「……あ〜、暇だな〜」
「入院生活なんて、そんなモノですよ」
「――うにゃ」
「それは、分かってるけどさ……、
だいたい、俺は、いつまで入院していれば良いんだ?」
「もうすぐ、退院できると思いますよ?」
「うにゃ、うにゃ」
「もうすぐ、って言われても……、
かれこれ、1年くらい入院してるような……」
「そういう、メタな発言は、どうかと……」
「別に良いんだよ……、
ここは、前振りの場面なんだから……」
「そういえば、このSSが、
こういう形式になったのって、183話からでしたよね?」
「今みたいに、題名の前に、前振りが入る、ってか?」
「はい、そうです……、
どうして、急に、形式が変わったんでしよう?」
「ある人が、題名の画像を送ってくれたんだよ。
で、それを機に、リューアルすることにしたらしいぞ」
「あの題名、良く出来てますよね。
ちゃんと、わたし達のテキスト色が使われてます」
「――うにゃ」
「さくら、あかね、エリア、フラン……、
主役の俺の色が、一番小さいのが気になるがな」
「まーくんの普段のテキスト色は、白ですよ?
その色は、むしろ、みことさんじゃないですか?」
「うにゃ、うにゃ」
「まあ、そうだけど……」
「……さらに、2色、追加されたりしませんよね?」
「はあ? 何のことだ?」
「……鹿島姉妹です」
「なるみちゃんとくるみちゃん?
いやいや、それは無い……親父じゃあるまいし」
「なら、良いんですけど……」
「――うにゃ」
「あのさ、あかね……、
お前、さっきから、『うにゃ』しか言ってないぞ?」
「……うにゃ♪」
「いや、『♪』だけ付けられても……」
「あの〜……まーくん?
そろそろ、本編に入りませんか?」
「そうだな……前振りが、ちょっと長すぎたな」
「うにゃ〜」
「それでは、本編の始まり始まり〜」
「うにゃにゃ〜」
第245話 「今日も明日も明後日も」
――入院生活は暇だ。
もう、何度も言っているが……、
入院していると、とにかく、
何もする事が無くて、暇を持て余してしまう。
どのくらい暇なのか、と言うと、冒頭のような、メタな会話をしてしまう程だ。
今までは、本を読んだり、車椅子に乗って、
中庭を散歩をしたりしていたが、いい加減、もう限界である。
最近では、病室が個室なのを幸いに、
ノートPCを持ち込み、ネットゲームや、レトロゲームをプレイして過ごしていたりする。
「もう、こんな時間か……」
ネットゲームをプレイする手を休め、俺は、ディスプレイから目を離す。
ふと、時計を見れば……、
昼食を食べてから、もう随分と時が経っていた。
「……我ながら、見事なニートっぷりだよな」
ここ数日の、自分の生活を振り返り、俺は自嘲気味に呟く。
入院してからというもの、俺がしている事と言えば……、
寝る、食べる、寝る、食べる――の繰り返しだ。
それに加えて、丸一日、とまでは言わないが……、
平日の昼間から、ゲームに興じてるなんて、ニート以外の何者でもない。
堕落と言うか、墜落と言うか……、
このままでは、退院した後も、
元の生活のペースに戻れなくなってしまいそうだ。
人間ってやつは、苦痛には割と強くても、快楽には弱いから……、
まあ、看護師さんの話では、
そろそろ退院できるっぽいし、もう少しの我慢なのだが……、
「人間としてダメになる前に、こんな生活とは、サッサとおサラバしたいなぁ……」
と、軽く溜息を吐きつつ、
俺は、再び、ディスプレイに視線を戻し――
「――おろ?」
ゲームから、ログアウトしようとしていたら、
突然、ゲーム内での知り合いから、メッセージが届いた。
『マコトさん、こんにちは〜』
メッセージの送り主は、
ゲームを始めたばかりの頃にで知り合った人だ。
多分、冒険のパーティーに誘ってくれるつもりなのだろう。
しかし、そろそろ、さくら達がお見舞いに来る時間だ。
さすがに、長時間のプレイは無理である。
少し残念ではあるが……、
俺は、丁重に断る為、キーボードを叩いた。
『すみません……、
そろそろ、ログアウトするつもりだったので……』
『あ、そうなんですか?
