「う〜ん……どれが良いかな?」

「誠は、いつも、どういう剣を使ってるんだ?」

「大抵は、片手剣かな……、
本当は、魔力剣が欲しいんだけど……」

「魔法剣の事も考えると、
強度があって、魔力も通り易いの良いよな?」

「そうですね……おっ、これなんかどうかな?」

「その剣は、止めた方が良い……、
俺なら、こっちのバスターソードを薦めるけどな」

「それは、ちょっと俺には重すぎ――」





「シロウ? 何をしているのです?」

「――あっ、セイバー」






Leaf Quest 外伝
〜誠の世界漫遊記〜

『魔術都市タイプムーン』







 魔術都市タイプムーン――

 その名の通り……、
 魔術を象徴する都市であり……、

 魔術師の総本山である、魔術師ギルド『時計塔』がある街である。

 この街は、時計塔を中心にして、
まるで、魔方陣を描くのように、円形に、街並みが広がっている。

 どうやら、街の構造そのものが、
大きな結界となっており、魔物を寄せ付けないようにしているいるらしい。

 道も石畳で、しっかりと舗装されてるし……、
 建ち並ぶ家は、ほとんどがレンガ作りだし……、

 ちょっと防御が過剰な気もするが、それも仕方ないのかも……、

 なにせ、この都市には、
重要かつ、危険な設備が多いからな。

 魔術師ギルド『時計塔』は言うに及ばず――

 ヤバイ魔術書が保管された図書館とか――
 様々な魔道具を作る、錬金術師のアトラス院とか――

 まあ、それはともかく――

 古代都市パルメアの西に有る、
山脈を越え、俺は、この街へとやって来た。

 そして、まず、向かったのは、エーデルフェルトの屋敷――

 パルメアでの事件の後、報酬として、
リサさんから良質の宝石を貰ったので、それを買い取って貰おうと考えたのだ。

 以前、陣九朗から聞いた話では、この屋敷に住むお嬢様は、優秀な宝石魔術師らしく……、

 また、凄く金持ちらしいので、
良い宝石に対しては、とても金払いが良い、とのこと。

 その情報を当てにして、エーデルフェルト家を訪ねたのだが……、

 屋敷の、あまりの大きさに、
俺は、ちょっと気後れして、門の前で立ち尽くしてしまう。

 そんな俺を、招き入れてくれたのが……、

 屋敷で働く執事――
 『衛宮 士郎』という、赤い髪の男性であった。










「――で、ルヴィゼリッタに宝石を買い取って貰った、と?」

「予想以上の高値で売れて……、
正直、かなりビックリしましたけどね」

「では何故、シロウが、貴方と一緒に?

