「――行き倒れ?」

「旅の途中で、食料が尽きちゃいまして……」

「なるほど……、
そこを、ラスティに拾われたわけだ……」

「話は最後まで聞いてください……、
それで、空腹で倒れた俺の前に、熊が現れたんです」

「で、熊に食べられそうになってるところを、ラスティに助けられたのか。
そういえば、あの辺にいる熊は、ラスティに懐いてるからな〜」

「……何を言ってるんです?」

「――は?」

「俺は……腹が減っていたんですよ?」





「…………」

「…………」





「まさか――」

「食料にするには……、
熊は、ちょっと強すぎましたね〜」






Leaf Quest 外伝
〜誠の世界漫遊記〜

『信仰都市フォンティーユ』







 信仰都市フォンティーユ――

 アクアプラス大陸の最南端ニ位置する、天使の街――

 見上げるほどの高さの、
岩山の頂を切り開いた、その上に、その街はあった。

 そんな場所であるが故、フォンティーユは、そんなに大きな街ではない。

 せいぜい、丸一日も歩けば、
街の全容を見て回る事が出来るだろう。

 だが、そんな街の大きさとは裏腹に、街自体は、しっかりと作られていた。

 敷き詰められた、立派な石畳――
 街の歴史を感じさせる、古風な建築物――

 そして――

 街の外れにある、大きな教会――

 さすがは、信仰都市……、
 天使を奉る聖なる街、という名は、伊達ではない。

 街そのものが纏う、神秘的な……、
 まるで、冬の朝の澄んだ空気のような雰囲気……、

 それらが、訪れる人々の心を清めているかのようだ。

 商業都市マジアンを出て、数日――

 そんな、清浄さに満ちた街に、
俺は、やっとの思いで、辿り着つく事が出来た。





 冒頭にもあった通り……、

 行き倒れ、という……、
 なんとも、無様なカタチで……、





 とまあ、そういうわけで――

 今、俺は、フォンティーユの、
ファースン家で、昼食を、ご馳走になっている。

 何故、この家にいるのか、と言うと……、

 生き倒れていた俺を助けてくれたのが、
この家の一人娘である『ラスティ=ファースン』だったのだ。

 いや、正確には、空腹のあまり暴走した俺に、
食べられそうになっていた熊を、彼女が助けた、と言うべきか……、

 とにかく……、
 俺は、行き倒れ寸前のところで、ラスティちゃんに発見された。

 そして、彼女の友達の楽士『カウジー=ストファート』さんに、背負われ……、

 ラスティちゃんの自宅……、
 ファースン家に運び込まれた、というわけだ。

「はあ〜、食った食った♪」

「凄いわねぇ……」

「あう〜……」

 ラスティちゃんの母……、
 シアリィさんが、用意してくれた料理を食べ……、

 ……ようやく、俺は、落ち着きを取り戻す。

 収まった腹を撫でつつ、ゆっくりと、食後のお茶を啜る俺。

 そんな俺の姿を、
呆然と見つめるファースン親子。

 そして……、

「――少しは遠慮しろっての」

 山のように積まれた、
空の食器を前に、飽きれ顔のカウジーさん。

 その言葉に、俺は、今更ながらに、自分の失態に思い至った。

 しまった……、
 いくらなんでも、食べ過ぎた……、

 確か、ファースン家は母子家庭……、
 となれば、当然、生活だって苦しいはずだ。

 だと言うのに……、
 遠慮もせずに、バクバクと……、

「えと……すみません」

 今更だが、随分と迷惑を掛けてしまった事を、俺は謝罪する。

 だが、シアリィさんは、穏やかに微笑むと……、

「いえ、気にしないで……、
困った時は、お互い様ですもの」

「――あ〜う♪」

 それが当然と言った口調で、俺の所業を許してくれた。

 母親に同意するように、
ラスティちゃんもまた、コクコクと何度も頷く。

 ああ、良かった……、

 二人の優しい言葉に、
俺は、ホッと胸を撫で下ろす。

