「テルトさ〜ん! がんばってくださいね〜!!」

「いってきま〜す」



 冒険者の店を出るテルト達――

 アイリに見送られる彼らの中には、
グラスランナーに変装した、エディフィルの姿があった。

 自分自身が、事件の証拠になるかも……、
 それが、半ば無理矢理ついて来たエディフィルの言い分である。

 確かに、彼女の言う通り……、

 今回の行方不明事件の、
生き証人として、エディフィルの存在は大きい。

 しかし、精霊使いとしての力があるとはいえ、
幼くなってしまった、今のエディフィルを同行させるのは危険である。

 とは言え、彼女を一人、
残していく事が出来ないのも事実……、

 何故なら、ジェシカとカルが、情報集めの為、ギルドに行っている時に……、

 何者かが放った矢によって、
エディフィルが狙撃される、という事があったのだ。

 犯人は、取り逃がしたものの……、
 幸い、放たれた矢は外れ、大事には至らなかった。

 だが、次も、そんな幸運に恵まれるとは限らない。

 ならば、同行させた方が、対処し易い……、
 というわけで、危険を承知で、エディフィルも連れて行く事になったのだ。

 尤も、どんな理由があったとしても……、

 ナイトハルトが、一緒である以上……、
 エディフィルは、意地でも、同行を希望しただろうが……、

「…………」(じ〜)

