「はあ〜……」

「どうした、誠? 溜息なんかついて」

「また、剣がボロボロに……、
うううっ、また、剣を買い換えないと……」

「魔法剣に頼り過ぎなんだよ、お前は……」

「そんなつもりは――おい、聞こえたか?」

「ああ……今、剣撃の音が――」

「それに……悲鳴だっ!?」





「――いくぞ、誠っ!」

「おう……っ!」






Leaf Quest
〜五月雨堂の健太郎〜

『勇者、誕生! 前編』







 リーフ島――
 トゥーハートの城下町――

 その街に住む俺……、
 『藤井 誠』は、一応、冒険者を生業としている。

 まあ、冒険者といっても、家族と暮らしているし、
世界を巡って旅をした事なんて、今までに数回しかないのだが……、

 では、俺の仕事の内容は、どんなものなのか、と言うと……、

 例えば、街から街へと、届け物をしたり――
 素人では、ちょっと対応出来ない魔物を退治したり――

 ――時には、行商人の護衛なんかもやったりする。

 まあ、ようするに……、
 この世界での『冒険者』とは『何でも屋』の意味合いが強いのだ。

 で、今日も今日とて――

 俺は、島の重要な産業資源である鉱山に、
突如、発生した魔物を退治して欲しい、という依頼を受け――

 俺は、相棒の『藤田 浩之』と一緒に、現場へと向かった。

 鉱山の中は薄暗く……、
 その闇に紛れて襲って来る魔物に、多少、苦戦はしたものの……、

 何とか、それを撃退し、
依頼料を受け取った俺達は、意気揚々と帰路につく。

 と、その途中――



「――おい、聞こえたか?」

「ああ……今、剣撃の音が――」



 何処からか、聞こえてきた剣撃の音――

 そして――
 誰かの悲鳴――

 それを耳にした瞬間、俺と浩之は駆け出していた。

 剣と剣がぶつかり合う音を追い、近くの森へと入る。

 どうやら、この奥で、
何者かが戦闘を繰り広げているようだ。

 しかも……、
 かなり厄介な相手と……、

 剣撃の音が近付くに従い、俺は、イヤな予感を覚えていた。

 周囲を包む、禍々しい魔力……、
 現場に近付く程、その濃度は強くなっていく。

 浩之も、それを感じ取ったのだろう。

 以前、遺跡で手に入れた、
愛用のミスリルソードを、いつでも抜けるように構えている。

 ――ちっ!
 すぐに新品を買っておけば良かった。

 自分の剣は、先の戦闘で、役立たず同然になっていた事を思い出し、俺は舌打ちをする。

 俺が扱う『魔法剣』という技は、
媒体となる剣への負担が、やたらと大きいのだ。

 だから、俺は、頻繁に剣を買い換えているのだが、今回は、それが災いした。

 しかし、ボロボロの剣でも、無いよりはマシである。

 俺もまた、剣の柄に手を掛け、
呪文を詠唱しつつ、走る速度を上げる。

 そして――



「うおおおおーーーーっ!!」



 俺達は、走る勢い、そのままに……、

 剣を抜き……、
 一気に戦場へと飛び込んだ。

 襲われていたのは、行商人だったらしい……、

 大量の荷物を載せた荷車――
 御者台に立つ、桃色の髪の少女――

 その彼女を守り、傷付いた青年――

 そして――
 今まさに、青年へと剣を振り下ろそうとしている――

 ――邪悪な魔力に満ちた、暗黒の騎士の姿。

「おおおおおおおーーーーーっ!!」

 その光景を目前に……、
 瞬時に状況を理解した浩之が、黒騎士に突進する。

「――ぬっ!?」

 突然の乱入者……、
 浩之の雄叫びに、黒騎士の手が、一瞬、止まった。

 だが、浩之の攻撃は、間に合わないと判断したのだろう。

 黒騎士は、構わず、
目の前の青年へ、トドメの一撃を――

「――させるかよっ!」

 こんな事もあろうかと、
