競作企画
Leaf Quest
〜 導かれし妻達 〜

断章 伝承の山の奇跡





 白銀の王国カノン――

 騎士を目指して、七年ぶりに、
この街にやってきた『相沢祐一』は……、

 下宿する叔母の家に到着した翌日、
自分目掛けて、空から落下してきた、小天使にして幼馴染の『月宮 あゆ』を拾う。

 祐一の守護天使を名乗るあゆは、
行き場と記憶がないということで、水瀬家に居候する事になった。

 後日、祐一は、突然、襲い掛かってきた、
記憶喪失娘『殺村凶子沢渡真琴』をお持ち帰りして、さらに居候を増やす事になる。

 家主の娘の『水瀬 名雪』と、
あゆとともに向かった学校で、祐一は様々な人々と出会う。

 知的な格闘美少女『美坂 香里』――
 生涯の親友となる『北川 潤』――
 寡黙なる剣士『川澄 舞』――
 微笑みの魔術師『倉田 佐祐理』――
 中庭に出没する病欠アイス少女『美坂 栞』――
 物静かな巫女『天野美汐』――
 皮肉と嫌味が好きな生徒会長『久瀬』――

 祐一は、彼らと共に、華音学園で、
騎士としての勉強を積む傍ら、その気さくな性格で、彼らとの親交を深めていく。

 その過程で、少女達は祐一に惹かれ、祐一もまた、彼女達に惹かれていった。

 お互いにからかい合い、笑い合う日々――

 それは、祐一が、
二年生となった冬に、変化を向かえる。

 去年は、とある事情から参加できなかった舞踏会。

 今年は舞・佐祐理コンビに誘われ、
名雪・あゆコンビに拉致される形で参加する事となった。

 そして、『舞踏会魔物襲撃事件』に端を発する『川澄舞退学事件』が発生する。

 それが解決しても、トラブルは、
さらに続き、今度はあゆの存在が不安定になった。

 最下級天使であるがために、下界に長期間下りていた事と、
『舞踏会事件』の時に力を使いすぎた事が原因となって、消滅しかかっているのだ。

 祐一達は総出で、あゆを、
この世に固定しておける、あゆの探し物『天使の人形』を探し出した。

 あゆが存在を安定させるための眠りに就いている間にも、さらに事件は続く。

 真琴の発熱――
 美汐の口から語られる『ものみの丘の妖狐』の伝承。

 栞の本当の病気――
 余命幾ばくもない栞と、彼女を否定した香里の関係回復に祐一は奔走する。

 佐祐理の入院――
 祐一が目を離した隙に学校に侵入した佐祐理が、魔物によって傷つけられたのだ。

 そして、それは、舞の誕生日の日の事――

 怒りと悲しみを胸に、魔物狩りに力を尽くす舞。
 日々人間らしさを失っていく真琴。
 絶望を隠して笑いつづける栞。

 彼女達を見守り、心労の募る祐一を心配した北川が理由を聞き出す。

 その日のうちに北川は休学届を出すと、
栞や真琴を救う方法を求め、様々なダンジョンにもぐり始めた。

 祐一達も少女達を励まし、少しでも力になろうと側に居続ける。

 しかし、二人の努力も空しく、真琴は、祐一の腕の中で光へと変わり、
栞も、また絆を取り戻した香里の目の前で、二度と覚めないだろう深い眠りへと就く。

 猛烈な虚無感と自失の念に捕らわれながらも、
祐一は、せめて舞だけは守ろうと、夜の学校に赴く。

 そこで舞は、祐一の協力の元、ついに『魔物』との和解を成立させる。