 で、そのエディフィルだが……、

 リーオに手を繋いで歩く、彼女の視線は、
ピッタリと、先を歩くナイトハルトの背中に張り付いている。

 表情からして、かなり機嫌は悪いようだ。

 ――エディフィルが怒るのも無理はない。

 いくら、彼女が変装をしており……、
 外見も幼くなってしまっている、とは言え……、

 ナイトハルトは、彼女が、
すぐ傍にいる事に、全く気が付いていないのだから……、

「――まるで、新婚夫婦だな?」

「……はい?」

 自分の真後ろで……、
 恋人が、ヤキモキしている事も知らず……、

 ナイトハルトは、隣を歩くテルトと、
店の看板娘のアイリとの関係をひやかしていた。

 店の前で手を振るアイリの姿は、
まるで、仕事に出掛ける亭主を見送る妻のようにも見える。

「テル兄……本命、誰なの?」

 テルトを巡る人間関係……、
 その事は、カルも気になっていたようだ。

 テルトの服の袖を引っ張り、カルも、二人の会話に入ってくる。

 だが、少年は――
 そんな二人の疑問に対し――

「……何がです?」

 言っている事が分からない……、
 と、キョトンとした顔で、小首を傾げて見せた。

 決して、とぼけているわけではない。
 その表情は、混じっ気無し、100%の“本気”である。

「……らぶらぶ、じゃないの?」

「僕が? 誰と、です?」

 テルトの鈍さに呆れつつも、めげずに、カルは訊ねる。

 だが、表現を具体的にしても……、
 “冒険”しか頭にない少年の反応は相変わらずだ。

 カルとナイトハルトは、顔を見合わせ、大きく溜息を吐く。

「カルくん……テルトちゃん、その辺は天然だから」

 後ろで聞き耳を立てていたのか……、
 そんなカルの肩を、ジェシカが、ポンポンと叩く。

「そうなんだ〜、ジェシ姉も大変だね〜」

「……まぁ、私の場合は、おちょくって楽しんでるだけだし」

 カマを掛けるカルの言葉を、
ジェシカは、サラリとかわし、肩を竦めて見せる。

 と、そんな雑談を交わしつつ――

 出発から小一時間――
 街の郊外へと出たところで――



「……その娘、渡して貰う」

「――っ!?」



 おそらく、待ち伏せていたのだろう。

 道の脇に茂る藪の中から、
怪しげな男達が、冒険者達の前に立ち塞がった。

 相手の数は四人――

 その内、三人は軽装で……、
 主格と思われる、残りの一人は、魔術師の姿をしている。

「エルさん、下がって!!」

 突然、現れた男達を警戒し……、
 剣を抜いたテルトが、エディフェルを庇うように前に出る。

 ちなみに、“エル”という名前は、
ナイトハルト対策の為の、エディフィルの偽名である。

「あの、いきなり、そのような、
横暴な口を利くのは、やめた方が良いと思います」

 テルトに続き、ゼルナもまた、前に進み出る。

 余程、ハリキッているのか……、
 ブンブンッと大斧を振り回す姿は、迫力満点だ。

「お前達は、何者だっ!?」

 油断無く、剣を構えつつ、テルトが、相手に訊ねる。

 だが、様子を窺っているのか……、
 男達は、無言のまま、彼の言葉には答えない。

 ――しばらく、お互いに沈黙が続く。

「……?」

 こちらの出方を窺っているのか……、
 相手の不可解な行動を、訝しむ冒険者達……、

 だが、ただ一人……、

 最も前に立っていた、
テルトだけが、相手の思惑に気付いた。

 ……微かに、聞こえたのだ。

 相手の魔術師が――
 密かに呪文を唱える声を――

「――みんな、気を付けてっ!!」

 何の魔法かは分からないが……、
 いきなり、呪文を唱えてくる以上、話し合う余地は無い。

 それに気付いた瞬間、テルトの行動は素早かった。

 叫ぶや否や、一気に、男達へと迫り、
魔法の発動を阻止しようと、魔術師に斬り掛かる。

 しかし、魔術師を守るように、
横から割り込んできた軽装の男に、斬撃を受けられてしまった。

「クッ……素早い……」

 おそらく、軽装の男は、盗賊なのだろう。

 テルトの剣を、短剣で受けた敵は、
そのまま、滑るように、テルトの懐へと潜り込む。

 敵の無駄の無い動きに、
戦慄を覚えたテルトは、咄嗟に、後ろに跳んだ。

 短剣の刃が、彼の鎧を僅かに削り、火花を散らす。

 その耳障りな音に、顔を顰めつつも、
テルトは、さらに剣を振るおうと、再び、間合いを詰める。

 と、それと同時に……、

「万物の根源たるマナよ! 安らかなる眠りをもたらせ!」

「――ちっ!!」

 敵の魔術師の魔法……、
 スリープクラウドが発動してしまった。

 間に合わなかった事を悔やみ、テルトが舌打ちをする。

 盗賊の一人と斬り結びながらも……、
 後ろを見れば、仲間達が、眠りをもたらす煙に包まれている。

 真っ先に飛び出したテルトだけが、
魔法の効果範囲から、間一髪で、逃れる事が出来たのだ。

 いや、それは違う――
 魔法から逃れたのは、テルトだけではなく――

「あの魔術師は、俺が抑える! あんた達は残りを!!」

 ――ナイトハルトが駆ける。

 盗賊の一人と闘うテルトの横を抜け、
呪文を唱え終えたばかりの魔術師に肉薄し、剣を振り下ろす。

 だが、またしても……、
 もう一人の盗賊が、立ち塞がり、彼の剣を受け……、

「邪魔を……するなっ!!」

 ……止められなかった。

 なんと、ナイトハルトの豪剣は、
敵の短剣を砕き、勢いを失う事無く、相手を斬り伏せたのだ。

「す、凄い……!!」

 豪快にして、鋭く……、
 その剣技は、決して、力だけのモノではない。

 たった一太刀で敵を倒した、
ナイトハルトの技量を目の当たりにし、テルトは息を呑む。

「――エディは、返して貰うぞ!」

 邪魔者を退け、ナイトハルトは、
さらに一歩踏み込むと、返す刀で、魔術師へと斬り掛かる。

 その一撃を、魔術師は、手にした戦鎚で、何とか弾き返した。

 どうやら、敵の魔術師は、
戦士としての技能も持ち合わせているらしい。

 しかし、その技量の差は歴然……、
 防戦一方の魔術師は、呪文を唱える余裕が無い。

「この野郎……調子に乗りやがって!」

 魔術師を援護しようと、
三人目の盗賊が、ナイトハルトを攻撃しようと短剣を抜く。

 だが、魔術師は、その仲間の行動を制した。

「構うなっ! せめて“アレ”だけでも奪えっ!!」

 仲間の意図を理解し……、
 三人目の盗賊は、踵を返して走り出す。

 そのまま、交戦中のテルト達の横をすり抜け……、

 向かう先は――
 後方にいる仲間達と――

「しまった……エルさんっ!!」

 敵の目的は、エディフィルの確保――

 それに気付いたテルトは、
駆け抜けていった盗賊の追撃を試みる。

 だが、目の前にいる敵が、それを許してくれない。

「ジェシカさん、カルさん……頼みますっ!!」

 盗賊の攻撃を防ぎながら……、
 先程の眠りの魔法に、抵抗する事が出来た二人に、テルトが叫ぶ。

「頼む、って……気楽に言われてもねぇ」

 テルトの叫び声と……、
 向かって来る盗賊の姿に、ジェシカは悩む。

 後衛であるリーオはともかく……、

 テルトの次に、前衛に立つべき、
神官戦士のゼルナまでもが、先程の魔法で眠ってしまっているのだ。

 元々は、傭兵育ちであるジェシカ……、

 故に、一応、戦士としての心得はあるが……、
 付け焼刃の技が、本職の盗賊に通用するとは思えない。

「杖以外に、武器も持っていませんし……」

 自分の迂闊さを悔やむジェシカ。

 となると、頼れるのは……、
 同じく、魔法に抵抗出来た、カルだけなのだが……、

「あら……?」

 ……気付けば、隣にいたカルの姿が無い。

 何処に行ったのか、と探してみれば……、
 彼は、眠っているエディフィルを抱え、サッサと、その場から退避していた。

「なるほど……」

 カルの素早い行動に、ジェシカは感心する。

 確かに、幼女という枷があるとしても……、
 俊敏なカルを掴まえるのは、容易な事ではないだろう。

「ほ〜ら、こっちこっち〜♪」

「クソッ、このチビ……ちょろちょろと!!」

 現に、盗賊は、ジェシカをそっちのけで、
エディフィルを抱えたカルを、躍起になって追い掛け回し……、

 カルは、そんな敵の手を掻い潜り、余裕の表情で逃げ続けている。

 しかし、そんな状況が、いつまでも、
続くとは限らないし、続けるつもりは毛頭無い。

 ジェシカは杖を構え……、
 本日、二度目の呪文を唱えると……、

「――安らかなる眠りをっ!」

 ……仲間諸共、眠りの魔法を発動させた。

 カルとエディフィル……、
 そして、彼らを追い回す盗賊が、パタッと倒れる。

「テルトちゃ〜ん、こっちは終わったわよ〜」

「凄いな……色んな意味で……」

 自分の魔法の出来に満足しつつ……、

 窮地を脱したジェシカは、
仲間達を、杖で小突き起こしながら、テルトに手を振る。

 そんな彼女の思い切りの良さに、
テルトは、感心すると同時に、呆れてしまった。

 仲間達だけ寝てしまったら、どうするつもりだったのか?
 それを承知の上で、眠りの魔法に、仲間を巻き込んだのだろうか?

 彼の好きな冒険譚『ファリスの猛女』では、
仲間諸共、ライトニングを放った、という魔術師もいるそうな。

 もしかして、ジェシカも……、
 そういう、物騒なタイプの魔術師なのだろうか?

