「おい……訊いても良いか?」

「どうしたの、往人さん?」

「お前ら……実戦経験は?」

「え、え〜と……」(汗)

「もう一度、訊くぞ……、
お前達は、実戦経験はあるのか?」

「…………」

「……無いのか?」

「に、にはは……」





「お前らは、それでも騎士かぁぁぁーーーっ!!」

「うわわわっ!
また、往人さんが怒ったぁぁぁ〜〜っ!」






Leaf Quest
〜へっぽこ騎士団の冒険〜〜

『往人の戦術指南』







 ――頭が痛くなった。

 いや、別に病気とか、
体の調子が悪くなったわけじゃない。

 観鈴達の新しい装備を買い……、

 改めて、彼女達の腕前を見ようと、
三人だけで、魔物達と闘わせてみたのだが……、

「まさか、ここまで『へっぽこ』だとは……」

 取り敢えず、魔物を追い払い……、
 俺は、刀を鞘に納めながら、大きく溜息をつく。

 そんな俺の様子を見て……、

「往人君、溜息をつくと、幸せが逃げるよ?」

「やかましいわっ!!
だったら、俺が不幸なのは、全部、お前らのせいだっ!」

 能天気で無自覚な、
佳乃の言葉に、俺は頭を抱え、その場で蹲る。

「が、がお……」

「……進呈」

 さすがに、他の二人は、
俺が苦悩する原因を分かっているようだ。

 観鈴は、バツが悪そうに項垂れ……、

 美凪は、例の封筒を、
申し訳なさそうに、俺に差し出す。

「親の七光り、とはいえ……、
なにも、ここまで、へっぽこじゃなくても良いだろう?」

 美凪の封筒を受け取り、
ポケットに突っ込むと、俺は、ユラリと立ち上がる。

 そして、虚ろな目で、三人を睨むと……、

「……決めたぞ」

「決めた、って……何を?」

「そんな事は決まっている――」

 俺に睨まれ、後ずさる三人。

 そんなヘッポコ共に、俺は、
愛用のサムライソードの切っ先を突きつける。

 そして――
 不敵な笑みを浮かべると――

     ・
     ・
     ・










「――特訓だっ!!」










 というわけで――

 俺は、今後の為に、
観鈴達に、軽く稽古をつけてやる事にした。

 と言っても、俺が教えられる事なんて、たかが知れているのだが……、

 まあ、それでも……、
 何もしないよりは、遥かにマシだろう。

 何せ、闘う者としての、
コイツらのレベルは底辺だからな。

 スタート地点がゼロなら、あとは進むだけだ。

 逆に、変な癖がついてない分、良かったかもな。

 生兵法ほど、怖いモノは無い。
 実戦では、中途半端な奴が、一番、危ないのだ。

 その点、コイツらは、自分達が弱い事を知っている。

 弱さを自覚していれば、
無謀な真似をしようとは思わないだろうし……、

 まあ、これは、俺の持論でしかなく……、

 俺の剣の師匠……、
 ウタワレにいる『柳也』の野郎なんぞは……、

 ――根拠の無い自信を持て!
 ――ゴールの無い目標を目指せ!

 とか言って、散々、俺に、
無茶で無謀な修行をさせやがったがな。

 うぐぐっ……、
 今、思い出しても、寒気がするぞ。

 あの修行の日々は、まさに、地獄だった。

 特に、裏葉も加わって、二人掛かりで、
攻撃された時なんか、マジで殺されるかと思ったし……、

 それに、あの物騒な森アインナッシュ……、

 森全体が一つの化け物、とかいう、
デンジャラスゾーンに放り込まれた時も、かなりヤバかったな。

 流石に、あの時は、逃げるので精一杯だった――

 ――ってゆ〜か、俺、よく生きてるな。

 後から聞いた話じゃ、
あの森って、相当、ヤバイ場所だって言うし……、

 どちくしょう……、
 あのバカ夫婦、いつか泣かせてやる。

 まあ、それはともかく――

 特訓の内容だが……、
 それぞれ、武器が違うので、個別に指導する事にしよう。

 取り敢えず、観鈴と佳乃には、
適当に、素振りでもさせておくとして……、

「――まずは、美凪からだ」

「……ぽっ」

「何故、そこで赤くなる?」

 と、軽くツッコミを入れつつ……、

 俺は、買ったばかりの、
クロスボウを持つ、美凪に向き直った。

 そして……、
 先の戦闘の様子を思い出し……、

「――どうして、撃たなかった?」

「…………」

 責めるような、俺の言葉に、
美凪は、悲しそうな表情で、俯いてしまう。

 その態度だけで、もう、それ以上は訊くまでもなかった。

「自分の腕に自信が無い、か……、
ヘタしたら、観鈴達に、当ててしまうかもしれない、と?」

「…………」(コクッ)

