今更、言うまでも無いが……、

 俺は、世にも珍しい……、
 いや、おそらく、唯一の魔法剣士である。

 なにせ、この魔法剣……、
 俺自身の素養もあるのだろうが……、

 実は、魔界の貴族、ルミラ先生に教わった技術だし……、

 だが、しかし……、
 魔法剣の使い手と言えば、聞こえは良いが……、

 ようするに、剣も魔術も中途半端でしかない、という事だ。

 実際、俺の技は、剣も魔術も、人並みか、それ以下でしかない。

 そういった技量不足を補う為、
俺は、あの手この手を使って、様々な戦法をとる。

 その中でも、特に多いのが、補助道具を使った闘い方だ。

 例えば、煙幕を張る煙玉とか――
 火炎球を連続で撃ち出す魔法筒とか――

 で、そういう道具ってのは、得てして消耗品なわけで……、

 日課の荷物整理をしていて、
随分と、道具が足りなくなっている事に気付いた俺は……、

 それらを買い足す為……、
 街の一角にある、小さな道具屋へとやって来ていた。





「――雑貨屋『スリーアイズ』? 変わった名前だな」






Leaf Quest 外伝
〜誠の世界漫遊記〜

『商業都市マジアン』







 商業都市マジアン――

 アクアプラス大陸南部の独立都市群の中で、中心的な地位にある貿易都市。

 大陸西南にあり、リーフ島への、
定期便の窓口であると同時に、大陸各地へ赴く商船の中継基地である。

 その名の通り、大陸で、最も商業が盛んな街で、
それを証明するかのように、街には、大陸唯一の百貨店(デパート)が存在する。

 その巨大な店舗に行けば、どんな品物でも、安価で手に入る。

 だが、掘り出し物を探すなら、
週に一度、開催される骨董市や、月に一度の骨董祭だろう。

 皿や壷などの、普通の骨董品だけでなく……、
 稀に、遺跡で発見された、魔力剣なども出品される。

 さらには、闇に包まれた面では、出所不明品の競売なんかもやっていたりもする。

 まあ、金の流通の激しい街では、
そういった暗い世界があるのは、当たり前の事だし……、

 実を言うと、俺も、良質の魔力剣を求めて、それに参加した。

 結果は、もちろん惨敗……、
 セイロガンを売って得た金だけじゃ、世の金持ち共に敵うわけがない。

 あの小振りのサムライソード……、
 確か、魔剣『クサナギ』とかいったっけ?

 ああ、欲しかったな〜……、

 くそっ、あの金ピカ共め……、
 どうせ、ただのコレクンションにするだけのクセに……、

 道具ってのはな、使ってこそなんだぞ〜……、


 ……。

 …………。

 ………………。


 とまあ、それはともかく――

 生まれ故郷のリーフ島から、連絡船に乗り……、

 この街へとやって来た俺は、
今後の、路銀を稼ぐ為、しばらく、ここに滞在する事にした。

 何と言っても、商業都市……、
 金を稼ぐ手段は、そこら中に転がっている。

 船の荷物運びや……、
 近隣の村へ行く商隊の護衛……、

 もちろん、冒険者らしく、魔物退治の仕事だってあるし……、

 先日は、この街を治める、
高倉家の依頼で、遺跡探索の仕事もした。

 それらの仕事をこなし……、
 ある程度の路銀も貯まったところで……、

 そろそろ、次の街に向かおうと、宿屋で、荷物の整理をしていると……、

「ありゃ……薬草が無い」

 いや、薬草だけではない。
 他にも、色々と足りない物がある事に気付いた。

 それらの補充をする為、街を出る前に、俺は、道具屋へと向かったのだが……、



「こんにちわは〜」

「はいな、いらっしゃ――ああ〜〜〜っ!?」



 店番でもしていたのか……、

 赤い髪の、活発そうな女の子が、
店に入った俺の顔を見るなり、いきなり大声を上げた。

「あ、あ、あ……」

 一体、何を驚いているのか……、
 少女は、俺を指差しながら、口をパクパクとさせている。

「あのさ、俺がどうか――」

 俺が、どうかしたのか、と……、
 そう女の子に訊ねようと、俺は、彼女に歩み寄る。

 だが、それよりも早く……、



「どうした、こまめ……いきなり、大声なんか出して?」



 どうやら、この店の主人のようだ……、

 彼女の声を聞きつけたのだろう……、
 ニビ色の髪の男性が、店の奥から姿を現した。

 彼の姿を見た途端、あわあわ言っていた女の子が、店主に飛びつく。

「じんくろー! この兄ちゃんや!
昨日、ウチを、助けてくれたん、この兄ちゃんや!」

「「――は?」」

 彼女の言葉を聞き、
俺と店主は、思わず、顔を見合わせる。

 一瞬、驚きはしたものの……、
 すぐさま納得顔で、ウンウンと頷く店主。

 それに反して、俺の頭は混乱していた。

 ――何だって?
 ――助けた?

