ガディム大戦――

 それは、世界の存亡を賭けた、
人間達と闇の軍勢との、壮絶な闘いであった。

 多くの人々か倒れ……、
 それ以上に、多くの魔物が、大地を血に染めた。

 そんな激戦の中を……、
 まるで、疾風の如く駆け抜ける、一人の少女がいた。

 少女の手には、一振りの剣――

 『この世全て正義』という名の――
 彼の者が目指したモノの具現とも言うべき――

 その剣を手に、少女は、人々を救う。

 かつて……、
 彼の者が、そうであったように……、

 ――そう。
 少女は、常に剣と共にある。

 何故なら……、
 その剣は、少女が最も信頼するモノ……、





 そして……、
 『彼』こそが、少女が最も……、






Leaf Quest
〜剣と鞘と弓と呪われし聖杯〜

『どこでもいっしょ』







「――ねえ、セイバー?」

「はい、何でしょうか、リン?」





 ガディム大戦、最中――

 私達は、士郎の家で、
いつもより、少し遅めの朝食を食べていた。

 別に、寝坊したくてしたわけじゃない。

 ただ、ここ最近、ガディム軍との、
戦闘が激化してきて、ちょっと疲れが溜まってきているのだ。

 先日も、アトラス院で修理中の『ヨーク』を破壊する為、
攻め込んで来たガディム軍の一団を、蹴散らしたばかりなのだ。

 いくら私達が……、
 特に、セイバーが強くても、さすがに数で押されると厳しい。

 まあ、闘っているのは私達だけじゃないし……、

 真祖の姫君や代行者なんて化け物まで、
力を貸してくれているのだから、そう簡単に、押し切られる事は無いんだけど……、

 だいたい、戦力が私達だけだったら、
こうやって、のんびりと休んでる暇なんて無いんだけどね……、

 とまあ、それはともかく――

 先日、大軍を倒したばかりだし、
しばらくは、ガディム軍も大人しくしているだろう。

 この間に、少しでも、
ヨークの修理を進めなくてはならない。

 何せ、あの船こそが、私達の希望の箱舟なのだから……、

 で、そんな中、戦闘要員の私達がする事と言えば、
次の戦闘に備えて、ゆっくりと休養を取ることなわけで……、 

「……リン、私に何か用ですか?」

「あっ、ゴメンゴメン……」

 食事を中断されたのが不満なのだろう……、
 セイバーは、ちょっと不機嫌な顔で、私に話の続きを促してくる。

 その様子からして、どうやら、
思いの他、長く思考に耽っていたようだ。

 セイバーの声に、我に返ると、
私は、彼女の傍らにある『それ』に目を向け――



「食事中くらい、剣を持つの止めなさいよ」

「――お断りします」(キッパリ)



