競作企画
Ｌｅａｆ　Ｑｕｅｓｔ
〜　導かれし妻達　〜

断章　幻の大樹





　ウタワレ辺境の町――

　その街の自警団に所属していた『坂神蝉丸』は、
ここのところ頻発する子供の失踪事件について調査するため、
情報を求めて、トゥスクルに向かって旅立った。

　その途中、野営の最中に異形の魔物に襲われる。
　それらはガディム軍によって強化処置を施された人間のなれの果てだった。

　なんとかそれらを倒すと、続いて岩切と御堂だった。

　二人を相手に互角に対抗するが、
途中から参戦した黒騎士によって倒されてしまう。

　どこかの研究室で気が付いた蝉丸は、共に捕らわれていた『光岡悟』ともども、
地上では、ごくわずかしか残っていない仙命樹を投与されて強化兵へと改造される。

　洗脳の段階で、蝉丸は光岡の機転によって脱出するが、
光岡は大怪我をして追っ手につかまってしまう。

　深夜、なんとか自分住んでいた町にたどり着いた蝉丸は、
魔物に襲われて火に包まれる町の中で『杜若きよみ』を目の前で無残に殺される。

　蝉丸は無意識のうちに、死んだきよみに、自分の血を飲ませて立ち去る。

　さまよってたどり着いたのは、とある海辺。

　そこで御堂に襲われる『三井寺月代』を見つけて助けるが、
仙命樹の力を使った始めての戦闘とこれまでの疲労のために気を失ってしまう。

　次に目覚めた月代の家で、『仙命樹の一族』の最後の生き残りである、
賢者『坂神蝉丸』老から、仙命樹の存在となぜ同じ名前を名乗っているのかを聞かされる。

　そして、孫娘の月代も、一族の力を宿すがゆえに狙われるだろうということも。

　翌朝、化け物となってしまった自分でも、
その力があれば月代や人々を守れると、蝉丸は賢者から力の制御を学ぶことにする。

　その昼夜を問わない訓練を案じた月代や『砧夕霧』、『桑嶋高子』から休憩を兼ねて海に誘われる。

　そこに現れる、いささか慌てた様子のペンギン。
　彼女についていくと、森の中で旅の疲れから倒れてしまったリアンに出会う。

　彼女を医者の所に連れていこうとした彼らを襲撃する御堂。

　蝉丸は女性陣を逃がすと御堂に対峙するが、
昼間でも夜と変わらずに動ける御堂に苦戦する。

　そこへ戻ってくる月代。
　彼女の力によって御堂は撃退され、月代は傷ついた蝉丸を医者に連れて行く。

　医師『石原麗子』に診察された蝉丸は、
強化兵について知っている口ぶりの彼女に不信感を抱く。

　回復したリアンを連れて再び海へ行く蝉丸は、今度は岩切に襲われる。
　リアンと協力して迎撃するが、水中の岩切に対して決定的な攻撃が出来ない。

　そこに現れる『城戸芳晴』『コリン』『エビル』の三人。

　仙命樹から放たれている『生命の力』の歪みを感知した、
エビルの頼みで、もっとも歪みの集中するここに調査にきたのだ。

　彼らのおかげで岩切は撃退される。

　その後、なんにも考えていないようなコリンの発言のせいで、
蝉丸や月代、蝉丸老について他の人々にバレる。

　しかし事情を知った彼らは蝉丸たちに協力を約束するのだった。

　芳晴たちを交えて訓練をしていると『タソガレ』が魔物たちに襲われると連絡が入る。

　蝉丸たちは町の自警団と協力して魔物たちを撃退するが、
その隙に月代たち家に残っていた者たちが誘拐されてしまう。

　誘拐したのは蝉丸の覆製身――それも仙命樹を与えられた強化兵だった。

　麗子の情報とエビルの魂の波動を感知する能力で、
捕らわれている場所を見つけ、コピーを倒して月代たちを救出する。

　この戦いで体が完全に回復したことが分かったリアンは、姉を探して再び旅立った。

　一人屋敷で休む蝉丸の元に覆製身きよみが現れ、蝉丸をガディム軍に誘い、
それがダメでも自分はきよみオリジナルの愛情を受け継いでいると蝉丸に自分を抱くように言う。

　そこで血液の媚薬効果のことを教えられ、
残されたメモからきよみのオリジナルと光岡が生きていることを知らされる。

　その情報を信じて月代と夕霧と共に戻った故郷の町で、
アルビノと化して、人形のようになんの反応も示さなくなったきよみと再会する。

　月代の協力でお互いの仙命樹を通じて、
精神に働きかけたおかげで、きよみは意識を取り戻す。

　きよみを保護し、ガディムに協力していたという男の話から、
ガディム軍の仙命樹研究には石原麗子の研究資料が元になっていると知り、
急いでタソガレに戻って麗子に問いただす。

