「ねえねえ、まこりん?」

「……何だよ?」

「もうすぐ、10月31日だよね♪」

「ああ、そうだけど……、
10月31日が、どうかしたのか?」

「ハロウィンだよ、ハロウィン♪」

「お菓子か、悪戯か……ってやつか?」








「準備しておかないと、
みんなに、悪戯されちゃうぞ〜?」

「……はあ?」











第241話 「とってもあま〜い」










「「――Trick or Treat!」」

「なるほどね……」








 10月31日――

 冒頭のセリフと共に、
俺の病室に、双子姉妹が飛び込んできた。

「やっほ〜、まこ兄♪ お菓子、貰いに来たよ〜♪」

「違うでしょ、くるみ……、
お兄ちゃんの、お見舞いに来たんでしょ?」

 飛び込んで来るなり、姉妹は、病室の中で、姦しいやり取りを始める。

 そんな二人の恰好を見て、
俺は、先日の、母さんの言葉の意味を理解した。

 ああ、なるほど……、
 確かに、準備は必要だったな。

 10月31日――
 『ハロウィン』の日――

 まあ、詳しい説明は、
俺も、よく知らないので、省かせて貰うが……、

 ようするに、子供達が、家々を渡り歩いて、お菓子を貰う、という風習だ。

 ただ、その際に、子供達は、
魔女やオバケの扮装をしなければならず……、

 ……そして、決まり文句も存在する。


 『お菓子か、悪戯かTrick or Treat』……、

 つまり、お菓子をくれないと、
オバケが悪戯をするぞ、と脅して回るわけだ。

「俺も、大人になった、って事かな?」

 双子姉妹を前に、俺は、感慨深く呟く。

 そういえば、お祭り好きの、
撫子商店街では、毎年、ハロウィンをやってたっけ。

 俺は、今までは、貰う側だったから、準備をする必要なんてなかったけど……、

 でも、今、俺の傍には……、
 次の世代である、この子達がいる。

 この子達と出会った事で、
俺は、貰う立場から、あげる立場になったのだ。

「まこ兄、お菓子は? 無いんだったら、悪戯しちゃうよ〜?」

「もう、くるみってば……」

 俺が、お菓子を出そうとしないので、
くるみちゃんは、小首を傾げつつ、催促してきた。

 しかし、その表情と口調からは、
悪戯したくて仕方が無い、といった様子が滲み出ている。

 そんな妹を、なるみちゃんが、やんわりと嗜め……、

 いや、嗜めながらも……、
 彼女もまた、不安げに、俺を見つめていた。

 ただ、なるみちゃんの場合は……、

 お菓子が貰えない事への不安ではなく……、
 俺に悪戯をしなきゃいけなくなる事への不安なのだろう。

 ……この子は、本当に優しい子だな。

 まあ、兄的存在として、言わせてもらえば……、

 なるみちゃんは、もう少し、
図々しくなっても良いと思うんだけどな……、

「――もちろん、用意してあるぞ」

 やれやれ……、
 本当に、準備しておいて、正解だったな。

 内心、ホッと胸を撫で下ろしつつ、
俺は、床頭台に隠しておいた、お菓子を出す。

「ところでさ……その服は、誰が用意したんだ?」

 そして、お菓子を渡しつつ……、

 彼女達の姿を見てから、
ずっと気になっていたことを、二人に訊ねた。

 すると、返って来たのは――
 あまりにも、予想通りの答え――



「「――みーちゃん」」

「ああ、そうだろうよ……」(涙)



 いつかと、同じやり取り――

 激しい頭痛を覚え……、
 俺は、思わず、頭を抱えてしまう。

「えへ〜、どう? まこ兄?」

「に、似合うかな……?」

 これまた、いつかの様に……、
 姉妹は、俺の前で、クルクルと回ってみせる。

 俺は、そんな二人に、
かろうじて、頷いて見せながら……、

 今頃、悪戯が成功した事を、ほくそ笑んでいるであろう……、

 あのバカ母に、心の中で、
思い切り、ツッコミを入れるのであった。
















 あのさ、母さん……、

 確かに、ハロウィンの、
扮装には、魔女も含まれてるけど……、
















 『プリティー』と『リリカル』は――

 ちょっと、と言うか……、
 かなり、方向性が違うんじゃないか?








<おわり>
<戻る>








―― おまけ(寧ろ、こっちがメイン) ――


「うにゃ〜、まーく〜ん♪」

「Trick or Treatで〜す♪」

「あのな〜、お前らは、
もう、ハロウィンって歳じゃないだろうが?」

「まあ、良いじゃないですか」

「あたし達も、あま〜いお菓子が欲しいな〜♪」

「欲しいな〜、って言われても……、
お菓子は、もう、なるみちゃん達にあげちゃったし……」

「お菓子は無くても……」

「甘いモノなら、ありますよ?」

「えっ? 何処に――」


 
――ちゅっ☆

 
――チュッ☆


「ほら、ね……♪」

「あ、ああ、うん……、
確かに、これは、とびっきり甘いな」(真っ赤)

「ねえ、まーくん……?」(ポッ☆)

「もっと……くれる?」(ポッ☆)

「……ああ、もちろん」