『聖光を放つ天罰の杖』エンジェルホーリーバトン――

 それは、英雄の武器の中でも、異色の存在である。

 長い時間の流れに耐えた物は、
世界との繋がりを持ったり、自然に概念武装にも似た効果を持つようになる。

 そのため、通常の武器とは一線を画しており、
英雄の武器の中で、遺跡から発掘された物が多いのも、こういった経緯がある。

 しかし、この『うさぴょんバトン』は、作られてから1ヵ月も経っていない。

 なんと、これは、熾天使セラフィの手づくりなのだそうだ。

 グエンディーナ製の魔法剣に使われている、
魔法金属ミスリルを含んだ粘土に、特殊な聖水を混ぜて練り、
形を作って、神の業火が封じ込められたオーブンで、こんがりと30分。

 ちなみに、総製作時間は突貫作業で3週間。

 少々、製法に問題がある気もするが、それはそれ。

 とにかく、使用者をまじかるトワラーへと変身させ、
その能力を、通常の○倍にする効果まで持っているので、凄いモノであるのは間違いない。

 しかし、製作者の意図から外れ――
 日常生活の中でも、それが使われていることは――

 ――あまり知られていない。






Leaf Quest
〜 タイプムーンの姉妹 〜

『うさぴょんバトンの使い方』







 ここは、芸術都市フォルラータから、南下した位置にある辺境の地――

 信仰都市フォンティーユ――





「あぅ、あ〜うーっ!」


 ゆさゆさゆさ……


「う〜……あ、あともう少しだけ……」

 その街に住む、左右の眼の色が違う、
オッドアイの少女、ラスティ=ファースンこそが……、

 最年少の百の英雄にして、『聖光を放つ天罰の杖』エンジェルホーリーバトンの持ち主である。

 そして、彼女に揺さぶられている青年の名は、カウジー=ストファート。

 第一次ガディム大戦の時代に生まれ、
とある事件で不老不死の身体となり、様々な紆余曲折を経て……、

 ……今は、ファースン家の居候として暮らしている。

「うぅ〜……あぅ〜っ♪」

 彼女の小さな身体が、宙に舞う。
 そして、ベッドにダイブ。


 ――ぽむっ☆


「わ……解ったから、起きるから……」

「――あうっ☆」

 朝っぱらから、らぶらぶ全開な気もするが、
いずれ二人は結婚する仲、それに関しては置いておこう。





 ラスティは、上手く声を出すことは出来ない。
 それでも、何故か歌うことは出来る。

 全く喋れない訳ではないので、極端に困るということはない。

 身近な親しい人……、
 カウジーやサーリア達は、さすがに慣れたもので、普通に会話出来る。

「う、あ〜ぅ」

「え〜と……魔法店は向こう側、って言ってるのかな」

「あうっ!」

 全く喋れないレンで、
慣れているのか、自信なさげだけど会話出来る志貴。

「……なるほど、母音から文章を組み上げればいいのですね」

「あぅ、う〜あぅあ?」

「ラスティ、少し待って欲しい。
一度パターンを組みさえすれば、私でも確実に会話が出来る」

 分割思考と高速思考で、
ラスティの唇の動きから、文章を作成しようとするシオン。

 とまぁ、周囲の人々のおかげで、
そんなハンディキャップも気にならないのだが……、



 ただ、中には全く会話できない人もいる訳で――



「うぅ〜、あぅ、あ〜ぅ?」

「…………」

「……と、冬弥君」

「……ごめん、ラスティちゃん」



 フォルラータから来た三人組は、日が浅いせいか、まだまだ難しいようだ。
 (ちなみに、誠の適応能力は冬弥の比ではないため、何となく解る)

 彼等とは通じる所もあるので、カウジーが、
一緒にいることもあるのだが、今日は日が悪かったようだ。

 カウジーは現在、畑仕事のバイト中――

 河原に、演奏会の練習をしに来た、
冬弥達の周りに、頼れるような人がいるはずもない。

 しかし、そんな時こそ役に立つのが、彼女の持っている『うさぴょんバトン』!

「あぅっ☆」

「ゴメンね、ラスティちゃん……」

 木陰に走っていくラスティ。
 いつものことなので、三人とも、どうなるかはよく分かる。

「私達も、頑張らなきゃね……」

「そうね……」

 木陰に隠れたラスティは、ポケットから光るものを取り出す。

 それは、奇跡を起こす天使の羽根。

 かつて、フォンティーユの神殿に安置されていたもの――

 かつて、不老不死の身体となり、
道端で倒れていたカウジーが持っていたもの――

(ハイジ・ゴディバ・トリアノン! モロゾフ・リーデ・ディッバーダンッ!)

 彼女が、聖なる呪文を念じると、
羽根はその擬態を解き、光と共にその真の姿を現す。

 それこそ、天罰の具現――
 エンジェルホーリーバトン――

 そして、秘密結社ネオベランニードと戦う、正義の味方がここに現れる!(ばばーん!)

