「ね、ねえ、お兄ちゃん……?」

「――ん? 何だ、雪希?」

「あ、あのね……その……」

「どうしたんだ? ハッキリしない奴だな?」

「えっと……今度の日曜なんだけど……」

「日曜が……どうかしたのか?」

「だから、その……」

「……?」








「……ううん、何でもない」

「そうか……?」









みずいろ SS

仲良し兄妹










「けんちゃ〜ん! 一緒に帰ろ〜!」

「おっしゃ、了解! 走れ、日和っ!」

「――ふえ?」



 放課後――

 鞄を片手に持ち、トテトテと、
俺に駆け寄ってきた日和が、一緒に帰ろうと誘ってきた。

 もちろん、俺も、そのつもりだったので、
素早く席を立ち、日和の手を引っ掴んで、教室の外へと急ぐ。

 だが……、



「――ちょっと待ちなさい」

「ちっ……見つかったか」



 あともう少し、というところで、
巨大アンテナ、もとい、清香に発見されてしまった。

「逃がさないわよ、日和! あなた、今日は掃除当番でしょうが!」

「はえ? そうだったっけ?」

 俺達が逃げられないよう、
日和の髪を掴んだ清香の指摘に、日和が小首を傾げる。

 他の奴だったら、単に誤魔化してるだけに見えるのだろうが……、

 日和の場合……、
 サボろうとしたのではなく、マジで忘れていたのだろう。

 何と言っても、ポンコツだからな……、

「はいはい、早く帰りたかったら、サッサと終わらす」

「うぅ〜、わかったよ〜」

 清香も、それを知っているから、怒ったりはせず、
ちょっと呆れた表情を浮かべて、日和にホウキを手渡す。

 やれやれ……、
 俺的には、気付かれる前に、日和を連れ出すつもりだったのだが……、

「うぅ〜、ゴメンね、けんちゃん……ちょっとだけ、待っててね」 

「おう、それじゃあ、校門の辺りで待ってるぞ」

 清香からホウキを受け取り、渋々、掃除を始める日和。

 この場合、日和の性格からすると、
掃除をするのが嫌なのではなく、俺と過ごす時間が減るのが残念、といったところかな?

 ――って、それは、いくらなんでも、自意識過剰か?

