Leaf Quest
〜導かれし妻達〜

『グランドエピローグ 〜剣の聖女〜』







 ――伝説は、かく語る。

 古代魔法王国勃興の遥か以前――
 世界は、大いなる魔の脅威にさらされていた。

 天地開闢により分かたれ、地の底に澱のように、
よどみ固まった原初の混沌。魔物を生み出す、全ての悪の結晶。

 人間達は必死に抵抗するも、あらゆる技術に、
未熟だった彼らは、ただの魔物にも苦戦を強いられていた。

 ――だが、そこに後に『勇者』と称えられる一人の青年が現れる。

 青年は仲間を集め、
魔を討ち晴らす旅を続けていた。

 青年達は幾多の魔物を滅ぼし、幾多の街を、人々を救った。

 しかし、彼らの前に、
魔より送られた一人の巫女が立ちふさがる。

 彼女の名は『辛島美音子』――

 人間の中より、強大な霊力を内包し、魔に対抗できる力をもった乳飲み子を、
誘拐・洗脳して育て上げられた『破滅の巫女』の筆頭である。

 魔に対抗しうる力は、逆に人間に対しても脅威となる。
 その強大な力に苦戦する青年達。

 彼らは、その知恵と勇気で巫女たちの何度とない襲撃を乗り切っていく。

 幾度目かの襲撃で、青年は美音子に捕らえられる。
 青年達の強さの秘密を探ろうとしたためだ。

 だが、青年は口を割らない。

 『護るための強さ』に、
秘密などあろうはずもないのだから。

 それが信じられない美音子は、連日のように尋問する。

 幾日もそんな日が続くうち、美音子は、
青年に奇妙な感情を抱いていることを自覚する。

 それは『恋』と呼ばれるものだったが、
物心つく以前に誘拐され、人間らしい生活の一切を許されず……、

 主への絶対忠誠を刷り込まれた彼女は、
それが、なんなのか、気付く事は出来なかった。

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 ――ある日、青年は脱走に成功する。

 美音子は、青年に心を捕らわれている、
自覚のないまま手勢を連れて青年を追いかける。

 しかし、青年を捕まえる事は出来なかった。

 繰り返される邂逅――

 美音子は、自分を突き動かすその衝動を
『主の役に立たせるため』と考えて青年を捕らえようとし……、

 青年もまた、捕らわれた時の会話から、何かをつかみ、美音子を説得しようとする。










 青年は美音子をとある神殿の奥に追い詰める。

 再び説得を試みるが、芳しい返事は返ってこない。

 そこに起こる鳴動。
 神殿が地響きと共に崩れだす。

 美音子に反感を持っていた巫女たちが、
彼女に反旗を翻し、神殿ごと青年とともに抹殺しようとしたのだ。

 さらに響く彼女の主の声。

 美音子は自分が捨てられた事を知り、絶望に膝をつく。
 青年はそんな彼女を抱え、彼女をかばいながら辛くも脱出する。










 その後、青年の説得に応じた美音子は、
青年達の仲間となり、魔を打ち払う旅に加わる。

 青年たちとの付き合いによって、
すっかり明るい性格となった彼女は、青年と惹かれあい、愛し合うようになる。

 ……けれど、蜜月は長くは続かない。

 魔が放った新たな魔物たちには、
青年たちの武器も、魔法も一切効果がない。

 効き目があるのは美音子の破魔の力だけだった。

 今までの贖罪と考え、一人で頑張り続ける美音子を、
青年達は、せめて少しでもサポートしようと彼女の盾となって戦い続ける。

 疲労していく冒険者たち――

 なかでも、強大な力を、常に、
使い続けた美音子は、その魂までも疲弊させていた。

 ついに、美音子は、青年達の防壁をかいくぐった魔物の一撃を受けて倒れる。

 街で治療を受けた際に、力を使い続けた美音子は、
寿命の多くをすり減らしていた事を仲間達に知られてしまう。

 このまま力を使い続ければ、数ヶ月と生きられないことも……、

 美音子を戦いの場から遠ざけようとする青年達。

 だが、美音子は譲れない。

 美音子の力は魔を滅ぼす為には、