残念です……また、今度、お誘いしますね』
『いや、実は、別のサーバーにも行ってみようかと思ってるんで……』
『エリンディルサーバーですか?』
『暇潰しでプレイしてるだけなので、
折角だから、色々と見て回るのも悪くないかな、って……』
『わ〜、良いですねっ!
なんだか、本物の冒険者みたいです♪』
『そういうわけなんで……』
『はいっ! また、こっちのサーバーに来たら、声を掛けてくださいね。
我がギルド『アブソリュート』は、いつでも大歓迎です!』
『ありがとうございます。
フロストプリズム、早く撃てるようになると良いですね』
『うふふ、頑張りますよ〜♪ それでは、また……』
『はい、また会いましょう』
・
・
・
「さて、そろそろ――」
ゲームからログアウトした俺は、
乾いた喉を潤そうと、床頭台の上に置かれたペットボトルに手を伸ばす。
コンコン……
と、そこへ、ドアがノックされ……、
俺の返事も待たずに、ドアが開いた。
「うにゃ〜、来たよ〜♪」
「あかねさん、ドアを開けるのは、
ちゃんと、誠さんのお返事を待ってから……」
「まーくん、体の具合は、どうですか?」
ヒョッコリと顔を出したのは、
予想通り、さくらとあかねとエリアの三人だ。
授業が終わって、即行で来たのだろう。
学校から病院までの距離を考えると、時間ピッタリである。
「お弁当、持ってきましたよ」
「ううっ、いつも済まないねぇ……ゴホッゴホッ」
「それは言わない約束ですよ」
お約束のやり取りをしつつ、
俺は、エリアが差し出す弁当箱を受け取ると、早速、食べ始める。
言うまでも無いだろうが……、
病院食だけでは、俺の胃袋は満足してくれない。
そんな俺の為に、エリアは、こうして、
ほぼ毎日のように、弁当を作って、持って来てくれているのだ。
「まーくん、今日は、何してたの?」
「……ネットゲーム」
ベッドの端に腰掛けつつ、あかねが、パソコンを覗き込んできた。
そんなあかねに、俺は、
箸を動かす手を休めぬまま、簡潔に答える。
「あれ? 確か、ドラクエ5じゃなかった?」
「ちょっと、ショックな事があってさ……」
「と、言いますと……?」
「……ピエールが死んだ」
「「「……?」」」
簡潔すぎる俺の返事に、さくら達は首を傾げる。
特に、異世界人のエリアは、
ドラクエ5自体を知らないので、完全にハテナ顔である。
――さくら、説明よろしく。
「スライムナイトなら、生き返らせれば良いのに……?」
「縛りプレイ中なんだよ」
「……どんな?」
「モンスター蘇生禁止」
「…………」(汗)
そこまで暇なんだ、と、あかねの呆れた表情が語っている。
「もしかして、ザラキ……?」
それとも、まさかの痛恨の一撃?」
「いや、炎のリングを取る為に、溶岩原人3体と闘う羽目になるだろ?」
「え〜っと……そうだね」
ゲームの内容を思い出しつつ、あかねは頷く。
そして、俺は、食べ終わった弁当箱を置き、
お茶を一口飲んだ後、何処か遠くを見ながら、ポツリと呟いた。
「……燃え盛る火炎三連発は、ヒドイと思うんだ」
「もしかして、全滅?」
「ピエール、メッキー、プックル……、
皆、尊い犠牲だった」
「――主力じゃないですかっ!」
エリアへの説明を終えたさくらが、全力でツッコんできた。
うん、そうだね、主力だね。
特に、プックルなんて、思い出深いモンスターだよね。
せめて、ビアンカと再会させてあげたかったよ。
「というわけで、心に傷を負った俺は、
癒しを求めて、初代ロックマンをプレイすることにした」
「――癒しっ!?」
「初代っ!? 2じゃなくて?」
俺のボケに、さくらとあかねが、良い感じにノッて来た。
そろそろ、止めようかと思っていたのだが、
折角なので、限界ギリギリまで、ボケ倒してみることにする。
「使用武器は、ロックバスターのみ!