 と、自分にツッコミを入れつつ、俺は昇降口へと向かう。

 ちなみに、日和の為に、
掃除を手伝う、というのは却下だ。

 当番でも無い日にまで、掃除なんて、やってられないからな。

 ってゆ〜か、俺が手伝ったりしたら、
ついつい、日和や清香をからかって、余計に時間が掛かっちまうし……、

「しかし、ただ、ボケ〜ッと待ってるのも退屈だよな」

 靴を履き替えながら、俺はポツリと呟く。

 こんな時、進藤でも現れれば、
ちょうど良い暇潰しくらいにはなるのだが……、

 と、そんな事を考えていると……、



「――あっ! お兄ちゃん!」

「おっ、雪希! 今、帰りか?」

「うん……♪」



 上手い具合に、暇潰しが……、
 いや、そんな扱いをするわけにはいかないな。

 何故なら、俺の前に現れたのは……、

 可愛い、可愛い……、
 俺の自慢の妹なのだから……、

「今日は、部活は休みなのか?」

「うん、もうすぐ試験だから……」

「ぐはっ! そういえば、そうだったな……」

 ぬう、妹よ……、
 嫌なことを思い出させおって……、

 雪希の一言で、一気に気落ちする俺。
 そんな俺に苦笑しつつも、優しい妹は、すぐさま話題を変えてくれた。

「ところで、お兄ちゃんは、こんな所で何してたの?」

「いや、ちょうど、今から帰るところだ」

「そうなんだ♪ じゃあ、一緒に――」

 一体、何が、そんなに嬉しいのか……、
 雪希は、そう言って、笑みを浮かべると、俺の服の袖を掴んだ。

 と、そこへ――



「けんちゃ〜ん! お待たせ〜!」

「あ……」



 予想以上に早く、日和がやって来た。

 まさか、もう掃除が終わったのか?
 いくらなんでも、ちょっと早すぎる気がするが……、

「随分と、早かったな?」

「うん♪ まだ、お掃除の途中だったんだけど、
清香ちゃんが、もう行っても良い、って言ってくれたの〜♪」

「ったく、変な気を遣いやがって……」

 訊ねる俺に、鼻歌交じりで、日和が真相を説明する。

 それを聞き、軽く舌打ちする俺。
 と言いつつも、内心では、清香に、ちょっと感謝してはいたが……、

「まあ、いいや……、
せっかく、早く帰れるんだし、途中で、ケーキでも食べていくか?」

「わ〜い♪ ケーキ、ケーキ♪」

 俺が寄り道に誘うと、日和は、まるで子供の様に喜ぶ。

 そんな日和に、やれやれと肩を竦めると、
俺は、さっきから、ずっと黙っている雪希に視線を戻した。

「もちろん、雪希も一緒に行くよな?」

 雪希が断る事など、疑いもせず……、
 俺は、そうするのが当たり前のように、雪希を誘う。

 だが、俺の予想に反して……、
 雪希は、ゆっくりと首を横に振り、ぎこちない笑みを浮かべると……、



「私、忘れ物しちゃったみたいだから、
お兄ちゃんは、日和お姉ちゃんと、先に帰ってて良いよ」

「えっ? おい、雪希――」

「ゴメンなさい……」



 それだけを言い残し……、
 まるで逃げるように、自分の教室へと走って行ってしまった。

「…………」

「…………」

 その場に取り残された俺と日和は……、
 走り去って行く、雪希の後姿を、呆然と見送る。

 そして……、



「雪希ちゃんが、忘れ物するなんて、珍しいね?」

「あ、ああ……そうだな……」



 雪希の態度に、イマイチ釈然としないものを感じつつ……、

 俺と日和は……、
 顔を見合わせ、首を傾げるのだった。
















「ぴんぷる、ぱんぷる、ろりぽっぷ〜ん♪
ま〜じか〜る、ま〜じか〜る、る〜んらら〜♪」

「少しは静かに歩けよ、ポンコツ……」



 帰り道――

 いつものケーキ屋に寄った俺達は、
そこで小一時間程、ケーキを食べながら、他愛も無いお喋りをした後、店を出た。

 もちろん、雪希への土産も忘れない。

 俺が持つ、小さな箱の中には、
雪希の好きなショートケーキが入っている。

 それを引っ繰り返してしまわないように、
注意しながら、俺は、日和と並んで、商店街を歩いていた。

「ま〜じか〜るハ〜ンマ〜、空を斬る〜♪」

「唄いながら歩くのは止めろっての……、
ったく、いつまで経ってもガキだな、お前は」

「うぅ〜、私、子供じゃないよ〜」

「ほほう? 具体的に、どのへんが子供じゃないんだ?」(ニヤリ)