前もって、呪文を詠唱しておいたのが、役に立った。

 俺は、黒騎士の剣を握る手を狙い、攻撃魔術を放つ。

 それは、見事に命中し、黒騎士の剣を弾き飛ばした。

「なに……っ!?」

 突然、自分の手から剣が消え、驚愕する黒騎士。

 もしかしたら、普通の属性魔術……、
 物理現象を起こすモノだったら、かわされていたかもしれない。

 しかし、俺の魔術は無属性……、
 魔力を、破壊力そのものに変換するタイプのモノだ。

 それ故に、不可視の攻撃――

 黒騎士にしてみれば、いきなり、
手元が爆発したのだから、驚くのも無理はないだろう。

 だが、いつまでも、驚いてはいられない。

 何故なら――



「もらったぁぁぁーーーっ!!」



 ――剣を失ったところへ、浩之が駆け込む。

 そして、一撃必殺とばかりに、
縦一文字の渾身の一撃を、黒騎士の放った。

 ――よしっ、勝ったっ!

 文句無しの一撃に、俺は、勝利を確信する。

 だが――

「な……にっ……!?」

 その、信じられない光景に、俺は、言葉を失った。

 なんと、黒騎士は、浩之の一撃を、
鎧の篭手で、平然と受け止めていたのだ。

 ……おいおい、冗談だろ?

 浩之の剛剣だぞ?
 ミスリルソードなんだぞ?

 それを受けて、傷一つ無いなんて……、
 あの全身鎧、一体、どんな強度してやがる!?

「うお……っ!?」

 黒騎士が、剣を受け止めた腕を振るう。
 それに弾き飛ばされ、そのまま尻餅をつく浩之。

 ――やばいっ!!
 今の浩之は隙だらけだっ!

「アクア――」

 倒れて、咄嗟に動けない浩之に向かって、黒騎士が拳を振り上げる。

 それを阻止する為、
俺は、剣に魔力を込めると……、

「――ブレイドォォォォーーーーッ!!」

 その力を解放しつつ、剣を真横に振り抜いた。

 魔物退治に向かう際、あかねに付与して貰った水の属性……、

 高圧縮された水の弾丸が、
浩之の頭上を抜け、黒騎士の胸に炸裂する。

 俺の攻撃の直撃を受け、黒騎士は、大きく後ろにフッ飛び――

 いや、違う……、
 衝撃を殺すため、自分から後ろに跳んだか……、

 ちっ……、
 属性の相性が悪すぎる。

 付与されてたのが、雷属性なら、
全身鎧を通して、奴を感電させられたのに……、

 ――後ろに跳び、俺達と距離をおいた黒騎士は、さっき落とした剣を、悠々と拾い上げる。

「……大丈夫か、浩之?」

「ああ……」

 そんな黒騎士と対峙すするは……、
 剣に魔力を込めた俺と、立ち上がり、剣を構える浩之……、

「奴の相手は、俺がやる……、
お前は、あっちの手当てを頼む……」

「……わかった」

 黒騎士から、視線を外さぬまま、浩之が言う。

 正直、不安ではあったが……、
 だからと言って、重症の怪我人を放ってはおけない。

 この場で、回復魔術を扱えるのは、俺しかいないだろうから……、

「出来るだけ、早く戻ってくれ……」

 浩之の、その言葉を聞き、
俺の身に、今までに無い、緊張が入る。

 どんな敵を前にしても、不敵に笑っていた浩之……、
 その浩之が、こんな事を言うなんて……、

 それだけの相手だ、という事か……、

 ならば……、
 少しでも早く、手当てを終えて、ここに戻らなければ……、

「ああ、任せろ……」

 浩之の言葉に頷き、
俺は、クルリと、敵に背を向ける。
 
 そして……、



「――いくぜっ!!」



 黒騎士に突進する、
浩之の気配を背に、後ろ髪を引かれながら……、





 怪我人の元へと……、
 俺は、急いで、その場を後にした。





<後編に続く>
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