Heart to Heart

    
第5話 「甘い物はお好き?」








 学校からの帰り道。

 俺は無性に甘い物が食べたくなり、
さくらとあかねを伴って、近所の『キャッツ・カフェ』に入った。

「珍しいよねー。まーくんがこんなトコ行こうなんて」

「まあな。おごってやるから、好きなもの注文しな」

「えっ? でも、悪いですよ」

「俺が誘ったんだから、俺がおごるのが当然だろが。
俺に遠慮することはねーんだよ。お前らにはいつも世話になってるから、
そのお礼だと思ってくれればいい」

「別にお礼されるほどのことはしてませんけど。
でも、まーくんがそう言うなら、お言葉に甘えちゃいますね」

 と、そんなやりとりをしながら、俺達はテーブルに着く。
 ウエイトレスが持ってきたメニューを眺め……、

「あたしね、チョコレートパフェ!」

「わたしはフルーツポンチを」

 さくらとあかねが注文する。
 ったく、さくらの奴、安いモンを頼みやがって。
 遠慮しなくていいって言ったのによ。
 こういうところ、控えめなんだよな、コイツは。

「まーくんは何にするの?」

「ん? 俺か?」

 あかねに訊かれ、俺はメニューの一点を指差す。

「俺はコレ、
『ネバーギブアップ』ね」

 俺の注文に、ウエイトレスの顔が一瞬引きつる。

「か、かしこまりました」

 それだけを言うと、ウエイトレスはメニューを回収し、
そそくさと去っていった。

 ……愛想の無いウエイトレスだな。

「あの、まーくん。ネバーギブアップって何ですか?」

 ウエイトレスの反応が気になったのか、さくらが訊いてくる。

「出てくればわかるよ」







 しばらくして、さくらのフルーツポンチと
あかねのチョコレートパフェが運ばれてきた。

 ……俺のは、まだ来ない。

「まーくんの、遅いね」

 パフェを幸せそうに食べながら、あかねが言う。

「まあ、物が物だからしょーがねーよ」

 と、そんなことを話していると……、

「お待たせしました。ネバーギブアップです」

 ようやく、俺のが来たようだ。
 ウエイトレスは俺の傍に寄ると……、


 どんっ!


 と、『それ』を置いた。

「ひっ……」

「うっ……」

 『それ』を見て、露骨に引くさくらとあかね。

 なんだよ、その反応は……。
 ……まあ、無理もないかもな。

 なにせ、俺の前に置かれた『それ』は、
ビールの大ジョッキをさらに大きくした容器に、
パフェやフルーツがそれこそ山の様に盛られた物なのだから。

 そう。この超大盛りパフェこそが『ネバーギブアップ』の正体なのだ。

「んじゃ、早速……いただきまーす♪」

 スプーンを手に取り、パフェをパクつく俺。

「あ、あの……まーくん」

「ん? 何だ、さくら?」

 パクパクモグモグ……

「それ……一人で全部食べるんですか?」

「あったりまえだろ」

 モグモグムシャムシャ……

「まーくんって、そんなに甘い物好きでしたっけ?」

「別にメチャクチャ好きってわけじゃないけど、
ときどき無性に食べたくなるんだよ。
でも、男一人だとこういうのって注文しにくいだろ?
だから、お前らを誘ったんだよ」

 パクパクガツガツ……

「だからって……」

「そんなにも……」

 モグモグ……ゴックン

 ――カラン

「……ふぅ」



早っ


 空になった容器の中にスプーンを放り、
ひと息つく俺に、二人は目を丸くする。

「どうした? お前ら、食べないのか?」

 見れば、さくらもあかねも、まだ半分ぐらいしか食べてない。

「う、うん……」

「何だか、胸が一杯になっちゃいました」

 と、力無く言う二人。

「そうか……じゃあ……」

 俺は軽く手を上げて、ウエイトレスを呼んだ。

「すみませーん。もう一つくださーい」


 
ずがっしゃあーーーっ!!


 俺のセリフと同時に、豪快にコケるさくらとあかね。
 あ……ウエイトレスまでコケてるし。

「どうしたんだ、お前ら? さっきから変だぞ」

「う、ううん……なんでもない」

「はい……なんでも、ないです」

 と、引きつった笑みを浮かべる二人。

 ホントに変だぞ、コイツら……。








 それから、俺は二杯目のネバーギブアップをゆっくりと堪能した。

 そういえば、何だか、さくらとあかねが
俺を呆れ顔で見ているのが気になったが……ま、いいか。






 パクパク……

 モグモグ……

 ムシャムシャ……

 ガツガツ……






 はあ〜……しあわせしあわせ♪








<おわり>
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