「……うわっ、否定出来ない」

 剣を振るい続けながらも、
テルトは、脳裏に浮かんだ怖い考えに身震いする。

 そんな彼の相手をしていた盗賊も、ジェシカのクレイジーな行動を見たのだろう。

 すっかり、逃げ腰になり……、
 振るう短剣にも、先程までのような鋭さが無い。

「ええいっ……撤退だっ!!」

 敵は、形勢不利を悟ったようだ。
 魔術師が叫び、即座に、盗賊は指示に従う。

「このっ、逃がすか――」

「――テルトちゃんっ!!」

 背を向けて、逃亡を謀る魔術師達。

 それを追撃しようと、テルトは駆け出すが……、
 深追いするな、と仲間の鋭い声が飛び、彼は、足を止めた。

 確かに、ここで深追いするのは危険だ。

 こちらの体勢は崩れており……、
 今は、追撃よりも、それを立て直す事が先決である。

「この人……どうします?」

 テルトは、剣を収めると、軽く深呼吸をして、気持ちを落ち着かせる。

 そして、仲間の元へと戻ると、
未だ眠ったまま、放置されている敵を見下ろした。

「取り敢えず、動けないように、縛っちゃって」

「――はい」

 ジェシカの指示に従い、テルトは、
眠っている盗賊を起こさないように注意しながら、縄で拘束する。

「こっちも……一応、生きてはいるぞ」

「ちゃんと手加減してたんですね。
じゃあ、ナイトハルトさんは、そっちをお願いします」

 そこへ、ナイトハルトも、
先程、斬り伏せた盗賊の一人を、引き摺って来た。

 テルトは、そんな彼に、荷袋から取り出した、新たな縄を放る。

「それが終わったら、敵の本拠地に行きますわよ」

「急いだ方が良いですね……、
さっきの人達が、仲間に知らせているに違いません」

 ジェシカの言葉に、テルトが頷く。

 程無くして、敵の拘束も終わり……、
 その頃には、眠っていた仲間達も、目を覚ましたようだ。

 アッサリと眠らされた事が、余程、悔しいのだろう。

「――次こそは、ズンバラリンですっ!!」

 怒りに声を震わせながら……、
 ゼルナは、思い切り、大斧を地面に突き立てた。

     ・
     ・
     ・








「随分と、ボロい屋敷ね……?」

「まあ、だからこそ……、
悪人の隠れ家には最適なんでしょうね」



 目的地に到着し――

 その荒れ果てた光景を前に……、
 予想が外れたのか、リーオが顔を顰めた。

 子爵の屋敷、と言うのだから、
もっと小奇麗な洋館をイメージしていたのだろう。

 だが、実際は、そんな彼女の予想とは真逆であった。

 荒れ放題の庭――
 剥がれ落ちた外壁――
 割れた窓ガラスの数々――

 その有様は、貴族の屋敷、と言うよりは……、
 “元”貴族の屋敷、と表現した方が良いくらいに寂れている。

「まるで、幽霊屋敷……ですね」

「きゃ〜♪ ポルターガイスト、怖〜い♪」

 不気味な佇まいを前にした、
テルトの呟きに、リーオが、怯えたように、彼の腕に縋りつく。

 ――もちろん、わざとだ。

 彼女が怖がるポルターガイストの原因は、
そのほとんどが、屋敷妖精のブラウニーの仕業である。

 ならば、精霊を見る事が出来るリーオが、それを怖がるわけがない。

 ようするに、毎度の如く……、
 テルトをからかって、遊んでいるだけなのだ。

「あわわわっ!? リ、リーオさん!?」

「色々と大変だな、テルト君……」

 リーオに玩具にされ、身を強張らせるテルト。
 そんな初心な少年の様子を眺め、ナイトハルトが苦笑している。

 テルトも、いい加減に、
こういう状況に、免疫が出来ても良いのだが……、

 ただ、今回のリーオの悪戯は、
テルトの腕に、自分の胸を押し当てたりと、少々、度が過ぎていた。

 どうやら、先の戦闘で臨時収入があったので、機嫌が良いのだろう。

 ちなみに、その臨時収入とは……、
 捕まえた盗賊達が持っていた、現金や魔晶石の事である。

 テルトとナイトハルトが、盗賊達を、
拘束している最中に、ちゃっかりと回収してきたのだ。

 ちなみに、縛り上げた盗賊達は、その場に放置してきた。

 逃がした魔術師達は、間違いなく、
冒険者達がやって来る事を、仲間に知らせているだろう。

 そして、今頃は、本拠地から逃げ出す算段をしている筈だ。

 ならば、わざわざ、街に戻って、
捕えた者達を、官憲に突き出している暇など無い。

 それ故に、休憩する時間も惜しみ、急いで、ここまで、やって来たのだ。

「……どうやって、潜入するの?」

 藪の影に身を潜め……、
 冒険者達は、屋敷の様子を窺う。

 仲間に方針を訊ねるカルの目は、既に盗賊のそれだ。

 おそらく、屋敷の外観から、内部の構造を予測しているのだろう。

 訊ねながらも、カルの指は、
素早く動き、地面に、大雑把な見取り図を描いていく。

 ――屋敷は、二つの館に分かれていた。

 二階建ての本館と、その右脇にある別館……、
 二つの館は、それぞれが、渡り廊下によって繋がっている。

「入り口は……三つ、かな?」

 屋敷の見取り図を描き終え、
カルの指が、潜入可能な三箇所を、トントントンッと叩く。

 一つは、本館の玄関……、
 残り二つは、別館と渡り廊下の窓である。

「いっその事、正面突破する?
どうせ、こっそりと忍び込むのは無理なんだし……」

 そう言って、ジェシカが、テルトを始めとする戦士組を見る。

 戦士が装備する金属鎧は、身動きする度に、
鉄同士が擦れ合う音がするので、隠密行動は無理なのだ。

 とは言え、敵の本拠地に、
堂々と、正面から入るのは、あまりに無策なのだが――

「良いかもしれませんね……、
どうせ、敵は、僕達が来ることを知っているんですし……」

「裏の裏を掻けるかもしれないですっ!」

 ――意外にも、ジェシカの提案に、皆が乗ってきた。

「よしっ……行くぞ」

 アッサリと方針が決まり……、
 冒険者達は、武器を手に、正面玄関の前に立つ。

 そして、盗賊であるカルが、
罠の有無を調べようと、扉に取り付き……、

「……あれ?」

 玄関の扉には、罠どころか……、
 鍵すらも掛かっていない事に気が付いた。

 ただ、その代わりに……、
 謎めいた文字が記された張り紙が……、

「……ゼル姉、何て書いてあるの?」

 実は、共通語が読めないカルは、
扉に張られた紙の内容を、ゼルナに訊ねる。

この扉を通る者、汝一切の希望を棄てよ”……?」

「……あからさまに、妖しいですね」

 貼り紙を読み上げるゼルナと……、
 それを聞いていたテルトが、その内容に首を傾げる。

 見れば、他の仲間達も、同様に、頭を捻っている。

 いや、ただ一人だけ……、
 ジェシカが、テルトの頬を突付くと……、

「さあ、テルトちゃん……お答えは?」

 彼女には、もう、答えが――
 この文章の意味が分かっているのか――

 ――まるで、試すように、テルトに判断を迫った。

「………」

 ジェシカの言葉に、考え込むテルト……、

 そして、暫く考えた後……、
 おもむろに、貼り紙に手を伸ばすと……、

「考え込んでる時間は無い。
こんなのは無視して、窓から入っちゃいましょう」

 と、皆が止める間も無く……、
 貼り紙を、ビリビリッと、破り捨ててしまった。

 ――そう。
 これが、最良の選択であった。

 今、冒険者達にとって、最大の敵は時間である。

 こんな所で時間を費やすのは、
犯人グループに、逃げる時間を与えるだけだ。

 つまり、ジェシカは、文章の意味ではなく、
現状で、何を優先するべきかを、テルトに問うたのだ。

「正解よ、テルトちゃん♪
良く気が付いたわね、えらい、えらい♪」

 見事に、正解を導き出したテルトに、
ジェシカは、ご褒美とばかりに、彼の頭を撫でる。

「また、そうやって……」

 子供扱いをされ、憮然としつつも、テルトはされるがままだ。

 イヤそうな顔をしつつも……、
 頭を撫でられるのが、好きなのかもしれない。

「じゃあ、どっちから入ろうか?」

「う〜ん、そうですねぇ……、
かるかるさんは、どっちが良いと思います?」

 端から見れば、じゃれているようにしか見えない二人……、

 そんな二人を放っておいて、
カルとゼルナが、何処から入るか検討を始める。

 すると、リーオは、突然、持っていた杖を地面に立て……、

「――別館に行こう」

 パタッと、杖が倒れたのは右側……、
 何とも大雑把な根拠で、侵入場所が決定された。

「……まあ、いいか」

 いい加減な方法ではあるが、反対する理由も無い。

 無意味に迷っているよりは……、
 と、冒険者達は、別館の窓から、侵入を開始した。