　なんと、麗子は第一次カディム大戦の終結後から、
仙命樹を体に宿すことで生きてきた古代人であるという。

　その時、独自に発見した方法や研究資料はすでに焼却処分していたが、
処分しきれなかった物をガディム軍が見つけて研究をしていたのだろうと麗子は話す。

　そこを襲撃する光岡。
　月代・夕霧・高子を斬り捨て、蝉丸老をさらっていく。

　追いかける芳晴たち。

　斬られた月代たちは致命傷を受けたが、仙命樹を与えれば、
きよみ同様に命を取り留められるとの麗子の判断で、蝉丸は全員に自らの血を飲ませる。

　傷はすぐにふさがったが、きよみのようにアルビノにはならない。
　傷が少ないため、全身にわたって仙命樹が肉体を書き換える必要がないため、と麗子は予想した。

　息を吹き返す三人は、その身に受けた血のために発情していた。
　それを押さえるために、三人を抱く蝉丸。

　コトが済んだあと、戻ってきた芳晴たちと共に、麗子の情報から地下遺跡に向かう。

　彼女の話ではそこから仙命樹本体の場所にいけるという。

　蝉丸老がさらわれたのは、その場所を聞き出すためと、そこまでの道を開かせるため。
　そして、力を失い、石化をはじめている仙命樹を蘇生させる生贄とするため。

　それならばと、賢者と同じ力を宿す月代も一緒だ。

　迷宮のような遺跡を突き進むと、その最深部に二柱の女神の像が置かれた部屋があった。

　仙命樹の上に作られた都市、グエンディーナ王都へのワープゲートの間だ。

　そこを守るように立つ御堂と岩切。追加の仙命樹を与えられ、
心身ともに化け物と化した二人を倒し、向かったグエンディーナ。

　遺跡となった都市を光岡と蝉丸老を探してさまよう。

　突如、高度を下げ始めるグエンディーナ。

　蝉丸たちを改造した犬飼の手で、グエンディーナが魔軍の本拠地へと運ばれようとしているのだ。

　とめようとする蝉丸たちの前に立ちふさがる光岡。
　蝉丸は芳晴たちを先に行かせると、決着をつけるために剣を抜いた。

　都市の制御室に辿り着いた芳晴たちを出迎えたのは覆製身きよみとユンナだった。

　蝉丸老はその背後、化石化した仙命樹の中央に両手を楔で打たれ、気を失ったまま
その血を仙命樹に注がされている。

　蝉丸を手に入れるために仙命樹の力が必要だと言うきよみ。

　ガディム軍の強化が、天界に捕らわれている恋人を救出するのに必要と考えるユンナ。

　そのためなら地上界など滅んでも構わないと考える二人に、芳晴たちの説得は通じない。

　蝉丸へのライバル意識を憎しみに変えられ、
人としての記憶を封じられ修羅のごとく剣を振るう光岡に押される蝉丸。

　月代たちを助けるために血を使ったために、回復力が落ちている。

　戦いが気になって隠れて見守っていた月代に、魔物が襲い掛かる。
　月代を身を呈して守り、大怪我を負う蝉丸。

　魔物は光岡によって倒されたが、彼は月代をかばった蝉丸を理解できない。

　――蝉丸は言う。
　大切な仲間を守るのは当然だと。

　蝉丸を支える月代を見て、光岡は混乱した。
　思い出に残る光景の再現に、記憶が戻りかけているのだ。

　そこへ、月代が力を使って呼びかける。
　さらに地上にいるきよみも、蝉丸を経由し、仙命樹の共振を使って光岡に語りかける。

　三人の呼びかけに仙命樹が共鳴し、絶叫とともに気を失う光岡。

　再び目を覚ましたとき、光岡は人の心を取り戻していた。
　光岡は治癒速度の下がっている蝉丸に自らの血を傷口から流し込んで助ける。

　力づくで二人を突破しようとした芳晴たちときよみたちに、魔物が襲い掛かる。

