「あのね、浩之君……」

「なんだよ、みねちゃん?」

「士郎君……って、知ってるよね?」

「シロウ? ああ、セイバーが持ってる剣の事か?」

「うん、その士郎君なんだけど……」

「……どうかしたのか?」

「あのね、えっとね……」

「――?」





「……みねは、士郎君に全てを見られちゃいました」(ポッ☆)

「はあ……?」






Leaf Quest
〜剣と鞘と弓と呪われし聖杯〜

『剣と鞘の痴話喧嘩』







「――どういう事ですか、シロウ?」(怒)





 衛宮邸――

 俺が持つ聖剣に宿る人格……、

 自称『みね』の、良く分からない発言の、
真相を訊き出す為、俺は、士郎の家へとやって来た。

 で、取り敢えず……、

 先の聖剣(みね)の発言を、
士郎の持ち主(?)である、セイバーに伝えたのだが……、

 それを聞いたセイバーが……、
 最初に、その手に持つ士郎に言ったのが、冒頭の台詞である。

 そして――



「聞いているのですか、シロウ?」

『ガタガタガタガタ……』



 場所は変わって――

 ここは、衛宮邸の庭の一角にある道場――

 その真ん中に正座するセイバーの前で、
床に置かれた一振りの剣が、まるで、怯えているかのように、小刻みに震えている。

 いや……、
 あれは間違いなく怯えているな。

 何故に、セイバーが、あんなにも怒っているのか……、

 彼女の様子に首を傾げつつも、
俺は、震えている士郎の姿に、それだは確信していた。

 なにせ……、
 妙に他人事じゃないような気がするし……、

 まあ、それはともかく――

「そういえば、シロウ……、
貴方は、随分と、彼女と仲が良かったですね」

 怯える士郎への威圧をそのままに……、

 一瞬だけ、俺の聖剣へと、
鋭い視線を向け、冷たく言い放つセイバー。

 その迫力に、冷や汗を流しつつ、
俺もまた、腰に帯びた聖剣に目を落とした。

 確かに、彼女の言う通り、
境遇が似ているせいか、聖剣と士郎は仲が良い。

 士郎が、どう思っているかはともかく、
聖剣は、士郎の事が気に入っているようだ。

 以前、その理由を聞いてみたら――



『だって、士郎君ってば……、
ホント〜に、可愛いくらいに真っ直ぐな刃なんだもん♪』

『士郎君も、みねの事を、凄く綺麗な剣だ、って言ってくれたの♪』



 ――だ、そうだ。

 正直、剣同士の事なので、
そ〜ゆ〜のは、イマイチ良く分からんが……、

 ようするに……、
 セイバーが怒っているのは……、

「まったく、私というものがありながら、
例え剣とはいえ、他の異性に気を取られるなど――!!」(怒)

 ……その辺りから来る、嫉妬が原因らしいな。

 でも、いくら人格があるとはいえ……、
 剣を相手に、あそこまで嫉妬するのは、どうかと思うが……、

 それに、俺には、未だに、
聖剣の、例の発言の意味が分からない。

 間違いなく……、
 あの発言が、セイバーの怒りに火をつけたと思うのだが……、

 ――士郎に、全てを見られた。

 確かに、聖剣は、そう言っていた。

 しかし、宿る人格が女性とはいえ、
結局、彼女は剣なのだから、見られて困るものは無いんじゃないのか?

