この物語は――

俺が、大陸を漫遊していた頃の話である。









「変態だ……変態がいる」(汗)



 魔術都市から北に、歩いて数日――

 そんな距離にある小さな森の中で、
俺は、トンデモナイ光景を目の当たりにしてしまった。

 夜闇の中、真っ赤に燃える焚き火――
 そこいらに飾られた、怪しげな魔道具――

 そして――

 両手に松明を持ち、焚き火の、
周りの回りながら、不気味なダンスを踊る男が一人――

 いや、それだけなら、まだ良い……、

 なにせ、その男……、
 寄りにもよって、全裸なのだ。

 夜空に浮かぶ満月の下――
 深い森の中、松明を持って、踊り狂うフル○ン男――

 怖い……、
 ハッキリ言って、怖すぎる……、

「取り敢えず……逃げよう……」

 あんな変態に関わるのは、真っ平御免である。

 幸い、向こうは、踊りに夢中で、
こっちには、気付いていないようだし……、

「そ〜っと……そ〜っと……」

 物音を立てないように、俺は、こっそりと回れ右をした。

 そして、一刻も早く、
この場から逃げようと、足を踏み出し――


 ――ぱきっ!


 おお、神よ……、

 いい加減、この手の、
お約束とは縁を切りたいんですけど……、

「…………」(汗)

 逃げようとした途端、
俺は、思い切り、落ちていた小枝を踏み付けてしまった。

 その小さな音が、夜の静寂を破り――

 恐る恐る――
 俺は、後ろを振り返ると――





「見ぃぃぃ〜たぁぁぁ〜なぁぁぁ〜……っ!!」

「ひいいいぃぃぃ〜〜〜っ!!」(マジ泣)






Leaf Quest
〜えいえんの剣士〜

『深夜の森の狂宴』







「うううっ……、
どうして、俺が、こんな目に……」

「はっはっはっ……まあ、犬にでも噛まれたと思え」

「こんなところ……、
もし、誰かに見られたら、末代までの恥だな」

「大丈夫だ、すぐに慣れる」

「――慣れてたまるかっ!」





 小一時間後――

 俺は、焚き火の明かりを頼りに、
滂沱と涙を流しながら、衣服と装備を身に纏った。

 ――えっ?
 服を脱いで、一体、何をしていたのか、って?

 一応、言っておくが……、

 決して、一部の女性が、
喜びそうな、怪しい真似はしていないぞ。

 ただ、単に……、
 例の変態男と一緒に、裸踊りをしただけで……、

 ……これだけでも、充分に怪しいな。(泣)

 っと、それはともかく――

 何故、俺が、こんな、
奇天烈な真似をする羽目になったのか、と言うと……、

 まずは、俺を、こんな事に巻き込んだ、
目の前にいる変態男について話さなければならない。

 『折原 浩平』――

 傭兵都市ナカザキの出身で、
職業は傭兵であり、保安官の一人でもあるそうな。

 そんな彼が、何故、こんな奇行に走っているのか……、

 訊けば、幼い頃に、
浩平さんの妹は、行方不明になっているらしい。

 しかも、ただの行方不明ではなく……、

 なんと、浩平さんの目の前で、
妹の『みさお』ちゃんは、忽然と姿を消した、とのこと……、

 その妹を探す為――
 妹を見付ける手掛かりを求めて――

 ――浩平さんは、世界中を旅して回っている。

 北に、奇跡を起こす剣が有ると聞けば、そこに赴き――
 南に、空間魔術の使い手がいると聞けば、それを尋ね――
 東に、腕の良い占い師がいると聞けば、それを探し――
 西に、願いを叶える桜の木の噂を聞けば、それに祈り――