 ――俺が? この子を?

「あのさ、人違いだと思うんだけど……」

 身に覚えの無い俺は、
首を傾げながら、『こまめ』と呼ばれた女の子に訊ねる。

 だが、こまめちゃんは、キッパリと首を横に振った。

「そんなわけあらへん!
ウチを助けてくれたんは、絶対に兄ちゃんや!」

 こまめちゃんは、そう言うと、
昨日はありがとう、と、ペコリと頭を下げた。

 そんな彼女の様子を見て、俺は、もう一度、記憶を辿ってみる。

 昨日……?
 昨日といえば……、

 確か、遺跡探索の帰りに、
魔物に襲われてるモモンガを助けて……、

 ……怪我をしてたから、手当てをしてやったっけ。

 ――そうそう。
 その手当てに、薬草、全部、使っちまったんだよな。

 ということは――
 もしかして、あのモモンガは――

「……もしかして、キミのペット?」

「――本人や」

「は……?」

「だから、本人やって!
あのモモンガは、ウチなんや!」

 と、言いつつ、こまめちゃんは、
ポンッという音をたて、動物の姿に変身して見せる。

 見覚えのある、その姿……、

 間違い無い……、
 この子は、あの時のモモンガだ。

「……ウタワレ人?」

「厳密には違うが……まあ、似たようなモンだな」

 極東の国『ウタワレ』には、獣人が住んでいるという。

 尤も、あの国は、現在、
鎖国状態にあって、実物を見た事は無いのだが……、

 彼女を、そこの出身だと思い、俺は目を見張る。

 そんな俺の勘違いを、
訂正しつつ、店主が手を差し出した。

「こまめが世話になったな……、
俺は『津岡 陣九朗』、この店の店主だ」

「藤井 誠……見ての通り冒険者です」

「敬語は止めてくれ……、
あと、名前も呼び捨てで構わないぞ」

「それじゃ、お言葉に甘えて……」

 そう挨拶を交わし、俺と陣九朗は握手をする。

 と、その時――

「……ほぉ」

「な、何だよ……?」

「いや、何でもない……、
ただ、変わったモノを持ってるな、と思っただけだ……」

「……?」

 意味深な事を言う陣九朗に、俺は首を傾げる。

 変わったモノ……?
 もしかして、魔法剣のことか?

 だとしたら、握手しただけで、それを見抜くなんて……、

 コイツ……、
 只者じゃなかったりするのか?

 と、俺がそんな事を考えていると……、

「それで、今日は、どんな用件で来たんだ?
大抵の物はあるし、珍しい物も、それなりに置いてるぞ」

 この話は終わり、とばかりに、陣九朗が話題を返る。

 その言葉に、俺は、本来の目的を、
思い出し、カウンターの上に、自分のカバンを置いた。

「まずは、道具の補充と……、
あとは、買い取って貰いたい物もあるんだけど……」

「だったら、道具の鑑定に時間が掛かるな。
その間、ゆっくり、品物でも見て、選んでてくれ」

 そう言って、戸棚から、鑑定道具を取り出す陣九朗。

 さらに……、
 店の奥へと呼び掛ける。

「お〜い、チキ〜! リーナ!
お客さんに、お茶を出してくれ〜!」

「――は〜い」

「りょうかいだよ〜!」

 陣九朗の声に、姦しい声が返ってくる。

 どうやら、店の奥には、
もう二人ほど、女性がいるようだ。

 もしかして、どっちかが奥さんなのかな……?

「別に、そこまでしなくても良いぞ?」

「そうか? チキの紅茶とクッキーは絶品なん――」

「――是非、頂きます」

「まあ、素直なのは良い事だ……、
それで、何を引き取って欲しいんだ?」

「ああ、これなんだけど……」

 陣九朗に促され、俺は、昨日、
遺跡で、偶然、手に入れた小さな宝石を、幾つか取り出す。

 そして……、

     ・
     ・
     ・





「う〜ん、そんなに価値があるとは思えんし……、
どんなに頑張っても、全部で、2000Gくらいだが、それで良いか?」

「ああ、それで良い……、
クズ宝石だって事は分かってたからな」

「そうか……じゃあ、オマケとして、一つ良い事を教えやろう」

「――なんだ?」

「良質の宝石を手に入れたら、タイプムーンに持って行くといいぞ。
そこにいる宝石魔術師が、高く買い取ってくれる」

「ほほ〜……」

「ちなみに、お薦めはエーデルフェルト家だな。
あそこは、金持ちだから、割と金払いが良いぞ」

「ふむふむ……」

「あと、遠坂家は注意しろ……、
弱みを見せたら、容赦無く値切られるからな」

「わかった、心得ておく……」

     ・
     ・
     ・





「やけに、薬草を買い込むんだな……?」

「回復魔術も、少しは使えるけど……、
やっぱり、こっちの方が使い勝手が良いからな」

「それに、こまめの治療に使ったんだろ?
当然、その薬草代は、サービスさせて貰おうかな」

「いや、そこまでしなくても……」

「気にするな……、
その分、こまめの小遣いが減るだけだし……」

「そりゃ、あんまりや〜……」(泣)