 いくら切羽詰っていたとはいえ……、

 目的地に到着したばかりだと言うのに、
こんな事で、街の住人に嫌われるのは嫌過ぎるからな。

 とは言え……、
 このまま、お礼をしないわけにはいかない。

 せめて、ちゃんと食費だけでも返さないと……、

 それに、しばらく、この街に滞在するのだから、
その滞在費と、今後の冒険の活動資金も稼がないといけないし……、

 というわけで……、



「あのさ、カウジーさん……?」

「――んっ? 何だい?」



 黙って、俺達のやり取りを見ていたカウジーさん。

 突然、俺から話を振られ、
少し戸惑いつつも、カウジーさんは、こちらに向き直る。

 そんな彼に、俺は、軽く頭を下げつつ……、

「もし、当てがあるなら……、
何処か、アルバイト先を紹介してくれませんか?」

     ・
     ・
     ・










 こうして――

 俺は、フォンティーユに滞在する事となった。

 拠点は、この街唯一の、
宿屋兼酒場『アンクルノート』である。

 当初は、シアリィさんが、部屋を提供すると言ってくれたのだが……、

 さすがに、そこまで世話にはなれない。

 その申し出は、丁重に断らせてもらい、
カウジーさんに、この宿屋を教えてもらったのだ。

 もちろん、仕事先も紹介してもらった。

 段々畑での農作業――
 教会の掃除の手伝い――
 ウィネス魔法店での店番――
 宿泊先である宿屋での力仕事――

 などなど――

 もちろん、慣れない仕事も多々あり、
いつも順調、というわけにはいかず、何度も、トラブルがあったりもした。

 例えば……、

 畑では、除草剤を、
うっかり爆発させてしまったり――

 教会では、掃除中に、
神官にバケツの水をブッ掛けてしまったり――

 酒場の客達に、冒険話を披露している時に、
看板娘のフィアさんが蹴り飛ばした別の客が、俺に激突したり――

 そんな中でも、特に、凄まじかったかったのが、ウィネス魔法店だ。

 店主のサーリアさんなのだが……、
 あの人の天然ドジっぷりは、間違い無く、由綺姉レベルだ。

 実験の失敗で、爆発に巻き込まれるのは、お約束……、

 読書中の彼女が、突然、
興奮し出して、攻撃魔法ブッ放された事もあるし……、

 女装爆弾が、誤爆した時なんか……、

 いや……、
 あの時の事は、思い出したくない。

 女装爆弾の効果で、女の姿になった俺は、すっかり女性陣の玩具にされて……、
 しかも、踊り子のアルテさんが、密に、ノリノリだった事なんて……、

 だが、そんな出来事も……、
 冒険の醍醐味であり、大切な思い出だ。

 とまあ、そういうわけで……、

 毎日のように……、
 色々と、騒ぎもあったわけだが……、

 特に大きな事件も起こらず、
俺は、フォンティーユにて、平穏な毎日を送っていた。

 そんな、ある日の事――



「――んっ?」



 休日の午後――

 のんびりと、街を散策して、
過ごしていた俺は、広場に人集りが出来ている事に気が付いた。

 何事かと思い、俺は、人々がざわめく、広場へと歩み寄る。

 そして、その中心を……、
 人集りを作ってる原因の姿を見て……、

「カウジーさん……それに、ラスティちゃん?」

 そこには、この街に来て、
最初に出来た友人達の姿があった。

 あの二人……、
 一体、何を始めるつもりだ?

 俺が首を傾げるのを余所に、カウジーさん達は、準備を続ける。

 何処か、見覚えの有る光景――
 カウジーさん達の姿が、とある知り合いの姿と重なる――

 もしかして、カウジーさん達は、
冬弥兄さん達みたいに、街角コンサートを開くつもりなのか?

 そういえば、カウジーさんは楽士だったっけ……、

 だとすると……、
 どうして、ラスティちゃんまで一緒なんだ?

 喋ることが出来ないラスティちゃん……、

 そんな彼女が、コンサートで、
手伝えるような事なんて、あるのだろうか?