「新しい剣を買う、って言ったら……、
ルヴィアさんが、士郎さんに観立てて貰うと良い、って言うから……」

「なるほど……、
それで、シロウは、彼の買い物に付き合っていたわけですか」

「――まあ、そういうことかな」



 衛宮邸――

 居間で、お茶を啜りながら、
俺は、士郎さんと知り合った経緯を話していた。

 それを聞くのは、卓袱台を挟んで、俺の正面に座り、羊羹を食べる『セイバー』さんである。

 宝石を売って得たお金で、
新しい剣を買おうと、俺は、士郎さんと一緒に、武器屋へと向かった。

 そこで、偶然にも、彼女と出会い――
 セイバーさんは、俺が扱う魔法剣に、深く興味を持ったようで――

 ――やって見せて欲しいと、衛宮邸に連れて来られたのだ。

 ちなみに、俺の話を聞いていたのは、セイバーさんだけじゃない。

 士郎さんの師匠である『遠坂 凛』や、
彼女の妹の『間桐 桜』、士郎さんの妹分らしい『イリヤ』ちゃんも一緒だったりする。

「ブルーサファイアだなんて……あの金ピカ娘〜……」

 その中で、凛さんだけが、
何やら憎々しげに、ブツブツと呟いているのが気になるけど……、

「さて、と……それでは、行きましょうか?」

「――何処にです?」

 凛さんの様子を気にしていた俺は、セイバーさんの言葉で我に返った。

 見れば、羊羹を食べ終え、
立ち上がったセイバーさんが、俺を見つめている。

 彼女の意図が掴めず、首を傾げる俺。

 それを見て、セイバーさんは、
やれやれと肩を竦めると、居間から見える庭の方へと目を向けた。

「庭に道場があります……、
そこで、貴方の魔法剣とやらを拝見したい」

「……何か、改めて考えると、見世物みたいだな」

 と、愚痴りつつも、
俺は、促されるままに立ち上がる。

 そんな俺に集まる、好奇の目……、

 特に、凛さんなんかは、
今にも挑み掛かって来そうな目で、俺を見ている。

 多分、『魔法』剣なんていう呼称が気に入らないのだろう。

 凛さんのような、根っからの魔術師にとって、
『魔法』という単語は、特別な意味を持つらしいからな……、

「――では、参りましょうか」

「はい……」

 そんな視線に晒されつつ、
俺は、セイバーさんの言葉に頷き、道場へと向かう。

 板張りの床の上――

 士郎さん達が見守る中、
道場の中央に立ち、俺とセイバーさんが対峙する。

 互いの手には、一振りの竹刀――

 俺の魔法剣と、剣の腕を観るならば、得物は、これで充分だろう。

「…………」

 どちらからともなく、
静かに礼を交わし、俺達は剣を正眼に構える。

 そして――

「……いきます」

「はい、何処からでも、打って来てください」

 俺とセイバーさんとの……、
 腕試しを兼ねた、手合わせが始まった。

 その結果――

     ・
     ・
     ・










「――きゅ〜」(バタッ)

「あらら、見事にボロボロね〜」


 セイバーさんの剣で、滅多打ちにされ……、

 文字通り、ボロボロになった俺は、
力尽きたように、バタリッと、その場に倒れ伏した。

 そんな俺に対して、凛さんの、無慈悲な言葉が放たれる。

 うううっ……、
 実力差があるのは分かっていたけど、ここまでとは……、

 ってゆ〜か、いくら魔力で強化してあるとはいえ……、

 俺の全力の魔法剣を、
竹刀なんぞで受け止めるのは、反則過ぎると思う。

「大丈夫ですか……?」

「な、なんとか……」

 間桐さんが、濡れたタオルを持って来てくれた。

 それを、竹刀で強打された所為で、
痣になってしまった箇所に当て、患部を冷やしつつ、俺は、治癒魔術を掛ける。

「それで……セイバーから見て、誠はどうなんだ?」

 俺が、自分自身を治療している間も、セイバーさん達の会話は続いていた。

 藤井 誠の剣士としての才能……、
 それを訪ねる士郎さんの言葉に、セイバーさんが、キッパリと答える。

「……とても、驚かされました」

「そ、そんなに凄いのか……?」

 負けたとはいえ……、
 セイバーさんを驚愕させる程の実力……、

 彼女の言葉を、そういう意味に捉え、士郎さんが目を見開く。

 しかし、力尽きている俺を、
一瞥したセイバーさんが、次に発した言葉は――



「あそこまで、剣の才能が無い者を見たのは初めてです」

「――そっちかよ!」



 ――問答無用で、俺の胸を刺し貫いてくれた。

 さらに――
 追い討ちを掛けるように――

「うわ〜、そっちもダメなわけ?
魔術の才能の方も、全く無かったんだけど……」

 凛さんによるトドメ――

「剣も、魔術も……どっちもダメなのか、俺って」(涙)

 しくしくしく……、
 俺、もう、立ち直れないかも……、(泣)

 濡れタオルで顔を隠し、俺は、涙を流しながら黄昏る。

 そんな俺に構わず、彼女達の、
言葉のナイフは、俺の肺腑を、グリグリと抉っていく。

 しかも、それに、イリヤちゃんまで加わって……、

「魔法剣については、どうでした?」

「珍しい技ではあるけど……、
『魔法』剣だなんて、大層な呼称を付ける程でもないわ」

「そうね、魔力の使い方も無駄が多いし……」

「あの無属性魔術……、
不可視の攻撃は、割と厄介ですが、威力が弱すぎる」

「弱い分、色々と、小細工はしてるみたいだけどね〜」

「あうあうあうあう……」(泣)