「それは、けんちゃんが、一番良く知ってると思うよ〜☆」

「ぬうっ、そうきたか……、
ポンコツのクセに、なかなかやるな……」

「えへへ〜♪」

 多分、何かのアニメの主題歌なのだろう……、
 聞いてるだけで、頭に花が咲きそうな歌を唄いながら、日和はスキップを踏んでいる。

 そんな日和をからかいつつ、のんびりと歩く。

「あっ、そうだ! けんちゃん、今度の日曜日、暇かな?」

「ん? まあ、暇と言えば暇だか……?」

「じゃあじゃあ、一緒に遊園地に行こうよ〜」

「試験も近いと言うのに、遊園地とは……余裕だな?」

「だって、だって〜……タダ券が手に入ったんだよ〜。
行かなきゃ、勿体無いでしょ〜?」

「う〜ん、そうだな〜……」

 日和のお誘いに、俺は、
腕を組んで、わざとらしく思案して見せる。

 もちろん、内心では、行く気は満々なのだが、アッサリ答えてしまっては面白くないからな。

「でも、日曜はゴロゴロと寝て過ごすに限るしな〜」

「けんちゃん、不健全だよ〜」 

「何を言か、このポンコツ!
一日中、惰眠を貪るのは、男の夢だぞ!」

「そんな夢、持っちゃダメだよ〜」

 ねーねーねーと、まるで駄々っ子のように、俺の制服の袖を掴んで、おねだりをする日和。

「ったく、しょうがね〜な〜……」

 そんな日和の反応に満足しつつ、
焦らすのは、そろそろ止めようかと、俺は思い始めた。

 と、そこへ――



「こんちわっす、先輩方!
相変わらず、仲がお宜しいですね〜!」

「また、喧しいのが……」



 まるで、見計らっていたかのように……、
 抜群のタイミングで現れたのは、歩く騒音『進藤 さつき』……、

 正直、無視して、サッサと家に帰りたいところだか……、

 これでも、一応、雪希の親友である。
 無下に扱うわけにもいかず、俺は立ち止まり、相手をしてやることにした。

「何か用か、進藤?」

「あっ、あたしの事は、お気になさらず、
どうぞどうぞ、ストロベリートークを続行してください♪」

「にゃ〜ん♪」

 進藤の言葉に、恥ずかしそうに、身をくねらせる日和。
 そんな日和の様子に、軽い頭痛を覚えつつ、俺はサッサと話を進めることにする。

「もう一度、言うぞ? 俺達に何か用か?」

「え〜? 用が無かったら、呼び止めちゃダメなんですか〜?」

「お前に限っては、そうだ」

「あ〜、冷たいですね〜。もっと女の子には優しくしないと、モテませんよ?」

「もう間に合っとるわい!」

「にゃ〜ん♪ もう、けんちゃんったら〜♪」

「やれやれ……こんな天下の往来でお惚気ですか〜?」

「やかましいっ! 用が無いなら、サッサと消えろっての!」

 やれやれと、アメリカンな仕草で肩を竦める進藤。
 そんな小生意気な後輩に、恒例の延髄チョップをくらわせてやろうかと、俺は手刀を振り上げた。

 と、その時……、

「ところで、先輩……何やら、良い物を持ってますね〜」

 一体、何を思ったのか……、
 何の脈絡も無く、進藤の視線が、俺が持つケーキに向けられる。

 そんな、何処と無く進藤らしくない話題の振り方に、
ちょっと警戒しつつ、俺は、進藤から、それを守るように自分の背に隠した。

「やらんぞ……これは、雪希のだからな」

 俺が、キッパリとそう言ってやると、進藤はニンマリと微笑む。

「おやおや〜♪ 恋人とのデートの最中でも、妹へのお土産を忘れないとは……、
相変わらず、雪希ちゃんには優しいですね〜」

「ほっとけ……」

 この騒音女……、
 分かってて言ってやがるな……、

 どうやら、これが進藤の狙いだったらしい。

 ここぞとばかりに、からかってくる進藤に、
何も言い返せず、俺は、照れ隠しにそっぽを向いた。

 そんな俺の様子を見て、調子に乗った進藤は、さらに口を滑らかにしていく。



「そういえば、日曜には、雪希ちゃんと映画に行くんですよね?
いやいや、優しいお兄さんがいて、雪希ちゃんは羨ましいですね〜」

「……なに?」



 いつの間にか……、
 俺自身に、身に覚えが無いにも関わらず……、

 俺の休日の予定は、既に決定しているかのような、進藤の口振り……、

 それを不思議に思った俺は、進藤に詰め寄った。

「おい……それは、どういう事だ?」

「あれ? 雪希ちゃんから、聞いてないんですか?
昨日、商店街の福引で、雪希ちゃんたら、映画の招待券を当てたんですよ」

「あっ、私と同じだね♪」

 進藤の話を聞き、日和がポンッと手を叩く。

 なるほど……、
 コイツも、遊園地のタダ券を、福引でゲットしたわけか……、

 と、今は、そんな事よりも……、

「それ……マジなのか?」

「もっちろんですよ〜! だって、あたしも一緒にいたんですからね。
ちなみに、あたしは、残念ながらポケットティッシュでした」

「そんな事は訊いとらん。続きを話せ」

「はいはい、それでですね……、
当然の事ながら、あたしは、雪希ちゃんに訊いたんですよ。
一体、誰と映画を観に行くのか、って……」

「ほう、それで……?」

「まあ、訊くまでも無かったんですけどね〜。
だって、雪希ちゃんが映画に誘う相手と言えば、健二先輩しかいないじゃないですか」

「そうか? 例えば、彼氏とか……」

 と、自分で言ってしまってから、何だか無性に腹が立ってきた。

 雪希に彼氏……、
 そんな事は、考えたくも無いな……、

 そんな俺の葛藤を知ってか知らずか……、
 進藤は、俺の言葉を、それはもう、アッサリと否定する。

「ちっちっちっ♪ 相変わらず鈍いですね〜。
雪希ちゃんの目には、健二先輩以外の男なんて、映ってませんよ?」

「ンな馬鹿な……」

「良いですね〜、禁断の愛っ!
あたしは、俄然、雪希ちゃんを応援しちゃいますよ〜♪」

「ダメダメダメ〜! けんちゃんは、私の恋人だよ〜!」

「ふっふっふっ〜、わっかりませんよ〜?
何と言っても、今、世の中は妹属性がブームですからね〜。
雪希ちゃんが、ちょっと誘惑してやれば、健二先輩なんて、コロッと……♪」

「はうはうはうはう〜〜〜っ!」

     ・
     ・
     ・

 進藤の言葉に、過剰反応して、
日和は、今にも泣きそうな声を上げる。

 そんな日和を、面白がって、さらにからかう進藤。

 ハッキリ言って、商店街のど真ん中で、
そんな事をやっていたら、目立って仕方ないのだが……、

 今の俺の耳には……、
 そんな二人の喧騒など、届いていなかった。

 ――今度の日曜日?
 ――映画の招待券?