 と、俺が、そんな事を考えているうちに、
カウジーさん達は、すっかり準備を整えたようだ。

 カウジーさんが、フォルテールという鍵盤楽器に手を添え……、

 ラスティは、自分達を囲む人々に、
笑顔を振り撒きながら、ペコリと頭を下げる。

 その瞬間……、
 ざわめきは、一斉に静まり返った。

 それを見計らっていたかのように……、

「皆さん、本日は、お忙しい中、
私達のコンサートにお集まり頂き、ありがとうございます!」

 準備を終えたカウジーさんが、
集まった観客に向かって、慣れた様子で、口上を始める。

「いよっ! 待ってました!」

「今日も頼むぜ、お二人さん!」

 前振りは良いから、と言わんばかりに、周囲の人達から、喝采が上がる。

 カウジーさんは、軽く鍵盤に指を走らせ、
簡単に音を紡ぎながら、彼らが、再び、静まるのを待つ。

 そして、自分の後ろに控えていた、ラスティちゃんを前に促すと……、

「それでは、今日も、天使の歌声をお楽しみください!
唄うは、歌姫ラスティ=ファースン!
まず一曲目は『羽根のブランケットに包まれて』です!」

 もう一度、ペコリと頭を下げるラスティちゃん。

 踊るように、踵で地面を、
トントンと叩き、カウジーさんとタイミングを合わせる。

 その拍子に合わせ、カウジーさんがイントロを奏で――



 そして――
 天使の歌声が――

 ――街中に響き渡る。



 綺麗なソプラノ……、
 紡がれる綺麗な歌声が……、

 まるで、空を舞う柔らかな羽根のように……、

 風に乗って……、
 どこまでも、どこまでも広がっていく。

「天使、か……」

 人集りから、少し離れ、ベンチに、
腰を下ろした俺は、その歌声に、耳を傾けながら、ポツリと呟く。

 彼女は、喋れないはずなのに……、
 何故、こんなにも綺麗に唄う事が出来るのか……、

 それは、とても不思議な事の筈なのに……、

 この歌声を聴いていると、
そんな些細な事は、どうでも良くなってくる。

 今は、ただ……、

 この歌声が紡ぐ、
優しいぬくもりに、身を委ねていたい。

 俺は、ベンチにもたれ、そっと目を閉じる。

 そして……、
 その次の瞬間……、

「あ……れ……?」

 俺の意識は――
 まるで、吸い込まれるように――

 ――白い闇の中へと落ちていった。










「――ここは?」

 次第に、意識がハッキリしてくる。

 気が付くと、俺は、いつの間にか、
街の広場とは、まるで違う場所に佇んでいた。

 木漏れ日が差し込む美しい森の中――
 鏡のように澄んだ水を湛えた湖の辺――

 そして、放置された週刊誌――

「……何だ、こりゃ?」

 何気なく、俺は、その本を拾い上げる。

 あまりにも、理解不能な出来事……、
 本来なら、もっと混乱していたのだろうが……、

 初っ端に、この状況には場違いな……、

 物凄く現実味の有り過ぎる、
俗な物体を見てしまい、俺は逆に落ち着いてしまった。

「え〜と、なになに……?」

 本をパラパラとめくり、その内容に目をはしらせる。

 どうやら、お笑い系の雑誌のようだが……、

 ――おっ?
 こんなところに、折り目があるぞ。



 天界が大期待!
 今、地上で、一番のギャグキャラ!

 既に、某有名お笑いタレント事務所が、スカウトに動き出す!?

 天界のお笑い界の期待の新星!

 その名を――藤井 誠っ!!




 ――バシッ!!


 そのページの内容を見て、俺は、思い切り、本を地面に叩き付ける。

 ――ちょっと待てっ!!

 じゃあ、なにかっ!?
 俺は死んだら、天界のお笑い芸人かっ!?

 しかも、既に決定事項かよ、おいっ!?

