「――ここに、エミヤシロウはいますか?」

「シロウ、ですか……、
彼ならば、貴女の目の前にいますが……」

「――なるほど。
そういえば、剣になっていたのでしたね」

「我がマスターに何の用です?」

「はい、実は……、
どうしても、彼の力を貸して頂きたいのです」

「シロウに……一体、何をしろと?」





黄金の箱舟ヨークの解析を……」

「――なんですと?」






Leaf Quest
〜剣と鞘と弓と呪われし聖杯〜

『優しい剣の使い方』







 タイプムーン防衛戦――

 その最中、衛宮邸に、
一人の女性が、シロウを訪ねて、やって来た。

 その名を――
 シオン=エルトナム=アトラシア――

 錬金術師の総本山『アトラス院』の長であり……、

 現在は、我ら、人類に残された、
最後の希望である、ヨークの修理をする者達の責任者でもある。

 そんな彼女が、一体、
シロウに何の用があると言うのか……、

「剣鍛の魔術使い『衛宮士郎』……、
剣の属性に特化し、固有結界を操る者……」

「な、何故、その事を……っ!?」

 取り敢えず、シオンを居間へと通す。

 そして、お茶と茶請けをテーブルの上に置くと、
私は、それを彼女に勧めつつ、詳しい事情の説明を求めた。

 もちろん、当事者であるシロウも一緒だ。

 だが、今のシロウは、
剣の姿であるが故、私の手元に置く事にする。

 尤も、私が、シロウを手放す事など、有り得ないのだが……、

 ちなみに、リンを初めとした、
衛宮家の他の面子は、現在、留守である。

 なんでも、魔界の門を閉じる方法を探す、とのこと……、

 つまり、この者が来るまでは、
私とシロウの二人きりだったわけで……、

 まったく……、
 私達の逢瀬を邪魔するだけでも万死に値するというのに……、

 だいたい、その姿は何ですか?