     ・
     ・
     ・








「じゃあ、カルさん……、
罠とか調べるのは、頼みますね」

「――おっまかせ〜♪」



 可能な限り、静かに……、
 冒険者達は、屋敷の内部を探索する。

 その途中、テルト達は、
事件に関する、様々な証拠物件を発見した。

 まず、最初に見つけたのは、大量の女性用の服……、

 その衣類の山の中に、
エディフィルが、幼児化する前に着ていた服もあり……、

 この事から、この屋敷が、犯人グループの本拠地である事が裏付けられた。

 ちなみに、この時に、衣類の中にあった、
下着やメイド服に、ナイトハルトが、だらしなく鼻の下を伸ばし……、

 その様子を見た女性陣……、
 特に、エディフィルに、白い目で見られる事もあったり……、

 次に、発見したのは……、
 数種類の薬品と、大量の研究資料であった。

 その中には、魔術師ギルドから、
横流しされた物と思われる、エターナルチャイルドがあり……、

 ……さらには、眠り薬や、惚れ薬といった物も保管されていた。

 軽く資料を調べてみると、
どうやら、ここで、薬の調合をしていたらしい。

 『スモール・スリーピングビューティー』――

 服用者を眠らせ、幼児化させる効果を持ち……、
 しかも、目覚めて最初に見た相手に、服従を強いる薬である。

 それは、まさに……、
 童話にある『白雪姫』の如く……、

 また、それらの薬を利用して、
寿命を延ばす薬の研究も、同時に行っていたようだ。

 尤も、どちらの薬も、
未だに、完成には至っていないようだが……、

「――これって、解毒剤?」

「じゃあ、これを飲めば……、
エルさんは、元の姿に戻れるんですねっ!」

 もちろん、幼児化に対する解毒剤も見つける事が出来た。

 早速、エディフィルに、
その解毒剤と、先程、見つけた服を渡し……、

 ……他の冒険者達は、一旦、部屋を出る。

「なあ、一体、どういう事なんだ?」

「ふっふっふっふっ……、
まあ、ここで、大人しく待っていなさいな♪」

 事情の説明も無いまま、
部屋を追い出され、ナイトハルトは、首を傾げる

 そんな彼の様子に、笑いを堪えるリーオ。

 きっと、エディフィルの姿を見た時の、
ナイトハルトが驚く様を、想像しているのだろう。

 そして、しばらくして……、
 ゆっくりと扉が開き、部屋の中から……、



「エ、エディフィル……ッ!?」

「――お久しぶり、ナイトハルト」(にっこり)



 すっかり、元の姿に戻り……、

 唐突に、目の前に現れた、
自分の相棒を見て、ナイトハルトが、目を見開く。

 突然の出来事に、彼が驚くの無理はない。

 まさか、今まで、一緒にいた幼女が、
自分の相棒だったとは、夢にも思わなかったのだから……、

 ――それが、彼に不幸を招く事となる。

「エディフィル……、
良かった、無事だったの……か?」

「ナ・イ・ト・ハ・ル・ト〜?」(にっこり)

「ひっ……!」

 一瞬、驚きはしたものの……、
 相棒との再会を果たし、ナイトハルトは歓喜する。

 だが、冷笑を浮かべるエディフィルに、彼の表情が固まった。

「ナイトハルト……ちょっと良いかしら?」(怒)

「は、はい……」(涙)

 怖い笑みを浮かべたまま……、
 エディフィルは、ナイトハルトを手招きする。

 冷汗を流しながら、それに従うナイトハルト……、

 そして、部屋に入ると……、
 再び、ゆっくりと扉は閉められ……、

「あっ……サイレンス、使った」

 精霊使いのリーオのみが、
部屋の中で、風の精霊力が働いた事に気が付いた。

 エディフィルの仕業であろう――
 その効果は、空気の動きを止め、音を消す力――

「女は怖いのよ……、
テルトちゃんも、気を付けないとね」

「何で、僕に話を振るんですか……?」

「さあ、何でかしらね〜」

 と、そんな雑談をしつつ……、
 微妙な沈黙の中、冒険者達は、二人が出てくるのを待つ。

 そして、しばらくして――

「お待たせ……それじゃあ、行きましょうか」

「…………」

 晴れ晴れとした表情で、
エディフィルが、軽い足取りで、部屋から出てくる。

 彼女の後に続くナイトハルトの両頬には……、

 それはもう、立派な……、
 真っ赤な紅葉模様が刻まれていた。

     ・
     ・
     ・








「あらあら、これは……」

「……酷いな」



 別館から、渡り廊下を抜け――

 本館への扉を開けた瞬間……、
 冒険者達は、その異様な光景を前に、言葉を失った。

 そこは、本館の玄関ホールであった。

 エントランスホールとなっており、
明りは灯ってはいないが、天井には、豪華なシャンデリアが飾られ……、

 正面には、二つの大きな階段は、
左右対称のアーチを描きながら、二階へと続いている。

 尤も、その階段は、両方とも、途中で崩れており、その用途を失っているが……、

 その崩れた階段の間には……、
 応接間に続いているであろう、大扉があった。

 薄汚れてはいるものの――
 オーソドックスな洋館の玄関ホール――

 だが、その玄関ホールには、
本来、在り得ないモノが、鎮座していた。

「なんだよ、これ……?」

 幾つものガラスケース――

 整然と並べられた、透明の箱の中――
 裸体の上にシーツを掛けられ、昏々と眠る女性達――

 その扱いは、まるで……、
 店内に陳列される商品のような……、

 いや、間違いなく……、

 ここにいる女性達は、
犯人グループにとっては、全て商品なのだ。

 そして、この屋敷は――



 奴隷商人達の――

 取引される商品の展示場――



「同じ人間なのに……、
どうして、こんな真似が出来るんだ……?」

「はいはい、男どもは見ないように」

 奴隷商人達の所業を前に、怒りに震えるテルト……、

 と、そんな彼の両目を、
すぐ後ろにいたジェシカが、素早く手で覆う。

 ナイトハルトに至っては、
ゼルナに、大斧の柄で、鳩尾を殴られていた。

 一応、依頼人であるにも関らず……、
 先の一件の後、突然、仲間内での、彼の扱いが、かなり悪くなっている。

 実は、かなりの女好きであったナイトハルト……、

 ならば、彼の恋人兼相棒である、
エディフィルとの喧嘩の原因も、容易に想像が出来るわけで……、

 それ以降、女性陣(特にゼルナ)の、
彼に対する評価は、一気に下落してしまったのである。

「ああっ、チャ・ザ様っ!
今、ここに、罪人を引きずり出したまえっ!」

「ふむ……一応、ゴールね」

 ナイトハルトを殴っても、あまり気が晴れなかったのか……、

 犯人達へと怒りを堪えきれず、
ゼルナが、大斧を振り回しながら、大きく吼える。

 そんな興奮気味のゼルナとは逆に、
ジェシカは、周囲を観察しながら、冷静に状況を整理する。

 ――決定的な証拠は得た。

 例え、圧力が掛かっていようと、
これだけの証拠があれば、官憲を動かせるだろう。

 ならば、自分達の仕事は終わりだ。
 ここから先は、新米冒険者には荷が重過ぎる。

 何故なら、この事件……、
 場合によっては、ドレッグノールの盗賊ギルドを……、

 あの『地下王』ドルコンを、
敵に回す羽目になるかもしれないのだ。

 いくらなんでも、そんな危険な真似は御免である。

 ここから先は、官憲に任せ――
 サッサと、手を引くのが一番なのだが――

「――もう、手遅れよね」

 テルトの様子を見て、
ジェシカは、諦めたように溜息を吐く。

 ジェシカの手に、目を塞がれたまま……、

 血が滲む程に拳を握る……、
 世間知らずで、正義感の塊のような少年……、

 もう、彼は、自分の手で、
犯人を捕まえなければ、気が済まないだろう。

 となれば、当然、自分達も、
テルトに付き合わなければならないわけで……、

「まったく、手の掛かるお子様だこと……」

「それって……僕のこと、言ってます?」

 ジェシカの呟きが聞こえたのか……、
 未だ、目隠しをされたまま、テルトが拗ねる。

 ようやく、怒りを抑え、落ち着きを取り戻したようだ。

 いつもの少年に戻った事が、
何となく嬉しく、ジェシカは苦笑を浮かべる。

「あら、違うとでも……?
なんなら、この手を離してあげましょうか?」

「テル君、照れちゃって可愛い〜♪
後で、お姉さんと一緒に、お風呂にでも入る〜?」

 ジェシカが、目を隠す手の力を緩めた途端、テルトの顔が真っ赤になる。

 その様子を見て、リーオも、
いつものように、テルト弄りに加わってきた。

「け、けけけ、結構です〜!」(真っ赤)

