「わっ、わっ！ 観鈴ちん、スライムだよ！」
「が、がお！ 気持ち悪いよ〜」
「……矢が引けません」
「む、向かってきたよ！
こうなったら、やっちゃえ、ポテト！」
「ぴ、ぴこ〜っ！？」
「観鈴ちん、ぴんち！ ゆ、往人さん！ 助けて〜！」
「だぁぁぁぁぁーーーっ！！
お前らは、それでも、騎士かぁぁぁーーーっ！！」
Ｌｅａｆ Ｑｕｅｓｔ
〜へっぽこ騎士団の冒険〜
『皆で楽しくお買い物』
俺の名前は、国崎 往人――
人呼んで、はぐれ人形使い純情派だ。
法術の師匠である裏葉に言われ、俺は、半ば強引に、旅に出る羽目になった。
翼を持つ少女を探せ――
あまりに意味不明な理由……、
今にして思えば、体良く追い出されたのではないだろうか……、
どうせ、あの女の事だ……、
邪魔な俺がいなくなった途端、柳也とよろしくやってるに違いない。
まあ、それはともかく――
釈然としないものを感じつつも、俺は旅を続けていた。
性格はともかく、裏葉の占いの腕は確かだからな。
きっと、この旅も、それなりに、意味があるに違いない。
それで、だ――
俺は、人形劇で日銭を稼ぎつつ、旅をしていたのだが……、
極寒の地『カノン王国』の森の中で、
ついに路銀か尽き、俺は、その場で意識を失ってしまった。
危うく、そのまま凍死するところだったが……、
運良く、俺は、エアー騎士団に拾われ、一命を取り留めた。
で、その恩を返すため……、
俺は、とある女騎士三人の護衛を勤める事になったのだが……、
「ひゃあ！ 今度は、おっきなハチが〜！」
「痛っ！ 痛たたっ！ 来ないで〜！」
「……逃げましょう」
コイツら……、
へっぽこ過ぎるにも程がある。
この仕事……、
もう、止めるか……？
「まったく、話にならんぞ……、
エアー騎士団ってのは、精鋭揃いじゃなかったのか？」
「私達、おちこぼれさんだから……」
「限度があるだろがっ！」
「わわっ！ 往人君、怒った？」
「――怒るわ！ ゲホッゲホッ！」
「……どうどう」
カノン城下街――
その宿屋にある酒場の片隅――
あの後……、
襲ってきた雑魚共を（俺が）倒し……、
コイツらの傷を癒すため、
街に戻った俺達は、休憩がてら、そこでメシを食っていた。
で、メシも食い終わり……、
先程の戦闘の反省会を始めたわけだが……、
「ゲホゲホッ……たく、騎士が聞いて呆れるな」
いきなり、声を荒げたせいで、
俺は、飲んでいたお茶を咽返してしまった。
隣に座っていた美凪が、俺を背中を擦る。
そんな彼女の手を苛立たしげに払い除け、俺は言葉を続けた。
「いいか、一つ訊くぞ……、
その立派な装備は飾りか？ 飾りなのか？」
「「「…………」」」
俺の指摘に、シュンとうな垂れる三人娘。
――そう。
言いたくはないが、コイツらは装備している物だけは立派だ。
おそらく、城からの支給品なのだろう。
観鈴は槍、佳乃は剣、美凪は弓、と……、
使用する武器に違いはあるものの、明らかに、分不相応な装備品……、
だが、コイツらは、それを、まるで使いこなせていない。
まったく、世の中は不公平だ……、
俺なんて、旅立った時の装備のまま……、
未だに、冒険者の服のままだと言うのに……、
コイツらは、タダで装備を貰って……、
しかも、騎士だから、安定収入ときたもんだ。
あっ……、
なんか、ムチャクチャ腹が立ってきた。
「特に、佳乃……」
「――えっ？」
その鬱憤をぶつけるかのように……、
俺は、ビシッと、佳乃に指を付きつける。
「よりにもよって、何で、そんな馬鹿デカイ剣を使ってるんだ？
重くて、ロクに振り回せもしないクセにっ！」
そう言って、目を向けるのは佳乃の剣……、
なんと、コイツは……、
グレートソードなんぞを持っていたのだ。
「だって……カッコイイし……」
「格好だけで、武器を選ぶなぁぁぁぁーーーっ！！」
――ぽかちんっ！
「あいた……っ！！」
あまりにふざけた答えに、俺は、佳乃に拳を振り下ろす。