 まるで、リンのような……、
 ミニスカートにニーソックスなんて……、

 もしや、その破廉恥な姿で、私のシロウを誘惑しようと……、

 っと、それはともかく――

「答えろ、錬金術師アルケミスト……、
何故、貴女が、その事を知っている?」

 『固 有 結 界リアリティーマーブル』――

 シオンの口から、その単語が出た瞬間、
私は、素早く立ち上がり、彼女の首に剣を突き付けた。

 シロウが『無 限 の 剣 製アンリミテッドブレイドワークス』を、
操る事を知っている人物は、ごく一部の者のみ……、

 しかし、初対面であるにも関わらず、彼女は、その事実を言い当てた。

 まずい……、
 このままでは、シロウの身が……、

 ――私は焦った。

 固有結界を持つ魔術師は、
時計塔より、封印指定を受け、死ぬまで幽閉の身となる。

 だからこそ、戦争中であって尚、秘密を隠し続けて来た、と言うのに……、

「もう一度、問おう……、
何故です? 返答によっては――」

「口封じの為に、私を斬りますか?」

「――無論」

 彼女の言葉に、私は、
相手の首に、剣を押し当てる事で答えた。

 手に持つのは、何処にでもある長剣……、

 どんな事情であれ、人の血で、
シロウの身を汚す事など、私には出来ない。

 そのシロウは、と言えば、
先程から、私の頭の中で、止めろ、と騒いでいますが……、

 ……さすがに、そういうわけにもいきません。

 例え、主の意に反しようが、サーヴァントとしては、
主に害を成すかもしれない者を、野放しにするわけにはいかないのだ。

「さあ、答えなさい……、
一体、誰から、シロウの事を訊いたのです?」

 剣を構えたまま、三度、私は訊ねる。

 すると、シオンは……、
 臆する事無く、真っ直ぐに、私を見つめ……、

「――陛下、ご自身から」

「なに……?」

 予想外の答えに虚を突かれ、
私が持つ剣の切っ先が、一瞬だけ、揺れる。

 その隙を逃さず、
シオンは、座したまま後ろにさ下がると――

「申し訳ありません、陛下……、
事態が、予測よりも、大幅に切迫している為、
エーテライトを用いて、陛下より情報を得させて頂きました」

 そう言って、私に対し、
恭しくも、深々と頭を下げてみせた。

「エーテライト……、
なるほど、そういう事でしたか……」

 彼女の真摯な態度に、
私は、一応、納得し、剣を収めた。

 以前、リンやルヴィアから聞いたことがある。

 『擬似神経エーテライト』――

 極細の糸のようなモノを、対象の脳神経に接続し、
情報を搾取、また、場合によっては、対象の体を自在に操る技術――

 アトラスの長は、その技術に長けている、と――

 つまり、シロウの情報は、
漏洩したのではなく、彼女が、その技術によって得た、という事だ。

 ……それならば、まだ、対処のしようもある。

 尤も、この錬金術師が、
信用に値する人物であれば、の話だが……、

「それで……一体、何の用です?」

 剣を収めた私は、
彼女を見据えたまま、腰を下ろす。

「先程も申し上げた通りです、陛下……」

「その『陛下』というのは止めてください。
私は、もう王などではなく、ただ、一人の騎士に過ぎない」

「それでは、セイバー……、
ヨークを直す為、貴方のマスターの力を借りたいのです」

黄金の箱舟ヨーク……ですか」

 彼女の言葉に、私は眉を顰めた。

 確かに、我らにとって、
黄金の箱舟の修理は、最優先事項である。

 この戦争を勝利する為には、
ヨークによって、月へと至り、ガディム本体を叩くしか無いのだ。

 しかし、その修理の為に、何故、シロウの力が必要なのか?

 リン達ならばともかく、魔術師としては、
半人前のシロウでは、大して役には立てないと思うのですが……、

『…………』(涙)

 シロウ……、
 そこで、何を拗ねているのです?

 ……私は、事実を述べたまで、ですよ?

