Heart to Heart
第6話 「陽だまりの中で」
お昼休みも半ば過ぎた頃――
廊下を歩いていると、窓の外にまーくんの姿を見つけました。
日当たりの良い芝生の上に寝転がって……、
どうやらお昼寝の最中のようですね。
「クスッ……」
まーくん、とっても幸せそうに寝ています。
まーくんって、ご飯を食べてる時と寝ている時が、
一番幸せそうな顔してるんです。
特に寝顔はとってもかわいいんですよ。
「……あら?」
窓辺にもたれかかって、まーくんの寝顔を見ていると、
わたしは一匹の猫さんがまーくんに近付いていくのに気付きました。
……クスッ……『また』ですね。
わたしはジッと猫さんの行動を見守りました。
猫さんは、腕を枕にして寝ているまーくんの脇の下に納まると、
体を丸くして眠ってしまいました。
ウフフ……やっぱり……『また』です。
そのまま様子を見ていると、
どこからか一匹二匹……と猫さん達が現れて、
まーくんの体に群がり始めました。
空いているもう片方の脇の下に納まる猫さん――
太股を枕にする猫さん――
ずーずーしくもお腹の上に乗っかる猫さん――
あっという間に、まーくんは1、2、3……七匹の猫さんに
囲まれちゃいました。
猫さん達は、みんな、まーくんの体に寄り添って
気持ちよさそうに寝ています。
そんな状態なのに、まーくんは目を覚ます気配はありません。
いつも、こうなんです。
まーくんがお外でお昼寝をしていると、いつもどこからか猫さん達が集まってきて、
まーくんにくっついて寝てしまうんです。
きっと、猫さん達には分かるんですね。
まーくんの優しさ――
まーくんのあたたかさ――
『ずっと一緒にいたい』という安心感をまーくんは与えてくれる。
だから、猫さん達は、まーくんに寄って来るんですね。
そして、わたしとあかねちゃんも……。
「……まーくん」
「ん……」
わたしが呼び掛けると、まーくんは薄っすらと目を開けました。
本当は、もっとこうしていたいけど、もうすぐ予鈴が鳴るから仕方ないです。
「まーくん、そろそろ起きてくださいね」
まーくんの顔を見下ろしながら、わたしはまーくんの髪を撫でました。
「あ? ……ああ、さくらか……ん?」
目を覚ましたまーくんは、すぐに気付いたみたいです。
今、自分が『何を』枕にしているのか……。
「……なあ、さくら……何やってるんだ?」
「膝枕です」
そう……わたし、まーくんに膝枕していたんです。
ちょっと恥ずかしいけど、でも、まーくんの重みがあったかくて、
安心できて……気持ちいいんです。
「ったく、恥ずかしいマネするなよな」
照れ臭そうにまーくんは言います。
「じゃあ、すぐに起きればいいじゃないですか」
そう。恥ずかしいなら、すぐに起きれば良いんです。
でも、まーくんは起き上がろうとしません。
「ンなことしたら、コイツらが可哀想だろ。せっかく気持ち良さそうに寝てるのによ」
そう言って、まーくんは自分に群って寝ている猫さん達を見ました。
ウソばっかり……。
わたしは、心の中でそう言いました。
ホントは、まーくんがこうしていただけのクセに。
でも、今回はウソついたこと、許してあげます。
だって、わたしもこうしていたいから……。
「……さくら」
「はい。なんですか?」
「……さっきみたいに頭撫でてくれよ」
「えっ?」
……あ、そういえば、いつの間にか
まーくんを撫でていた手が止まっていました。
「……気持ち良かったんだよな」
「……はい」
わたしは、まーくんの頭に手を添えて、撫でました。
優しく……優しく……。
いつも、まーくんがわたし達にしてくれるみたいに……。
クスッ……これじゃあ、いつもと逆ですね。
わたしとまーくんは予鈴が鳴るまでずっとそうしていました。
ほんの束の間の、幸せな時間……。
わたしの心は心地良いぬくもりに包まれる。
でも、このぬくもりは、日差しがくれたものじゃない。
このぬくもりは、まーくんがくれるもの。
そう……わたしはまーくんに包まれているんです。
まーくんという名の陽だまりの中に……。
ねえ……まーくん。
わたしは、このぬくもりに包まれていてもいいんですよね?
ずっと、ずっと、ここにいてもいいんですよね?
まーくん、わたしは、あなたを好きでいていいんですよね?
わたし、まーくんのようになりたい。
まーくんのように優しくなりたい。
まーくんのようにあたたかくなりたい。
いつか、その優しさとぬくもりで、まーくんを包んであげたい。
そして、その時には、きっと……、
ねっ! まーくん☆
<おわり>
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