もちろん、手加減はしたが、それでも痛かったのか、
佳乃は、目に涙を溜めて、上目遣いで、俺を睨んできた。
それをスッパリと無視して、
俺は。眉間に寄ったシワを、指で揉み解しながら、吐き捨てるように言い放つ。
「……明日は、武器屋に行くぞ」
「わっ♪ お買い物に行くの？」
「デートのお誘い……ぽっ☆」
「――違うわっ！ この、ばかちんが！
その装備を売っぱらって、お前らに合った装備に買い換えるんだよ！」
「でも……これ、お城からの支給品……」
「やかましい！ 重くて身動きの取れない鎧なんぞ、着てても意味ないだろうがっ！
とにかく、明日は武器屋に行くからな！
そういうわけで、今日は、もう寝ろっ！ 気合入れて寝ろ！」
反論する隙を与えず、俺は、一気に捲し立てる。
それで、諦めたのだろう……、
三人娘は、肩を落としたまま、部屋へと戻って行く。
そんな彼女達の背中を見送りながら……、
「……くそっ」
俺は、罪悪感を振り払うように、
残っていた冷め切ったお茶を、一気に飲み干した。
で、次の日――
武器と防具屋に向かった俺達は、
全ての装備を売り払い、まずは、防具を選ぶ事にする。
「美凪は、レザーアーマーで、観鈴と佳乃はチェインメイル……、
あと、佳乃に、バックラーだな」
「どうして、なぎーだけ違うの？」
買ったばかりのチェインメイルを着つつ、佳乃が首を傾げる。
ちなみに、『なぎー』（命名、佳乃）とは美凪のことだ。
ついでに言うと、観鈴は『観鈴ちん』で、佳乃は『かのりん』である。
まあ、それはともかく――
「それはだな……」
美凪に、レザーアーマーの着方を教えつつ、俺は、佳乃の質問に答える。
この三人、へっぽこだが、ちゃんと役割分担は出来ている。
佳乃が前衛、美凪が後衛、観鈴か美凪の防御、といった具合だ。
それを活かすには、後衛である美凪は、素早く動けなければならない。
その為、多少、防御力は落ちても、軽装にする必要がなのだ。
で、観鈴と佳乃は、近接戦闘タイプなので、防御は強めに……、
特に、佳乃は前衛なので、盾も追加した、というわけだ。
「にははっ、さすが、往人さん」
「……進呈」
俺は、戦闘の基本を話しただけなのだが……、
観鈴は、素直に俺を尊敬し……、
美凪は、いつもの茶封筒（中身は福引券）を差し出す。
それを受け取りつつ、俺は、次に、彼女達の武器を選び始めた。
まずは、美凪――
「……クロスボウ、ですか？」
「これなら、簡単に、矢をつがえられるだろう？」
そう言って、美凪にクロスボウを渡す。
昨日の戦闘で、美凪は、ロクに矢を射つ事が出来ていなかった。
それも当然だ。
何故なら、彼女の腕力では、弓の弦が引けないのだから。
弱弓を使うという手もあるが、それでは威力が出ない。
その点、クロウボウなら、非力でも扱えるし、バネを調節してやれば威力も上がる。
まあ、それにも限度はあるのだが、当面は、これで問題無いだろう。
次に、佳乃――
「往人君……これだと、軽すぎるよ」
「じゃあ、こっちのバスターソードか？」
扱えないまでも、グレートソードを、
持ってただけはあって、そこそこ腕力はあるようだ。
最初は、ロングソードを見立てたのだが、
本人曰く、軽すぎるという事で、片手用のバスターソードにする。
叩き斬るタイプの大陸製の剣は、切れ味もそうだが、重さも重要だからな。
で、最後に観鈴だか――
「槍は、そのままで良いが……あと、ついでに、これも持っておけ」
「が、がお……？」
晴子に言われていたので、
例の口癖を言った観鈴の頭を殴りつつ、俺は、彼女にショートソードを渡す。
観鈴の、本来の武器は槍なのだが、
それは、元から持っていた、ロングスピアで充分だ。
ただ、槍は懐に入られると危険なので、小回りのきく小剣を持たせる事にする。
これなら、美凪を防御し、佳乃の援護をするという役目を果たせるだろう。
「ふむ……まあ、こんなところか……」
ひと通り、装備を買い揃え、俺達は店を出る。