「彼の解析能力……、
私は、それに期待しているのです」

 ヨークの修理には、シロウでは力不足……、

 その事を、シオンに話すと、
彼女は、詳しい事情を、掻い摘んで説明してくれた。

 黄金の箱舟『ヨーク』――

 その構造は、まさに、
ロストテクノロジーの塊であった。

 正直なところ、時計塔とアトラス院の総力を上げても……、

 短期間、しかも、戦争の最中に、
ヨークを完全に修復するのは不可能、とのこと。

 そこで、シオン達は、ヨークの構造を解析し、
故障箇所は、現代の技術を流用する、という手段を取った。

 ほとんど、応急処置でしかないのだが……、

 それでも……、
 一応、作業は順調に進んていた。

 しかし、そこで、一つ問題が生じる。

 修復作業は、進んでいるものの、
ヨークの再起動の方法が、全く分からないのだ。

 いや、少し語弊があるか……、

 正確に言うと、サブシステムは、正常に働いている。

 だが、一番肝心な部分……、
 ヨークを飛ばす為のメインシステムが動かないのだ。

 ヨークの船体の中枢にある機関――

 おそらくは、ヨークの動力であり――
 自律行動するヨークの人口知能機関――

 もしや、その中枢機関にも損害を……、

 そう危惧したシオン達は、
すぐさま、中枢機関の調査を開始する。

 しかし、それは、まさにブラックボックス……、

 シオンを筆頭に、アトラス院と時計塔の、
精鋭陣でさえ、容易に、解析を出来るモノではない。

 もちろん、時間さえあれば、『それ』の解析は可能だろう。

 とはいえ、今は、一刻を争う状況……、

 ヨークの修理をする為に、
ノンビリと、中枢機関の研究をしている余裕は無いのだ。

 ――そこで、シロウに白羽の矢が立った。

 ひと目、見るだけで良い――
 シロウが持つ、その類稀なる解析能力――

 シオン達は、それを用いて、
ヨークの中枢機関の構造を探ろう、と言うのだ。

「なるほど……、
そういう事でしたら、否はありません」

 シオンの話を聞き終え、私は頷く。

 そして、傍らにいるシロウへと、
目を向け、彼女への協力の是非を問うた。

 まあ、訊くまでもなく……、

『分かった……、
じゃあ、早速、ヨークのところに行こう』

 超が付く程に、お人好しのシロウが、
困っている人の頼みを、断るわけが無いのですが……、

     ・
     ・
     ・










 というわけで――
 やって来ました、アトラス院――

 街の中央に陣取る時計塔とは違い……、

 まるで、その身を隠すように、
街の片隅に位置する、その場所へと到着した私達は……、

「……な、何ですか、コレは?」

『これが……ヨーク?』

 臨時に建てられた格納庫――
 そこに納められた黄金の箱舟――

 ――その予想外の姿に、思わず、言葉を失ってしまった。

 黄金の箱舟、と云うくらいですから、
輝く帆船のようなモノを想像していたのですが……、

 コレは、どう見ても、『船』などと言う外見ではない。

 乗り物、と言うよりは……、
 なにやら、生物的なモノを感じさせる姿です。

 そうですね……、
 一番近いモノを例として挙げるなら……、

 ……翼を持つクジラ、と言ったところでしょうか?

「何処から……中に入るのです?」

 あまりに現実離れした光景に、
呆然と、ヨークを見上げつつ、私はシオンに訊ねる。

 すると、彼女は、格納庫の一角を示し……、

「中枢部へは、彼女が案内します」

 そう言って、シオンが示したのは、
不安げに、ヨークを見上げる、一人の少女だった。

『……セイバーに似てるな』

「そうですか……?」

 少女の姿を見て、シロウが呟く。

 確かに、髪の色や、小柄な体格……、
 特に、ひと房だけ飛び出たクセッ毛は、似ていると言えます。

 ですが、シロウ……、

 私には、彼女のような、
少女らしい可愛らしさなどありません。

 ――えっ?
 絶対に、そんな事は無い?

 あの、シロウ……、
 そ、そう言って頂けると、嬉しいです……、(ポッ☆)

「――初音、お待たせしました」

 少女を呼ぶシオンの声に、私は我に返る。

 気が付けば、シオンによって、
すでに、私達の紹介は終わっていた。

「はじめまして……柏木 初音です」

 ハツネと呼ばれた少女が、
私とシロウに、丁寧に頭を下げる。

 私も彼女に習い、礼を取ると、早速、本題を切り出した。

「それで、私達はどうすれば良いのです?
訊けば、貴女が、ヨークの中へ案内してくださるそうですが?」

「えっと……その……」

 訊ねる私に、少し言い淀むハツネ。

 そんな彼女の反応に、
私が首を傾げると、シオンが助け船を出した。

「正確には、案内するのは士郎だけです。
ヨークの中枢には、巫女である初音しか入れません」

「では、今までは、どのように調査を?」

「初音にエテーライトを使用し、
それを介して、私が調査を行っていました。
ですが、最早、この方法も限界となってしまい……」

「つまり、私に、シロウを手放せ、と……?」

 私の言葉に、シオンが頷く。

 なるほど……、
 そういう事ならば仕方が無い。

 私が同行出来ない以上、シロウはハツネに託すべきだ。

 とはいえ……、
 例え、ほんの一時でも……、

 ……シロウと、離れ離れになるのは、つらい。

 ましてや……、
 シロウが、私以外の女性の手に握られるなど……、

『……セイバー?』

「わかっています……、
今は、我侭を言っている場合では無い事くらい……」

 諭すようなシロウの言葉に、
私は、大きく溜息をつきながら、鞘ごとシロウを抜いた。

 そして、シロウを初音へと差し出す。

「貴女に、シロウを預けます。
必ずや、使命を果たして来てください」

「はい……っと、とと……」

 私の手から、ハツネが剣を受け取った。

 だが、彼女の細腕では、
剣となったシロウの身は、少し重過ぎたようだ。

 手に取った途端、ハツネの体がよろける。

「大丈夫ですか?」

「う、うん……平気……」

 慌てて、私が横から支え、
彼女は、バランスを取り戻し、事無きを得たが――

 ――結局、シロウは、ハツネに抱きかかえられて、運ばれる事になった。

 両腕で、しっかりと……、
 大事そうに、シロウを抱えるハツネ……、

 その姿を見ていると、何だか、とても面白くない。

 知らず、私の手は、震える程に硬く握られ――

 ――って、シロウ?
 貴方は、何を赤くなっているのです?

 そうですか……、
 そんなに、ハツネの腕の中は、気持ち良いですか?