 グサリ、グサリと……、
 彼女達の言葉が、俺の心に突き刺さる。

 ――そう。
 俺は、途中から、攻撃魔術も使って闘っていた。

 今まで培ってきた、ありとあらゆる戦法を駆使して、セイバーさんと闘った。

 しかし、結果は惨敗――

 俺は、セイバーさんの、
呼吸すら、乱すことが出来なかった。

 正直、かなりヘコむ……、

 そりゃあ、俺は凡人だけどさ……、
 少しでも理想に近付こうと、頑張ってるのに……、

 やっぱり、俺には無理なのだろうか……、

 俺は、ずっと……、
 『あいつ』を追うだけなのだろうか……、

 この手は、あいつの背中には、届かないのだろうか……、

「はあ……」

 現実を、まざまざと突き付けられ……、
 すっかり落ち込み、俺は、深々と溜息をついてしまう。

 と、それ気付いたのか……、



「――ですが、悪いところばかりでは無い」

「えっ……?」



 先程までとは一変し……、

 倒れたままの俺に向けられていた、
セイバーさんの口調が、幾分、柔らかいものになった。

 見れば、セイバーさんは、優しく、俺に微笑みかけてくれている。

 そして……、

「我流だと言いましたが、剣筋は悪くない。
余程、良い手本となる者が、身近に居たのでしょう」

 そう言うと、セイバーさんは、竹刀を振るい、俺の剣筋を真似てみせた。

 それは、まるで……、
 あいつが剣を振るっているようで……、

 ああ、そうだ……、
 彼女の言う通り、俺は、あいつの剣を手本としてきた。

 少しでも、あいつに近付く為に――
 少しでも、あいつに追い付く為に――

 ――誰よりも近くで、あいつの剣を見てきたんだ。

 そうか……、
 落ち込む事なんか、何も無いじゃないか。

 少しずつだけど、ちゃんと近付いているじゃないか。

 だって、俺の剣は……、





 あんなにも……、

 あいつの剣にそっくりなのだから……、





「だが、マコト……、
そろそろ、人の真似は止めるべきです」

 ――ゆっくりと、俺は立ち上がる。

 そして、再び、剣を構える俺の姿に、
セイバーさんは、嬉しそうに微笑みながら、俺に告げた。

「優れたモノを真似る事は否定しない。
だが、それを自己のモノへと昇華させねば、意味が無い」

「自分の、モノに……?」

「そうです……貴方は、もう、その段階に入っている」

 そう言って、セイバーさんは、
今度は、竹刀を下段に構えて、俺と対峙する。

 その凛とした……、
 あまりにも美しい姿に、俺は確信した。

 こと剣に関して、この人の言う事に間違いは無い、と――

 ならば、彼女の言葉……、
 彼女の剣技は、決して見逃してはいけない。

 それは、きっと……、
 俺にとって、大きな力となる筈だから……、

「俺のスタイルを見つけろ、って事ですね?」

「彼の者の剣は剛の剣……、
ですが、それは、マコトには合っていない」

 俺の言葉に頷きつつ……、

 セイバーさんは、下段から中段、
中段から上段へと、まるで、俺に教え諭すように、剣の切っ先を流していく。

「剛でもなく、柔でもなく……、
マコトにとっての『真の剣』を見つけるのです」

「真の剣……」

 セイバーさんの言葉に、俺は自分の手を見る。

 今まで、何度も振るってきた……、
 『魔法剣』とい名の、自分の剣だと思ってきたモノを……、

 この力を教えてくれた、ルミラ先生が言っていた。

 俺は、剣士ではない――
 ましてや、魔術師でもない――

 ――魔法剣士だ、と。

 先生が、『魔術』と『魔法』の違いを知らない筈が無い。

 にも関わらず……、
 魔術剣士ではなく、魔法剣士だと……、

 ……何が、違うのだろうか?

 この魔法剣は……、
 俺の、真の剣ではないのだろうか?