「……勘弁してくれよ」

 雑誌に書かれていた、
あまりに残酷な内容を見て、俺は頭を抱える。

 と、そこへ――



「ようこそ、夢の回廊へ♪」

「はい……?」



 突然、後ろから声を掛けられ、俺は振り返る。

 すると、そこには、クスクスと、
楽しそうに微笑む、とても綺麗な女性が立っていた。

 大きな赤い瞳――
 真っ直ぐに伸びた柔らかそうな赤い髪――

 まるで、聖女のように清らかで……、
 でも、何処か人懐こい印象を受ける女性だ。

「ゴメンね〜、勝手に呼び出しちゃって」

 そう言いつつ、彼女は、スタスタと、俺に歩み寄ってくる。

 しかも……、
 妙に、フランクな態度で……、

「……誰です?」

「わたしは、熾天使セラフィ……、
でも、サフィって呼んでくれると、嬉しいかな」

 熾天使セラフィ……、
 そう名乗る女性の言葉に、俺は目を見開く。

 確か、熾天使と言えば、天界に住む第一位の天使だったはず……、

 彼女の言葉を信じるなら、
今、俺の目の前にいる人物が、その熾天使と言うわけだ。

 その割には、随分とイメージが違うが……、

 何せ、さっき俺が捨てた雑誌を、
拾い上げて、さり気なく、懐にしまってたりするし……、

 そんな彼女の様子に、苦笑しつつも、俺は、既に、彼女の事を信じきっていた。

 何故なら……、
 この人は、人を騙すような人じゃない。

 だから、彼女が熾天使だ、というのも、事実なのだろう。

「――で? その熾天使が、俺に何の用です?」

 先程の口振りからして、
俺を、ここに連れ込んだのは、彼女の仕業らしい。

 いくら熾天使とはいえ、断りも無く、人を妙な場所に連れ込む所業……、

 その事を責めるように、軽くジト目で、
睨みつつ、俺は、サフィさんに、その理由を訊ねる。

 すると、彼女は――

「用事ってわけじゃなくて……、
ちょっとだけ、あなたを祝福しておこうかな〜、ってね」

「……祝福?」

 肩を竦めながら、サフィさんが言う。

 その言葉の意図が分からず、俺は、すぐさま訊ね返した。

 そんな俺に、サフィさんは、何処からか、
一枚の白い羽根を取り出し、それを俺に見せながら、言葉を続ける。

「わたしの立場上、本当は、こういうのって、いけない事なんだけど……」

 そう呟き、サフィさんは、羽根に、そっと息を吹き掛けた。

 その瞬間、羽根は、光の粒子となり、
フワフワと宙を漂いながら、俺の二の腕の辺りに集まる。

 そして……、
 光の粒子が、パッと弾け……、

「天使のスカーフ……それが、あなたを守ってくれるわ」

 いつの間にか、俺の腕には、
一枚の、白いスカーフが、巻き付けられていた。

「どうして、初対面の俺に……こんな……」

 熾天使からの贈り物――

 だが、それを贈られた、
理由が分からず、俺は、サフィさんを見つめる。

「あなたに、もしもの事があったら……、
あなたが、いなくなっちゃったら、悲しむ子がいるでしょ?」

「――えっ?」

「その子の為、だよ……」

 そう言って、ちょっとだけ寂しそうに、サフィさんは微笑む。

 そして……、
 彼女は、指をパチンッと鳴らし……、

「それじゃあ、機会があったら、また会いましょう。

「なっ……おいっ!?」

「……さようなら、世界を繋ぐ者よ」

「ま、待っ――!?」

 その途端……、
 またしても、俺の意識は薄らいでいく。

 ――ちょっと待ってくれっ!

 俺には……、
 まだ訊きたい事が……、

 この空間から、元居た場所に戻されようとしている。

 その事に気付いた俺は、
何とか踏み止まろうと、必死に意識を保つ。

 だが、それも虚しく……、
 俺の意識は、真っ白に塗り潰されていき……、



「……妹さんを、大事にしてあげてね」



 その言葉が――

 最後に聞いた、サフィさんの――










「ああっ、しまった〜っ!!
未来のNO1お笑い芸人のサイン、貰うの忘れた〜!」

「――をい」

「えっ〜と、えっ〜と……、
色紙って、何処に『しまった』っけ〜?」

「…………」

「待って待って! もうちょっとだけ頑張って〜!」

「……さいなら」










 まあ、何だ……、

 最後の方は、聞かなかった事にしよう。(大汗)










