「――『渡良瀬 準』?」

「はい……」

「――『宮小路 瑞穂』?」

「うん……」

「――『イルス=クークルー』?」

「ええ……」

「コイツらが……皆、男だって?」

「……そのようです」

「なるほどな……、
最近は、そういうのが流行なわけだ」

「「「…………」」」」(こくこく)








「俺に、どうしろと?」(大汗)

「「「……♪」」」」(にへら〜)











第243話 「おねにーさま」










「――で、こうなるわけか」(汗)








 ある日のこと――

 俺は、病室のベッドの上で、黄昏ていた。

 何故、俺が、こんな真昼間から、
アンニュイな気分になっているのか、と言うと……、

 また、例によって……、

 しかも、よりにもよって、
こんな場所で、女装する羽目になったからだ。

「あいつら……明らかに、確信犯だよな」

 情けない自分の姿を見下ろし、俺は、盛大に溜息を吐く。

 入院生活をしている以上、
当然、誰かに、着替えを持って来て貰う必要がある。

 で、その役目は、大抵は、さくら達の役目なのだが……、

 一体、何を考えているのか――
 今日、あいつらが持って来た服は――

 ――全て、女物の服だったのだ。

 本人達、曰く――


『持ってくる服を間違えちゃいました♪』


 ――とのこと。

 だが、その言い分が、
見え透いた嘘である事は、明白である。

 ってゆ〜か、語尾に『♪』マークがある時点で、バレバレだ。

 もちろん、俺は拒否した。
 力の及ぶ限り、抵抗を試みた。

 しかし、所詮は、怪我人の無駄な抵抗――

 四人の女の子を前に、
呆気無く、服を剥ぎ取られてしまい――

 見るも無残な……、
 恥ずかしい姿にされてしまったのだ。

 さらに、その姿を、カメラで、散々、撮られてしまったのだ。

「当分、続きそうだなぁ……」

 早速、現像するつもりなのだろう。

 カメラを片手に、病室を出て行った、
さくら達の様子を思い出し、俺は、途方に暮れる。

 楽しそうだったよな〜……、
 明日も、やるんだろうな〜……。

「ヘタしらた、入院中、ずっと……か?」

 勘弁してくれ、と呟きつつ、
俺は、ベッドの上で、バタッと仰向けに寝転がる。

 ……が、あまりの寝苦しさに、すぐに身を起こした。

「せめて、もう少し、気楽な服なら……」

 と、改めて、自分の姿を見て、
もう何度目か、数えるのも面倒になった溜息を吐く。

 寝苦しいのも、無理はない。

 なにせ、今、俺が着ているのは、学校の女子制服なのだ。

 東鳩高校の制服じゃないぞ?
 そんなモノは、とっくの昔に経験済みだ。(泣)

 じゃあ、一体、何なのか、と言うと……、

 細かい描写は避けるが――
 簡潔に言うと、瑞穂坂学園の女子制服――

 ――ようするに、コスプレ同然の恰好なわけだ。

 まったく、あいつらは……、
 何処で、こんなモノを手に入れて着たんだ?