 だとしたら、一体、俺の剣とは――

「――そんなのは、自分で見つけるしかないよな!」

「そうです、マコト!
自分で見出すのです! 生と死を賭けた闘いの中でっ!」

 雑念を振り払うように、
俺は、剣を一閃し、セイバーさんへと駆ける。

「もう一度……いきますっ!」

「――来なさいっ!
何度でも、相手になって上げましょう!」

 俺の渾身の一撃を、彼女の竹刀が受け止める。

 竹刀から伝わる衝撃に、ほんの一瞬だけ、目を見開くセイバーさん。

 そして、俺達の闘いを、
ずっと、黙って見守っていた士郎さんを一瞥して……、

「隙あり……っ!!」

「――甘いっ!!」

 見え見えのフェイントに、引っ掛かってしまった俺は……、

 それはもう、アッサリと……、
 セイバーさんの剣に、意識を刈り取られた。

     ・
     ・
     ・










 その日の夜――

 俺は、衛宮邸の屋根の上に、
寝転がり、ぼうやりと夜空を眺めていた。

 無数の星が瞬く空の下……、
 想い浮かべるのは、セイバーさんの言葉……、

 そして……、
 俺が目指す、理想の姿……、

「――届くのかな、俺は」

 夜空へと手を伸ばし、星を掴むかのように拳を握る。

 だが、当然のように……、
 俺の手の中には、何も残らない。

 掴めるわけが無い……、
 人の手で、星が掴めるわけが……、

 そう――
 それは、まるで――

 俺が目指す先を、象徴しているかのようで――

「何だ、こんな所にいたのか?」

「……士郎さん?」

 突然、何処からか声がして、俺は身を起こす。

 声がした方を見れば、
士郎さんが、屋根の端から、ひょっこりと顔を出していた。

「何か用ですか?」

「いや、ちょっと話があってさ……」

 そう言って、士郎さんは屋根に登ってくると、俺の隣に腰を下ろす。

 そして……、
 俺と同じように、夜空を見上げると……、

「セイバーが言ってた……、
俺とお前は、何処か似ているって……」

「俺と、士郎さんが……?」

「ああ、お前の剣は、
何か途方も無いモノを目指している、って……」

 いつか届く、いつか届く――
 そう信じて、無謀とも思える理想を、追い駆け続けている――

 そう語る士郎さんの言葉に、
俺は、改めて、セイバーさんの凄さを知った。

 『セイバー』――
 剣士としての称号――

 その称号が示す通り、彼女は、まさに、究極の剣士だったのだ。

 たった、あれだけ、
剣を交えただけで、そこまで読み取っていたなんて……、

 なるほど……、
 あの時、士郎さんに視線を向けたのは、そういう意味があったのか……、

「……士郎さんは、何を目指しているんですか?」

 セイバーさんは……、
 俺と士郎さんが似ている、と言った。

 なら、彼が目指すモノとは、一体、何なのか……、

 それが気になり……、
 俺は、士郎さんに訪ねる。

 すると、彼は――

「……笑うなよ?」

 そう言って、少し照れクサそうに……、
 でも、誇らしげに、己の理想を語ってくれた。



 ――正義の味方になりたい、と。



 彼の生い立ち――
 切嗣という名の男の最期――
 士郎さんが目指す、理想の姿――

 それを聞き、俺は、納得する。

 ああ、なるるほど……、
 確かに、士郎さんと俺は似ている。

 差異はあれど、俺が目指すモノも『ヒーロー』なのだ。

 『あいつ』が『彼女達』にとってのヒーローであるように――

 俺も、また――
 大切な者達の為、そうでありたいと――

「……届くのかな、俺達は?」

「届かないのなら……、
届くまで、走り続ければ良い、だろう?」

「そうですね……」

 士郎さんの言葉に頷き、俺は、もう一度、夜空を見上げた。

 相変わらず……、
 遥か彼方で、星達は瞬いている。

 それは――
 いつか届くかもしれない理想の果て――

 でも、今夜は――





 ほんの少しだけ――

 あの光が……、
 近くにあるように思えた。





<おわり>
<戻る>


あとがき

 誠君、セイバー先生に剣を教わるの巻――
 もしくは、士郎と理想を語り合うの巻――

 何やら、伏線めいた事を、
色々と言っていますが、特に深い意味は無かったり……、(爆)

 今後、暫く、誠は衛宮家に滞在し、
時計塔に行ったり、教会に行ったり、遠野家に行ったりします。