 ――シロウ、後で、お仕置きです。(怒)

『…………』(ガクガクブルブル)

「な、なんか……、
さっきから、剣が奮えてるんだけど……?」

「気のせいです、ハツネ……」(にっこり)

「う、うん……」(怯)

 微笑み掛ける私に、引き攣った笑みを浮かべるハツネ。

 そして、まるで、逃げる様に、
踵を返すと、ヨークの船体の表面に、そっと手を当てた。

 すると……、

「――なんと!?」

 私は、目の前で起こった光景に、目を見張った。

 何故なら、ハツネがヨークに振れた途端、
まるで、溶け込むかの様に、中へと吸い込まれていったのだ。

 無論、シロウも一緒に……、

「では、始めましょう……、
セイバー、もう一度だけ、失礼します」

「え、ええ……」

 私とシロウを繋ぐラインから、
ヨークの解析情報を得よう、と言うのでしょう……、

 シオンが、再び、私にエーテライトを使用する。

 そんな彼女に、曖昧に頷きながら……、

 私は、ただ、ジッと……、
 シロウ達が消えて行った先を見つめていた。

     ・
     ・
     ・










 さて――

 ここから先は、シロウとの、
感覚の共有に、集中するとしましょう。

 私とシロウは、魔術的に、ラインが繋がっています。

 それを介して、シロウが、
知り得た情報を、共有する事が出来るのだ。

 また、互いの魔力も、
共有出来るので、ラインの存在は、とても便利です。

 ちなみに、どうやって、
互いのラインを繋いだのか、と言いますと……、

 本来、魔術のラインは、儀式によって繋がれるのですが……、

 半人前のシロウには、
そんな器用な真似は出来ません。

 となれば、残された方法は、ただ一つ……、

 幸いにして……、
 私は女で、シロウは男……、

 その方法を取る事に、何の問題も無いわけで……、

 それにしても……、
 あの時のシロウは、本当に凄かった。(ポッ☆)

 力強くて……、
 でも、とても優しくて……、

 そういえば、防衛線が激化してからというもの、すっかりご無沙汰だ。

 せっかく、二人きりなのだ……、
 今夜は、久しぶりに、シロウと……、

 先程の件の、お仕置きをする必要もありますし……、


 ……。

 …………。

 ………………。


 そ、それはともかく――

『……真っ暗だな』

 ハツネに案内され、
ヨークの中枢へと入ったシロウ――

 彼の見た光景が、ラインを通じて、私の脳裏に浮かぶ。

 シオンもまた、私の神経に繋いだ、
エーテライトを介して、この光景を見ている事でしょう。

 ……しかし、見えるモノは何も無い。

 シロウ達の周囲は、闇が支配しており、
ただ、その中に、彼らの姿が、ポツンと浮かんでいるかのようだ。

「ちょっと待っててね」

 意志疎通は出来ずとも……、
 ハツネは、シロウの考えを感じ取ったようだ。

 彼女は、一旦、シロウを足元に置くと、胸の首飾りを握り、目を閉じる。

 そして……、
 何やら、小さく呟くと……、

『――うわっ!?』

 突然、ハツネの全身が輝いた。

 唐突な出来事に、
シロウ同様、私もまた、驚きのあまり、声を上げてしまう。

 だが、その輝きは、一瞬の事でしかなかった。

 私達の視界を遮っていた光は、
周囲の闇を一掃すると、すぐに、一点へと集束した。

 そして――
 その光の中から――

 ゆっくりと、ハツネの姿が――



「な……っ!?」

『――うおっ!?』



 『それ』を見て、私は、
不覚にも、言葉を失ってしまった。

 何故なら……、

 光の中から出て来たのは……、
 あの、可愛らしいハツネではなく……、

 見目麗しき、一人の女性――

 民族衣装のような……、
 でも、見たことも無い衣を身に纏い……、

 神々しくも、あたたかい……、
 美しさと、可愛らしさを併せ持つ女性だったのだ。

 一体、この女性は誰なのか?
 そもそも、ハツネは、何処に行ってしまったのか?

「ゴメンなさい……驚かせちゃって……」

 先程の光の事を言っているのか……、
 そう言って、女性は、ニッコリと微笑むと、シロウに軽く頭を下げた。

 声色こそは違うものの……、
 その口調は、まさに、ハツネそのもの……、

 もしや……、
 目の前にいる、この女性が……、

「これが、リネット……、
地の精霊王としての、初音の姿ですか」

「――っ!?」

 エーテライトを介して、
シオンの感歎の声が聞こえてきた。

 それを耳にし、私は、またしても、目を見開く。

 ――地の精霊王っ!?

