Heart to Heart
第20話 「好きって気持ち」
――まーくんはあたしよりもさくらちゃんの方が好きなのかな?
と、時々、あたしは不安になる。
あたしは、まーくんに似合う女の子なのかな?
さくらちゃんみたいに、まーくんの恋人に見えるのかな?
さくらちゃんは可愛いし、お料理も上手だし、お裁縫だって出来るし……、
それに、あたしみたいに子供っぽくない。
それに比べて、あたしは……、
あたし、さくらちゃんみたいになりたいと思った。
さくらちゃんみたいになりたくて、お料理も練習して、
お裁縫も教えてもらって……、
でも、あたし、さくらちゃんみたいになれないの。
さくらちゃんみたいに大人になれないの。
さくらちゃんみたいに、まーくんとお似合いの女の子になれないの。
あたし、背が小さくて……、
子供っぽくって……、
まーくんと一緒に歩いてても、兄妹みたいに見えちゃうの。
さくらちゃんみたいに、恋人同士に見えないの。
でも、それはそんなに不安じゃないの。
だって、小さい頃からずっとそうだったから、もう慣れちゃった。
あたしが一番不安なのは、まーくんの気持ちなの。
まーくん、あたし知ってるんだよ。
まーくん、あたし気付いてるんだよ。
まーくんの眼差し……。
あたしとさくらちゃんとで全然違うんだよ。
あたしを見るまーくんの瞳は、まるで妹を見るみたいな、そんな瞳なの。
ねえ、まーくん。
あたしって、まーくんにとっては妹でしかないの?
あたしは、さくらちゃんと同じにはなれないの?
さくらちゃんを見るような瞳で、あたしを見てはくれないの?
あたしは、まーくんの妹なんて嫌だよ!
あたしは、まーくんの恋人になりたいの!
将来は、まーくんのお嫁さんになりたいの!
結婚して、夫婦になって、子供産んで、お母さんになって……、
ずっとずっとずっと、まーくんの隣にいたいの!
まーくんと一緒にいたいの!
まーくんは、あたしもさくらちゃんも同じくらい好きだって言ってくれるよね?
その言葉、信じていいの?
さくらちゃんだけが特別じゃないよね?
あたしも、同じだよね?
まーくんにとって、あたしとさくらちゃんは同じだよね?
まーくんにとって、あたしとさくらちゃんは違うなんてことないよね?
「何言ってんだよ。そんなの違うに決まってるじゃねーか」
あたしは、思い切ってこの不安をまーくんにぶつけた。
そして、返ってきたのは、あたしが一番聞きたくない答えだった。
……そっか。
やっぱり、そうなんだ。
まーくんにとって、あたしはただの妹でしかないんだね?
まーくんにとって、あたしはただの幼馴染みでしかないんだね?
あたしは、まーくんとずっと一緒にはいられないんだね?
「あ……うぅ……」
そう思い知った途端、涙が出てきた。
……羨ましい。
さくらちゃんが羨ましい。
どうして、あたしはこんなに背が低いの?
どうして、あたしはこんなに子供っぽいの?
もっとあたしが大人だったら、さくらちゃんと同じ場所にいられたのに。
ずっと、まーくんの側にいられたのに。
「なあ、あかね……お前、何か誤解してるみたいだな」
あたしの涙を指で拭いながら、まーくんが言う。
誤解……どういうこと?
「……あかね。お前はさくらじゃないだろう?」
「うん……」
「そして、さくらはあかねじゃない。
そんな二人を、同じように思えるわけないだろうが」
そう言うと、まーくんはあたしの頭を撫でる。
「確かに、俺はお前を妹みたいに思ってるところもあるし、
お前を子供扱いしてるところもある。
でもな、そんな妹みたいなお前が、子供っぽいお前が、俺は好きだよ」
まーくん……。
「この『好き』は、さくらが『好き』って気持ちとは同じじゃない。
この『好き』は、あかねだけへの特別な『好き』なんだ。
『あかねが好き』っていう特別な気持ちなんだ」
まーくんの手が、あたしの頬に添えられる。
「それにな……」
――ちゅっ☆
「ふぁ……」
ビックリして、あたしはそっと唇に触れた。
……感触、まだ残ってる。
「……な? 本気で妹としか思ってないような女の子に、
こんなことするわけないだろ?」
そっか……。
そうなんだね……。
まーくん、あたし、わかったよ。
『まーくんはあたしとさくらちゃんが好き』なんじゃなくて、
『あたしが好き』で『さくらちゃんが好き』なんだってこと。
『まーくんは、あたしもさくらちゃんも同じくらい好き』だけど、
その『好き』は違うってこと。
その『好き』は、それぞれが特別なものなんだってこと。
だから、あたし、もう不安じゃないよ。
それにね、あたし、何だかちょっとだけ大人になれたような気がするよ。
みーんな、まーくんのおかげだよ。
ありがとう、まーくん!
それと……、
それとね……、
「まーくん、大好きっ!!」
<おわり>
<戻る>