 私の言葉に、即答するセイバー。

 しかも、件の剣を……、
 士郎だった『それ』を、大事そうに抱きしめて……、

 ――そう。
 それは、セイバーの剣。

 カリバーンではなく……、
 エクスカリバーでもなく……、

 『この世全ての正義(エミヤシロウ)』という名の――

 聖杯を巡る闘いで、士郎は、解放されてしまった
『この世全ての悪』を消滅させるため、自分自身を剣へと変えた。

 それは、セイバーによって振るわれ、
見事、『この世全ての悪』は、消え去ったんだけど……、

 剣になってしまった士郎が、元に戻るわけもなく……、

 もちろん、元に戻す方法はある。
 肉体は、どうしようもないが、剣に宿る魂を、別のモノに移せば良いのだ。

 例えば、人間の肉体と全く同じ機能を持つ、精巧に造られた人形とか……、

 決して、無理な話ではない。
 だいたい、イリヤだって、その類の存在なのだから……、

 でも、それは、すぐに用意できるようなモノではない。
 今は戦争中なのだから、そんな複雑な作業をしている余裕もない。

 というわけで――

 士郎は、今もなお、
セイバーの剣として、彼女の傍らにあるのだが……、

「まったく……」

 敵意を込めた眼差しで、睨んでくるセイバーに、私は大きく溜息をついた。

 正直なところ……、
 セイバーの気持ちは良く分かる。

 騎士として……、
 そして、一人の少女として……、

 セイバーは、士郎と共にある事を誓ったのだから……、

 そんな士郎が、剣となってしまったのだ。
 彼女とて、寂しくないわけがない。

 とても、口に出しては言えないが……、
 私だって、士郎がいないと……、

 でも……、
 だからと言って……、



「――四六時中、持ち歩く事ないじゃない」



 ――そう。
 彼女は、常に士郎を放さない。

 そりゃあもう、絶対に手放そうとしない。
 例えるなら、お気に入りのぬいぐるみを持ち歩く幼女、と言ったところか……、

 食事中は言うに及ばず……、

 外出する時も……、
 さらには、お風呂に入る時も……、

 寝る時なんて、剣を抱いて寝ている。

 さすがに、トイレに行く時は持っていかないようだが、
そういう時は、わざわざ風王結界で剣を隠しておく、という周到さだ。

 彼女の言い分では……、


「騎士あるもの、如何なる時も、非常時に備えるのは常識だ。
特に、今は、戦の真っ最中なのですから、尚更です」

「外出時など、それこそ、手ぶらでいるわけにはいかない。
外には、魔物が蔓延っているのですから……」

「シロウの身を、魔物の血で汚れたままには出来ない。
剣は、騎士としての誇りの証……手入れは欠かせません」

「人は、寝ている時が一番無防備だ。
ならば、身を守る術を傍に置くのは当然でしょう」

「士郎を敵に奪われるわけにはいきません。
だから、ああして、士郎を隠しているのです」


 ……とまあ、そういうことらしい。

 だが、しかし……、
 ハッキリ言って、そんなのは建前だ。

 状況証拠は充分。
 故に、ここで断言しよう。



 ――セイバーは、士郎を独り占めしている。



 いや、だって……、
 今朝も、セイバーを起こしに行ったんだけど……、

 士郎と同衾する彼女の、その幸せそうな寝顔と言ったら……、
 しかも、士郎の部屋で寝てるし……、

 ――ええっ、そうよ!
 むちゃくちゃ可愛いって、思ったわよ!

 でも、それ以上に、羨ましいって思っちゃったわよ!
 怒りのあまり、思わず蹴り起こしちゃったわよっ!!

 まったく……、
 ベタ惚れにも程があるわ……、

 かつての魔法王国時代、最強の騎士王が聞いて呆れるってモンよ。



「セイバーってば、シロウとベタベタしちゃってさ……」

「……ズルイです」



 セイバーの、そんな態度が気に入らないのだろう。

 桜とイリヤが、不満そうに、
ジト目でセイバーを睨みつけている。

 特に、桜は敵意剥き出しだ。
 ヘタしたら、ランクAの呪いレベル……、

 まあ、嫉妬するのも無理ないわよね。

 今まで、さんざん想ってきたのに、
相手は気付きもしないし、ポッと出のセイバーに盗られちゃうし……、

 それは、私も同じなんだけど……、

「ねえ、セイバー……ちょっとだけ、シロウを貸してよ〜」

「ダメです。剣は、子供の玩具ではありません」

 朝食を食べ終え、食後のお茶を啜るセイバー。
 そんなセイバーの肩を揺すり、イリヤがねだる。

 しかし、セイバーは譲らない。
 これは私のものだー、とばかりに、剣を抱いて……、



「それに、シロウは物ではないのです。私が手放すのは、彼の意志に反する」



 ……と、のたもうた。

「ちょっと待った――」

 彼女の何気ない言葉に、
何やら違和感を覚え、私は、二人の間に割って入る。

「彼の意志って……あなた、士郎と話せるの?」

「あっ――」

 私の質問に、セイバーは、
しまった、とばかりに口を手で押さえる。

 私は、それを見逃さず、即座にツッコむ。

「ふ〜ん……なるほどね」

「は、話せるわけではありません!
ただ、なんとなく、意志が伝わってくる程度で――」

「……夢の中」

「――っ!!」

 私が(意図的に)漏らした声に、
セイバーは、面白いように反応してくれた。

 それが、何よりも、事実を雄弁に語っている。

 やっぱり……、
 セイバーって、分かり易いわ。

 私は、内心で呟きつつ、今朝の彼女の様子を思い出す。

 剣を抱いて、幸せそうに眠るセイバー……、
 あの様子からして、もしや、と思い、カマをかけてみたのだが……、

 まさか、図星だったとは……、

「――で? いつも、夢の中で、士郎とは、何を話しているの?」

「そ、それは、私とシロウのプライベートに関する事です。
リンには、それを聞く権利は無い」

「……昼食抜き」

「なっ!? それは困るっ!」

「じゃあ、話しなさい」

「くっ、兵糧攻めとは……卑怯な……」

 悔しげに歯噛みするセイバー。

 しかし、食いしん坊なセイバーにとって、食事抜きは、まさに地獄の責め苦……、

 しばらくして……、
 観念したセイバーは、重い口を開いた。

「別に、大した話はしていません……、
ただ、シロウに、色々と教わっているだけです」

「教わるって……何を?」

「それは、その……、
料理とか、洗濯とか、掃除の仕方を……」

「――はあ?」

 両手を胸の前で組み、
恥ずかしそうに、話し続けるセイバー。

 そんなセイバーの言葉に、私達は首を傾げる。

「あの、どうして、セイバーさんがそんな……?」

 オロオロと、セイバーに訪ねる桜。
 おそらく、セイバーの態度に、不穏なものを感じたのだろう。

 自分の居場所を盗られるのでは、と……、

「何を言っているんですか?
この闘いが終われば、私達は、元の生活に戻るのです。
だが、私が得意とするのは剣のみ……、
ならば、シロウの負担を軽くする為にも、家事を覚えるのは当然でしょう」