 しなだれ掛かるリーオを、振り切り、
テルトは、大扉を調べるカルの元へと逃げていく。

「姉貴分は、大変ね〜」

「……お互いにね」

 顔を見合わせる、ジェシカとリーオ――

 そして、同時に肩を竦めると、
仲間達の後に続き、大扉の前へと向かった。

「……かるかるさん、何か聞こえますか?」

「ちょっと、静かに……」

 興奮が治まっていないのか……、
 扉に耳を当て、中の様子を窺うカルを、ゼルナが急かす。

 そんなゼルナを、軽く手で制し、
カルは、再び、意識を聴覚に集中させた。

「…………」

 聞き耳を立てるカルを、仲間達は、固唾を飲んで見守る。

 そして、何かを感じ取ったのか……、
 扉から耳を離すと、カルは、仲間達を振り返った。

「……何か聞こえたんですか?」

「え、えっとね……」

 中の様子を訊ねられるが、カルにしては、珍しく、返答の歯切れが悪い。

 そして、カルは、少し迷った後、
微妙に引き攣った笑みを浮かべると……、



「男の荒い息遣いと……女の呻き声、かな?」

「「――っ!!」」



 次の瞬間――

 罠の有無を確認するのも待たず……、
 ジェシカとリーオが、テルトを、部屋の中へと蹴り入れた。

「うわっ……たたっ!?」

 大扉をブチ破り、テルトは、部屋の中へと転がり込む。

 埃に塗れながらも……、
 テルトは、床の上を転がり、体勢を整える。

 そして、体を起こし――
 部屋の内情を見た途端――

 ――彼の行動は、驚く程に素早かった。

「やめろっ!! 今すぐ、彼女から離れるんだっ!!」

 部屋の中で、テルトが見た光景――

 それは、半裸に剥かれた少女が――
 大きなテーブルの上で、小太りの男に押し倒され――

「離れろと――」

 突然の乱入者に驚いているのだろう。
 少女を襲おうとしていた男は、目を見開いたまま、体を硬直させている。

 そして、猿轡を噛まされた少女は、
涙を浮かべた瞳で、必死に、テルトに助けを求め……、

「――言っているだろうっ!!」

 もう、テルトには……、
 男が動くのを待つ事など出来なかった。

 一刻も早く、少女を助けようと、
テーブルの上に飛び乗り、男の鳩尾を蹴り上げる。

「ぎゃっ……!!」

 蹴られた衝撃で、テーブルから落下し、
痛みにのた打ち回る男を、テルトが、怒りに燃える瞳で見下ろす。。

 そして、剣を振り上げ――
 容赦無く、男の胸に剣を突き立て――

「――火の精霊よ、猛き矢となれっ!!」

 テルトの剣よりも早く……、
 リーオの放った炎の矢が、男を弾き飛ばしていた。

「落ち着け、テルト君っ!!
気持ちは分かるが、殺すのはダメだっ!!」

「でも……でも……っ!!」

 素早く駆け付けたナイトハルトが、剣を持つテルトの手を押さえる。

 力で勝る彼に止められてしまっては、
もう、テルトには、それを振り払うどころか、身動きすら取れない。

 だが、それでも……、
 少年の殺意は、あの男に向けられたままだ。

 ――テルトとて、馬鹿ではない。

 殺してはいけない……、
 そんな事は、言われなくても分かっている。

 しかし、頭では分かっていても、感情が理解してくれない。

 あと少しでも遅れていたら、
少女は、心と体に深い傷を負っていただろう。

 いや、彼女だけではない……、

 事件が起こったのは、約一ヶ月前……、
 ならば、この男の所業は、毎日のように行われていたに違いない。

 一体、今日までに、どれだけの、
罪も無い女性が、この男の餌食になってきたことか……、

 その無念を考えるだけで、
抑え切れない殺意が湧き上がってくるのだ。

「大丈夫よ、テルトちゃん……、
あの外道には、死よりもツラい目に遭って貰うから……」

「ジェ、ジェシカさん……」

 同じ女として、許せないようだ。

 テルトの肩を叩く、ジェシカは、
かつて見たこと無い程に、怖い笑みを浮かべている。

 いや、よく見れば……、
 ジェシカだけでなく、女性陣全員が……、

「ここは、私達に任せて……、
テルトちゃんは、あっちをお願いするわ」

 そう言って、ジェシカが示したのは、半裸の少女……、

 余程、恐ろしかったのだろう……、
 少女は、その細い腕で、精一杯に体を隠し、身を震わせている。



 ――“女の子には優しくしなきゃダメよ”。



 怯える少女の姿を見て、
テルトは、故郷にいる姉の言葉を思い出す。

 ゆっくりと、剣を鞘に納めるテルト……、

 そして、大きく深呼吸をすると、
テーブルを覆う、白いクロスを引き剥がし――

「もう安心です……、
遅くなって、すみませんでした」

 ――それで、少女の体を包み込んだ。

「うっ……あああ……」

 同年代の少年の優しい声に……、
 緊張の糸が途切れたのか、少女が、嗚咽を漏らす。

 泣き始めた少女の背中を、テルトは、ややぎこちない手付きで撫でる。

 そして、少しでも落ち着けるように、
乱れた少女の髪を、何度も、手で梳き続けた。

「流石だね、テル兄……」

「まったく……あれで、下心は皆無なのよね」

「あんなに優しくしてもらって……、
ちょっとだけ、あの子が羨ましいかな〜……」

「エディ……それは、どういう意味だ?」

「ん〜? 言葉通りよ」

 テルトと少女の様子を眺め、
それぞれの反応を見せる冒険者達……、

 あの少女は、テルトに任せておけば大丈夫だろう。

 と、冒険者達は、改めて、
床に転がったままの、小太りの男に向き直った。

 先程の精霊魔法で、かなり焦げてはいるものの……、

 その身形は、かなり良く……、
 この男が、イリアス子爵の馬鹿息子だと分かる。

「さてと、テルトちゃんと約束しちゃったし……」

「あなたには、死ぬよりもツラい……、
ロマールの盗賊ギルド流の尋問を受けてもらいましょうか?」

「じゃあ、背中の毛を剃ろ〜♪」

「ひ、ひいぃぃ〜っ!!」

 それはもう楽しそうに、カルが、短剣を構える。

 鋭い輝きを放つ銀色の刃……、
 それを目の前に出され、馬鹿息子の顔が引き攣った。

 ――“背中の毛を剃る”。

 何処の誰が言い出した事なのか……、
 それは、ロマールの盗賊ギルドの、尋問を示す代名詞である。

 ロマールの盗賊ギルド――
 構成員は千人を越え、大陸最大規模を誇る――

 そんな大きな組織には、
あまりに似合わない、ふざけた表現……、

 本来なら、笑い話になるようなネタで……、
 実際、ギルドの構成員は、軽い冗談の様に、この表現を使う。

 だが、素人にとっては、全く逆で……、

 そんな冗談が、余計に恐ろしく……、
 否応無く、聞いた者の想像力を掻き立てるのだ。

