Heart to Heart
第22話 「らぶらぶ大好き」
「すきすきすきすきすきっすきっ♪ あ・い・して〜〜る♪」
いつもの如く、さくらとあかねが歌を唄いながら料理をしている。
そして、いつもの如く、俺は二人のその姿をソファーに座って眺めていた。
いつの間にか、当たり前に思えるようになっていた光景。
それが、明日には、もう当たり前ではなくなる。
何故なら、今夜は同棲生活最後の夜だからだ。
明日、二人の両親が隆山から帰ってくる。
となれば当然、二人は家に帰り、俺はこの家に一人残される。
以前の生活に戻るだけなのに、何故か寂しい思いでいっぱいになる。
別に、二度と会えなくなるわけじゃないのに……、
学校に行く時になれば、必ず会えるのに……、
……なのに、寂しい。
それは、多分、俺の中で、二人と一緒に生活していることが
当たり前になってしまったからだろう。
たったの一週間だったけど、その一週間はこれまでの人生の中で、
一番楽しく、一番賑やかで、一番幸せな時間だったからだろう。
まさに、『祭りの後』ってやつだな。
ま、元の生活にもすぐに慣れるだろう。
物心ついた時から、ずっとそうだったんだからな。
まぁ、それはともかく、今日は同棲生活最後の夜だ。
当然、晩メシはご馳走を作ることとなった。
で、今、さくらとあかねがそのご馳走を一生懸命作ってるってわけだ。
そいえば、さっきから二人が唄っている歌って
いつもみたいなマイナーなやつじゃねーな?
『とんちんかんちん一休さん』を知らない奴なんて
そうはいないだろうからな。
「…………?」
……はて?
何か、頭の隅っこに引っ掛かるものがあるぞ?
いつだったか、この歌で随分とエライめに遭った事があるような……?
「すきすきすきすきすきっすきっ♪ ま〜〜く〜ん♪」
「…………」
さくらの唄声を、正確にはその歌詞の内容を聞き、俺は頭を抱えた。
……思い出した。
あれは、確かガキの頃、町内のカラオケ大会が催された時だ。
さくらとあかねが大会に参加して、今の歌、『とんちんかんちん一休さん』の替え歌を、
町内のみんなの前で大熱唱しやがったんだ。
その歌詞のあまりの内容に、あの時、俺は精神的に大ダメージを被ったばかりか、
思いっ切り恥ずかしいめに遭ったんだった。
……その歌を、こいつら、まだ覚えてたのか?
「ちょ・お・ぴ・り・てれ〜やさんだよ、ま〜〜く〜ん♪」
「え・が・お・が・すて〜きなんです、ま〜〜く〜ん♪」
「と・き・に・は・き・び・し・い、ま〜〜く〜ん♪」
「だ〜けどほんとはやさ〜しいんです、ま〜〜く〜ん♪」
「「ま〜〜く〜〜〜ん♪
げ〜〜きラ〜ブ〜〜♪」」
「すきすきだいすき♪ らぶらぶだいすき♪ あ・い・し・て・る♪」
「だ〜いすきよ〜♪」
「だ〜れよ〜りも〜♪」
「「だ〜いすきよ〜〜〜〜♪」」
「しょ・お・ら・い・お・よ・め・にもら〜〜て・ね♪」
「ど〜してそんなにすってき〜なの♪」
「「らぶらぶだいすき☆
ま〜〜くん♪」」
……もう、好きにしてくれ。(泣)
<おわり>
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