　グエンディーナの自動航行システムの設定が完了した犬飼は、
きよみたちを足止めに使った後に切り捨てるつもりだったのだ。

　激怒したユンナの一撃で昏倒する犬飼。きよみは蝉丸老を仙命樹から引き剥がすと、
自動航行システムの制御を再び奪おうとする。

　しかし、プロテクトがかけられてコントロールが出来ない。
　四苦八苦している間に犬飼が立ち上がり、魔物に変化する。

　そこに駆けつける蝉丸・光岡・月代。

　総力を結集して戦いを挑むが、怪物と化した犬飼は強く、
芳晴・コリン・ユンナ・エビルは打ち倒されてしまう。

　月代ときよみは倒されたものの治療にあたるが、成果は芳しくない。

　蝉丸と光岡は、同門のライバル同士ゆえにすばらしいコンビネーションを見せるが、
犬飼の強大なパワーと装甲の前に、ついに二人のサムライソードが折れ砕ける。

　劣勢に追い込まれる二人。

　目を覚ました賢者蝉丸は、自分を仙命樹に連れて行くように言う。

　力を失っている仙命樹を蘇生させれば、悪しき心に操られる犬飼の仙命樹を
死滅させられるかも知れないからだ。

　しかし、そのためには仙命樹の加護を受けた一族の大量の血――最低でも
一人分の血が必要だと言う。ならば、長く生きすぎた自分の血を使うのが最良だと。

　それを聞いた月代は、祖父を置いて仙命樹に走る。途中で折れたサムライソードの先端を
拾った事で、蝉丸老は孫の思惑に気付き静止を叫ぶ。

　必死になって戦う蝉丸たちと、治療を受けている芳晴たちに微笑みかけ、
月代は仙命樹に向き直る。

「もう、誰も傷ついて欲しくないからっ！　だからお願い仙命樹、蝉丸を助けてっ！！」

　心臓を貫く月代。背中まで突き出した刃を、全身全霊を持って引き抜く。
　吹き上がる赤い命の柱。コリンたちの悲鳴が上がる中、ゆっくりと月代は崩れ落ちる。

　月代の血を受けて赤く染まる仙命樹。

　しかし、なにも起こらない。

　蝉丸たちは己の無力さに絶望し、犬飼は哄笑する。

　突然おこる、体内で何かが暴れまわる感覚に、仙命樹を宿した者たちは胸を押さえる。

　そして、奇跡が起きる。

　黄金に輝き始める仙命樹。月代の願いと血を受けて蘇った仙命樹の輝きは、
蝉丸と光岡の体を癒し、犬飼を苦しめる。

　仙命樹から二つの光玉が蝉丸と光岡の前に飛び出すと、二振りのサムライソードへと変化した。

　蝉丸の元には『黄昏に燃える不死鳥の剣』――
　光岡の元には『西風を纏う夕暮れ龍の剣』――

　月代の想いと魂の具現ともいえるその剣をとり、二人は犬飼を殲滅する。

　悲しみに暮れる一同。そこに二つ目の奇跡が生まれる。

　仙命樹から伸びた黄金色のツタが繭のように事切れた月代を包み込む。その繭が解かれたとき、
月代は目を開いて立っていた。

　グエンディーナを元の雲の中に隠した蝉丸たちは、
芳晴たちと別れ、再び仙命樹を利用されないよう、守護者としての役目を自らに課した。

　グエンディーナ遺跡、そして地上のワープゲートに戦える者がそれぞれ待機する。

　復活したとはいえ、化石となり、力の弱まっていた仙命樹のケアには、
月代と蝉丸老が当たった。

　各都市、そしてゲートを目標にした魔物たちの大襲撃もなんとか乗り越えた。

　月へと向かう金色の船を見上げ、黄昏にたたずむ蝉丸は……、

　それに乗っているだろう、
若き英雄達に武運を祈るのだった……。





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