 俺の指摘に、美凪は、小さく頷く。

 そんな美凪の脳天に、
俺は、軽く一発、拳を振り下ろすと――

「このばかちんがっ!」

 ――と、言い放った。

「痛いです……」

 俺に叩かれた頭に手を当て、
美凪は、ちょっと恨めしげに睨んでくる。

 だが、それを無視して、俺は、話を続けた。

「じゃあ、お前は……、
観鈴達が闘ってるのを見てるだけなのか?」

「…………」

 辛辣な言い方かもしれないが、俺は、敢えて、美凪を責める。

 確かに、前線で闘う、
観鈴達を気遣うのは、間違いではない。

 だが、それで、矢が撃てないのでは、本末転倒だ。

 何も、命中させろ、とは言わない。
 後衛である美凪の役目は、前衛の援護なのだ。

 当たらずとも、せめて、牽制くらいはしなければ、後衛としての意味が無い。

 にも関わらず、美凪は矢を撃てなかった。

 つまり、今の美凪は……、
 ただの足手まといでしかない、という事に……、

「俺の言いたい事が分かるな?」

「…………」(コクッ)

 俺の話を聞き終え、美凪は神妙に頷く。

 まあ、コイツらは、騎士のクセに、
どうしようもなくヘッポコだが、馬鹿ではないからな。

 薄々、自分の欠点には、気付いていたのだろう。

 ならば……、
 俺から言える事は、一つだけだ。

「とにかく、撃て……、
ウダウダ悩んでる暇があったら、練習しろ」

「――はい」

     ・
     ・
     ・










 さて――

 次は、三人娘の攻撃の要……、
 あっちで、剣をブン回している、佳乃の番だ。

「やっほ〜、往人君!」

「やっほ〜、じゃないっ!
俺は、素振りをしろ、と言っただろうが!」

「してたよ〜?」

「そんなのは、素振りとは言わんっ!」

 俺に言われた通り、
犬(?)のポテトと一緒に、素振りをしていた佳乃。

 だが、その光景を見て、
再び、鈍い頭痛を覚えた俺は……、

「――ふんっ!」

「ぴこ〜っ!」

 その苛立ちを紛らわそうと……、
 足元にあった白い毛玉を、思い切り蹴り飛ばした。

「よしっ、気分爽快だ!」

 空の彼方へと飛んでいく毛玉……、

 それを見送った後、俺は、
晴れやかな表情で、佳乃に向き直る。

 そして、先程、拾った木の枝で、佳乃の頭を、ペシペシと叩いた。

「素振りってのはな……、
剣を無茶苦茶に振り回せば良いってモンじゃない」

 ――そう。

 佳乃は、素振りと言いつつも、
ただ、単に、剣を振り回していただけなのだ。

 旅を始めたばかりの時――

 佳乃は、カッコイイなんて、
馬鹿な理由から、グレートソードを持っていた。

 当然、そんなデカい剣を、まともに扱える訳がなく……、

 先日、カノンの城下街の、
武器屋で、バスターソードに買い換えさせたのだが……、

 とはいえ、バスターソードだって、女にとっては、充分に重い剣だ。

 それを、ああも軽々と扱える、
佳乃の膂力は、正直、大したモンだと思う。

 だが、どんなに力があろうが……、
 どんなに高い攻撃力があろうが、当たらなければ意味が無い。

 そして、今の佳乃では、
まぐれ当たりすら、期待できそうにないのだ。

 それに――

「…………」

 俺の話を聞き、佳乃は首を傾げている。

 そんな佳乃に、俺は、
無言で、木の枝を振り上げると……、

「――わっ!?」

 俺の攻撃が、一気に、振り下ろされる。
 佳乃は、咄嗟に、それを剣で受け止めてみせた。

 ふむ……、
 なかなかの反射速度……、

 だが……、

「その盾は、何の為にあるんだ?」

「えっ……?」

 俺に言われ、佳乃は、
左手に持つ盾に、視線を落とした。

 そして、少し考えた後……、

「もちろん、身を守るため!」

「だったら、ちゃんと盾を使えっ!」

 自信タップリに答える佳乃に、