「まじかるトワラー・エンジェルラビィ☆ ここに見参!」

 律義にバトンを構え、冬弥達の前でキメポーズ。

 両目を赤くし、天使の力を、
安定させた彼女は、普通に喋ることが出来る。

「やっぱり……可愛いわね」

「あんなステージ衣装、欲しいなぁ……」

「お〜い、二人とも、戻ってこ〜い……」

 ……まあ、歌姫2人と旅をする、冬弥の苦労は想像に任せよう。

「あの、冬弥さん、質問があるんですけど……」

「ああ、いいよ、どうしたんだい?」

 トリップしている二人を余所に、ラスティ……いや、ラビィは話を切り出す。

 ただ、その外見からは、
忘れがちだが、言い換えればラビィは、天罰の代行者。



「冬弥さんは……どちらと付き合ってるんですか?」



 その発言も、天罰と呼べるのだろうか?

「え、え〜と……」

「冬弥君……」(うるうる)

「冬弥君……?」(ニコニコ)

 彼の背後からは、突き刺すような2つのプレッシャー。

「あ、あうあうあう……っ!」

 その発生原を直死……、
 じゃなくて、直視してしまったラビィは、踵を返して逃げ出してしまった。

「うふふふふ……」

「あはははは……」

「か……勘弁してくれぇぇぇーーっ!!!」





 ちなみに、その後――

 色々な意味で、ズタボロになった彼が、
バイト帰りのカウジーに目撃されたが――

 ――その経緯については、未だ明らかにされていない。










おまけ――

「む〜……難しいですぅ」

 サーリアの目の前には、製図台に広げられた図面。

 設計しているのは、新型女装爆弾。
 小型・軽量化して、実用性を高め、携帯に便利にしたタイプだ。

 その特性上、以前から、その必要性はあったのだが……、

「どうして、理奈さん達が依頼に来たですかねぇ?」

 なぜ、彼女達が依頼に来たのか。
 普通、使うのは男性である、冬弥ではないのだろうか。

 結局、彼女達と、誠の関係を知らないサーリアには、その理由は分からずじまいだった。

     ・
     ・
     ・





 第二次ガディム大戦後――
 聖都マザータウンに集結した百の英雄――

 その一件が終わった後の、打ち上げパーティにて……、

 遅れてやって来た理奈が、大量に女装爆弾を持って来て、
誠がエンジェルラビィ☆の格好やら、まじかるアンバーの格好をさせられたのは……、

 ……後世に語られることのなかった、埋もれた伝説である。





<おわり>


あとがき

 先行していたネタをほっぽりだして、第六章・タイプムーンの姉妹編です。
 (……でも、『姉妹』ってあるけど、琥珀さん達出してませんけどね)

 誰でも、ラスティの意思が伝わるわけじゃない、ってトコを基点に描きました。

 でも、ラビィの格好は、
あかねにこそ似合ってるかも。

 誠の女装は……申し訳ないけど、デフォですよね?


<コメント>

理奈 「――もちろん、デフォよ」(−o−)
誠 「うわっ!? 即答しやがったしっ!!」Σ( ̄□ ̄)
理奈 「え〜、だって〜……えいっ♪」ポイ( ´ー`)ノ=●

 どか〜んっ!!

誠 「まじかるトワラーエンジェルラビィ☆ 華麗にとうじょ――うおわっ!?」Σ(@○@)
理奈 「ほら♪ こんなに可愛いし〜」(^〜^)v
誠 「ううう……、
   ラスティちゃん、何とか言ってやってくれ〜」(つ△T)
ラスティ 「あうあう、あ〜う、あうっ♪」(*^^*)
理奈 「……何て言ってるの?」(・_・?
誠 「女装したカウジーさんを見てみたいから一つ欲しい、ってさ」(−−;
理奈 「そうね〜、彼も愛嬌のある顔してるし、可愛くなるかもね〜。
     そういうわけだから、まことちゃん、協力よろしく♪」(^ー^)v
誠 「まことちゃん、って――
   ええい、こうなったら、死なば諸共!
   志貴さんだろうが、冬弥兄さんだろうが、いくらでも協力してやる!」(T△T)凸

 一方、その頃――

レン 「……っ! っ!」ブンブン(−−)ノシ
志貴 「どうした、レン……、
     ピコピコハンマーなんか振り回して……」
レン 「…………」(;_;)
志貴 「ああ、なるほど……、
    ラスティちゃんみたいに、
    変身すれば、喋るようになるかも、って思ったのか」(^_^)
レン 「…………(コクコク)」(−−)
アンバー 「あはー☆ そういう事なら、私にお任せ――」(^▽^)
志貴 「――間に合ってます」(−o−)
アンバー 「はう〜……」(;_;)

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