 まさか、ハツネが……、
 この世界の属性の一つを司る王だと言うのかっ!?

 にわかには、信じ難いが……、

 しかし、それならば、
この誰もを惹き付ける魅力に溢れた姿も……、

 ……そして、このヨークの主である事も頷ける。

「しかし、それにしても……」

 私は、もう一度、ハツネの姿を見た。

 本当に、とても美しい……、
 一応、女である、私ですら、見惚れてしまうくらいに……、

 長く艶やかな髪――
 純真無垢で知性的な容姿――
 華奢でありながらも、丸みのある肢体――

 そして、何より――



「クッ……」



 『それ』を見て……、
 私は、悔しげに歯噛みする。

 自分には無い『それ』――
 比べるまでも無い『それ』――

 先程までは、ハツネも、私と、ほぼ同じ……、
 せいぜい、イリヤスフィールと良い勝負だったと言うのに……、

 今や、ハツネの『それ』は、大き過ぎず、小さ過ぎず……、

 まるで、芸術品の様に――
 彼女の体格に合った、理想的な――

『…………』(真っ赤)

 微笑むハツネの姿に、シロウが見惚れている。

 その事実が……、
 さらに、私に悔しさを抱かせる。

 おそらく、今の姿は、
彼女の未来の姿と言えるのでしょう。

 つまり、ハツネの将来は、既に、約束されている、というわけだ。

 正直なところ……、
 なんと、羨ましい事か……、

「フッ……おかしな話ですね」

 ハツネに対して、自分が、
嫉妬している事に気付き、私は苦笑する。

 本当に、おかしな話だ……、

 ほんの少し前までは、
このような事は、考えもしなかっただろうに……、

 ――そう。
 シロウと出会うまでは……、

 このような、他人の容姿を羨むような事など……、

「やはり、ヨークの起動には、
リネットの存在が、大きく関わっているようですね」

 シオンの呟きに、私は我に返る。

 ハツネの変貌に気を取られていたが……、
 どうやら、それと同時に、ヨーク内部の照明が点灯したようだ。

 周囲に意識を向けると、シロウ達を、
覆っていた闇は晴れ、ヨークの内部を見通せるようになっていた。

 生物的な外見とは裏腹に……、

 ヨークの内部は、光沢のある、
金属性の床と壁に囲まれ、何やら機械的な印象が強い。

 ちなみに、照明の正体は、
天井から、直に発せられている淡い光だ。

 一体、どのような構造なのか、皆目、見当もつかない。

 まあ、魔術師ですらない私に、
そんな事が分かる訳が無いのですが……、

「お待たせ……それじゃあ、奥に行こう」

『お、おう……』

 とにかく、ハツネのお陰で、
明かりが灯り、道行に支障は無くなった。

 急いで、中枢へと向かうべく、
ハツネは、リネットの姿のまま、足元のシロウを拾い上げる。

 そして、先程のように、両手で抱え――

 ――って、待ちなさいっ!

 先程までのハツネならば、ともかく……、

 今のハツネの姿では、
その体勢は、いささか問題があるのではっ!!

 ああ、ハツネ……、
 貴女も、もう少し自覚してくださいっ!

 ――それは、シロウなのです!

 剣の姿をしてはいますが……、
 男性であり、私のマスターであり、良人なのです!

 そんな彼を、そのように、しっかりと抱きしめては……、

 シロウの刀身が、体が……、
 立派に成長した貴女の『それ』の間に……、

 ――むむっ!?
 シロウ、何をデレ〜ッとしているのですかっ!?

 分かる、分かりますよ……、
 今、貴方は、間違い無く、鼻の下を伸ばしているに違いない!

