痕 SS

   それゆけ 楓ちゃん







「こっおっいっちさーん♪ こっおっいっちさーん♪」

 今日はとっても良い日です。
 何故なら、今日は耕一さんが帰ってくる日だからです。

 どきどきです。
 るんるんです。
 はっぴーです。

 だから、スキップなんか踏んじゃいます。
 周りの人の視線なんて全然気になりません。


 る〜んたった♪ るんたった♪
 る〜んたった♪ るんたった♪


 ああ……耕一さん。

 大好きな耕一さん。
 愛しい愛しい耕一さん。

 端正な顔立ち……、
 優しい瞳……、

 ああ……耕一さんのことを想うだけで、もう……、(くらっ)


 ………………ぽー。

 …………。

 ……。


 はっ……いけません。

 こんなところで倒れるわけにはいきません。
 私の耕一さんが待っているのですから。

 耕一さん、待っててくださいね。
 あなたの楓がすぐにまいります。


 る〜んたった♪ るんたった♪
 る〜んたった♪ るんたった♪


 あ……もうすぐ家に到着です。
 あの角を曲がって、家の門をくぐれば耕一さんに会える。

 …………あ、そうだ。

 まず、何て言おう。
 耕一さんに会ったら、まず何て言おう。

 耕一さん、おかえりなさい。
 耕一さん、お久しぶりです。

 ううん、ダメダメ。
 こんな平凡な言葉じゃダメ。

 もっとこう、私の耕一さんへの想いが伝わるような……、

 耕一さん、好きです。
 耕一さん、愛してます。

 …………ああ、ダメ。

 こんなストレートな言葉は、恥ずかしくてとても言えない。
 そう……もっとさりげなく……、

 耕一さん、寂しかった。
 耕一さん、会いたかった。

 ……うん! これです!

 これなら、さりげなく私の想いを耕一さんに伝えられる。
 さらに、抱きついて背中に手を回して服をギュッと掴めば完璧です♪

 さあ、行きますよ! 楓!
















 そして、私は家の戸を開ける。








 そこには、耕一さんがいて……、








「おかえり、楓ちゃん」








 優しい笑顔を見せてくれて……、








 その笑顔がとっても素敵で……、








 だから、頭の中が真っ白になってしまって……、








 だから……、








 だから……、
















「た、ただいま……」
















 ――それだけしか、言えませんでした。
















 はあ……、
 ……わたしの馬鹿。(泣)








<おわり>
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