無論、ポーズボタン連打なんて、ぬるい技は使わん!」
「イエローデビルと闘う道が、癒しになるんですか!?」
「だが、考えが甘かった!
エアーマンどころの騒ぎじゃなかった!
奴とガチで闘うくらいなら、クリスタルタワーに挑んだ方がマシだった!」
「落ち着いてください、まーくん!
あの地獄の三連ダンジョンには、セーブポイントがありません!」
「ダブルヘッドドラゴンに瞬殺されたら、また、最初からだよ!」
「ならば、気分転換にシューティングだ!
折角だから、俺は、頭脳戦艦ガルを選ぶぜっ!」
「100個もパーツを集めるんですか!?」
「ってゆ〜か、アレ、戦艦なんて一隻も出てこないし!」
「だいたい、そんなに暇なら、シミュレーションがあるじゃないですか?」
「スパロボ? ファイヤーエムブレム?」
「そういえば、みことさんが、聖戦の系譜で、
セリスとユリアを、一生懸命、くっつけようとしてたよ?」
「ええい、あのインモラルマザーめっ!」
「……まーくん、こうなったら、原点に帰りましょう」
「原点……原点だと?」
「そう、わたし達の原点です」
「と言うと……恋愛シミュレーションか?」
「間違ってはいないけど……、
プレステ版じゃなくて……その前だよ」
「プレステ? コンシューマーの前って……」
・
・
・
「…………」(←考え中)
「「…………」」(期待の眼差し)
「……っ!?」(←理解した)
「「……♪」」(さらに期待の眼差し)
「――っ!!」(←思わず、二人を見る)
「「……ポッ☆」」(頬を赤らめる)
「…………」(大汗)
「「……♪」」(キラキラキラ☆)
「さて、今日の晩飯は、と――」
「今、お弁当、食べたばっかりでしょっ!!」
「さすが、まーくん……、
森崎君並みの、見事なスルーですね」
さり気なく(?)話題を変え、
目を逸らす俺を、さくらとあかねが、ジト目で睨んでくる。
――いや、彼は彼なりに、必死に頑張ってるんだよ?
確かに、雑魚の普通のシュートすら、防げないけど、
それでも、彼は、GKなんだから、ボールをスルーするわけないじゃないか。
ただ、他のGKと比べて、
ステータスが、異常に低いだけなんだよ。
体の何処かに当たってくれ、なんて言ってる時点で、GKとしては終わってるのかもしれんが……、
とにかく、逆に考えてみるんだ。
若島津の三角跳びが優秀過ぎるんだ。
まあ、奴も、ガッツが200未満になったら、用無しなんだが――
「――現実逃避しても無駄だよ?」
「退院したら、お仕置きです」
「しくしくしくしく……」(涙)
――前言撤回っ!
どんなに暇でも良いっ!
堕落しても、墜落しても良いっ!
当分、退院したくないなぁっ!
病院暮らしも悪くないなぁっ!
例の箱に、次々と、お仕置きカードが、
投入されていく光景を眺めつつ、俺は、心の中で神に祈る。
しかし、そんな願いが通じるわけがない。
だって、現代医学って優秀だし……、
それに、エリアの治癒魔法は良く効くし……、
で、完治した足で、俺は、自ら、死刑台への階段を上がるのだ。
「え、え〜と……取り敢えず、ヒールしますね」(汗)
「……お願いします」(泣)
イマイチ、状況が理解出来ていないのだろう。
微妙な笑みを浮かべつつ、
エリアが、治癒魔法の詠唱を始めた。
その暖かい光に身を委ねながら……、
俺は、退院後に待ち受ける、
己の運命を想像し、ただ、涙するのであった。
なあ、エリア……、
その魔法の発動判定……、
任意でファンブルにできたりしません?
<おわり>
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