 はるかさんの監修の元なら、
手作りした可能性は、充分に在り得るのだが……、

 ……と、、この際、そんな事は、どうでも良い。

 とにかく、こんな恰好は、
病室で過ごす、入院患者には相応しくない。

 ハッキリ言って、鬱陶しいこと、この上ない。

 まあ、足を骨折していて、下半身に、
制限がある身としては、スカートは、意外と、楽なのだが……、

 男としては、断固、それを認めるわけにはいかない。

 なら、サッサと着替えてしまえば良いのだが……、

 今てで着ていたパジャマなどは、
全て、さくら達が、持って帰ってしまったのだ。

 洗濯する為なのだろうが……、
 俺の退路を断つ意味合いもあるに違いない。

「……取り敢えず、今日は、部屋に篭っていよう」

 ホントは、車椅子に乗って、
中庭を散歩するつもりだったのだが……、

 諦めの極地に達した俺は、
本でも読もうかと、ベッド脇の床頭台に手を伸ばす。

 と、そこへ――
 唐突に、ドアがノックされ――



「藤井く〜ん、検温の時間です……よ?」



 ――看護士さんが入ってきた。

 どうやら、検温の時間らしい。
 看護士さんの手には、体温計と血圧計がある。

「…………?」

 そんな彼女が、まじまじと、俺の姿を見て、小首を傾げる。

 そして、僅かな沈黙の後……、
 彼女は、苦笑いを浮かべると……、

「ごめんなさい、部屋を間違えちゃった」

 ……そう言い残して、部屋を出て行った。








 ……。

 …………。

 ………………。








 ……。

 …………。

 ………………。








 
――タッタッタッタッタッタッ!


 
バンッ!!


「藤井君……っ?!」

 ようやく、事実に気付いたようだ。

 しばらくして、看護士さんが、
大慌てで、俺の病室へと戻ってきた。

「ふ、藤井君……なんで、そんな恰好……?」

 余程、慌てて戻って来たらしい。
 看護士さんは、肩で息をしながら、俺に訊ねる。

「廊下を走っちゃダメですよ?」

 そんな看護士さんに、
俺は、ちょっと意地悪い指摘をする。

 すると、彼女は、一瞬、言葉を詰まらせ――
 コホンッと、咳払いをし、何事も無かったかのように――

「趣味なの……?」(にっこり)

 ――と、にこやかに反撃してきた。

「違います。実は――」

 俺は、潔く、負けを認め、
看護士さんの言葉を、即座に否定し、事情を説明する。

「ふ〜ん、なるほど〜……」

 看護士さんは、俺の話を聞きつつ、検温を始める。

 そして、検温を終えると、
改めて、俺の姿を、観察し始めた。

「……な、何です?」

 まるで、舐めるような、
看護士さんの視線に晒され、俺は、少し戸惑う。

 そんな俺に構わず、看護士さんは、観察を続け……、

 一体、何を思ったのか……、
 自分の髪を結んでいた黄色いリボンを解くと……、

「うん♪ 似合う、似合う♪」

 それを、キュッと、俺の髪に結んでしまった。

「あ、あの……『朝倉』さん?」

 思わず、看護士さんを名前で呼んでしまう。

 今までは、はるかさんの旧姓と、
音が同じなので、名前で呼ぶのは控えていたのだ。

「折角だから……それ、あげる」

「は、はあ……」

「じゃあ、明日の服も、期待してるから♪」

「……しなくて良いです」(涙)

 不穏な事を言い残し、
朝倉さんは、病室から出て行く。

 それを見送り、俺は、頭のリボンに、そっと手を触れた。

「……ますます、着替えられなくなった」(泣)

 まあ、他に服は無いから、
元々、着替えることは出来ないのだが……、

 こんな物を貰って……、
 尚且つ、結んでまで貰ったら、外すわけにはいかない。

 最低でも、今日一日は、着けておかないと……、

「勘弁してよ……」

 この世の理不尽さに、俺は、頭を抱える。

 俺は、男なのに……、
 どうして、いつも、こんな目に……、

 ってゆ〜か、どうして、こう、
俺の周りには、人を女装させたがる奴が多いんだ?

「……頼むから、もう、誰も来ないでくれよ」

 と、神に祈りつつ、再び、床頭台の上の本に、手を伸ばす。

 だが、そんな――
 俺の、ささやかな願いを――

 ――お約束の神は、聞き入れてはくれなかった。








「やっほ〜! まこ兄〜!」

「……お、お邪魔します」
















「……んに?」

「あ……れ?」

「…………」(汗)
















「…………」

「…………」

「…………」(大汗)
















「わ〜い! やった〜!
まこ兄が、まこ姉になった〜♪」


「うわ〜ん! お兄ちゃんが、
お姉ちゃんになっちゃった〜!?」


「俺は、男だぁぁぁぁっ!」(泣)
















「……じゃあ、おねにーちゃん?」

「それも止めて、ぷり〜ず」(涙)








<おわり>
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