俺は、木の枝で、佳乃が持つ盾を、バシバシと叩いた。

 ――それが、佳乃の、もう一つの問題点。

 さっきの戦闘でも、
佳乃は、全く、盾を使っていなかった。

 つまり、全ての攻撃を、剣で防いでいたのだ。

 別に、それが悪いわけじゃない。
 敵の攻撃を、剣で防御するのは、ごく普通の手段だ。

 とはいえ、折角、盾を持っているのだ。
 それを活用しない手は無い。

 何故なら、盾を使えば、その分、
防御に回していた剣を、攻撃の為に、使えるのだから……、

「……ようするに、攻撃を見極めろ、ってことだ」

 かわせる攻撃は、かわす――
 防ぐ時は、可能な限り盾で防ぐ――

 そして、最後まで、
自由にしておいた剣で、敵を倒すのだ。

「それって、難しくない?」

「難しいぞ……だが、大事なことだ」

 特に、攻撃の要であり、
前衛として闘う、お前にとってはな……、

 と、これは口に出さずに呟き、俺は、木の枝を投げ捨てる。

 そして、ゆっくりと、
愛用の刀を抜き放つと、佳乃と対峙した。

「少しだけ、相手をしてやる。
俺の攻撃を、全部、盾だけで凌いでみろ」

「そ、そんなの無理だよ〜」

「それでもやれっ!
無理を通せば、道理は引っ込むっ!」

「で、でも……」

「さあ、始めるぞ! サッサと構えろっ!」

「うわ〜〜〜〜っ!
今日の往人君、なんか熱血〜っ!」

     ・
     ・
     ・











 ――最後は、観鈴だ。

 佳乃を、軽く揉んでやった後、
俺は、観鈴と空の練習場へと向かった。

「ほう……」

 その練習風景を見て、俺は、感歎の声を上げる。

 槍を扱る、中距離担当の観鈴は、
カラスの『そら』を相手に、突きの練習をしていた。

 その攻撃は、なかなか鋭く……、
 ひと目で、一昼夜で習得したモノではない、と分かる。

 きっと、旅に出る前から、
へっぽこなりに、頑張って練習を続けていたのだろう。

 正直なところ、ちょっと驚きだ。

 まあ、飛べないくせに、その鋭い突きを、
見事に避けているカラスには、もっと驚かされたが……、

「まあまあ、だな」

「にはは……」

 俺の評価を聞き、
観鈴は、照れ笑いを浮かべる。

 そんな観鈴の前に、俺は無造作に立つと……、

「それで、俺を攻撃してみろ」

「……えっ?」

 唐突な言葉――

 その意味が理解出来ず、
観鈴は、一瞬、キョトンとした顔になる。

 そして、自分の槍と、俺の顔を、何度か見比べ……、

「が、がお……」

 ようやく、意味に気付いたようだ。
 観鈴は、驚きのあまり、目を見開き、俺を見上げる。

「いいから、やれ……、
お前の突きなんて、楽にかわせる」

「う、うん……」

 俺の実力は、観鈴も知っている。

 それを信用しているのか、
意外に、アッサリと頷くと、観鈴は、槍を構えた。

 そして、一呼吸置くと……、

「――えいっ!」

 何とも、気の抜ける掛け声――

 それと同時に、鋭い突きが、
俺の腹部に向かって、繰り出された。

 だが、その攻撃は、練習の時ほどの鋭さは無い。

 おそらくは、俺を気遣って、
無意識に手加減しているのだろうが……、

 ……まったく、俺も嘗められたモノだ。

 カラス如きにかわせる攻撃が、俺に当たる訳が無いだろう。

 だいたい、矛先は、布で、しっかりと、
包まれているのだから、遠慮無く、本気で攻撃すれば良い。

 と言っても、コイツの性格では、無理な注文かもしれんが……、

 まあ、良い……、
 今回は、別の目的があるからな。

「よっ、と……」

 そんな事を考えつつ、
俺は、軽く体を捻り、観鈴の突きをかわす。

 その勢いで、体を反転させながら、観鈴の懐に踏み込んだ。

「が、かお……?」

 俺の動きに、ついて来れず……、

 攻撃をかわされた、
観鈴から、いつもの口癖が飛び出す。

