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      決戦前の座談会







「ねえ、カイト? 前から気になってたんだけどさ……」

「――ん? なに?」





 ここはΘサーバーのルートタウン――
 高山都市『ドゥナ・ロリヤック』――

 アウラより黄昏の腕輪を託されたカイトと、
その仲間達は、そのタウンの一角に陣取り、雑談に興じていた。

 本来なら、八相との決戦を控えた彼らには、そんな事をしている余裕など無いのだが……、

 サーバへの悪影響を避ける為の『エリアの隔離処置』の準備が出来ていない状態では、
八相と闘うわけにもいかず、カイト達は、ヘルバから連絡が来るまで待機することになったのだ。

 もちろん、最初のうちは、バルムンクの提案で、作戦などを立てたりしていた。

 しかし、そこは、基本的にお気楽なメイツが揃ったカイト一行である。
 次第に、話の内容は、横道に逸れていき……、

「カイトってさ……どうして、良子だけ『寺島さん』って呼ぶわけ?」

「――はあ?」

 とまあ、こんな感じで……、
 いつの間にか、八相とは何の関係も無い話題が上がってしまう状態になってしまっていた。

「どうして、って……何でそんなこと訊くの?」

「ん〜、特に理由は無いんだけど……なんか気になっちゃって」

 ブラックローズの、あまりに唐突な質問に、首を傾げるカイト。

 見れば、彼の隣に腰を下ろしている寺島良子も、
どうしてなのですか、と、何やら期待を込めたまなざしを、カイトに向けている。

 そんな良子の態度に、ますます首を傾げつつ、
カイトは、ちょっと考えてから、ブラックローズの質問に答えを出した。

「いや、まあ……だって、年上だし」

「あたしだって年上でしょう?」

「ってゆーか、このメンツでは、カイトが一番年下やろ」

 カイトの言葉に、即座にツッコミを入れるブラックローズとレイチェル。

 レイチェルは、面白半分で言っているのだろうが、
ブラックローズは、そのカイトの答えに納得できていないようだ。

「わ、わたしも、歳は近いですけど、カイトさんよりもお姉さんです……」

「ほら、なつめだって、そう言ってるわよ!」

 おずおずと手を挙げつつ、なつめもまた、遠慮がちにブラックローズに同意する。

 そんな、彼女の言葉に、我が意を得た、とばかりに、
ブラックローズは、さらに、カイトに強く迫った。

「さあさあさあ! キリキリ白状しなさいっ!」

「あ、う、だから、その……」(汗)

 ブラックロードの迫力に、たじろぐカイト。

「別に、どうでも良いじゃねぇか、呼び方なんてよ」

「そうそう。本人の自由だろ?」

 そんなカイトを見るに見兼ねたのだろう……、
 ニューク兎丸とマーローが、困っているカイトに助け舟を出す。

 だが……、



「ゲテモノと売れないコメディアンは黙っててっ!」(ギロッ)

「ゲ、ゲテモノ……」(大汗)

「う、売れないコメディアン……」(大汗)