絶対に必要な物だし、何より青年と仲間達を護る力となりたかったからだ。

 だが、青年達もそれは同じ事だった。
 互いを思い合うがゆえに、話し合いは平行線をたどる。

 折衷案として美音子は、巫女として蓄えられた知識を元に、
自らの力を託した剣を作り、自分は戦火の届かない所にいると約束する。

 美音子が無事にいられると安心する青年たちに、美音子は心の中でわびた。

 その剣を作るには……、
 自分の命を捧げなくてはならなかったから。

 世界随一と謳われる刀匠にあつらえさせた、一振りの剣。

 美音子はその剣に、秘術を用いて、
自らの肉体・魂魄・意志の全てを融合させた。

 美音子の全てを喰らって、
生み出された剣は、彼女の霊力に黄金に輝き――

 ――後に『魔を打ち払う光の剣』=『聖剣』と呼ばれる事となる。

 だが、全てを剣に託した美音子は死んだわけではなかった。
 自らの全てを託したその剣の中に、聖剣の意志として留まっていたのだ。

 嘆き、怒る青年達に、美音子は勤めて明るく……、

「愛する人と、いつまでも、
一緒にいられるんだから私は満足」

 ……と、伝える。



 青年は、美音子の宿る剣を手に、魔を打ち滅ぼしていく。

 美音子も、青年を助ける為に、剣の中から力を使い続ける。



 最終決戦において……、

 青年は美音子を振るい、互いの心を刃に変えて、
原初の混沌を滅ぼすことに成功するが、その衝撃で美音子は折れてしまう。

 青年は傷ついた体に鞭打って剣匠の下に走り、修理を依頼した。

 元通りに直った美音子に、
喜びの涙を流しながら話し掛ける青年。

 だが、美音子は――



「我の名は聖剣。魔を打ち砕くために生まれ、
金色(こんじき)に輝ける光の刃を持つ者なり。汝が我が主か?」



 ――全てを察した勇者は、聖剣を抱きしめ慟哭した。










 その後――

 青年は美音子を腰に下げ、世界を回った。

 少しでも彼女が自分を取り戻せるよう、思い出の地を巡って……、

 しかし、青年だった男が壮年となり、
老境を過ぎても、彼女が人間だった頃の記憶を取り戻す事はなかった。










 勇者は晩年……、
 美音子の廟をつくり、彼女を奉納する。

 ――その際、彼は一つの銘を贈った。


 『ブランニューハート』――


 彼女の記憶と心が戻る事を願い『新たに輝く心』と名づけられた聖剣は……、

 その力と能力から『世界を担う勇者の剣』として、
名を語り継がれ、以後、多くの勇者たちに振るわれることになる。

 けれど、その間、彼女は一度たりとも、
自らが、何者であったかを思い出すことはなかった。

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 時は流れ――
 第二次ガディム大戦――

 そこで彼女は、当代勇者と、
彼を想う少女達の想いを受ける事で自らを取り戻すことになる。

 自己を取り戻した美音子は、
真実を伝えないままに勇者の佩剣として戦場を駆け……、

 ……ついに、ガディムを打ち滅ぼす。

 その後は、勇者と彼を慕う、
少女達とともに安寧の日々を過ごした。

 何者にも邪魔される事なく、愛する者達が常に共にいられるその光景は、
波乱に満ちすぎた彼女の生涯において、求めてやまなかった理想の情景だった。

 しかし、『女神候補事件』において、
あかりと名雪を、一人で救出に向かった彼女は『世界』によって封印。

 その後、浩之の手によって封印を解かれ、
無茶を問われた美音子は、みんなに自分の全てを語った。

 それを聞いた浩之とあかりは、彼女を初代勇者の元に帰す旅に出る。

 ただ、自分を帰すだけではなく、大戦の間、
ずっと離れ離れになっていた二人に少しでも楽しんでもらおうと……、

「記憶が曖昧だ」

 ……と、嘘をついて、初代との旅の跡を追わせる美音子。

 それは、浩之の修行の旅の
ルートとも重なり、英雄達の歓迎と激励を受けながら先に進む。










