「あの〜、純香さん……?」

「……ん〜、何?」

「買い物、まだ続けるんですか?
もう、五件くらい巡ってると思うんですけど?」

「あのね……誰の為の買い物だったか覚えてる?」

「ボクの服ですけど……、
わざわざ買わなくても、間に合って――」

「似たような服はかりじゃないですか。
少しは、オシャレにも気を遣ってください」

「……五件中の三件が、女性服の専門店だったんですけど?」

「そこは、ほら……あたしらにも楽しみは必要だし?
あっ、舞奈♪ 次は、あの店なんか良いんじゃない?」

「晶さん……せめて、男服の店に……」

「まあ、いいから、いいから♪
つべこべ言わず、お姉さん達について来る♪」

「良くないです〜……」








「――ほら、行くわよ、照人ちゃん」

「はい……」(泣)











第249話 「Cross road










「久しぶりに、街を歩いた感想は、どうですか?」

「うん、悪くない……、
車椅子だから、歩いてるわけじゃないけどな」








 ある日のこと――

 病院から外出の許可が出た俺は、
さくらとあかねに付き添われ、商店街に来ていた。

 入院して、まだ、一ヶ月も経っていないのだが……、

 それでも、久しぶりの商店街は、
懐かしさもあってか、俺には、いつも以上に賑わって見えた。

「まーくん、寒くないですか?」

「ああ、ちょっと熱いくらいかな」

 俺が乗る車椅子を押しながら、さくらが訊ねる。

 その言葉に頷き返しつつ、
俺は、膝に掛けていた毛布の位置を整えた。

 別に、こんな物、無くても良かったのだが、
怪我した足を冷やすのはダメだ、と、さくら達に強引に渡されたのだ。

「……で、何処に行こうか?」

「何処って言われても……、
特に目的があって出て来たわけじゃないしなぁ」

「じゃあ、五月雨堂にでも言ってみます?」

 と、これからの予定を話しつつ、俺達は、商店街を進む。

 そして、商店街の中央……、
 人通りの多い交差点に差し掛かり……、


 
ドンッ!!

 
――ドサドサッ!


「おわっ……!!」

 突然、横道から出て来た少年に、ぶつかってしまった。

 その拍子に、少年が持っていた、
大量の紙袋が、地面に派手に落ちてしまう。

「あっ、すみません」

 落ちた荷物を拾おうと、俺は手を伸ばす。
 さくらとあかねも、俺に続いて、荷物を拾い始めた。

「す、すみませんっ! あとは、ボクが――」

 歳は、俺と同じくらいだろうか……、

 俺とぶつかった少年は、
荷物を拾う俺達を手で制しつつ、落ちた荷物を掻き集める。

 と、その時――
 不意に、お互いの目が合った。








「……むっ?」

「あ……」








 ――弾けるシンパシー。








「「――っ!!」」

 俺達は、互いの手を、ガッシリと握り合った。

 今の一瞬で、俺は……、
 いや、俺達は、ニュータイプの如く直感したのだ。



 ――俺達は、同志だ。

 ――心の友だ。



「照人さん、どうしたんですか?」

「なになに? 照人君って、
男の娘が相手でも、フラグが立っちゃうわけ?」

「全く、この歩く恋愛フラグは……」

 多分、彼の連れなのだろう。
 呆れ口調で、謎なセリフを呟きつつ、三人の少女が歩み寄って来た。

「すみません……、
ボクが荷物を落しちゃって……」

 と、照人と呼ばれた少年は、
掻き集めた荷物を、両手一杯に抱えて立ち上がる。

「ふ〜ん……」

 三人の中で、一番年上っぽい、
髪の長い少女が、謝罪する照人をジト目で睨む。

 そして、今度は、俺達を一瞥すると……、

「だから、無理して、全部を
あんたが持つ必要は無い、って言ったでしょ?」

 どうやら、それだけで、状況を理解したようだ。
 彼女は、まるで、子供に言い聞かせるように、照人の頭をペシペシと叩く。

「で、でも、
純香さん達に荷物を持たせるわけには……」

「そんな気遣いはいらないのよ。
全く、変なトコロで男の子なんだから、この子は……」

 盛大に呆れつつ……、
 でも、何処か優しい口調で、彼女は呟く。

 そして、照人が抱える荷物の山から、幾つかの紙袋を奪い取った。

「ま、それが、照人君の良いところだし?」

「今更、治りませんよね?
と言っても、治す必要は無いと思いますけど……」

 それに倣って、他の二人の少女も、照人から荷物を引っ手繰る。

「ほら、サッサと、次の店に行くわよ、照人ちゃん」

「ま、待ってください〜」

 有無を言わさず、照人から、
荷物を奪った三人は、スタスタと先に立って歩いていく。

 そんな彼女達を、照人は、慌てて追い駆け――

「え、え〜と……し、失礼しました!」

 ――ようとしたが、律儀にも、
俺達に、軽く頭を下げてから、走って行った。

「……愛されてますねぇ」

「……だな」

 その光景を、唖然と見送った俺達は、
思わず顔を見合わせ、声を殺して笑ってしまう。

 愛されている、と言うか……、
 可愛がられている、と言うか……、

 あの照人って奴……、
 連れの三人に、相当、気に入られてるみたいだな。

「なんだか、まーくんみたいだったね?」

「はい、そうですね〜……、
まーくんと、かなり似たタイプの人です」

「……そうか?」

 さくら達の言葉に、俺は、先を歩く照人の背中を、しげしげと見つめる。

 確かに、出会った瞬間に、強烈なシンパシーは感じはしたし、
妙に、他人って気がしなかったのは事実だが、そんなに俺に似てるのか?