 藁にも縋る、とは、まさに、この事……、

 行く先々で耳にする、
怪しげな儀式、遺跡、魔道具……、

 どう考えても、眉唾モノとしか思えない、
嘘臭い方法にまで手を出して、浩平さんは妹を探し続けて来た。

 ――で、今回の裸踊りも、その一つだったらしい。

 噂の出所は、知識都市コミパ――

 満月の下、魔力を持った道具で、
魔方陣を描き、その中で、裸踊りをすれば、どんな願いも叶う――

 その噂を耳にし、浩平さんは、
早速、その儀式を試してみた、というわけだ。

 ただ、その儀式には、一つ条件があった。

 儀式の最中、第三者に、
その様子を見られてはいけない、という……、

 にも関わらず、運悪く、俺に目撃されてしまった。

 このままでは、儀式は失敗……、
 そう考えた浩平さんは、ある事を思い付く。

 即ち、相手を当事者にしてしまえば良い、と――

     ・
     ・
     ・

 というわけで――

 襲い掛かって来た浩平さんの手によって、
俺は、全裸に剥かれ、強引に、裸踊りに参加させられたわけだ。

 いや、もう……、
 あの時は、本気で怖かった。

 ……マジで犯される、と思った。

 だって、俺に向かって来る、
浩平さんの姿が、一瞬、雅史に見えたくらいだし……、

 ――もちろん、抵抗はした。

 俺は、剣を抜いて、
魔法剣すらも発動させて、浩平さんと闘った。

 しかし、相手は、プロの傭兵……、
 俺程度の腕では、勝てるわけもなく……、

「レイプされた後の女の子って、こういう心境なんだろうな……」

「――貴重な経験だな」

「やかましいわっ!!」

 衣服を着終え、俺は、
焚き火の傍に腰を下ろすと、大きく溜息をついた。

 そんな俺の様子を見て、浩平さん(未だ全裸のまま)は、ウンウンと頷いて見せる。

「いや、実を言うと……、
俺も、さすがにヤバイかな〜、とは思ったんだ」

「……と言うと?」

「これは、本気で強姦だよな、って……、
暗かったせいか、最初は、お前の事、女だと思ったし……」

「……起 動セットアップ


 ――どっかんっ!


「ぶは……っ!!」

 聞き捨てならない事を言う浩平さんに、
俺は、間髪入れず、彼の顔面に向かって、攻撃魔術を放った。

 もちろん、怪我はしない程度に手加減はしたが……、

 言うに事欠いて……、
 なんて、失礼な事を言うんだか、この人は……、

「そ、そんなに怒るなよ……、
俺は、これでも、誉めてるつもり――」

「…………」(にっこり)