 ふざけた表現を使わなければならない程に――

 実際の行為は――
 壮絶なモノであるのだろうか、と――

「悪かったよぉ……、
金は出すから勘弁してくれよぉ……」

 案の定、たった一言で、
馬鹿息子は、アッサリと敗北を認めた。

 恥も外聞も捨て、額を打ち付ける様に、土下座をしてみせる。

「無論、そちらはそちらで、きちんと払ってもらいますが……」

「お金だけじゃ済まさないわよ。
あなたには、機嫌良く唄って貰うから、覚悟しなさい」

「はい、何でも喋りますっ!
ですから、背中だけは、ご勘弁を〜っ!」

 ゼルナの大斧の切っ先を、
喉元に付き付けられ、馬鹿息子は、必死に許しを請う。

「……ボクは、あいつらに協力してただけなんだよぉ」

 そして、冒険者達に訊ねられるまま……、
 情けなさ全開に、ペラベラと、事件の真相を話し始めた。

 と言っても、その内容は、
ほとんどが、冒険者達の推測を裏付けるモノばかりで……、

 新たに得られた情報は――
 犯人グループの黒幕の名前のみ――

 その名を『ダリス』――

「……親玉のダリスって、何者?」

「それは分からないよぅ……、
ただ、場所を提供すれば、女を宛ってやる、って言われたから……」

 馬鹿息子の言葉を聞き、
冒険者達の顔に、焦りの色が浮かんだ。 

 この男は、重要な情報を、何も知らされていない。

 他の犯人を逃がす為に……、
 時間稼ぎとして、敢えて、置き去りにされたのだ。

 利用するだけして、切り捨てる……、

 つまり、この男は……、
 単なる、トカゲの尻尾に過ぎない。

 おそらくは、先の戦闘で退却した、
あの魔術師達は、この男には、何も告げなかったのだろう。

 そう考えれば、冒険者達が、ここに向かっているにも関らず……、

 馬鹿息子が、こんな所で、
ノンキに、少女を襲っていたのも頷ける。

「おいっ! 他の仲間は何処に行った?!」

 ナイトハルトが、その怪力で、馬鹿息子の襟首を掴み、体ごと持ち上げる。

「し、知らないよ……、
そう言えば、さっきから、姿が見えないけど……」

「――ちっ!」

 足を宙に浮かせ、苦しげに、
顔を歪めつつも、答えを搾り出す馬鹿息子。

 その答えに、舌打ちをし、
ナイトハルトは、馬鹿息子を投げ捨てた。

「まんまとやられたな……、
もう、あれから、かなり時間が経ってるし……」

「ああっ、何てことでしょうっ!!
みすみす、犯人を逃がしてしまうなんて……っ!!」

 余程、悔しいのか……、
 再び、床に転がった馬鹿息子を踏むように……、

 ……いや、本気で踏みながら、地団駄を踏む。

「ゼルナ姉……ちょっと静かに」

「はい……?」

 気絶する馬鹿息子……、
 そんな相手を、尚も踏み続けるゼルナを、カルが制した。

 目を閉じ、耳を澄ますカルに、皆が口を閉ざす。

 そして、カルは……、
 自信無さげに、屋敷の外を指差すと……、

「屋敷の裏から、馬の鳴き声が聞こえたような……」

「――それよっ!!」

 真っ先に、リーオが駆け出した。
 それを追って、他の冒険者達も、裏口へと向かう。

「あっ、えっと……」

 ただ、一人だけ……、
 少女を宥めていたテルトを残して……、

「行ってください……私は、もう、大丈夫だから……」

 自分の腕の中の少女と、走って行く仲間達を、テルトは、交互に見比べる。

 どうするべきか迷うテルトに、
少女は、涙を拭うと、気丈にも微笑んでみせた。

「……すぐに戻ります」

 抱いていた少女を放し……、
 剣を抜いたテルトは、仲間の元へと駆けて行く。

 その背中を見送りながら……、

 健気な少女は……、
 冒険者達の無事を祈るのだった。

     ・
     ・
     ・








「見つけましたよ、誘拐犯っ!
潔く、その身に神の裁きを受けなさいっ!!」

「――何だ、お前らはっ!?」



 僅かに聞こえた馬の嘶き――

 その鳴き声だけを頼りに、
冒険者達は、裏口から、屋敷の裏庭へと飛び出る。

 彼らが、そこで見たモノは……、
 例のガラスケースを積んだ馬車と……、

 ……それを護衛する傭兵達であった。

「お、おお、お前ら、早く何とかせんかっ!!」

「そう騒ぐんじゃねぇっ!!
後ろに下がっていろ、殺られたいのかっ!!」

 御者台に座る商人が、悲鳴まじりに、傭兵達に命ずる。

 彼が、傭兵達の雇い主なのだろう。
 商人を守るように、数人の男が、冒険者達の前に立ち塞がった。

 その中には、先刻に闘った、魔術師達の姿もある。

「一応、訊きますわ……、
あなた達、大人しく、投降する気は?」

「はっ……あるわけねぇだろ」

「あらそう、残念ですわ……、
じゃあ、少々、痛い目を見て貰いましょうか」

 トントンと、杖で肩を叩きつつ……、
 ジェシカは、挑発にしか見えない態度で、降伏勧告をする。

 それを鼻で笑い飛ばし、
傭兵達が、それぞれの武器を構えた。

 ……いや、彼らだけではない。

 戦闘態勢に入った傭兵達の後ろで、
喚き散らしていた商人までもが、妖しい動きを見せる。

「――闇に巣食う者よ、我に従えっ!」

 商人が、荷台の奥から、
持ち出したのは、一抱え程の薄汚い壷……、

 その壷の蓋を開け、呪文を唱えた途端……、
 禍々しいまでに、ドス黒い煙が、壷の中から噴出した。

 その黒い煙を掻き分けるように……、

 漆黒の体毛、真紅の瞳――
 狼に似て非なる、翼を持った巨大な体躯――

 悪の権化とでも言うべき……、
 邪悪なる異界の獣が、現世へと姿を現す。



「ギィエェェェェェーーーーッ!!」

「下位悪魔……アザービーストかっ!」



 ――魔獣の咆哮が響き渡る。

 それが合図となり……、
 冒険者達と傭兵達の闘いが始まった。

「デカブツは、俺達が引き受けたっ!」

「あなた達は、馬車の確保をっ!!」

 ナイトハルトとエディフィル……、
 ベテラン冒険者が、アザービーストと対峙する。

 悔しいが、今のテルト達の実力では、アザービーストには太刀打ち出来ない。

 先輩冒険者の言葉に頷き、
テルト達は、傭兵達を倒すことのみに専する。

 ……いや、それだけではダメだ。

 見れば、商人を乗せた馬車は、今にも走り出し、逃げようとしている。

 あれを確保する為には、
瞬時に、傭兵達を無力化しなければならない。

 しかし、それは無理な話だ。
 何人もの傭兵を、そう簡単に倒せるわけがない。

 ただ、一つの方法を除いて……、

 そして、この場には……、
 その方法を使える者が、二人いた。



「「「「「――っ!」」」」」



 目配せをする五人の冒険者達――

 たったそれだけで……、
