Heart to Heart
第13話 「あなたを抱いて眠りたい」
「ふわぁ〜〜〜……おはよう、さくら」
「おはようございます、まーくん」
大きくあくびをしつつ、台所に行くと、
エプロン姿のさくらが朝メシを作っているところだった。
ちなみに、俺はちゃんと服は着替えてるぞ。
いつものトレーナーとジーンズだ。
いくら相手がさくらとあかねとはいえ、
女の子の前でパジャマ姿でいるわけにはいかないからな。
「……あかねは?」
冷蔵庫から牛乳パックを出つつ、俺はさくらに訊ねる。
「まだ寝てます。昨夜はちょっと遅くまで二人でお話ししていたものですから」
「何の話だ?」
「そ、それは……もちろん……(ポッ☆)」
と、口篭り、頬を赤くするさくら。
「…………」
……ったく、こいつらは。
こっちまで恥ずかしくなってくるぜ。
ま、嬉しくもあるんだけどな。
俺は照れ隠しに牛乳をラッパ飲みでグイッと一気に呷る。
ちなみに、ちゃんと腰に手を当ててるぞ。
基本は大切にしねぇとな。
「まーくん、お行儀悪いですよ」
ラッパ飲みする俺をさくらが咎める。
「何言ってんだ。これぞ漢の飲み方だろうが」
「そんなことに男も女もありません」
と、俺とさくらがそんな他愛も無い話をしていると……、
「おはよ〜〜〜」
寝ボケまなこを擦りながら、パジャマ姿のあかねがやってきた。
おいおい……男の俺だってそれなりに気ィ遣ってるのに、
女の子が男の前で無防備にパジャマ姿でウロウロすんじゃねーよ。
……まあ、可愛いからいいけどさ。
「おう。おはよう、あかね…………あん?」
あれ? あかねのやつ、何か手に持って引きずってるぞ。
でっかいヌイグルミみたいだけど……。
「おはよう、あかねちゃ…………ああっ!!」
俺がそのヌイグルミをよく見ようとしたら、
それよりも早く、さくらがあかねをリビングへと連れていってしまった。
さくら……何か妙に慌ててなかったか?
ちょっと気になった俺は、リビングにいる二人の会話に耳を傾けた。
「……あかねちゃん、『それ』持ってきちゃダメでしょ。
まーくんに見られちゃったじゃない」
「……うみゅ〜、ごめんなさい」
「……幸い、まーくんはまだ気付いてないみたいだから、
早くお部屋に置いてきて」
「……う、うん」
なんだなんだ?
なんか、俺に見られちゃマズイものなのか?
よーっし。そういうことなら……、
俺は台所から廊下に直接出るドアに向かい、
階段へ先回りした。
「あっ!」
階段の前で待ち構えている俺を見て、
あかねはヌイグルミを背後に隠す。
「……さ、見せてみなさい」
「ダメッ!」
にっこりと笑って手を差し出すと、
あかねはふるふると首を横に振る。
「……もうなでなでしてやらないぞ」
「あう……まーくん、ズルイよぉ〜」
と、半べそかきながら、あかねはしぶしぶヌイグルミを俺に渡す。
「ああっ! あかねちゃん、ダメッ!」
俺達の様子に気が付いたさくらが、割って入って来ようとしたが、
俺は素早くそれをかわし、ヌイグルミを奪い取った。
「ああ…………」
「うみゅ〜〜〜〜……」
ヌイグルが俺の手に渡り、二人はついに諦めたようだ。
さて、静かになったことだし、じっくりと観察させてもらうとするか。
俺はヌイグルミに目を向けた。
人型のヌイグルミだな。
トレーナーとジーンズというラフな恰好の男の子だ。
二人のことだ。何かのキャラクターなのだろう。
でも、こんなの見たことないぞ。
それに、随分とデカイな。
ヘタしたらあかねの身長と同じくらいあるんじゃねーか?
ヌイグルミっつーよりは、抱き枕だな、コレは。
「……お前ら、いつもコレ抱いて寝てるのか?」
「う、うん……(ポッ☆)」
「…………(こくん)」
訊ねる俺に、二人は顔を真っ赤にして頷く。
「…………ふ〜ん」
なんか、面白くない。
いくら、何かのキャラクターとはいえ、
さくらとあかねが男のヌイグルミ抱いて寝てるなんて……。
……ちっ……なにヌイグルミ相手にヤキモチ焼いてんだ、俺は。
「…………ん?」
もう一度、ヌイグルミを見て、あることに気が付いた。
コイツの恰好、今の俺の服装と同じじゃねーか。
それに……この髪型といい……。
そして、俺はある予想にたどり着く。
おいおい……これって、もしかして……、
「……なあ?」
俺はさくらとあかねを見て、訊ねた。
「このヌイグルミ……もしかして俺か?」
ボッ!
俺の言葉に、二人の顔が火を噴くように真っ赤になる。
どうやら、答えは聞くまでもないようだな。
そっか……コレ、俺なんだ。
俺のヌイグルミを、毎晩、抱いて寝てるんだ。
へへへ……何か、嬉しいな。
それ以上に恥ずかしくもあるけど……。
「……なかなか上手に出来てるじゃねーか」
と、言いつつ、俺はあかねにヌイグルミを返す。
「コレ、あかねが作ったのか?」
「うん! この『まーくん抱き枕』は、あたしが作ったの。
さくらちゃんに作り方、教わったんだよ。
それでね、さくらちゃんのはもっと上手なの。
着せ替えが出来るくらいなんだから」
俺に誉められて素直に喜ぶあかね。
喜ぶあまり、余計なことまでペラペラ喋っている。
「……さくらのもあるのか?」
「…………(こくん)」
おーおー、耳まで赤くなってるよ。
「……今度さ、俺のも作ってくれよ」
「「えっ?」」
俺の頼みに、キョトンとするさくらとあかね。
「だからさ、俺の分も作ってくれよ。
『さくら抱き枕』と『あかね抱き枕』
…………大事にするからさ」
ああああーっ! 自分で言ってて恥ずかしいーっ!!
俺はそう言ってから、照れ隠しにそっぽを向く。
「まーくん…………えっち」
うう……やっぱりダメか。
二人の視線が痛いぜ……。
「……でも」
「一生懸命、作ります」
「だから……大事にしてね」
「お、おう……」
こうして、俺専用の抱き枕が二つ作られることになった。
あ、そうそう。
さくら、着せ替えが出来るようにはしなくていいからな。
そんなことされたら、ヤバイ道に走っちまうからよ。
<おわり>
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