で、次の目的地へと向かう途中、
観鈴か、俺の服の袖を、チョイチョイと引っ張った。
「往人さんのは、何も買わないの？」
「その金はお前達のだろうが……、
それに、俺は、これだけで充分だからな」
そう言って、俺は、腰に帯びた刀を見せる。
サムライソード――
極東の国『ウタワレ』製の業物だ。
これ以上の武器など、そうそう手に入る事は無いだろう。
「そもそも、まだ、買う物が残ってる……ほら、着いたぞ」
「装飾屋さん……？」
到着した店を前に、観鈴か呟く。
――そう。
次の目的地とは、装飾屋である。
硬い鎧が装備できないなら、
その分を、装飾品で補うのは当然だからな。
その旨を説明し、俺は、観鈴達を店へと促す。
ちなみに、俺は、近くのベンチで昼寝だ。
こういう店での、女の買い物に、付き合うつもりは、毛頭無い。
「往人さんも、一緒がいいな……」
「馬鹿言うな……、
俺のことは良いから、サッサと買って来い」
彼女達を追い払うように手を振りつつ、俺は目を閉じる。
それで、諦めたのか……、
観鈴達は、三人で、店へと向かったようだ。
すぐに静かになり……、
聞こえてくるのは、街の雑踏だけ……、
誰も、俺の事など気にすることなく、足早に通り過ぎて行く。
それが……、
何故か、妙に寂しい……、
一人は、慣れてるはずなのに……、
ふと、思い浮かべるは、観鈴達の顔――
そして――
店の中から、微かに聞こえる、彼女達の姦しい声――
「やれやれ……」
そんな彼女達の声に、軽く肩を竦めつつ……、
俺は、いつしか……、
うとうとと、眠りに落ちて行った。
「――さん！ 往人さん！」
「……ん、む？」
どうやら、少し、眠ってしまったようだ。
観鈴に体を揺すられ、俺は、目を覚ます。
そして、ゆっくりと体を起こしながら、彼女達に訪ねた。
「買い物は終わったか？」
「うん！ 終わったのだ〜♪」
訪ねる俺に、元気良く答える佳乃。
見れば、三人とも、色違いの指輪をはめている。
だが……、
その指輪を見て、俺は軽く眉を潜める。
「金は充分あったんだ……、
もう少し、マシなのが、買えたんじゃないのか？」
「えっと、そうなんだけど……」
「往人君、ちょっと両手上げて」
「……ばんざ〜い」
「――あ？」
何故か、俺の質問に答えない三人。
そんな彼女達に首を傾げつつ、
俺は、言われるままに、両腕を上げた。
すると――
「お、おい……？」
三人の手によって……、
俺の胸に、ブレストガード（胸当て）が装着される。
「にははっ、皆で、お金を出し合ったの……」
「うん、似合う似合う♪」
「……ぽっ☆」
胸当てを着けた俺を見て、満足げに頷く三人。
コイツら……、
もしかして、これを買う為に……、
「ったく、このばかちん共が……」
本当は、三人の気持ちが、とても嬉しかったが……、
でも、それを知られるのは、照れ臭く……、
俺は、そっぽを向くと、ぶっきらぼうに言い放つ。
しかし、そんな俺の態度を見ても……、
彼女達は、にこにこと微笑んでいるわけで……、
「――ほら、もう行くぞ！」
俺は、彼女達の顔を見ていられず、
殊更に、そっけない態度で、街の外へ向かって歩き出す。
「はいっ、隊長！！」
「――誰が隊長だっ！？」
「往人君は、へっぽこ騎士団の隊長さん一号なのだ〜♪」
「それじゃあ、俺までへっぽこに聞こえるだろうが！」
「……じゃあ、ヒモ？」
「うわっ、何気に確信突きやがるしっ！！」
そらを肩に乗せた観鈴が――
ポテトを胸に抱いた佳乃が――
茶封筒を片手に持った美凪が――
楽しそうに笑いながら……、
小走りで、俺を追い駆けてくる。
そんな彼女達の声を背中で聞きながら……、
誰にも気付かれぬよう……、
俺は、ほんの微かに、苦笑を浮かべるのだった。
まあ、何だ……、
もう暫くは、コイツらの御守りをするのも悪くないか……、
＜おわり＞
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