 だが、『魔物』が自らの力である事を知った舞は、
佐祐理を傷つけた罪の意識から自らに剣を突き立てる。

 嘆く祐一の心に導かれた『希望の力(ちびまい)』は、
舞の傷を癒すが、心の死んでしまった舞は目覚めない。

 佐祐理もまた、衰弱を見せていく。

 打ちひしがれる祐一を励まそうとする名雪と秋子。

 だが、秋子は、元女神の力を恐れた魔の者により、毒矢に倒れる。

 あらゆる医術・魔術を受け付けない毒の効果により、
緩慢に死への道を歩む秋子の姿に、名雪は絶望に沈んだ。

 七年前の記憶全てを取り戻し、ようやく目覚めたあゆは、
祐一を『学校』へと導き、自らの存在と引き換えに祐一の大切な者全てを救おうとする。

 しかし、たった一つしか使えない奇跡の力で願うには、なすべき事が多すぎた。

 結果、あゆは天使の人形を、
残して消滅し、願いは何一つかなう事はなかった。

 全ての気力を失った祐一の元に、
重症を負った北川が朗報――最後の賭けとも言える――を持ってやってきた。

 『霊峰カノン』――

 その山に伝わる奇跡の伝承が事実であること――
 その力を使う事ができれば、皆が助かるということ――

 北川の怪我は、それを知られたくなかった魔の手勢により負わされたものだった。

 伝えるべき事を全て伝え、意識を途絶えさせる北川を飛び越え、
盗み聞きしていた名雪が、着の身着のまま、霊山にむけて駆け出す。

 北川に応急処置を施して後を追った祐一の目の前には、
凍てつくように冷えきった名雪が雪山に倒れていた。

 必ず『奇跡』を見つけると決意し、天使の人形を持って入山したカノン山。

 だが、その片鱗すら見えない吹雪の雪山に祐一の絶望は募っていく。

 ついに力尽き、その場に崩れ落ちる。

 祐一の意志を無視してぴくりとも動こうとしない体に、
そして、誰も救えない自分の無力さに、祐一は怨嗟の声をあげる。

 そして、自らの全てを持って奇跡の霊山に呼びかける。

 あの楽しかった日々が戻るなら、
みんなを救えるのなら、己の命をこの世界にささげても良いと。

 その言葉に、カノン山が鳴動する。

 世界を振るわせるほどの祐一の魂の叫びに……、

 七年前、死の淵にいたあゆを助けるために力を使い、
天使の人形の中で眠りについていた老木の精霊が答えた。

 己の存在と引き換えに、山に眠る『力』を束ねる。

 ――顕現する、形を成した奇跡『『運命を拓く奇跡の剣』カノンブレード』。

 その柄を握った途端、祐一は、
失われていた記憶の全てを取り戻すと同時に、カノンブレードの使い方も理解する。

 自らの全ての想いを集め、自らの魂と引き換えに、祐一は大切な人たちの復活を願う。

 立て続けの悲劇に砕かれそうになりながらも、鍛えられた祐一の心は、
もし、祐一が女性なら、間違いなく女神に選ばれるほどの愛情を育んでいた。

 その心と魂を糧に、奇跡を起こすカノンブレード。

 秋子から毒を消し去り……、
 名雪の体と精神を回復させ……、
 北川の傷と栞の病を全快させ……、
 美汐の想いと妖狐たちの不思議な力を元に真琴を再生させ……、
 心の死にかけていた舞と佐祐理、そして香里に生きる気力を与え……、

