Heart to Heart  

      第3話 「幼き頃は……」







 昼休み……。

 いつものように購買部で買ってきたパンを屋上で食べた俺は、
特に何もせず、晴れた空を見上げてボ〜ッとしていた。
 さくらとあかねは弁当だ。二人とも自分で作って来ているらしい。
 その弁当を、二人はいまだに食べている。
 別に二人が食べるのが遅いわけじゃない。俺が早過ぎるのだ。
 俺はだいたい5分くらいで食べ終える。まあ、パンだからな。

「ふぅ……」

 俺は軽く息を吐き、ゴロンとその場に横になった。。
 この心地よい満腹感と春の暖かな日差し……。
 ああ……何だか眠くなってきた。
 と、気持ち良くまどろんでいると……、

「……あの、まーくん」

 さくらが話し掛けてきた。

「ん? 何だ?」

 寝転がったまま、俺は顔だけ向ける。
 二人とも弁当を食べ終えたらしく、弁当箱を巾着袋にしまっていた。

「あの、わたし、ちょっと用事があるので、先に教室に戻りますね」

 さくらは申し訳なさそうに言うと、巾着袋を持って立ち上がった。

「何だよ。せっかく膝枕してもらおうと思ってたのに」

 俺が残念そうにそう言うと、さくらはちょっと迷ったあげく、
再び腰を降ろした。
 そして、口元に手を当てて、恥ずかしそうに……、

「まーくんが、どうしてもって言うなら……」

 と、言って、自分の太股をポフッと叩いた。
 むぅ……冗談のつもりだったんだが。
 でも、せっかくだからこのまま流れてしまうのもいいかなぁ。
 いやいや、さくらは用事があると言ってたし、
ここで引き止めちゃさくらに迷惑が掛かるよな。

「ばーか。冗談だよ。とっとと行ってこい」

「え? ……あ、はい」

 俺の言葉にさくらは顔を赤くしながら、
早足で屋上を出ていった。
 一瞬、残念そうな顔をしてたような……ま、いいか。

「ねえねえ、まーくん」

 今度はあかねが話し掛けてきた。

「ん?」

「まーくんって、超能力とか魔法って信じる?」

 なんだそりゃ?
 何の脈略も無く、いきなり超能力だあ?

「何だよ。なんで突然そんなこと訊くんだ?」

「あのね、これって噂なんだけど、
二つ上の先輩にオカルト研究会に入っている人がいて、
その人、魔法が使えるんだって。
それに、あたし達と同じ一年生にも、超能力が使える子がいるって」

「ウソくせー」

 思いっ切り眉唾モンだな。
 どうせ偶然の出来事が重なって、
それを見た人間が誤解してるだけだろ。
 俺がそう言ってやると……、

「夢がないなぁ。まーくん、小さい頃は結構こういう話好きだったのに」

 と、あかねはちょっと寂しそうな顔をする。

 確かに、俺の言ってることは夢がないかもしれない。
 でも、それは仕方の無いことだと思う。
 それが、成長して、大人になるということなのだから。
 大人になることで、抱く夢は現実的なものになっていくのだから。

「お前は信じてるのか? 超能力とか魔法とか」

「うん! だって、そういうのがあったら面白いもん」

 そう言って、あかねは無邪気に微笑む。

 こいつのこういうところ、羨ましいよな。
 いつまでも純粋で、無邪気で、素直で……。
 俺も少しは見習わないとな。

「そういや、俺もガキの頃はサンタクロースは本当にいるって信じてたりしたな」

 俺の言葉に、あかねもウンウンと頷く。

「うん。あたしも子供の頃は
トナカイって本当に……」


「いるんだよっ!」


 俺はあかねの言葉を遮って、思いっ切りツッコミを入れた。
 他の奴ならあかねのジョークだと思っただろう。
 しかし、付き合いの長い俺は、あかねがマジで言っているのだと分かる。
 あかねの天然ボケ……というか、おバカぶりはハンパじゃないのだ。
 現に、俺のツッコミに、あかねは目を見開いて驚いている。


「えぇっ! じゃあ、お空飛ぶの!?」


「飛ぶかっ!!」


 あかねのボケに、俺は再び激しくツッコんだのだった。







 あかねは純粋で、無邪気で、素直で……。
 でも、それにも限度ってモンがあるぞ。
 ……まさか、ここまでだったとはな。
 ったく、勘弁してくれよ……。








<おわり>
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