 まあ、これが、本物の女の子なら、話は違ってくるのだろうが……、

「まったく、リンに、サクラに、イリヤに、ルヴィアゼリッタに……、
シロウッ、貴方は女性に対して、甘すぎるっ!!」

『で、でも、女の子には優しくしろって、親父に……』

「それにも、限度というものがある!
私の気も知らずに、いつもいつもいつもいつもっ!!」

『ゴメンなさい、ゴメンなさい、ゴメンなさい!』

 ガミガミと、牙を剥き出して、士郎に怒りをぶつけるセイバー。

 それに対して、士郎は、
器用に刀身をくねらせ、ひたすらに謝り倒す。

「う〜む……」

 持ち主に説教され、ペコペコと謝る剣という、
極めて珍しい光景を眺めつつ、俺は、何度も頭を捻る。

 聖剣にも訊ねて見たが、恥ずかしがって教えてくれないし……、

「なあ、どういう事なんだ?」

 これ以上は、ちょっと情報が少ないか……、

 そういう考えに至った俺は、仕方なく、
セイバー達の様子を、生暖かく見守っていた遠坂に訊ねる。

 すると、遠坂は……、
 それはもう、意地悪い笑みを……、

 例えるならば、悪戯を思いついた綾香みたいな笑みを浮かべながら……、

「詳しい説明は省くけど……、
士郎は、物の解析能力がスバ抜けてるのよ」

 ……と、のたもうた。

 さらに、士郎は、『剣の属性』に、
特化している為、剣の解析は、特に優れている、とも……、

「……ようするに、士郎は、聖剣の構造を理解した、って事か?」

「ご名答。見た目に寄らず、なかなか、頭の回転は早いのね」

「――ほっとけ」

 からかい口調で言う遠坂……、

 そんな彼女を、軽くジト目で睨みつつ、
俺は、今の話の内容から、ようやく、聖剣の発言の意味を理解した。

 士郎の解析能力――
 そして、一応、聖剣は女の子――

 しかも、聖剣と士郎は、今のところ、境遇は同じ――

 なるほど……、
 確かに、全てを見られちゃ、都合悪いよな。

 でも……、

「だからって……、
誤解を招くような言い方しなくても良いだろう?」

『でも、事実だし〜……』

「やれやれ……」

 全てを見られた、と言うわりには、
聖剣本人は、あまり気にしていない様子……、

 そんな彼女の態度に、肩を竦めつつ、俺は、道場から出ようと、踵を返した。

「――あら、何処に行くの?」

「いつまでも、痴話喧嘩なんぞに付き合っていられるか、っての」

「それもそうね……、
セイバーが落ち着くまで、お茶でも飲んでく?」

「茶請けが出るならな」

「図々しいわね〜」

 軽口を叩き合いながら、延々と続く、
セイバーの説教を尻目に、俺と遠坂は、連れ立って、道場を出る。

 と、そこへ――



「……待ちなさい」

「うっ……」



 背中に突き刺さる、殺気の篭った眼差し――

 恐る恐る振り返れば、
立ち去ろうとする俺を、セイバーが睨みつけていた。

「な、なんだ……?」

 その冷たくも鋭い眼光に、身を堅くしながらも、俺は訊ねる。

 すると、セイバーは……、
 未だ、震えている士郎の隣を指差すと……、

「聖剣を、ここに……、
彼女にも、話がありますので……」

 そう言って、ニッコリと微笑むセイバー。

 彼女の、あの笑顔……、
 表面上は、凄くにこやかだが……、

 怖い……、
 ムチャクチャ怖い……、

『ガタガタガタガタ……』

 聖剣も、それを感じ取ったのだろう……、

 俺の手の中で、ガタガタと震え、
このまま連れて逃げて、と、俺に訴えてくる。

 だが、しかし……、

 俺も、怒ったセイバーを、
敵に回せる程、馬鹿ではないわけで……、

「……許せ、みねちゃん」

『いやぁぁぁーーーっ!!
浩之君、置いて行かないでぇぇぇぇ〜〜〜っ!!』

 泣き叫び、暴れる聖剣を無視して、俺は、セイバーの前に、聖剣を置くと……、

 俺は、逃げるように……、
 可能な限り速やかに、道場から立ち去る。

「さて、お二人とも……覚悟は宜しいですか?」

『宜しくいない〜! まさに、ライブで大ピンチ〜!』