 そんな観鈴に、俺は、いつものように……、

「――あいたっ!」

 脳天を目掛けて、
遠慮すること無く、拳を振り下ろした。

「い、痛い……みすずちん、ぴんち」

「何が、ピンチだ……、
今のが実戦なら、お前は死んでるぞ」

 槍を取り落とし、両手で頭を押さえる観鈴。
 それを見下ろしながら、俺は、無慈悲に言い放った。

「前にも言っただろう……、
槍を扱う時は、懐に入られたら終わりだ」

 ――そう。

 今回の目的は、
観鈴に、それを、身を以って教えること。

 先の戦闘で、突きを主体に闘う観鈴の姿を見て……、

 それこそが……、
 観鈴の問題点だ、と気付いたのだ。

 突き攻撃は、『点』の攻撃でしかない。

 もちろん、その突破力は、
否定しないが、攻撃範囲の狭さは否めない。

 槍の最大の利点は、その攻撃範囲と、広い間合いにあるのだ。

 ならば、その利点は活かすべきだろう。

 そして……、
 槍の利点を活かす方法とは……、

「槍は振って扱え、円を描くようにな」

 俺は、そう言うと、観鈴が落とした槍を拾い上げる。

 そして、手本を見せるように、
その槍を、勢い良く振るってみせた。

「うわ〜……」

 俺の両腕と、体を支点に、
槍の軌跡は、いくつもの綺麗な円を描く。

 それは、角度を変えつつ、何乗にも重なり――
 まるで、何者をも近付けぬ、強固な防御結界のよう――

 振り回す事による『面』の攻撃――

 敵の接近を許さず……、
 迂闊に近付いた相手を、容赦無く斬り裂く……、

 この攻防一体の戦法こそが、
槍の特性を、最大限に活かす方法なのだ。

「どうだ? 俺に近付く自信はあるか?」

「に、にはは……無理」

 俺の円舞を見て、観鈴は呆然としている。

 そして、訊ねる俺の言葉に、
苦笑いを浮かべながら、大きく首を横に振った。

「――これが、槍での闘い方だ」

「うん……やってみる」

 手本を見て、俺の言いたい事が理解出来たのだろう。

 俺が槍を返すと、
観鈴は、早速、円舞の練習を始めた。

「わっ、とと……それっ!」

 その動きは、まだまだ拙く、
槍に振り回されているようで、危なっかしいが……、

 先程の突きの鋭さを見た限りでは、運動神経は悪いわけではなさそうだ。

 すぐに、円の動きにも慣れ、
スムーズに、槍を振れる様になるだろう。

 現に、もう、コツを掴み始めたのか……、

 観鈴の円舞は……、
 まるで、戦乙女の如く……、

「……どうしたの、往人さん?」

「な、何でもない……、
俺のことは気にせず、練習を続けろ」

「……?」

 どうやら、少し惚けてしまっていたようだ。

 そんな俺の様子を、訝しく思ったのか……、
 観鈴は、練習を中断し、俺の顔を覗き込んでくる。

「――サッサと続けろっ!」

「う、うん……」

 照れ隠しに、俺は、口調を強める。

 いきなり、俺に怒鳴られ、
慌てて、円舞の練習を再開する観鈴。

「まったく、俺としたことが……」

 その姿を目の端で眺めつつ、空を仰ぎ見た俺は、ポツリと呟いた。

 こんな照れクサイこと……、
 恥ずかしくて、言える訳が無い……、

 槍を振るう観鈴――

 その華麗な姿に……、
 思わず、見惚れてしまっていたなんて……、

     ・
     ・
     ・










 とまあ、色々とあったが――

 ようやく、特訓も終わり……、
 今度は、それを実戦で活かしてみる事にする。

「え〜、いきなりっ!?」

「ええい、やかましいわっ!!
無謀な目的が、常識的な手段で、達成される筈がないだろう!」

 不平不満を言う三人娘に、
俺は、問答無用で言い放つと、早足で歩き始めた。

 向かう先は、カノンの城下街から、少し離れた森の中……、

 城の周辺の平原よりも、