 その二つの単語が、俺の頭の中で、グルグルと回る。

 そういえば……、
 今朝、雪希が、そんな事を言っていたような……、



 ……。

 …………。

 ………………。



 なるほど……、
 そういうことか……、



「おい、日和……遊園地の件だが……」

「――えっ? う、うん……」

「それ……パスな」

「ええ〜っ!? 何で〜っ!?」

「理由は聞くなっ! そういうわけだから、進藤、そいつの面倒は任せる!」

「はいは〜い♪ お任せくださ〜い♪
早坂先輩の事は、あたしに任せて……早く、行って上げてください」

「ああ、スマンな……」

「おろおろ〜? どういう事なの〜?!
待ってよぉぉぉ〜〜、けんちゃぁぁぁ〜〜〜んっ!!」

 未だに、状況が理解できていないのか……、
 まるで捨てられた仔犬のような声を上げる日和。

 俺は、そんな日和を進藤に預け……、

 我が家への道を……、
 全速力で、走り抜けた。
















「――ご馳走さん」

「うん、お粗末様でした♪」



 その日の夜――

 雪希が作った夕食を食べた俺は、
ソファーに座って、テレビを観つつ、まったりと過ごしていた。

 キッチンでは、雪希が、鼻歌を唄いながら、食器を洗っている。

 カチャカチャと、食器が合わさる音――
 食器の汚れを洗い落とす、水道の水の音――

 その音を背中で聞きながら……、

「なあ、雪希……?」

「――なに、お兄ちゃん?」

 俺は、テレビに視線を向けたまま……、
 出来るだけ、さり気無さを装って、雪希に話し掛けた。

「今度の日曜だけどな……」

「……っ!?」

 その瞬間……、
 一瞬だけ、食器を洗う音が止まった。

 だが、すぐに、何事も無かったかのように、雪希の手は動き出す。

 そして……、

「なに? 日和お姉ちゃんとデートなの?」

 聞こえてきたのは……、
 いつものように、明るい雪希の声……、

 だが、その声の中に隠された寂しさが……、

 今日の俺には……、
 痛いくらいに、感じられた。

「いや、そうじゃなくて……」

 そう言いつつ、俺は、ゆっくりと立ち上がる。
 そして、キッチンの中へと、足を踏み入れると……、



「その日は暇だから、二人で出掛けようか?」

「あっ……」



 そっと――
 でも、力強く――

 ――後ろから、雪希の体を抱きしめた。



「お、お兄ちゃん……?」

 驚きのあまり、身を強張らせる雪希。

 消極的ではあったものの、俺の腕から逃れようと、
少しだけ身を捩ったが、さらに強く抱いてやると、すぐに大人しくなった。

「進藤から、全部、聞いた……、
まったく、変な遠慮なんかしやがって……」

 俺の言葉に、雪希の頬が赤く染まる。

 ――そう。
 全て、進藤のお陰だった。

 多分、進藤は、分かっていたのだろう……、

 引っ込み思案な雪希の性格からして……、
 俺に、映画の件を言い出せないであろう、と……、

 だから、進藤は、昼間、あんな回りくどい方法で、その事を俺に伝えたのだ。

 日頃、喧しい奴ではあるが……、
 なんだかんだで、やっぱり、進藤は、雪希の親友なのである。

「でも、お兄ちゃんには、日和お姉ちゃんが……」

 この後に及んで、まだ遠慮する雪希。

 出来れば、雪希の口から、ちゃんと言わせたかったが……、
 仕方なく、俺は、半ば強引に、話を進める事にした。

「日和の面倒は、進藤に任せてきた。