「……さん……誠さ〜ん?」

「ノンキに昼寝なんてしてるんじゃないわよ〜」

「さあ、起きてください……、
こんな所で寝ていると、風邪をひいてしまいます」

「――あ〜う!」

 少女達の呼び声に、
眠っていた俺は、ゆっくりと目を開ける。

「あっ、目を覚ましたですよ」

「――どわっ!?」

 まず、最初に目に飛び込んできたのは、
俺の顔を覗き込む、間近に迫ったサーリアさんの顔だった。

 それに驚き、俺は慌てて飛び退く。

「む〜、どうして、そんなに驚くですか?」

「女の子の顔見て驚くなんて、相手に失礼よ」

 そんな俺の反応に、ムッとするサーリアさん。
 さらに、フィアさんまで加わり、俺をからかってくる。

「……コンサートは、もう終わったんですか?」

 取り敢えず、サッサと話題を変える為、
俺は、少女達の後ろにいるカウジーさんに話を振った。

 すると、カウジーさんは、周囲に目をはしらせると……、

「見ての通り、だよ」

 彼に言われ、俺もまた、周囲を見回す。

 あれだけいた観客が、もう一人もいない。
 どうやら、俺が眠っている間に、コンサートは終わってしまったらしい。

 う〜む……、
 かなり損した気分だ。

 ラスティちゃんの歌を、最後まで聴きたかったのに……、

 それもこれも……、
 みんな、あのお気楽熾天使の……、

 って、そういえば……、

「夢じゃ……ない?」

 見れば、俺の腕には、あのスカーフがしっかりと巻かれている。

 それは……、
 サフィさんの出会いが、夢ではなかった証拠だ。

「あら、綺麗なスカーフですね……、
それに、手触りも、とっても柔らかくて……」

 俺のスカーフに興味を持ったようだ。
 アルテさんが、うっとりとした様子で、俺の腕のスカーフを撫でる。

 そして、サーリアさんも、別の視点で気になったようだ。

「にゃにゃ、強い魔力を感じます……、
これは、ただの綺麗なスカーフじゃないですね」

 何やら、難しい表情で、
俺のスカーフを凝視するサーリアさん。

 と、そこへ、カウジーさんが、ポツリと呟く。

「――2000Gくらいか?」

「はにゃ……?」

「……『タダ』のスカーフじゃない」



「「「「「…………」」」」」(汗)



 ひゅう〜〜〜……


 その瞬間……、

 季節外れの北風が、
固まった俺達の間を拭き抜ける。

「カウジーさん……?」

「ゴメン、ちょっと魔が刺した……、
いや、――の癖が感染ったと言うべきか……」

 自分で言ってしまってから、後悔したのだろう。

 俺達がジト目を向けると、
カウジーさんは、何やらブツブツと呟きながら、苦笑いを浮かべる。

 その時、カウジーさんの口から、サフィさんの名前が出たような気がしたけど……、

「それはともかく……、
誠、そのスカーフは大事にした方が良い」

「あ〜う、あう……あ〜う」

 カウジーさんの言葉に、ラスティちゃんも頷く。

 そして、ゆっくりと唇を動かして、
そのたどたどしい動きで、俺に教えてくれた。

 ――きっと、あなたを守ってくれる。

「ああ……そうだね」

 ラスティちゃんの言葉に、俺は、腕のスカーフに手を添える。

 ――そう。
 これは、天使からの贈り物。

 俺に与えられた、天使の祝福……、

 理由は分からないが、
これには、きっと、何か意味があるのだろう。

 もしかしたら……、
 その答えは、この旅の果てに、辿り着くのかもしれない。



 当ての無い旅――
 自由気ままな旅――

 その旅に、どんな意味を見出すのか――



「――世界を繋ぐ者、か」

「あう……?」

「いや……何でもないよ」

 俺が洩らした呟きを耳にし、
ラスティちゃんが、キョトンとした顔で首を傾げる。

 そんな彼女に、首を横に振って答え、俺は、空を見上げる。

 そして……、
 この空の向こうにいる、お節介な天使に……、


 ありがとう――


 ……心の中で、お礼を言った。










 それから、数日後――

 俺は、この街の友人達……、
 カウジーさん達に見送られ、フォンティーユを出発した。

 次に向かうは――
 芸術都市フォルラータ――

 音楽家を目指す者達の夢の舞台――

 確か、あの街には、冬弥兄さん達がいるはずだ。

 そうだな……、
 彼らに、ラスティちゃんの事を教えてあげよう。

 由綺姉達なら、きっと、天使の歌声ってやつに、興味を持つ違いない。

 その後は……、
 内海を巡る連絡船に乗って、カノン王国へ……、

 いや、徒歩で、ダカーポ大橋を渡って、初音島に行くのも良いな。

 あそこは、年中、桜の花が、
咲き乱れていて、とても綺麗な島らしいし……、

 とにかく……、
 風の向くまま、気の向くまま……、

 行く先の無い一人旅……、

 天使の加護を、その身に受けて……、

 この旅の果てに……、
 俺は、一体、何を見るのか……、










 さてさて――

 次の街では、何が待っているのかな?





<おわり>
<戻る>


あとがき

 ラスティではなく、サフィとの関わりが、
強くなってしまったのは、やはり、共にギャグの道を歩む故か……、(笑)

 ちなみに、天使のスカーフは、別に伏線でも何でもありません。

 他の英雄達に比べ、誠は能力値が、
かなり低いので、特殊なアイテムで、その補強をしてみました。

 ちなみに、このアイテムは、持ち主に幸運をもたらす効果があります。