 彼らは、己のやるべき事を理解する。

「カルさん、前に出ますよっ!」

「――オッケ〜!」

 仲間を守る為、剣を構える、
剣士の言葉に頷き、盗賊もまた、短剣を抜く。

「……我が活力を、分け与えたまえっ!」

 神官は祈りを捧げ……、
 それを必要とする仲間に、精神力を付与する。

 そして……、
 “二人の”魔術師が……、



「マナよ、万物の根源よ――」

「――彼の者達に、すみやかなる眠りをっ!」



 ジェシカとリーオ……、

 杖を翳す、二人の呪文が……、
 唱和するように、一つの魔法を紡ぎ上げる。





「「――スリープクラウドッ!!」」





 眠りの魔法の二重発動――

 流石に、歴戦の傭兵達も……、
 二人掛かりの魔法には、抵抗出来なかった。

「うっ……そんな……」

 まさか、相手に、魔術師が、
二人もいるとは、思ってもいなかったのだろう。

 悔しげな呻ぎ声を上げ、パタパタと倒れていく傭兵達……、

 ――そう。
 ここに、魔術師は二人いた。

 二人目の魔術師の正体は、リーオ……、

 彼女は、精霊使いとしての技能だけでなく……、
 隠し技として、魔術師としての技能も、合わせ持っているのだ。

「高い金を払ったのに……この役立たず共めっ?!」

 テルトとカルが、眠っている傭兵達の、武器を回収していく。

 アッサリと負けた傭兵達に、
憤慨しつつ、商人は、魔獣に期待の眼差しを向けた。

 これで、彼を守る者は……、
 壷から召喚された、魔獣だけなのだ。

 だが、最後の頼みの綱も……、
 たった二人の冒険者に、苦戦を強いられ……、

「ギィ、ギィエェェェェェーーーーッ!!」

「……クッ!」

 いや、それは違った……、

 意外にも、魔獣は善戦し……、
 寧ろ、ナイトハルト達の方が、苦戦しているように見える。

 何故なら、幼児化していた影響か……、

 今のエディフィルは、本調子ではなく……、
 ナイトハルトは、そんな彼女を、守りながら闘わなければならないのだ。

 いくら、ナイトハルトが、優れた戦士とはいえ、
本来の実力を発揮出来ぬ状態で、魔獣と闘うのは至難の技である。

 それを、獣の本能で感じ取ったのか……、

 魔獣は、目の前の剣士ではなく、
後ろのエディフィルに、優先的に攻撃を仕掛ける。

 ナイトハルトは、彼女を庇う為に、
魔獣へ攻撃する機会を、何度も捨てざるを得ない。

 徐々に、徐々に……、
 戦士の体に、魔獣の爪による傷が増え……、

 そのダメージの積み重ねが、
ナイトハルトの剣捌きの鋭さを奪っていく。

「今、行きます! ナイトハルトさんっ!!」

 ――このままでは、ジリ貧だ。

 彼らの戦況を見たテルトが、
加勢をするために、戦場へと駆け出す。

 だが、ジェシカの鋭い声が、彼を制止させた。

「そこで、止まりなさいっ!!
テルトちゃんが行っても、ただの足手纏いよっ!!」

「分かっています! でも……っ!」

 自分では、魔獣には敵わない。
 そんな事は、言われなくても分かっている。

 でも、見捨てられない……、
 ここで、立ち止まってはいられない。

 そんな想いを込めて、テルトは、ジェシカに抗議の目を向ける。

 だが、ジェシカは……、
 そんな彼に、珍しく優しい声で……、

「良いから、落ち着いて……、
テルトちゃんの武器は、剣だけじゃないでしょ?」

「……あっ」

 ジェシカの言葉に、テルトは、ハッとなる。

 その意味を、即座に理解した彼は、
すぐさま、背負っていた、折り畳み式のクロスボウを取り出した。

 練習では、いつも手間取るのだが……、

 奇跡でも起きたのか……、
 今回は、自己最高記録で、矢を番える。

「隙を見て、一斉射撃っ!
タイミングの合図は、カルくんに任せるわっ!」

 ジェシカの指示に従い、
冒険者達が、それぞれの武器を構え、狙いを定める。

 タイミングを計る役目は、狩人としての技能を持つカルだ。

「うおおおおおおーーーーっ!!」

 ナイトハルトにも、聞こえたのだろう。

 彼は、雄叫びを上げながら、
魔獣に、防御を捨てた渾身の一撃を放った。

 その攻撃は、魔獣の爪によって、易々と受け止められる。

 しかし、ナイトハルトは、
それに構わず、力任せに、剣を振り抜いた。

「――ギュエァッ!?」

「ひいっ……!!」

 勢い良く、魔獣が吹き飛び……、

 偶然にも、その巨体は、
御者台の上にいた商人を巻き込んだ。

 魔獣と激突し、商人が、御者台から転げ落ちる。

 その衝撃で、召喚の壷が砕け……、
 制御を失った魔獣の全身が、一瞬、硬直した。

「今だ……っ!!」

 次の瞬間――

 狩人の合図と同時に……、
 冒険者達の一斉攻撃が、魔獣を襲う。

 ゼルナの全力の投石が――
 テルトとカルの放つ鋭い矢が――
 ジェシカとリーオの最大出力の魔法が――

「ギュエェェェェーーーッ!!」

 しかし、その攻撃のほとんどは、
魔獣の剛毛と強靭な肉体によって、防がれてしまう。

 ゼルナの投石は、翼で払い落とし――
 テルトの矢は、漆黒の毛に絡み取られ――
 ジェシカとリーオの魔法は、咆哮に掻き消され――

 ただ、最も非力なカルの矢だけが――

 故に、魔獣は、侮っていたのだろう。
 カルの放った矢が、見事に、敵の片目を射抜いていた。

「グギャアアアアアーーーーーッ!!」

「あひ……?」

 激痛のあまり、半狂乱した魔獣が、
目に矢を刺したまま、メチャクチャに両腕を振り回す。

 不幸にも、その腕が……、
 鋭利な爪が、傍にいた商人の首を撥ね飛ばした。

 断末魔を上げる余裕も無く、絶命する商人……、

 その亡骸を飛び越え……、
 剣を振り上げたナイトハルトが……、



「これで……終わりだっ!!」



 その剛剣の一撃によって……、

 異界の魔獣を……、
 この世から、永遠に葬り去った。

     ・
     ・
     ・









 こうして――

 ロマールを騒がした……、
 行方不明事件は、一応、解決した。

 主犯格である商人は、死んでしまったものの……、

 新米冒険者達によって、
犯人グループは、官憲に突き出され……、

 馬鹿息子が、犯行に関わっていた事で、
後に、イリアス子爵も、責任を追及される事だろう。

 屋敷に捕われていた、女性達も、皆、無事に救われた。

 だが、事件の黒幕は不明のまま……、
 奴隷として、多くの者が、売られてしまったのも事実……、

 しかも、盗賊ギルドも知らぬ、裏のルートによって……、

 その問題を解決するのは、
奴隷の流通を管理する盗賊ギルドの役目だ。

 また、屋敷で発見した資料や薬品……、