「OK、落ち着け……、
だから、そんなイイ笑顔で剣を構えるのは止めれ」

 俺の魔術を食らい、赤くなった鼻を擦りつつ……、

 それでも、尚……、
 ふざけた事をのたまう浩平さん。

 そんな彼に、俺は満面の笑みを浮かべ、ゆっくりと、剣を振り上げる。

 真っ赤に燃える刀身……、
 その炎は、まさに、俺の怒りの具現……、

 さすがに、俺が、本気で怒っているのが分かったのだろう。

 素直に謝る浩平さんに、
俺は、落ち着きを取り戻し、剣を収めた。

「――それにしても、随分と集めましたね?」

 もう、この話は止めよう……、

 そう考えた俺は、
浩平さんに、別の話題を振る事にする。

 とはいえ、出会ったばかりなので、ロクに話のネタも無く……、

 何気なく、周囲を見回した俺は、
儀式の為に使用されていた魔道具について訊ねてみた。

「まあな……今まで、色々と試して来たからな」

 俺の言葉に、浩平さんもまた、
周囲に置かれた魔道具を、感慨深げに眺める。

 魔方陣の要所に置かれた魔道具――

 貴重な物――
 在り来たりな物――
 用途が分からない物――

 その種類は様々だが、
その数は、個人の持ち物としては、かなりのものだ。

 さらに、訊くところでは……、

 浩平さんが、所有する魔道具は、
ここにあるだけに留まらず、ほとんどが、自宅に郵送されているそうな。

 つまり、それは……、

 今まで、彼が、どれ程の、
紆余曲折を経て来たのかを、如実に示しているわけで……、

「いつまで……続けるつもりなんですか?」

「――見つけるまで」

「そうですか……」

 訊ねる俺に、アッサリと答える浩平さん。

 その言葉から感じられる、
彼の強い意志に、俺は圧倒されてしまった。

 何の手掛かりも無いのに……、
 それでも、諦めなんて、微塵も感じられ無い。

 彼が進む道は、あまりにも、長く険しいというのに……、

 躊躇する事も無く、
平然と、その道を選んでしまうなんて……、

 もっとも――

 フル○ン姿のままで言われても、
カッコ良さは、半減どころか、マイナスなのだが――

 ――ってゆ〜か、いい加減、服着ろよ。

「やれやれ……」

 全裸であるにも関わらず……、
 浩平さんの、あまりに堂々とした態度……、

 その姿に、イチイチ指摘する気も失せ、俺は、深く溜息をついた。

 そして、全裸の男を、いつまでも、
正視してもいられず、俺は、やり場の無い視線をさまよわせる。

 と、そんな俺の様子に――

「興味があるなら、やるぞ?
どうせ、もう、必要無い物ばかりだしな」

 何を勘違いしたのか、
浩平さんが、そんな事を言ってきた。

 どうやら、周囲に置かれている、
魔道具に、俺が、興味を持っているように見えたらしい。

 まあ、確かに、興味が無い事も無いが……、

「いや、別に良いですよ……」

「遠慮するな……、
ってゆ〜か、持って行って貰えると助かる」

「ゴミ処理か……?」

「――おうよ」

「そういう事なら……」

 浩平さんの言葉に苦笑しつつ……、

 俺は、彼のお言葉に甘え、
魔道具の数々を、見せて貰う事にする。

 もしかしたら、役に立つ物があるかもしれないし……、

「う〜ん、どれどれ……」

 まず、俺が、真っ先に、
手に取ったのは、手近にあったアゾット剣――

 貯蔵されているべき魔力は、ほとんど空のようだが……、

 ――試しに、軽く、剣に魔力を通してみる。

 うあ、ダメだ……、
 まるで、ラインが繋がらない。

 魔道具としては、失敗作だな、これは……、

「さて、次は――」

 アゾット剣を元の位置に戻し、別の道具に目を向けた。

 そして、手にとっては、
次々と観察し、使えそうな道具を物色する。

 擦り傷のみを癒す杖――
 煙が出ない焼き魚用の金網――
 持っているだけで髪が伸びる護符――

     ・
     ・
     ・

 ――正直、ロクでもない道具ばかりだ。

 内心、少し期待していた俺は、
大いに落胆しつつ、呪いの掛かった腕輪を戻す。

 と、そこへ――



「んっ……?」



 俺の目に、ある物が飛び込んできた。

 布に包まれた一振りの剣――

 まるで、魅入られたように、
俺は、それを手に取ると、剣を包む布を解く。

 出て来たのは、刀身が二つに折れたロングソード――

 しかし、その柄に施された、
細かな装飾は、とても美しく、見事としか言い様が無い。

 この剣は、一体……?

