Heart to Heart

       第12話 「眠り姫」







「……すー……すー……」

「……くー……くー……」

 休み時間、トイレから教室に戻ってくると、
さくらとあかねは机に突っ伏して、安らかな寝息を立てていた。

 おいおい……女の子が、ンなところで無防備な寝顔見せてんじゃねーよ。
 ってゆーか、そんな可愛い寝顔を俺以外の男に見せるなよ。

 ……俺も独占欲強いよな。

 と、内心そんなことを考えつつ、
俺はスヤスヤと気持ち良さそうに眠っている二人に近付く。

 そろそろ授業が始まる。
 気持ち良く寝ているところを起こすのはちょっち罪悪感があるが、
しゃーない、起こしてやるか。

 俺は二人を体を揺すろうと手を伸ばした。

 その時……、

「……う〜ん……まーくん、好き……」

「まーく〜〜ん……大好きぃ〜……」

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 さくらとあかねの寝言に、教室内が沈黙に包まれる。
 そして、しばらくの間をおいて……、

「「「「「「「「「「はあ〜〜〜……」」」」」」」」」」

 全員が深く深くタメ息を吐く。
 いかにも『もう勝手にしてくれ』って言いたげなタメ息だ。

 なんか、俺達がクラスの連中にどういうふうに思われてるのか、
一瞬でわかったような気がする。

「…………」

 俺は照れ隠しに、頬をポリポリと掻くことしかできない。

 と、とりあえず、二人を起こそう。
 この雰囲気に、一人では堪えられない。

「おい、さくら……そろそろ起きろよ」

 まずはさくらを起こす。
 体を揺すってやると、すぐに顔を上げた。

「あ……まーくん、おはようございます」

「おはようございます、じゃねーよ。
どうしたんだ? あかねはともかく、お前が学校で寝るなんて珍しいな?」

「す、すみません……
昨夜の疲れが取れなくって」


「「「「「「「「「「っ!!」」」」」」」」」」


 さくらの何気ない一言に、クラス中の視線が一気に俺達に集中する。

 コイツら、また変な誤解しやがって……。

 今、俺達は同棲中だからな。
 今のさくらのセリフで、みんなが何を考えたのかは、容易に想像がつく。

 むう……早々に誤解を解かねば。

「昨夜って、そんな疲れるようなことしたか?」

「だ、だって……昨夜は夜中まで三人で一緒に……(ポッ☆)

「いちいち誤解を招くような言葉の区切り方をするなぁーーーーっ!!
んでもって、頬を赤らめるなぁーーーーっ!!
確かに、昨夜は夜中まで三人で起きてたぞ!
でも、それは単に三人で一緒にTVゲームをやってただけだっ!
決して、
いけない遊戯をやってたわけじゃない!」

 そこまで一気に叫ぶと、俺ハアハアと肩で息をする。


「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」


 うあ……周囲から疑惑の眼差しが……。
 誰も、俺の言う事なんか信用してねーって感じだ。

 くそっ……負けないぜ、俺はよぉ。

 俺は軽くタメ息をつくと、今度はあかねを起こしにかかる。

「ほら、あかね。お前も起きろ」

「…………にょ?」

 俺の声に、あかねは目を覚ます。
 で、俺の顔をじぃ〜っと見つめ、にぱぁ〜っと笑うと……、

「うにゅ、まーく〜〜〜ん……もっとくっつく〜……」

「あ、あわわわわわわわっ!」

 いきなり俺に抱き着いてきた。

 寝ぼけ頭で
『猫さんモード』に入ったあかねは、
そのまま俺の胸に頬をすり寄せてくる。

 ああああ……みんなの視線が痛い。

「うみゅ〜〜〜♪」

 思い切り俺にくっついてご満悦の
あかね猫
 嬉しそうにノドを鳴らしている。

 ううう……か、可愛い。

 その
あかね猫のあまりの可愛らしさに、
俺は思う存分なでなでしたい衝動にかられる。
 しかし、クラスの連中の前で、それをやるわけにはいかない。

「う、ううう……」



 
こんな状況でなかったら……、
 こんな状況でなかったら……、
 
こんな状況でなかったら……、
 
こんな状況でなかったら……、
 
こんな状況でなかったらぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!



「あかねちゃん、まーくんが困ってるでしょ。
そういうことは、
お家に帰ってから……ね?」

 俺が衝動に必死で耐えていると、
そのさくらの一言で、あかねはハッと我に返る。

「ふにゅ〜、ゴメンね、まーくん。じゃあ、
後でね☆

「あ、ああ……」

 名残惜しそうに俺から離れるあかね。

 ちよっと残念な気もするが……ま、いいか。
 家に帰ったら、またしてくれるっていうし(爆)

 ああ……放課後が待ち遠しいぜ。
 家に帰ったら、たくさんなでなでして、
ついでにいろいろなでなでしてやるからな。
 ってゆーか、どっちかっていうと、
いろいろの方がメイン。(爆)

「…………」

 ……っと、こんなトコで、妄想にふけってどうする、俺。

 これじゃ、誤解が誤解じゃなくなっちまうぜ。

「でも、何なんだ? いきなり抱き着いてきて。ビックリしたぞ」

「だって、嬉しかったんだもん♪」

「嬉しかった? 何が?」

 俺がそう訊ねると、あかねは可愛らしくにへら〜っと笑う。

「えへへ〜♪ あたしいつも思うんだ。
起きてすぐにまーくんの顔が見られるのっていいよね♪
怖い夢見た時とか、ちょっと寂しい時とかも、まーくんの顔見るとすっごく安心できるの♪」


「「「「「「「「「「っ!!!」」」」」」」」」」


「あっ、わたしもそう思います☆」


「「「「「「「「「「っ!!!」」」」」」」」」」





 クラスの連中、特に男どもの視線に一気に殺気が混ざった。





 なあ、さくら、あかね……。
 どうしてそうお前達は誤解を招くような発言を連発するかな?

 ……みんなは俺ことをケダモノでも見るような目で見てるし。








 もういい。
 勝手に誤解してろってんだ……。








<おわり>
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