「――ねえ、まーくん?」

「…………」

「もう、まーくんってばっ!」

「あっ、悪い……何だ?」

「まーくん、どうしたんです?
何か、心ここに在らず、って感じですよ?」

「べ、別に……ちょっと眠いだけだよ」

「……そうですか?」








「じゃあ、まーくん……、
あたし達は、そろそろ帰るから……」

「……ゆっくり、休んでくださいね」

「ああ……ゴメンな」











第239話 「みこみこナース」










「高杉 歩……か」








 ――眠れない。

 もう、何度目だろうか……、
 寝付けない俺は、再び、寝返りを打った。

「やっぱり、変だよな……」

 面会時間も、残り僅かとなり、
帰宅した、さくら達には、ああ言ったものの……、

 どうしても、気になる事があり、全く、眠気がしないのだ。

 尤も、まだ、夕飯を食べたばかりで……、
 寝るには、かなり早い時間、という理由もあるのだが……、

 ――気になっているのは、彼女のことだ。

 昼間、中庭で出会った――
 歌が上手な、『高杉 歩』という少女――



「――久しぶりだね、マコト



 ――確かに、そう言った。

 初対面の筈なのに……、
 彼女は、俺に、そう言ったのだ。

 もちろん、俺は、その理由を訊ねた。

 すると、歩から返って来たのは、
予想の斜め上ではあったが、一応、納得できるモノであり……、

 ……微妙に、納得出来ない答えだった。

 訊けば、彼女は、和由ちゃんの家……、
 焼き立てパン屋『こるね』で、アルバイトをしているそうな。

 ――中学生なのに、バイトして良いのか?

 と、疑問に思ったりもしたが……、
 人には、それぞれ事情もあるだろうし、詳しくは訊いていない。

 で、話を戻すが――

 俺のことは、和由ちゃんと、
その友達である、鹿島姉妹から、聞いており……、

 さらに、店でバイトしている時にも、何度か、俺の姿を見ていたらしい。

 確かに、あの店には、
良くメロンパンを買いに行っていたが……、

 まあ、ようするに、彼女が、
一方的に、俺の事を知っていただけ、なわけだ。

「……辻褄は合う、よな」

 幾度目かの寝返りを打ち、
ボ〜ッと、天井を見上げたまま、俺は呟く。

 ――そう。
 確かに、辻褄は合う。

 だが、どうしても、納得が出来ない部分がある。

 何故、歩は、あんなにも、
初対面の俺に、親しげに接してきたのか――

 そして、俺自身も――
 どうして、こんなにも、彼女を懐かしく――

「そういえば……、
あの子、何で、病院なんかにいたんだ?」

 ――ふと、別の疑問が頭に浮かぶ。

 歩は、健康そのもので、
病院なんかとは、縁の無さそうな様子だった。

 もしかして、面会者?
 知り合いが、入院してたりするのか?

「まてよ……確か……」

 高杉、たかすぎ、タカスギ――

 ――はて?

 今になって、気付いたが……、

 この『高杉』って苗字――
 つい最近、何処かで見たような――





「――どったの、まこりん?」

「はうあ……っ!!」





 不意に、誰かに呼ばれ――

 同時に、腰の辺りに、
加わった重みに、俺は我に返った。

 一体、何事かと、視線を落とすと……、

 いつの間に、やって来たのか……、
 そこには、俺の腰に馬乗りになった、母さんの姿があった。

 しかも、あろうことか――
 薄いピンク色のナース服を着て――

「……何、やってるんだ?」

 母さんの服装に関しては、
もう、いつもの事なので、スルーするとして……、

 取り敢えず、俺は、母さんに、ジト目を向けつつ、その行動の理由を訊ねる。

 すると、母さんは……、
 その無いに等しい、薄い胸を張ると……

「そりゃあ、もちろん……、
愛する息子のムスコの上に跨ってるの♪」

「サッサと降りろ……、
そして、すぐに帰れ、このバカ母っ!」

「む〜、まこりん、冷たい〜……、
折角、愛しのみーちゃんが、お見舞いに来てあげたのに〜」

「もうすぐ、面会時間が過ぎるって!」

「だからこそ! ギリギリまで、一緒にいてあげたい親心っ!」

「その気持ちは嬉しいけどさ……、
お見舞いに来たなら、何故、俺の腰に跨る!?」

「物思いに耽ってる、まこりんが、
あんまり無防備だったから、ついつい……てへっ☆」

「あんたは、息子が無防備だと、
その腰に跨らないと、気が済まないのか?!」

「――うんっ♪」

「自信満々で、即答するなっ!!」

 次々と投下される爆弾――

 爆撃機の如き母さんを、
何とか振り落とそうと、俺は、身を捩る。

 だが、母さんは――
 容赦なく、さらなる爆弾を――

「あんっ♪ まこりんったら、
そんなに、激しく動かしちゃダメだよぉ♪」

「艶っぽい声を出すなっ!!」

「とか言いつつ、まこりんのココだって、少しずつ元気に――」

「硬くなんかなってないっ!」
元気になってないっ! 膨張してないっ!」

 慌てて、動くのを止めるが、母さんは、自ら腰を振り始める。

 だが、唐突に、その動きを止めると……、
 母さんは、俺の顔を両手で挟み、ジッと見つめてきた。

「まったく、この子は……、
何を悩んでたか知らないけど……」

「か、母さん……?」

「あまり、さくらちゃん達に、心配を掛けちゃダメよ?」

「……うん」

 いきなりのシリアスモードに、俺は、素直に頷く。

 母さんの言う通りだ……、
 思い返せば、あれ以来、ずっと上の空だった。

 さくら達に話し掛けられても、
ほとんど、生返事しかしていなかった。

 ――あいつらには、悪い事をしちゃったな。

 と、俺は、心の中で反省する。

 そんな俺を見て、母さんは、
満足気に頷き、にぱ〜っと微笑みを浮かべると……、

「まこりん……きっと、溜まってるんだね」

「――はい?」
















「じゃあ、みーちゃんが、
スッキリさせてあげるねぇ〜♪」


「頬を赤らめるなっ!
息を荒くするなっ!!
腰をくねらせるなぁぁぁ〜〜っ!!」


「まだまだ、イクよぉ〜♪」

「や〜め〜てぇぇぇぇ〜〜〜っ!!」
















 ああ、どうして――

 俺達、親子って……、
 シリアスが、長続きしないんだろう?(泣)








<おわり>
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