 それらの入手経路が判明した事で、
魔術師ギルドの上層部は、大変な事になるだろう。

 だがまあ、そんな小難しいことは……、

 事件を解決した者達……、
 冒険者にとって、あまり関係無いわけで……、



「ありがとう、皆さん、助かりました……

「本当に、ありがとうな……、
皆のおかげで、エディも、取り戻すことが出来た」



 夕日に染まる街の門前――

 テルト達は、今回の依頼人……、
 ナイトハルト達との別れを惜しんでいた。

「はいはい……頭数程度だった割には
儲けさせてもらったわ」

 頭を下げる二人を前に……、

 礼金を受け取ったジェシカは、
そっぽを向き、手をヒラヒラと振ってみせる。

 もう、貰う物は貰ったから……、
 お前らは、サッサと消えろ、と言わんばかりに……、

 尤も、彼女の性格からすれば、
その失礼な態度も、ただの照れ隠しなのは明白だ。

「……テルト君」

 素直じゃないジェシカの態度に、エディフィルは微笑する。

 そして、ジェシカの隣で……、
 ナイトハルトと握手を交わすテルトを見た。

「何ですか……?」

 突然、名前を呼ばれ……、
 テルトは、エディフィルに向き直る。

 その真っ直ぐな瞳を、眩しげに見つめ、エディフィルは思う。

 この少年は、冒険者として純粋すぎる。

 その道を歩き続ける限り、きっと、
また、今回のように、この世の闇を見る事になるだろう。

 だが、その闇の中にあっても……、
 彼には、純粋な輝きを、失って欲しくは無い……、

 せめて、もう一度、出会う時まで……、

「…………」

 エディフィルは、無言で、首飾りを……、
 『ブルージンガメン』と呼ばれる魔道具を外す。

 お節介かもしれない――
 でも、そうせずにはいられない――

 こんな真似をしなくても、
きっと、この少年は、ずっと純粋でいられる。

 何故なら、少年には……、
 こんなにも、彼を想う仲間がいるのだ。

 元気一杯のドワーフと――
 思いやりのあるエルフと――
 明るく愉快なグラスランナーと――

 そして――



「……何ですの?」

「いいえ、何も……」



 エディフィルに見つめられ……、

 その視線の意味が分からず……、
 ジェシカは、憮然とした表情のまま、首を傾げる。

 そんな彼女を見て、再度、笑みを浮かべると……、

 エディフィルは、首飾りを……、
 感謝の気持ちも込めて、テルトの首に掛けた。

 さらに、彼女は……、
 ちょっとだけ、悪戯心を出してみたり……、

「火の精霊の加護が、あなたにあらんことを」

「――ほへ?」

 頬に当たる、柔らかな感触――

 何をされたのか理解できず……、
 少年は、ポカンと口を開け、間の抜けた声を上げる。

「テル兄、もてもて〜♪」

「役得ね〜、この色男……、
でも、鼻の下を伸ばすのは、感心しないわよ?」

「ああっ、私も、そんな恋がしてみたいっ!」

 決定的瞬間を目の当たりにし……、
 仲間達が、チャンスとばかりに、少年をひやかす。

 そんな彼らを見て、悪戯を成功させたエディフィルは楽しそうだ。

 少年の頬に口付けた彼女は、
軽いステップで離れると、クルッと踵を返して、歩き出す。

「おいっ! 待てよ、エディ!!」

 一方、黙っていられないのは、ナイトハルトだ。

 自分の恋人の行動を見て――
 慌てて、彼女を追い駆け、問い詰めるが――

「浮気性を治さない、あんたが悪い」

「うぐっ……」

 ――そう言われては、反論できない。

 言葉に詰まったナイトハルトは……、
 苛立ちを紛らわすように、激しく頭を掻き毟る。

 そんな彼を見て、エディフィルは、満足げだ。

 いつもとは、逆の立場……、
 溜飲が下がるとは、まさに、この事である。

「もしかして、ヤキモチ……?」

「……ふんっ、さあな」

 もう少し、苛めてみようかと……、
 意地悪い笑みを浮かべ、エディフィルは、相棒の腕を突付く。

 と、そこへ――



「エディフィル……!」

「えっ……?」



 リーオに呼び止められ――

 後ろを振り返ったエディフィルは、
リーオが、こちらに何かを投げて寄越す姿を見た。

 咄嗟に、受け取ると……、
 それは、ズシリッと重い金袋……、

「これって……?」

 かなりの大金が入った、その袋は、
リーオが、あの馬鹿息子から脅し取ったものである。

 自身を、金の亡者と言い切るリーオ……、

 そんな彼女が、他人に大金を渡す意味が分からず、
エディフィルは、もう、随分と遠くにいるリーオに視線を戻した。

 すると、リーオは……、
 無言で、自分の肩を叩いてみせる。



 肩にある焼印……、

 それだけあれば、綺麗に消せるでしょう?



「ありがとう……」

 リーオの気遣いを理解し……、
 エディフィルは、お金をありがたく受け取る。

 そして、深々と頭を下げると、
ナイトハルトを伴い、街道の向こうへと消えていく。

「あ〜あ、大損しちゃった」

 最後まで、二人を見送り……、

 大金を渡してしまった事を、
ぼやきながらも、リーオの表情は、晴れ晴れとしていた。

 金の亡者のエルフ――
 物欲と俗世に塗れたエルフ――

 だが、そんなエルフは……、
 お金の正しい、活きた使い方を知っていた。

「こうなったら、また、稼ぎ直さなきゃね〜♪」

 と、気持ちを切り替え……、
 リーオは、騒がしい後ろを振り返る。

 そこには――
 頼れる仲間達の姿が――





「――うわっ、テル兄が倒れたっ!」

「あわわっ、大丈夫ですかっ!?
テルトさんのお顔が、耳まで真っ赤ですよ〜!!」

「初心なのは可愛いけど……、
もう少し、女の子に慣れた方が良いわよ〜」

「無様ね……」





 ――ようやく、状況が理解できたようだ。

 キスをされた事を知って、
見る見るうちに、テルトの顔が、真っ赤になっていく。

 そして、頭から湯気を出しながら……、
 見ていて滑稽なくらいに、豪快にブッ倒れる。



「あうあうあうあう〜……」



 そんな少年の胸元で……、

 エディフィルから贈られた首飾りが、
夕日の優しい光を反射して、キラキラと輝いていた。








 まるで――

 冒険者達を祝福するかのように――








<おわり>
<戻る>


あとがき

 出来るだけ、セッションを、
忠実に、再現していきたかったのですが……、

 話の展開の都合、後編は、
かなりの修正と、シーンの省略をしてしまいました。

 ――ご了承ください。

 言い訳になっちゃいますけど……、
 全ての戦闘が、スリープクラウドで終わるなんて、マズイし……、

 おそるべき、遺失魔法……、(笑)