 そうですか……、
 私では、ダメなのですか……、

 やはり、サクラのように、大きい方が良いのですか……、

 確かに、私の筋張った……、
 女らしさの無い体では、そんな真似は出来ません。

 ですが……、
 それでも、私だって……私だって……、

「ふっ、ふふふふ……」(壊)

「セ、セイバー……、
気持ちは分かりますが、落ち着いてください」

「何を言うのです、シオン……、
私は、落ち着いています。落ち着いていますとも……」

「そ、そうは見えませんが……」(汗)

「ふっふっふっふっ……、
後で、覚えておきなさい、シロウ〜」(壊)

「…………」(大汗)

 冷や汗を浮かべながら……、
 シオンが、何とか、私の怒りを静めようと試みる。

 だが、そんな彼女の言葉を、右から左へと聞き流しながら……、

「ふっふっふっふっふっふっ……」

 ハツネの腕に抱かれたまま……、
 ヨークの中枢へと、進んで行くシロウを……、

 ……私は、ジッと睨み続けるのだった。

     ・
     ・
     ・










 で、結局――

 シロウの解析の結果、
ヨークの中枢に異常は見られなかった。

 どうやら、機能が損傷していたのではなく……、

 如何なる理由か知らないが……、
 拗ねたヨーク自身が、起動信号を無視していただけらしい。

 いやはや、まったく……、

 柏木家との間に、
一体、何があったのかは知らないが……、

 このような状況で、駄々を捏ねるとは、困った船である。

 まあ、最終的には、柏木家一同が、ヨークに謝り……、

 それで機嫌を直したのか、
船体のメインシステムは問題無く起動……、

 シオン達による、修復作業は再開されたのだが……、

 それはともかく――

 朴念仁な我が主――
 シロウへのお仕置きだが――

 今は、戦争中なので、あまり厳しい事は出来ません。

 なので、取り敢えず……、
 彼には、今まで以上に、戦場で頑張って貰う事にしました。

 というわけで――





「――『約束された勝利の剣』エクスカリバー!!」

『うひぃぃぃ〜〜〜〜〜っ!!』


 どっかぁぁぁ〜〜〜〜んっ!!


 ……。

 …………。

 ………………。


「お〜、あれで何発目だ?
セイバーの奴、今日は、随分とハリキッてるな〜」(←浩之)

「量産型の黒騎士軍団……、
面白いくらいに、軽快にフッ飛んでるよ」(←芳晴)

『みねには、八つ当たりしてるように見えるけど……?』(←聖剣ちゃん)

「でも、士郎君、大丈夫かな?
あんなに高いランクの宝具を連続投影して……」(←祐介)

「祐介も、そう思うか?
さすがに、あれだけ連発するとヤバそうなんだが……」(←耕一)

「……じゃあ、誰か止めてみるか?」(←浩平)

「「「「「…………」」」」」(大汗)(←他一同)


 ……。

 …………。

 ………………。


「さあ、シロウ……次、いきますよ」

『ま、待った……ちょっと休ませてくれ!』

「何を言っているのです?
闘いは、まだ、始まったばかりだというのに……」(にっこり)

「だ、だからって、こんな大技を連発されると――」(汗)

投影、重装トレース・フラクタル――」

『なんでさ……?』(涙)

「――偽・螺旋剣カラドボルグ!!」


 どごぉぉぉぉ〜〜〜〜んっ!!


『ぎえぇぇぇーーーっ!!
星だっ! 星が見えた、スター!?』(泣)

投影、装填トリガー・オフ――全工程投影完了セット――」

『いやぁぁぁぁぁぁぁーーーーっ!!
もしかして、ライブで大ピンチィィィ〜〜〜〜ッ!?』(大泣)

「――刺し穿つ死棘の槍ゲイボルク射 殺 す 百 頭ナインライブズブレイドワークス!!」


 ずどどどどどどどぉぉぉーーーーーっ!!


『セイバーァァァ〜〜〜っ!
俺が、一体、何をしたって言うんだぁぁぁぁっ!?』(号泣)

     ・
     ・
     ・










 ふんっ……、
 今更、何を言おうが遅い。

 ……もう、シロウなんて知りません。

 どうしても、分からないなら……、
 自分の胸にでも、訊いてみれば良いでしょう?(拗ね)





<おわり>
<戻る>

原案:ヒクソン・マサージー
協力:天城風雅 くのうなおき
執筆:STEVEN


あとがき

 時間が掛かった割には、テンポが悪い。(反省)

 まあ、取り敢えず……、
 セイバーに八つ当たりされた量産型黒騎士軍団に合掌。