Heart to Heart

   
第14話 「見えないあなたに」







「ふぅ〜〜〜、ごちそうさま」

「「おそまつさまでした♪」」

 晩メシを食べ終え、箸を置いた俺の言葉に、
さくらとあかねはニッコリ微笑む。

 はぁ〜……今日もさくらとあかねと一緒の晩ご飯。
 やっぱり、一緒にご飯を食べると、
一人で食べるよりも何倍も美味しく感じるぜ。

 俺は食後のお茶を啜りながら、二人の方へと目を向けた。

 二人は仲良く並んで食器を洗っている。

 エプロン姿の女の子っていいよな〜。
 何て言うか、こう、ほんわかした気分になるよな。

「まーくん」

「ん? 何だ?」

 二人の姿を微笑ましく思いつつボ〜ッと眺めていた俺は、
さくらの声に我に返った。

「わたし達、洗い物済ませちゃいますから、先にお風呂入っていいですよ」

「ああ、わりぃな。じゃあ、先に入らせてもらうよ」

 俺はお茶の残りをグイッと飲み干すと、立ち上がった。

「……待ってるからな」

「「……えっ?」」

 俺の唐突な言葉に、さくらとあかねはキョトンとした顔になる。

「早く入って来いよ」

「「えっ? えっ? ……あ(ポッ☆)」」

 俺の言葉の意味にようやく気付いた二人は、
かあぁぁぁぁぁ〜〜〜っと顔を赤くする。

 ふっふっふっ……ホント、愛い奴らよのぉ。

「ははっ、冗談だよ、じょーだん」

「……もう、まーくんったら」

「ビックリしちゃったよ」

 ぷうぅ〜っと頬を膨らませる二人。

 そんな二人を可愛く思いつつ、俺は風呂場に向かう。

「ああーーーーっ!!」

 が、いきなりあかねが声を上げたので、俺は足を止めた。

「どうした? あかね」

「ゴ、ゴメン、まーくん。あたし、お風呂沸かすの忘れてた」





 と、いうわけで、やって来ました銭湯へっ!

 そう。家の近くには銭湯があるのだ。
 スーパー銭湯とか、花の湯とか、
大きな風呂屋があるこのご時世だってのに珍しいよなぁ〜。

「じゃあ、まーん。また後で」

「いってきまーす」

「おう」

 番台に座る婆さんに代金を払い、俺は男湯、
さくらとあかねは女湯の方へと入る。

 俺は服を入れるカゴを足元に置きつつ、脱衣所を見回した。
 ちらほらと、オッサン達の姿や、幼い孫を連れた爺さんの姿が見える。

 一応、それなりに客は来てるみたいだな。

 と、そんな事を考えつつ、カゴに服を脱ぎ入れていく。

「あっ! さくらちゃんのブラ、かわいー!」

「あ、あかねちゃん……まーくんに聞こえちゃうから、
あんまり大きな声で言わないで……」

「いいなー。あたしも早くそういうの付けれるようになりたいなー」

 男湯と女湯を隔てる壁の向こうから、
そんな二人の声が聞こえてきた。

 ……もう充分に聞こえちまってるよ。

「おーい、あかねー。どんなやつなんだー?」

 と、壁の向こうに声を飛ばす俺。

「えっとねー、ピンクの……もがっ! むぐぐっ!」

「あかねちゃんっ! 言っちゃダメーッ!」

 ははは……二人の光景が目に浮かぶようだぜ。

 それにしても……さくらが
ピンクのブラを……。
 となると、当然、
下の方もそれに合わせて……。

 んでもって、そんな姿のさくらと
ノーブラのあかねがじゃれあって……、

 ……。

 …………・

 
……おおうっ!!(爆)


 いけねぇいけねぇ。
 想像しちまったぜ。
 こんなところで
臨戦体制に入ってどうすんだ、俺。





「まも〜れせいぎのて〜で〜♪ あしたのそら〜を〜♪」

 女湯の方からあかねの歌声が聞こえてくる。

 相変わらずマニアックな歌だ。
 今時、この歌を知っている奴がこの世に何人いることか。
 でも、アニメだけじゃなくゲームの歌まで押えているとは、さすがはあかねだな。

 ……って、ンな事で感心していてどーする!

 あかね、16歳にもなって、こんなトコでそんな歌を大声で唄うんじゃねーよ!
 聞いてるこっちまで恥ずかしくなるだろうが!

 ……と、注意したいところだが、女湯の方に声をかけるっていうのは、
どうも恥ずかしいんだよな。

 頼む、さくら。あかねに一言注意してやってくれ!

「ゆ〜くぞ♪」

「おーっ!」

「ほのおの♪」

「やーっ!」

「まっただなか〜へ〜♪」

「…………」

 一緒になって合いの手入れてるし。
 ったく、勘弁してくれよ。

「おい、さくら!」

「はい?」

「あかね!」

「な〜に?」

「やかましいっ!」

 俺は手持ちの洗面器の中にある石鹸を掴むと、
女湯の方へと投げ上げた。


 
ひゅ〜〜〜〜〜ん…………パコンッ!