だから、日曜日は、暇で暇で仕方ないんだよ。
そういうわけで、俺に付き合え。拒否権は無しだ」

「もう、お兄ちゃんたら……」

 問答無用な俺の言葉に、雪希は苦笑を浮かべる。
 そして、雪希を抱きしめる俺の手に、そっと手を添えると……、

「それじゃあ、今度の日曜日……一緒に映画を観に行こうね」

「おう、任せろ! 映画館だろうが、遊園地だろうが、
ラブホテルだろうが、何処にだって、連れて行ってやるぞ!」

「さ、最後のは、ちょっと……」(ポッ☆)

「そうか? それは残念……」

「――えっ? も、もう、冗談ばっかり……」(ポポッ☆)

 雪希が素直になった事が嬉しくて……、
 俺は、ついつい、かなりヤバげな軽口を叩いてしまう。

 そんな俺に、顔を赤くしながらも、雪希はクスクスと微笑む。

 一瞬、雪希が期待に満ちた瞳を、俺に向けてきたような気がするが……、

 ま、まあ、何だ……、
 あれは、気のせいだよな……、

 そう思わないと、俺の理性がもたん……、

「雪希……この際だから、ハッキリ言っておくぞ」

 なけなしの理性を総動員しつつ……、
 それでも、雪希を抱きしめる腕は放離さぬまま……、

 俺は、雪希の耳元で、優しく語り掛ける。

 ここからが大事なところなのだ。
 これだけは、ちゃんと伝えておかなければ……、

「いいか、雪希……、
お前は、俺の大切な妹だ……、
この先、お互いが、どんなに変わっても、それは絶対に変わらない」

「うん……」

「だからさ……イチイチ、俺に遠慮なんかしなくて良いんだよ。
ここは雪希の家で、俺は雪希の家族なんだ。
もっと、わがままを言っても良いんだぞ?」

「お兄ちゃん……」

「何かしたい事があったら、俺に言え。
何かして欲しい事があったら、俺に言え。
俺に出来ることなら、どんな我侭でも、俺が聞いてやる」

「お兄ちゃん……お兄ちゃぁん……」

 感極まった表情で、俺を見上げる雪希。

 今、自分が言ったセリフの内容の、
あまりの恥ずかしさに、俺は、雪希の顔を直視する事が出来ない。

「ゴメンね、お兄ちゃん……、
わたし、ずっと、お兄ちゃんの妹でいて良いよね?
ずっと、お兄ちゃんの傍にいても良いよね?
お兄ちゃんのこと……好きでいても良いよね?」

 そんな俺の胸に縋り付き、
雪希は、ポロポロと涙を流しながら、想いの丈をこぼす。



「当たり前だろうが……、
ってゆ〜か、俺も、お前が大好きだぞ」

「うん、わたしも……好き……」



 止めど無く溢れる、雪希の涙……、

 それが止むまで……、
 俺は、雪希を優しく抱き続けた。
























 その日から――

 雪希は、俺に対して……、
 ほんのちょっとだけ、我侭になった。

 いや……、
 それだと、表現が悪いな……、

 自分に正直になった、と言うべきだろうか……、

 とにかく……、
 その日を境に……、

 雪希は、俺に、色々とお願いをするようになった。

 とは言っても……、

 普通なら、当たり前の……、
 本当に、ささやかなものだ……、

 例えば――

 二人で、買い物に行きたい、とか――
 手を繋いで歩きたい、とか――
 たまには、デートして欲しい、とか――
 添い寝して欲しい、とか――
 一緒に、お風呂に入りたい、とか――
 キスして欲しい、とか――
 抱いて欲しい、とか――

    ・
    ・
    ・
















 ――んっ?
