「え、ええ……そうね……」

 胸を張り、自信満々に答えるセイバー。
 それを聞き、私達は、思わず呆れてしまった。

 いや……、
 意外だった、と言うべきか……、

 まさか、セイバーの口から、あんな言葉が出るなんてね……、

「セイバー、あなた……、
もう、闘いが終わった後の事を考えているのね?」

「闘いは、いずれ終わるものだ……、
そして、闘いが終わった後が、一番大変なんですよ、リン……」

「さすがは騎士王……言う事に重みがあるわね」

「そうですね……闘いの爪痕は大きいでしょうし……、
やっぱり、平和が一番です。
楽しい事を考えなきゃ、闘いなんてしてられませんものね」

 セイバーの含蓄あるお言葉に、私と桜は感心する。
 セイバーは、そんな私達の反応を見て、満足げに頷くと、お茶を注ぐ。

 と、そこへ――



「――で、他には?」



 絶妙のタイミングで……、
 急所を突くようなイリヤの一言……、

 その一言に、注ぎ足したお茶を飲もうとしていた、セイバーの手がピタリと止まる。

「シロウとセイバーは恋人同士なんだし……、
当然、それだけ、って事はないんでしょう?」

「言われてみれば――」

「――その通りですよね?」

「あう……」(汗)

 私達三人の視線が、セイバーに集中する。
 その冷たい視線に晒され、引きつった笑みを浮かべるセイバー。

「さあ、答えなさい……他には、何をしているのかしら? 

「そ、そんな……別に、何も……」

 必死に、何かを否定するセイバー。

 彼女は、気が付いていない。
 そういう自分の態度が、全てを物語っている、ということを……、

 だから、私達は……、
 彼女の言い分など無視して、ひたすらに問い詰めるのみ……、

「他には……?」

「…………」(汗)

「ほ・か・に・は……?」

「…………」(大汗)

「…………」(じ〜)

「…………」(滝汗)










「…………ぽっ☆」(真っ赤)










「――っ!!」(怒)


 ズキューンッ!!


 セイバーの頬が、赤く染まる。

 それを見た瞬間……、
 私は至近距離からガンドを撃ち込んでいた。

 ああ、そうですかっ!!
 そういうことですかっ!!

 私達が必死に頑張ってるってのに……、
 寂しいのを我慢してるっていうのに……、

 あんた達は、夢の中で、
毎晩のように、よろしくやってたわけね?!

 新婚生活じみた事を満喫してた、ってわけねっ?!

 ふふふふふふ……、
 これは、お仕置きが必要のようね……、

 特に、士郎には……、

「ふっふっふっふっ……」

「リ、リン……笑顔が怖いです……」

「クスクスクスクス……」

「サ、サクラ!? 黒いです、何か黒いですよ!」

「セイバー……シロウを渡しなさい」

「そ、それは出来ません……」

 私の放ったガンドを、ギリギリで交わすセイバー。
 しかし、その表情からは、私達への怯えの色を隠せない。

「さあ、セイバー……?」

「ダ、ダメです……シロウは私の……」

 ゆっくりと、私達はセイバーに歩み寄る。

 その迫力に怯えながらも、
セイバーは、士郎を放そうとはしなかった。

 剣を抱え、居間の片隅で、イヤイヤと首を振っている。

 普段のセイバーからは、とても想像できないような……、
 まるで、迷子になった子犬のような、その姿……、

 でも、そんな可愛い真似しても……、

 今回ばかりは、許さない……、
 絶ぇぇぇぇ対に、許すわけにはいかない。

「――ああっ! シロウ!!」

 私は、セイバーの手から、強引に剣を奪い取ると、
それを片手に、桜とイリヤに向き直る。

「ねえ、提案があるんだけど……今夜は、三人で一緒に寝ない?」

「良いですね……」

「ふふふ……シロウ、覚悟しなさい」

 私の提案に、真っ先に賛同する桜。
 そして、士郎を突付きつつ、不敵に微笑むイリヤ。

 そんな私達を前に……、
 剣を奪われたセイバーは……、



「すまない、シロウ……私は無力だ」



 そう呟き……、
 ガクッと肩を落とすのだった。





 さてと……、
 それじゃあ、久しぶりに、士郎で遊びましょうか♪

 ふふふふ……、
 夜が楽しみだわ……♪





<おわり>
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