『うわぁぁぁ〜〜ん!
浩之君の、人でなしぃぃぃ〜〜〜っ!!』

 不敵に微笑むセイバーと……、
 そんな彼女と対峙し、悲鳴を上げる士郎と聖剣……、

 その叫びを、聞こえなかったフリをして……、

 俺と遠坂は……、
 ゆっくりと、道場の戸を閉めるのだった。

     ・
     ・
     ・










「さて、聖剣……、
ここは、敢えて、ミネコと呼びましょうか……」

『出来れば、みねちゃんって――何でもありません』

「貴女も、勇者の剣ならば、
その態度を改めようとは思わないのですか?」

『あう、それは……』

「まったく、士郎にちょっかいを出す暇があるのなら、
もっと、担い手であるヒロユキと心を通わせる努力をするべきだ」

『だって、浩之君ってば、あかりちゃん一筋だし……』

「それとこれとは話が別です!!」

『セイバーちゃんは良いよね〜……、
いつだって、士郎君が、想いに応えてくれるから……』

「もちろんだ……私は、シロウを愛している。
故に、私の想いは、常にシロウと共にあり、シロウはそれに応えてくれる」

『――主に夜とか?』

「ええ、それはもう……、
昨夜のシロウは、とても――っ!!」

『てへっ……☆』

「……どうやら、自分の立場というモノを理解していないようですね?」

『ひ、ひえぇぇぇ〜〜〜……』

     ・
     ・
     ・










 衛宮邸の縁側――

 道場から漏れ聞こえてくる、
セイバーの説教に、耳を傾けながら、俺達は茶を啜る。

 暖かな日差しの下――
 のんびりとした平和な庭の景色――

 ぼんやりと、それを眺めつつ、
茶請けの饅頭を、口に放り込み、俺は、ポツリと呟いた。

「あのさ……」

「――なに?」

「俺達って、戦争中なんだよな……」

「ええ、そうよ……」

「でも、全然、悲壮感って無いよな」

「良いことじゃない……、
後ろ向きな気分よりは、ずっとマシだし……」

「まあな……」

 遠坂の言葉に頷き、
俺は、もう一つ、饅頭へと手を伸ばす。

 そして……、
 再び、道場の様子に目を向けて……、

     ・
     ・
     ・





「――そこに直りなさい! 
貴女には、反省の色が、全く見られない!」

『いや〜! 止めて〜!』

『や、止めるんだ、セイバー!!』

「シロウまで彼女の味方を……、
もう許せません! 例え聖剣だろうと、叩き折ってくれる!!」

『きゃ〜! きゃ〜! きゃ〜!』

「おのれ、ちょこまかと……、
シロウは私のモノだ! 誰にも渡さない!」

『気持ちは嬉しいが……とにかく、落ち着け、セイバー!』

「――ソードブレイカァァァーーーーッ!!」

『いやぁぁぁーーーーーっ!!
折れちゃう! それ当たったら、ホントに折れちゃう〜〜〜っ!!』(涙)

     ・
     ・
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「――平和だな〜」

「平和よね〜……」


 ピョンピョンと飛び跳ねて、道場から逃げ出す聖剣――

 そんな彼女を追って、
士郎を構えたセイバーが飛び出てくる。

 たちまち始まる、聖剣とセイバーの追い駆けっこ――

 その光景を――
 まったりと眺めつつ――

 ――俺と遠坂は、我関せずと、茶を啜る。

「助けなくて良いわけ?」

「……後でな」

「聖剣を見捨てるなんて、ロクでもない勇者ね」

「まあな……」

 遠坂の誉め言葉(?)を、
素直に受け取り、俺は、お茶のおかわりを潅ぐ。

 そして……、
 三つ目の饅頭へと手を伸ばし……、





「ええい、大人しくしなさい!」

『きゃぁぁぁーーーっ!!
助けて、浩之くぅぅぅ〜〜〜〜んっ!!』(泣)





 さて、と――

 それじゃあ、この饅頭を、
食べ終わったら、助けてやるとするかな。





<おわり>
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