからな。

「さて、と……」

 俺はちょっちドキドキしながら、封を開ける。
 中には便箋が二枚入っていた。

 うーむ……何だか、緊張するなぁ。

 と、折りたたまれた便箋をゆっくりと広げる。

 言っておくが、俺はさくらとあかね以外の女の子とつき合うつもりは毛頭ないぞ。

 ただ、せっかく初めて貰ったラブレターだ。
 やっぱり、中身が気になる。

 さくら、あかね……許せ。

 と、二人に心の中で謝罪しつつ、俺は手紙に目を向ける。

 そこには、綺麗な字で、こう書かれていた。





『藤井 誠さんへ

 突然のお便りに驚いていることでしょう。
 わたしも、本当はとても恥ずかしいのですが、
どうしてもあなたにお伝えしたいことがあり、
勇気を出して筆を取りました。

 わたしは、ずっとあなたを見ていました。
 幼い頃から、ずっと、ずっと……、

 そして、あなたの優しさを知りました。
 あなたの心のあたたかさを知りました。

 その頃からずっと、
わたしの心の中にはあなたがいるのです。

 今では、あなたのことしか考えられなくなる時があります。
 夜、あなたを想うと、眠れなくなる時があります。

 もう、わたしの心は、
あなたでいっぱいになってしまっているのです。

 そう……わたしは、あなたのことが……』






 一枚目の文章はそこで途切れていた。

 ……多分、この後は甘々の告白文になるんだろうな。

 と、思いつつ、俺は二枚目に目を向けた。










『つづく』










 
がんっ!!


 それを見て、俺は思い切り壁に頭をぶつけた。


 
……つづくんかいっ!!


 な、なかなかお茶目なことをしてくれる。
 この手紙の差出人……あなどれないな。

 ……ん? 差出人?

 と、そこで、手紙には差出人の名前が書かれていない事に気が付いた。

 俺は手紙の入っていた封筒を見る。
 が、どこにも書いていない。

 ……一体、どこのどいつだ?
 こんなお茶目なラブレターよこした奴は?


 
キーンコーンカーンコーン……


「おっと、いけね」

 朝のホームルーム開始のチャイムを聞き、
俺は手紙をホケットに突っ込むと、慌てて教室へと向かった。








 そして、その日の放課後――

「……またかよ」

 俺の下駄箱には、また一通の手紙が入っていた。

 今朝のものと同じ封筒だ。
 ってことは、『あれ』の続きってことか。

 俺はそれを持って、再び便所の個室に入った。

 そして、封筒から手紙を取り出す。





『まーくんへ

 あたしのきもちは、ちょくせつ伝えたいと思うの。
 だから、ほうかご、なかにわのいつもの木の下で待ってるね。

 そこで、まーくんの返事を聞かせてね。

 ぜったいに来てね』






 そこには、可愛い丸文字で短くそう書かれていた。

「……なるほどね」

 俺はそれを読んで、思わず苦笑した。

 そして、ポケットから今朝の手紙を取り出し、
二通の手紙を見比べる。

「……ちゃんと返事を聞かせてやらねぇとな」

 そう呟くと、二通の手紙を大事にしまい、
俺は待ち合わせ場所へと急ぐのだった。








 俺に送られた二通の手紙。

 字も違う。
 文体も違う。

 そして、差出人も違う二通の手紙。

 でも、それはひと続きのラブレター。

 内容は一つ。
 俺に伝えたい気持ちは一つ。

 差出人の名前は無かったけれど、俺にはわかる。

 何故なら、それはあの二人しかいないから。

 だから、俺はその場所へと走る。
 二人が待つ場所へと走る。

 一刻も早く、返事を聞かせてやりたいから……、
 俺の気持ちを伝えてやりたいから……、

 だから、俺はその場所へと急ぐ。








 そして……、








「……返事をしに来たよ」








<おわり>
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