Heart to Heart
第18話 「おはようのあいさつ」
「……まーくん、まーくん……朝だよ」
「まーくん……そろそろ起きてください」
いつものように、さくらとあかねに起こされ、
俺は目を覚ました。
うーむ、目覚ましはかけてるんだけど、
無意識に止めちまってるみたいだなぁ。
今まではこんなことはなかったのだが、
二人との同棲を始めた頃から、ずっとこんな調子だ。
いかんなぁ……ちゃんと自分で起きるようにしないと。
いつまても、二人に甘えているわけにはいかないからな。
……っと、いけないいけない。
まずは朝のご挨拶っと。
俺は体を起こし、二人の方を見た。
さくらもあかねもニコニコと微笑んでいる。
「おはようございます、まーくん」
「おはよう、さくら」
――カチッ
ん? 今、何か音がしたような……気のせいか?
「おはよう、まーくん」
「ああ……おはよう、あかね」
――カチッ
あれ? まただ。
何なんだ? さっきから……。
そういえば、二人とも、後ろ手に何か隠しているような気がするぞ。
必要以上にニコニコしてるし……。
こいつら、今度は何を企んでるんだ?
「……お前ら、後ろに何を隠してるんだ?」
「「えっ?」」
俺が訊ねると、二人は露骨に反応する。
……あやしい。
「な、ななななな、何でもないよ!」
「そ、そそ、そうです! 何でもありません!」
それだけ言うと、二人はそそくさと部屋を出ていった。
しかも、後ろ歩きで……。
……分かり易い奴等だ。
後で問いただしちゃる。
だが、結局……、
その日はいくら訊ねても教えてもらえなかった。
で、次の日の朝……、
あ〜あ〜〜っ!! はってっし〜ない〜〜!
――バシッ!
目覚まし時計のスイッチを乱暴に叩く。
「ふわぁ〜〜……」
大きくあくびをしつつ、俺は体を伸ばす。
うっしゃっ!
昨日の反省を活かし、今日は一人で起きれたぜ。
……とは言うものの、こんなに早く起きてもすることが無い。
いつもなら、自分で朝メシを作るところだが、
今はさくらとあかねが作ってくれるからなぁ。
……そういえば、あいつら、もう起きてるかな?
俺はパジャマを着替え、部屋出た。
リビングには……いない。
キッチンにも……いない。
もしかして、朝シャンか?
もしそうなら…………。(キラーン☆)
――ガチャッ
俺は脱衣所のドアをそっと開ける。
……ちっ、いないか。
非常に残念に思いつつ、俺はドアを閉める。
ここにもいないてことは、まだ寝てるのか?
…………よしっ!
たまには俺が起こしてやるっていうのも良いよな。
二人の寝顔が見れるかもしれないし。
そうと決まれば……、
俺はいそいそと二人部屋に向かった。
――トントン
一応、ノックはする。
でも、できるだけ小さな音で……。
返事は……無い。
よし……これで言い訳はできたぞ。
いざっ!!
「……お邪魔しまーす」
俺は小声でそう言いつつ、部屋に入った。
案の定、二人はまだ寝ている。
例の抱き枕をギュッと抱いて、スヤスヤと寝息をたてている。
……か、可愛い。
二人の無防備な寝顔に、思わず見とれてしまう俺。
……しばらく見てようかな。
起こすのもかわいそうだし。
と、そう思った瞬間……、
ピピピピピピピピッ!
さくらのペンギン型目覚まし時計が鳴った。
続いて……、
ぴぴぴぴぴぴぴぴっ!
あかねの某猫型ロボットの目覚まし時計が鳴った。
そして、同時に……、
『おはよう、さくら』
『おはよう、あかね』
二つの目覚ましから、聞こえる俺の声。
……なるほど。
昨日の『あれ』はそういうことだったわけな。
「う、うーん……まーくん……」
「ふにゅ〜〜……」
眠い目を擦りつつ、抱き枕をかかえたまま体を起こす。
「…………」
「…………」
「…………」
俺と目がバッチリと合う。
「…………よっ!」
「きゃああああああああっ!!」
がすっ!!
「うみゃあああああああっ!!」
ごきゅっ!!
二人の悲鳴と同時に……、
俺はフライパンとクマさんバットの餌食となった。
「……で、あの目覚ましは何なんだ?」
鼻にティッシュを詰めながら俺が訊ねると、
二人はポッと顔を赤く染める。
「だ、だって……」
「まーくんの声で起きたら、気持ち良く起きれるかもって
思ったものですから……」
やっぱりな。
で、昨日の朝、後ろ手に隠し持っていた目覚まし時計に
俺の声を録音させたわけだ。
「……ま、いいけどな。
でも、絶対に他の奴に聞かれるんじゃねーぞ」
「「はーい」」
俺の許しを得て、二人は機嫌良く頷くのだった。
今度、俺も二人の声を録音しようかな……。
<おわり>
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