「ああ……それは、カリバーンだ」

「へえ〜、これが……、
って、カリバーンだってぇぇぇぇーーーっ!?」

 浩平さんの何気ない一言……、

 今、自分の手にある、
剣の銘を聞き、俺は、素っ頓狂な声を上げてしまう。

 ……でも、それも無理はないと思うぞ。

 これが、あの有名な……、
 『カリバーン』だなんて言われたら、誰だって驚く。



 『勝利すべき黄金の剣』カリバーン――

 古代魔法王国時代――
 その時代に生きた英雄の一人――

 その名を『アーサー=ペンドラゴン』――

 カリバーンとは、アーサーが、
騎士王となる際、選定の岩より抜いた剣の事だ。

 史実では、その剣は、ガディム大戦中に、折れてしまい……、

 それ以後、アーサー王は、泉の妖精から、
エクスカリバーを託され、それで闘う事になるのだが……、

     ・
     ・
     ・



 そのカリバーンが……、

 アーサー王の……、
 騎士王物語の始まりとも云える、伝説の剣が……、

 まさか……、
 こんなところに……、

「本物……なんですか?」

「さあな……、
ちゃんと調べたわけでも無いし……」

「そ、それもそうか……」

 素っ気無い浩平さんの言葉に、俺は頷く。

 確かに、この折れた剣が、
本物のカリバーンという保証なんて、何処にも無い。

 でも、この美しさ……、
 この存在感は、とても偽者とは思えない。

 まあ、本物は、もっと凄いのかもしれないが……、

「どうする……欲しいのなら、やるぞ?」

「…………」

 浩平さんの言葉に、俺は考える。

 正直なところ、欲しい……、

 例え、本物のカリバーンではなくても、この剣は、素晴らしい剣だ。

 折れてはいるが、リーフ島に帰って、
母さんに頼めば、何とか鍛え直してくれるだろう。

 そうすれば……、
 この名剣は、俺の物に……、

 でも……、



「……やめておきます」



 俺は、再び、剣を布で包み、手放した。

 名残惜しくはあるが……、
 この剣は、俺なんかが持って良い剣じゃない。

 この剣を持つに相応しいのは……、

 一瞬、彼女の姿が脳裏に浮かんだ。

 セイバーさん……、
 魔術都市で出会った女騎士……、

 ――そう。
 彼女のような人こそが、担い手として相応しい。

 俺なんかには……勿体無い。

 そういえば……、
 例の騎士王の伝説では……、

 世界が危機に瀕する時、
騎士王は未来に蘇る、なんて記述があるが……、

 もしかして、それが、セイバーさんだったりして……、

 まあ、セイバーさんは、
女の子なんだから、そんな事は有り得ないんだけど……、

 っと、それはともかく――

「……他に欲しい物は無いのか?」

「特にありません……、
ってゆ〜か、この剣を見れただけで充分ですよ」

「そうか……じゃあ、始めるか」

 俺の言葉に頷き、浩平さんは、立ち上がる。

 そして、どういうつもりか……、
 四本の松明に、再び、火を灯し始めた。

「…………」(大汗)

 何やら、嫌な予感を覚え、俺は、後ずさる。

 既に、答えは分かり切っていたが……、
 それでも、一縷の望みを賭けて、俺は、浩平さんに訊ねた。

「は、始めるって……何を?」

「――第2ラウンドに決まってるじゃね〜か」

「だ、第2って……」

「この儀式は、一晩続けなきゃ意味無いんだよ」

「は、はは……」(滝汗)

 まさに、死刑宣告――

 浩平さんの無慈悲な言葉に、
俺は絶望のあまり、ガクッと膝をつく。

 そうか……、
 そういうことか……、

 だから、この人は、服を着ようとしなかったのか……、

 いや〜、納得納得――

 ――って、アホか!!
 のんびり構えてる場合じゃ無いってのっ!!

「と、言うわけで……」(ニヤリ)

「ひっ……」(怯)

 浩平さんが、こちらに目を向けた。

 その妖しく輝く眼光は――
 まさに、獲物を狙う獣のそれ――

 そして――



「脱げや、おらぁぁぁぁーーーーっ!!」

「いやあああぁぁぁぁ〜〜〜〜っ!!」(大泣)



 で、結局――

 俺は、一晩中……、
 男同士、裸の付き合いをさせられるのであった。





 しくしくしくしく……、(号泣)





<おわり>
<戻る>

原案:天城風雅
執筆:STEVEN