     ・
     ・
     ・





「煙玉、火筒、暖房薬……、
随分と、色々な物を買うんだな?」

「ああ、俺は、そういう闘い方しか出来ないからな」

「なるほどな……、
じゃあ、こんなのはどうだ?」

「銀のナイフ……いや、ダガーか?」

「俺の手作りなんだけど……、
そのナイフには、『影縛り』シャドウスナップの魔術が付与されてる。
何度でも使えるし、もちろん、武器としての耐久力も保証するぞ」

「……でも、高いんだろ?」

「まあ、銀製だし、それなりにな……」

「さすがに、持ち合わせがな〜……」

     ・
     ・
     ・





「……なんだ、こりゃ?」

「ああ、それは、ナカザキ製の『魔銃』って武器だ」

「――魔銃?」

「付与された火の魔術を利用して、小さな弾丸を撃ち出す武器だよ。
弾丸が消耗品だから、コストが掛かるけどな」

「そんなの……役に立つのか?」

「まあ、使い方次第だろ?
それに、誰にでも扱えるから、素人の護身用には良いぞ」

「ふ〜ん……」

「……それが、どうかしたのか?」

「いや、ちょっと気になっただけなんだけどさ……」

     ・
     ・
     ・





 とまあ、こんな感じで――

 予想以上に、時間が掛かってしまったが……、

 恙無く、買い物を済ませ……、
 道具の詰まったカバンを背負った俺は、店を出る。

 そんな俺を見送ってくれるのか……、
 陣九朗達もまた、店先まで、わざわざ出てきてくれた。

「それじゃあ、気を付けてな」

「ああ、色々と助かったよ」

「……次は、何処に向かうつもりなんだ?」

「う〜ん、そうだな……、
海沿いに南下して、フォンティーユにでも行こうかと思う」

「そうか、だったら……ほらっ」

「――えっ?」

 不意に、陣九朗が、俺に何かを投げて寄越した。

 慌てて、それを受け止め……、
 一体、何を投げたのか、と、それを見る。

 これは――
 さっき、店で見たルーンナイフ――

「選別だ……持っていけ」

「で、でも、こんな高価な物……」

「こまめを助けてくれた礼だ……、
それに、冒険者なら、予備の武器くらい持っておけ」

「……それじゃ、遠慮無く」

 陣九朗の厚意を素直に受け、
俺は、皮製の鞘に納められたナイフを腰に刺す。

 そして……、
 軽く、彼らに頭を下げると……、



「ありがとう、陣九朗……」

「おう、気をつけてな」

「奥さんも、クッキー、ご馳走様でした」

「ええ――って、はいっ?」



 もう一度、彼らに礼を言って……、

 俺は、クルリと踵を返し、荷物と思い出で、
少し重くなったカバンを背に、街の出口へと歩き出す。

 次の目的地は、信仰都市フォンティーユ――

 聞いた噂では……、
 その街は、天使を奉る聖なる街だとか……、

 そこでは、どんな人達に出会えるのだろう?

 そして……、
 どんな冒険が待っているのだろう?

 ……それを考えるだけで、胸が踊る。





 さあ……、

 新しい冒険へ出発だっ!!





<おわり>
<戻る>



 おまけ――


「奥さん、奥さん……、
わたしが、陣九朗さんの妻……」(ぽ〜)

「陣ちゃ〜ん、チキちゃんが帰って来ないよ〜」

「……端から見たら、そ〜ゆ〜風に見えたんやろか?」

「ま、誠の奴め〜……、
さり気なく、爆弾投下していきやがって〜」

「結婚……初夜……出産……」(ぽ〜)

「だぁーっ! 妄想をエスカレートするな!
俺達は、まだ、そんな関係じゃないだろうがっ!!」

「ふ〜ん……『まだ』?」

「――ぐはっ!」(核爆)

「やんやんやん♪」


あとがき

 連載物は規約違反なのですが……、

 このシリーズでは、誠が英雄達と知り合った経緯を語りつつ、
各街の様子を、大雑把に紹介していこうと思います。

 ルーンナイフについてですが、HtH本編でも、
誠は、それを貰っているので、それに合わせる事にしました。