 ……人間のあゆも、七年の眠りから目を覚ました。

 彼らは目覚めた後も残る暖かな『何か』が、祐一の純粋な想いである事を理解し、
ある者はとろけそうな表情で頬を染め、ある者は尊敬と誇りを持って奇跡の担い手を想った。

 そこに飛び込んでくるあゆのテレパシー。

 人として復活しても残っていた天使の力を使い、
この奇跡が祐一の命と引き換えに起こされた物だと伝える。

 彼らは慌てふためいて、カノンに入山し、祐一捜索に向かう。

 祐一は、あゆのテレパシーを受け取る以前に、先行していた名雪に発見された。

 秋子の力で水瀬家に転移した彼らは、
あらゆる方法で祐一の弱まりつづける鼓動を守ろうとする。

 しかし……、

 秋子やあゆ、栞に美汐の治癒魔術も――
 舞の『希望の力』も――
 北川が連れてきた聖の医術も――

 その全てが無意味だった。

 もう、彼女たちにできる事は、
肌を重ね、刻一刻と失われる祐一の体温を保ってやる事だけだった。

 そんな中、香里がカノンブレードを前に言う。

 この剣に自分たちの命を渡せば、祐一は助かるかも知れないと。

 真っ先に手を乗せるあゆと名雪。
 続いて北川、香里の美坂チーム。
 舞、佐祐理、真琴、栞、美汐と後に続いていく。

 最後に秋子が手をかざし、想いが、再び奇跡をおこす。

真琴 「ゆーいちぃっ! こんな可愛い奥さん残してどっかいくんじゃないわよぅっ!!」
美汐 「私達の心をさらったまま逝ってしまわれるのですか?
    お礼もさせてくれないなんて、人として不出来というものでしょう」
名雪 「七年前の言葉、もう一度きちんと伝えたいの……だから帰ってきて、祐一!」
栞 「病気が治ったら、したい事がいっぱいありました。けど、祐一さんがいないんじゃ、
   なにをしても意味がないんです。だから……だから……!」
香里 「あたしはね、栞のためなら、なんでもするって決めたの。
    だから、はやく戻ってきなさい。あなたがいないと栞が悲しむんだからっ!」
北川 「とっとと戻って来い、相沢……、
    若い身空で、俺に親友の墓参りなんてさせるんじゃねぇぞ」
舞 「死んじゃ、ダメ……」
佐祐理 「佐祐理は、祐一さんがいないとがんばれません。
      佐祐理を弱くした責任、とってくださいね?」
あゆ 「ボクのお願いは、みんなで笑っていられる事……、
    祐一君だけが、ボクのお願いを叶えてくれるんだからねっ!!」
秋子 「祐一さん……あなたはこんなにも想われているのですよ。
    男なら、それに答えてみせてください」

 つながる心と心……その輝きに導かれ、祐一は生還を果たす。


 ――そして、花咲き誇る季節。


 無事、学校を卒業した祐一は、近衛騎士に任官する。
 同期には久瀬や斎藤もいる。

 何故か、ベールをかぶったままの王女に、
いぶかしがりながらも、剣を捧げていく新任騎士たち。

 そして、祐一の番となった時に起こる、「あははー」という聞きなれた笑い声。

 ベールの下から、佐祐理が顔を出す。
 驚く新任騎士たち。

 彼女は在学中自分の身分について厳重な緘口令を敷いていたのだ。

 顔面蒼白となる久瀬。

 学校での佐祐理(&舞)への無礼な働きを思い返し、
騎士の資格を返上して逃げ出そうとするが、佐祐理は、いつもの笑顔で、今までの事を許してしまう。

 その心の広さに、久瀬は感激して佐祐理への秘めた愛情を、
さらに強めるが、その時、すでに佐祐理の心は、祐一に捧げられていた。

 後にそれを知った久瀬の心は闇色の嫉妬に染まる。

 そこを突かれ、久瀬はラルヴァにより黒騎士へと変貌した。

 そんな折、各地で子供たちが失踪するという事件が発生。
 その中には栞や真琴までもおり、祐一は調査に出る。

 そこに襲い掛かる黒騎士。

 渾身の一撃で砕かれた、
黒騎士の仮面の下からは、久瀬の素顔が……、

 祐一は、さらなる攻撃を加えるが、久瀬は飛竜の背に乗り去ってしまう。

 佐祐理たちに久瀬の正体について報告し、
祐一は友人達の情報網を頼り、ワン共和国の古巣、ナカザキへと帰郷する。

 そこで、彼は、後に百の英雄……、
 『えいえんの剣士』と呼ばれる事になる旧友に再会するのだった……、





<END>

 


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