Leaf Quest
〜精霊の花嫁〜
『幕間 知られざる伝説』
ガディムを倒せる勇者を探し、
今日もヨークで空の旅を続ける四人の精霊王と一人の木こり……いや、戦士。
時々、ヨークを狙った魔物達がやって来るものの、
精霊王の力と、ヨークの砲撃にかなうものはありません。
それさえもアクセントになり、
空の旅はとても快適なものでした。
このお話は、そんな時に起きた、ちょっとしたトラブルの紹介です。
今日も今日とて、ヨークの中では一人の男性をめぐって、
四人の見目麗しい女性達が言い合っています。
いえ、激しく言い争っているのは、
氷の精霊王である千鶴と炎の精霊王である梓だけのようです。
氷と炎、相性はとても悪いようですね。
その上二人とも力が強いので、口喧嘩が取っ組み合いの喧嘩になれば、
いろんな物が壊れてしまいます。
しかもその確率は非常に高いので、
お腹の中で暴れられるヨークにとって、この主二人は悪玉病原菌のようなものでした。
その度にみんな、ヨークに謝りながら、ため息をつきつつ修理に励む事になります。
おとなしい性格の風の精霊王楓と、
人の良い大地の精霊王初音は、二人の姉をなだめようと必死です。
初音にとってヨークは大切な友達ですし、楓も可愛い妹の悲しむ姿は見たくありません。
それでも時折、自分も誰より耕一の事が好きだと、
さりげなく伝えるあたり、恋する乙女の心は複雑といったところでしょうか。
当の耕一は、四人の女性に想われてまんざらでもない様子。
一応、止めようとはしていますが、本気ではありません。
彼女達がそろってからは毎日の事ですので、
挨拶のような物と達観してしまっています。
けれど今日は、一段と激しい口論らしく、いつしか止めようとしていた、
楓と初音も千鶴と梓の間に割り込んで耕一への想いを主張しています。
まじりっけなし、純粋な愛情から生まれた言葉に、
傍で聞いていた耕一は嬉しいやら恥ずかしいやら、もうデレデレになっています。
数時間の想いのぶつけ合いの結果、埒があかないと、
四人は平和的にゲームで誰が一番耕一を想っているかを決める事になりました。
『強い愛情はどんな逆境にも無敵である』という論理です。
つまり、耕一を一番愛しているものがゲームに勝てると言うことのようですね。
最初は各種のトランプやチェスなどの卓上ゲームや、
魔法ビジョンを使った魔法ゲームで勝負していた彼女達ですが、
時間が経つほどにその内容はヒートアップ。
ほとんど、徹夜で行ってきたせいもあるのでしょう。
もう言動から理性の色がかなり抜けてしまっています。
審判を頼まれていた耕一など、
夜半を過ぎたあたりで椅子に座ったまま眠ってしまいました。
ついに一番短気な梓がキレました。
三人を相手取って、精霊王の力を解放しての決闘を挑みます。
千鶴は当然のごとく賛成し、
いつもなら止めに回る楓や初音もナチュラル・ハイになっていたために大乗り気です。
決戦です、聖戦です、バトルロ○イヤルです。
愛する人の一番になるためなら、姉妹の絆も大切な友人も関係ありません。
ついに、ヨークの中で四姉妹が激突します。
火の玉を氷の槍が迎撃し、風の刃を岩石の壁が受け止め、
艦内は阿鼻叫喚の地獄絵図です。
あまりの騒がしさに目を覚ました耕一はあわてて彼女たちを止めようとしましたが、
間の悪い場所に突入したために、四人の攻撃をまともに受けて気絶してしまいました。
そうなると黙っていない皆さん。
気を失った耕一を誰が看病するかで、またしても大バトル大会発生です。
自分のお腹の中で暴れまわる主たちに、ヨークは悲鳴をあげます。
けれど、誰も気にも留めません。
ヨークに目があるなら、滝のような涙を流した事でしょう。
内側から発生した爆発が外装をはぎ、
滑らかなヨークの外郭には幾つもの穴がうがたれていきました。
所々から煙を吐き、満身創痍でありながらも飛行を続けるヨークの姿は立派です。
けれど、少しずつ高度を下げているので、もう限界なのかも知れませんね。
そんなときに、運悪く魔物たちが襲ってきました。
普段なら一顧だにしない雑魚ですけれど今のヨークに戦闘能力はかけらも残ってません。
艦内に警報を鳴らしますが、四人はまったく気づきませんでした。
ヨークは仕方なしに回避行動を取りますが、ボロボロの体では思うように動けません。
代わりに、敵から攻撃は面白いように当たります。
そのうちの一撃が、内側から開けられた穴に飛び込みました。
それはちょうど、機関部のそばに開いた穴でした。
攻撃は、見事にヨークの機関部を爆破します。
その衝撃に、壮絶な姉妹喧嘩をしていた彼女たちも、ようやく事態を把握しました。
けれど全ては遅きに失しています。
彼女達に出来ることは、ヨークの爆発から愛する人をかばうことだけでした。
炎を上げて落下する黄金の船ヨーク――
その姿を見て駆けつけた世界最強の電波使いにして、
魔導士、長瀬祐介の手で彼女達は救出されます。
彼女達の無事を喜び、魔物たちに強い怒りを燃やす祐介一行に、
千鶴たちは引きつった笑いを浮かべる事しか出来ませんでした……、
<おわり>
<コメント>
祐介 「これは、ヒドイな……、
ここまで、徹底的に破壊されるなんて……」(−−メ
シオン 「外装よりも、内部の損傷が激しい。
どうやら、魔物に侵入され、内側から破壊されたのでしょう」(−o−)
香奈子 「……直すせそう?」(・_・?
シオン 「直せるかどうか、ではなく……、
絶対に、直さなければなりません」(−o−)
瑞穂 「そうですね……、
この船は、私達の唯一の希望なんですから」(^_^)
シオン 「その通りです……さあ、皆さん、手伝ってください!」(^_^)
瑞穂 「――はいっ!」(^○^)
耕一 「…………」(’’)
千鶴 「…………」(’’)
梓 「…………」(’’)
楓 「…………」(’’)
初音 「…………」(’’)