手強い魔物が現れる、ちょっと危険なポイントである。

 その事に気付いたのだろう……、
 後を付いて来る三人娘の歩調が、徐々に、重くなっていく。

「ゆ、往人さ〜ん……」

「さすがに、ここは、
ちょっと危ないと思うんだけどな〜」

「……私達は、負けてしまいましたとさ」

 武器を持つ手は、小刻みに震え――
 魔物に怯え、すっかり、へっぴり腰の三人娘――

 そんなへっぽこ達を、励ましてやろう、と……、

 俺は、藪を切り払っていた、
サムライソードを、肩に担いで見せる。

「まあ、安心しろ……、
ヤバイのが出てきたら、俺が片付けてやる」

「わっ、往人さん、自信満々!」

「往人君、強いもんね〜」

「……ぽっ☆」

「当然だっ! 一人旅ってのは、常に命懸けなんだ!
命懸けで目覚め、命懸けで宿を出て、
命懸けで敵と闘って、命懸けで剣を振るうんだ!
勝てないはずがないだろうっ!」

 ガハハッと、胸を張る俺――
 そんな俺に向けられる羨望の眼差し――

 ふっふっふっ……、
 いいぞ、もっと褒め称えるが良い。

 コイツらは、俺の強さを、
イマイチ、分かってないようだからな。

 このへんで、軽く実力を見せ付けて、認識を改めさせてやらねば……、

 と、内心で、ほくそ笑みつつ、
俺は、先頭に立って、森の奥へと進んでいく。

 と、そこへ……、



「ようやく、お出まし……か?」



 ガサガサッと……、
 獣道の脇の藪が、激しく揺れた。

 魔物の出現を察知し、俺達は、それぞれの武器を構える。

 ジッと、息を潜め――
 魔物の襲撃に備える俺達――

 そして……、










「ガアアアァァァァーーーーッ!!」










「「「「…………」」」」(大汗)

 藪の中から現れたのは――
 見上げる程に巨大な雪 熊ホワイトベアー――

 軽く三メートルはあるだろうか……、

 その、あまりの巨大さに、
俺達は、身の危険も忘れて、呆然と敵を見上げる。

「こ、これは……私達には無理だよね?」

「だ、大丈夫、大丈夫……、
往人君が、簡単に、やっつけてくれるよ」

「……楽勝?」

 最初に、我に返ったのは、観鈴だった。

 そんな観鈴の言葉に、
三人が、期待に満ちた面持ちで、俺を見る。

 だが――



「……よし、転進だ」

「えっ……?」



 三人の期待に反して……、
 俺は、対峙した雪熊に、クルリッと背を向けた。

 冗談じゃない……、

 あんな物騒なヤツを、
相手にしてたら、命が幾つあっても足らんわっ!

「ま、待ってよ〜、往人さんっ!!」

 気持ち良いくらいに、
アッサリと、俺は、その場から、トンズラする。

 慌てて、追い駆けてくる観鈴達……、

「往人君が、やっつけるんじゃないの〜?!」

「――う、うるさい!
戦略的撤退も、戦術の内だっ!」

「さっき、片付ける、って言った!」

「それはそれ、これはこれっ!」

「……へっぽこ?」

「だぁぁぁぁーーーっ!!
お前らにだけは、言われたくないわぁぁぁーーーーっ!!」

「グガァァァァーーーーッ!!」

「わわわっ! 追って来たよっ!!」

「やばい、目が危険色だっ!
死ぬ気で走れぇぇぇぇぇーーーっ!!」

「なんで、こうなるの〜っ!」

「ぴ、ぴこ〜っ!!」

「アホ〜、アホ〜!!」

     ・
     ・
     ・










 こうして――

 へっぽこ騎士団は――
 相変わらず、へっぽこのまま――





 ――今日も、冒険を続けるのであった。





<おわり>


あとがき

 某熱血野球漫画、映画化決定記念SSです。(笑)

 何処が、どう記念なのか……、
 そのへんは、分かる人には分かる、という事で……、

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