「あいたっ!」

 ふっ……見事命中。

「まーくん、痛いよぉー」

「こっちの姿は見えないのに命中させるなんて、さすがはまーくんですね」

「ンな事にいちいち感心せんでいい!
俺が石鹸を投げた理由はわかってるだろうな?」

「はい。もちろん」

「わかってるよ」

「そーかそーか。それならいいんだ」

「この石鹸はまーくんからわたし達への
愛のメッセージですね♪

「ちがーーーうっ!!」

 人前でンな恥ずかしいことを堂々と言うなぁぁぁぁぁぁっ!!

 と、俺はツッコミの意味でそう叫んだのだが、
二人は別の意味で捕らえてしまったようだ。

「そ、そんな……まーくん……グスッ……」

「まーく〜ん……ひっく……あたし達のこと……ひっく……
嫌いになっちゃったの〜?」

 だああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーっ!!
 泣くなぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!!

「分かった! 分かったから、もう泣くな!」

「だって……だって〜……ぐすっ……」

「……うぅ……まーく〜〜〜ん……」

 二人が泣き止む様子はない。

 ったく……あの二人ときたら……。

「さくら、あかね、よく聞けよ。
俺がお前達を嫌いになるなんてことは絶対に無い。だから、もう泣くな」

「……本当……ですか?」

「ああ、本当だ。俺を信じろ」

 まったく、こんな恥ずかしいセリフを言わせるなよな。

「……うん……分かった。分かったよ、まーくん。
……あたし達、まーくんのこと信じるよ」

「……すみません、泣いたりして」

 ふぅ……ようやく落ち着いたようだな。

 ったく、世話の焼ける奴らだぜ。
 ゆっくり風呂にも入ってられねぇ……。

 ……ん? 風呂?
 俺、何かとんでもないことを忘れてねぇか?

 ……。

 …………。

 
…………はうあっ!!


 しまったぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!!
 ここが銭湯だってこと、すっかり忘れてたぁぁぁぁーーーーーーっ!!

 俺は慌てて、周りを見た。

 げっ! 他の客達の目が、全部俺に向いている。(大汗)

 うううっ……視線が痛い。

 居心地が悪くなった俺は、急いで風呂を出たのだった。





「……ったく、エライ目にあったぜ」

 表でさくらとあかねが出てくるのを待ちつつ、深くタメ息をつく。

 まったく、慌てて出てきたせいで、
銭湯の楽しみの一つ、風呂上りのフルーツ牛乳を飲む暇も無かったぜ。

「……まーくん」

「お、おまたせ……」

 中からさくらとあかねが出てきた。
 ほんのりと顔が赤いのは、風呂上りのせいだけじゃないだろう。

「……早かったな」

「は、はい……なんだか恥ずかしくなってきちゃって……」

 俯いたまま答えるさくらと、それにコクコクと頷いて同意するあかね。

「ったく、誰のせいだと思ってるんだ?」

 俺はちょっとジト目で二人を見る。

「ご、ごめんなさい」

「ごめんね……まーくん」

 そんな俺に、二人は瞳に涙を浮かべて謝る。

 おいおい、この程度のことで泣くなよ。
 ったく、しょーがねーなー。

 俺はポンッと二人の頭の上に手をのせた。

「泣くなよ。別に怒ってねーから」

 なでなで……

 なでなで……

「……あ(ポッ☆)」

「はにゃ〜……(ポッ☆)」

 俺に頭を撫でられ、頬を赤く染めるさくらとあかね。

「ほら、湯冷めしちまう前に、とっとと帰るぞ」

 二人が落ち着いてきたのを見計らい、
俺は撫でるのを止めると、二人を促し歩き出す。

「はい♪」

「うん♪」

 二人は元気良く頷き、俺の両腕に自分達の腕を絡めてきた。

 さくらとあかねに両側から挟まれながら、俺はゆっくりと歩く。

「……あったかいね」

「ああ……」

 優しく、あたたかな空気が、俺達を包み込む。

「……さくら、あかね。もう一度言っとくぞ。
俺がお前達を嫌いになるなんてことは絶対にない。
何があっても、俺はお前達のことが好きだよ」

 さっきは、二人を宥める為に、このセリフを言った。
 でも、今のは違う。
 心から、俺の気持ちを二人に伝えた。
 この優しい雰囲気のせいか、自然とそんな気持ちになった。

「まーくん、わたしも……あなたが好きです」

「……まーくん、大好きだよ」

 二人が、俺に体を寄せてきた。
 夜風が二人の髪を揺らし、シャンプーの香りが俺の鼻をくすぐる。





 ……いい匂いがする。
 それに、あたたかい。





 二人のぬくもりを感じながら、
この幸せがずっと続いて欲しいと、俺は思った……。








<おわり>
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