 ――あれっ?
















 なんか、途中から……、

 物凄く、大それたお願いになってきているような……?
















 と、気が付いた時には――

 もう、すでに手遅れなわけで――
















 数年後――

 新婚生活と言うべきなのか……、

 結婚した俺と日和……、
 そして、雪希を加えた三人の生活は……、








 ――いきなり、破局の危機を迎えていた。








「ふぇぇぇ〜〜〜んっ!
けんちゃんの鬼畜〜! 極悪〜! 外道〜!」 

「ああああっ! 落ち着け、日和!」

 わんわんと大声で泣き喚きながら……、
 日和は、手近な物を掴んでは、俺に向かって投げ付ける。

 それを回避しつつ、何とか日和を宥めようと、俺は何度も呼び掛けるが……、

 まあ、当然のことながら……、
 その程度で、日和が落ち着くわけが無い。

 なにせ、俺は、それだけの事を『やってしまった』のだから……、

 新婚生活、始まって早々――
 それはもう、派出に展開される夫婦喧嘩――

 と、そんな俺達に、気付いているのか、いないのか……、

 雪希は、幸せオーラを全身から滲み出しながら、
ソファーに座って、『ひ○こクラブ』を、熱心に読んでいる。

 そして、時折――
 愛しげに、自分のお腹に手を当てて――



 ――その意味は、推して知るべし。



「なんか、二人とも仲が良すぎると思ってたら、
まさか、こんな事になってるなんてぇぇぇぇぇ〜〜〜〜っ!!」

「あわわわわわっ! こらっ、暴れるなっ!」

「ふ〜ん、胎教か〜……今度、CD買って来ようかな?」

「うわっ! むっちゃマイペースだぞ、妹よっ!!」



 はっはっはっはっ……、

 妹よ……、
 逞しくなったな〜……、

 ちょっと複雑だけど……、
 お兄ちゃんは、とても嬉しいぞ〜。(大汗)



「ねえ、お兄ちゃん♪ この子の名前、どうしようか?」

「う〜ん、そうだな……って、ハッ!?」

「うわぁぁぁぁ〜〜〜んっ!
けんちゃんの馬鹿〜! もう、実家に帰るぅぅぅ〜!」

「ちょっと待て! とにかく待て!
落ち着いて、俺の話を聞けぇぇぇぇ〜〜〜〜っ!!」
















 ……。

 …………。

 ………………。
















 で、その後――

 俺は、三人で、じっくりと話し合い……、

 元々、日和と雪希は、仲が良かった為……、
 なんとか、事態を丸く治める事は出来たのだが……、








「それじゃあ、今日から、お兄ちゃんは――」

「――私と雪希ちゃんで、半分こ、だね」

「俺の意見は……?」

「「――却下♪」」

「らじゃ〜……」








 その日から……、

 俺は、一生、この二人に、
頭が上がらない立場となったのであった。








 めでたし、めでたし……なのか?








<おわり>


あとがき

 くのうなおきさんのリクエストにお応えしまして……、

 STEVEN初のみずいろSSです。

 原作らしさが出せたかどうが、やや不安ですが……、
 少しは、期待に応えられる物に仕上がったと思います。

 ちなみに――


進藤 「……本当に、コロッといっちゃったんですね〜」ヽ( ´ー`)ノ

健二 「やかましいわっ!」凸( ̄□ ̄メ


 なんてやり取りが……、
 後日、あったりなかったり……、(笑)

 ここで一句――

 『どうしても、オチをつけなきゃ、気が済まない』(字余り)

 普通に終わらせておけば良いのに……、
 ボクって奴は、どうして、最後に余計な事するかな?(笑)

 でわでわ〜。

<戻る>