 まあ、さくら達が言うのだから、間違いないのかもしれんが……、

「……よく分からん」

「分からなくて良いんですよ」

「うんうん♪」

 さくら達の言葉に、首を傾げつつ、
俺は、照人達の後に続くように、交差点を真っ直ぐに進む。

 いや、別に、彼らの後を追っているわけじゃない。
 単に、取り敢えずの目的地である、五月雨堂が、同じ方向にあるだけだ。

「そういえば、五月雨堂に行くのは、幼児&猫化事件以来だな」

「あの時は、楽しかったですよねぇ♪」

「まーくん、とっても可愛かったよね♪」

「やっぱり、行くの止めようかな……、
また、厄介事に巻き込まれそうな気がする」

 そんな事を話しつつ、のんびりと、商店街を進んでいく。

 と、その時……、

「――んっ?」

 不意に、俺達の少し先にいた照人が、不意に、しゃがみ込んだ。

 どうやら、靴紐が解けてしまったらしい。
 両手の荷物を地面に置き、靴紐を結び直し始める。

 照人が立ち止まった事に気付いたようだ。

 連れの三人も、彼を待つ為、
その場で立ち止まると、後ろを振り返りる。

 そして、靴紐を結び終えた照人が、立ち上がろうと顔を上げ――
















 
ヒュオォォォォォ〜……
















 と、その時――

 一陣の強い風が吹き抜けた。
















「あ……」

「い……?」

「うっ……」

「……えっ?」
















 フワッと捲れ上がる『それ』――

 思い切り露わになる『ソレ』――
















 え〜っと……、

 白に、ピンクに、縞々か……、
 『誰』が『何』なのかは、明言するのは控えておこう。
















「あ……う……」(硬直)

 照人は、見事に固まっている。

 まあ、無理もないだろう。
 被り付きで、御開帳されたわけだし……、

 三人の女の子も、慌てて、スカートの前を、
両手で抑えたが、確実に、照人には見られた筈だ。

 これ以上は無い、ってくらいり近距離で……、

「……テルトちゃん?」(にっこり)

「はい――っ!!」

 物凄くイイ笑顔で呼ばれ、即座に、照人は直立姿勢をとる。

 うん、良く調教されてる。
 ますます、他人って気がしなくなった。(泣)

「見た……わよね?」

「は、はい……」

 ガシッと首根っこを掴まれ……、

 その質問に、照人は、まるで、
壊れた人形のように、小刻みに首を縦に振る。

「大変、素直でよろしい……、
で、そんな照人ちゃんに、訊きたいんだけど?」

「あたしらだけ見られるってのは――」

「――不公平だと思いますよね?」

「そ、そうですね……」

 三人の笑顔の迫力に圧され、照人は、頷く事しか出来ない。

「OK、本人の同意も得られた事だし……」

「はい、帰りましょう♪
新しいお洋服も、手に入れましたしね」

「予定より、ちょっち少ないけど……ま、いっか」


 
ズルズルズルズル……


「あああああ〜〜〜……」(泣)

 照人を掴み、引き摺りながら、三人が、こちらに引き返してくる。

 ああっ、もう……、
 そんな光景が、自分と重なりすぎるぞ、畜生めっ!

 戻って来た照人達に、俺達は道を譲る。

 そして、すれ違う瞬間に……、
 再び、お互いの目がバッチリと合った。



“た、助けて……”

“――無理”

“即答っ!? そんな殺生なっ!”

“じゃあ、訊くが……もし、逆の立場だったら?”

“――無理です”

“というわけで、諦めて逝って来い。
今度、一緒にメシでも食おう……奢るから”

“はい、逝って来ます……”(大泣)




 その一瞬で……、

 しかも、言葉を発する事無く、
目だけで、俺達は、それだけの会話をやってのけた。

 やっぱり、俺達には、通じ合うモノがあるようだ。
 彼とは、良い友情が気付けそうだな〜。

 物凄く、後ろ向きな友情だけど……、

「あっ、そうそう――」

 秘かに友情を育む、俺と照人……、

 それを知ってか、知らずか……、
 ふと、彼女達は立ち止まり、こちらを振り返ると……、

「じゃあ、そっちのお仕置きは任せたから」

 と、謎の言葉を言い残し、この場から去って行った。

 ――『そっち』って、どっち?
 ――『お仕置き』って、どういうこと?

 言葉の意味を図りかね、首を傾げる、
俺の両肩に、ポンッと、さくらとあかるの手が置かれる。

 その手から伝わってく殺気から……、

 俺は、あの言葉の意味と……、
 我が身に降り掛かる過酷な運命を悟った。








「……まーくん?」(にっこり)

「はい――っ!!」

「見た……よね?」

「は、はい……」

「大変、素直でよろしい……、
で、そんなまーくんに、お訊きしたいんですけど?」

「あたし達以外の子のを見ちゃったりしたら――」

「――お仕置きは、必要ですよね?」
















「じゃあ、まーくん――」

「――お家に、帰りましようか♪」
















 ――三度、俺達は同調する。

 久しぶりに、商店街に響き渡る断末魔……、

 それは奇しくも……、
 俺も、照人も、全く同じモノであった。
















「不可抗力だぁぁぁぁ〜〜〜っ!!」

「不可抗力ですぅぅぅぅ〜〜〜っ!!」








<おわり>
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