 辿り着いた初代勇者の墓標――

 誰からも忘れ去られたそこには、一本の朽ちた古木がそびえていた。

 美音子に言われるままに、
浩之は、巨木の根元に彼女を突き立てる。

 すると、剣と木が共鳴するように黄金色に輝きだし、聖剣が木の中に取り込まれていった。

 光が収まった後、そこには、
聖剣も枯れ木もなく、青々と茂る大木が彼らを見下ろしていた。

 奇跡に二人が目を見開く中、
その枝に一つの蕾が生まれ、花が咲き、りんごの実をつける。

 ……巨木は感謝の意を示すように、あかりの手の中にりんごを落とした。



 ――そして、二人は知る。

 彼女が愛する人の許に辿り着き、
その腕に全てをゆだねた事で、世界は真に平和を手に入れたのだと。



 勇者も英雄も必要なく……、

 愛する者同士が、理不尽に、
引き離される事のない世界になったのだと……、



「今まで、ありがとう……お幸せにね、みねちゃん、初代様」



 目じりに涙を湛えたあかりを、
浩之は、そっと抱き寄せたのだった。

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 ――後に伝説は語る。

 愛する者のために、
身を賭して戦った者達がいたと。

 勇者と呼ばれる破邪の戦士、百の英雄、そして、名もなき戦士たち――

 その中で、聖剣『辛島美音子』は、
勇者の導き手であり、愛し合う者たちの守護者とされる。

 当時より伝わる一枚の絵には、
大木にもたれ、安らかな寝顔を見せる彼女の姿が描かれている。

 それは『女神システム』を、
必要としなくなった、新たなる世界の象徴として……、

 ……人々から『剣の聖女』と呼ばれた。

 作者は不明――

 彼女に関わった、
誰かの手による物だろうとされるが……、





 ……それは語るべきではない物語である。





<FIN>


あとがき

 元々は、みねちゃんの過去を、
妄想した結果の、ただのネタだったはずなのに……、

 気が付けば、こんな物が出来てしまいました。

 聖剣ちゃんの性格が、途中で変化する事から……、

「きっと、こんな過去があって、
それを夢で見たからに違いない〜」

 と、指の赴くままに、キーを叩いていたら……、(汗)

 今回もまた、思考の暴走から創られた作品です。

 私はこういった競作に参加しても、
どうしても独り善がりな部分が抜けないわけですが……、

 これはちょっと突っ走りすぎたかな、と思ってます。

 この後、さらに暴走した物が、
ネタとして控えているわけですが……(汗)

 ――こんな作品でも、認めてもらえますか?


<コメント>

誠 「これで、ようやく、
   この世界も平和になったわけだな」(^_^)
浩之 「そうとも限らないぞ……、
    俺達は、女神と『世界』の加護を失った。
    もう、誰も、俺達を守ってはくれない。
    全て、自分達で背負って行かなければならなくなったんだ」(−o−)
誠 「そうだな……でも、何とかなるさ……、
   例え、第二、第三のガディムが現れたとしても……」(^〜^)
浩之 「俺達が、俺達の子孫達が……、
     必ず、この世界を守り続ける」(^_^)
誠 「いつかは、滅びるかもしれない……、
   でも、それを決めるのも、この世界に生きる俺達だ」(^_^)
浩之 「後悔なんて無いよな……」(^_^?
誠 「ああ、もちろん……、
   浩之も、今まで、ご苦労さん。
   お前は、立派に世界を担ったと思うぞ」(^○^)
浩之 「やれやれ、だな……しばらくは、のんびり暮らしたいぞ」(−o−;
誠 「そうも言ってられないって……、
   ほら、冒険の依頼が、こんなに貯まってるし……」( ̄ー ̄)
浩之 「ったく、しょうがね〜な……いくぞ、誠っ!」(^○^)b
誠 「――おうっ!」(^▽^)b

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