 ブラックローズのひと睨みに、アッサリと敗退する二人。

 そして、ブラックローズの何気にキツイ一言に、思わず黄昏れる二人を、
傍で刀の手入れをするフリをしていた砂嵐三十郎が慰める。

「放っておけ。女の修羅場に首を突っ込むモンじゃない。
こういう時は、端から生温かい目で見守ってやるのが一番だ」

「対岸の火事、というやつだな……」

 三十郎の言葉に、ウンウンと頷きながら、カイト達の様子を傍観するガルデニア。

 義に厚い性格をしていると思っていた二人の、
何気にヒドイ対応に、マーローとニューク兎丸は顔を見合わせる。

 そして、どちらからともなく頷き合うと、
その場に腰を下ろし、三十郎とガルデニア同様、カイト達に生暖かい眼差しを向けた。

 とまあ、外野で、そんなやり取りが行われている事など露知らず――

 カイトを巡った(?)女の修羅場は、
良子の発言によって、新たな展開を見せ始める。

「わたくしは、カイトさんに、皆さんと同じように呼び捨てにして頂きたいですわ」

「……どうしてよ?」

 ちょっぴり険の込もった目を良子に向けつつ、ブラックローズが、その意味を訊ねる。
 すると、良子は、赤くなった頬に手を当てると……、

「もちろん、わたくしとカイトさんが、特別な関係だからですわ♪」

「「――っ!!」」

 良子の爆弾発言に、表情を強張らせるブラックローズとなつめ。

 そんな固まってしまった二人に構わず、
良子は両手を胸の前で組むと、夢見るような眼差しを空に向け、話を続ける。

「あれは、忘れもしません……、
カイトさんとの初めて冒険をした『Σ 心広き 困惑の 聖女』……、
あそこで、モンスターに襲われそうになったわたくしを、
カイトさんは身を呈して守ってくださいました。
そして、その後、わたくしのことを『好きだ』と……」(ポポッ☆)

「あれは、そういう意味で言ったんじゃないんだけどね……」

 今、自分が置かれている危険な状況を、まるで理解していないのか……、
 カイトは、ポリポリと頭を掻きながら、ノーテンキに呟く。

 そのカイトの呟きなど聞こえているわけもなく……、
 勘違い100%のまま、良子はカイトに向き直り、ニッコリと微笑むと……、

「というわけですので……、
これからは、皆さんと同じように呼んでくださいまし」

「あ、うん……」

 良子の言葉を意味を深く考えず、頷くカイト。
 そして、少しだけ照れくさそうに、コホンッと一度咳払いをした後……、

「え、えっと、じゃあ……良子?」(照れ)

「はい、何でしょう……カイト」(ポッ☆)


 ……。

 …………。

 ………………。


 こうして改めて呼び合ってみるのは、何やら気恥ずかしかったのだろう……、
 二人の間に、なんとも奇妙な間が流れる。

 それは、まるでお見合いでもしているかのような……、

「いいねぇ〜♪ 若いねぇ〜♪ 青春だ〜ねぇ〜♪」

 そんな二人の初々しい(?)姿を前に、ミストラルはキラキラと瞳を輝かせている。

 とある事情から、戦線を離脱したミストラルだが、
たまに、レアアイテムを手土産に、こうして、カイト達と接触しているのだ。

 もちろん、彼女が戦線を離脱した事に文句を言う者は、この場にはいない。

 その理由は、あまりにも納得のいくものであったし……、
 そもそも、この戦いに加わるか否かは、本人の自由意思なのである。

 まあ、それはともかく……、

 すっかりキッ○オフ状態になっている二人を、興味津々で見守るミストラル。

 だが、当然、そんな光景を、
目の前で展開されては、面白くない者もいるわけで……、


「却下ぁぁぁぁーーーーっ!!」

「却下ですぅぅぅぅーーーーっ!!」


 大声を上げ、腕をブンブンと振り回しながら、
ブラックローズとなつめが、カイト達の間に割って入る。

「それ、却下っ! 絶対、却下ぁぁぁぁーーーっ!!」

「そうですっ! 私だって『カイト』って呼びたいのにぃぃぃーーーーっ!!」


 
ザシュザシュザシュザシュっ!!

 
グォォォォォォォーーーーーッ!!

 
ドカァァァァァーーーンッ!!


 興奮のあまり、すっかり取り乱した二人は、辺り構わず、攻撃スキルを連発し始める。

 特にブラックローズの荒れ様は凄かった。
 なにせ、なつめと違い、何故、こうも自分が腹を立てているのか理解できていないからだ。

 まあ、彼女が放ったスキルから逃げる際、
カイトが良子を抱きかかえていたのも要因なのかもしれないが……、


「だぁぁぁぁぁ、もうっ!!
なんか、よく分かんないけど、むっちゃ腹立つぅぅぅーーーっ!!」



 
ドガガガガガァァァァァンッ!!


「のぉぉぉぉーーーっ!!
何故にわたしだけぇぇぇーーーーーっ!?」



 周囲に炸裂するスキルの嵐に、素早く退避する仲間一同。
 一人だけ逃げ遅れて、乱舞技の直撃をくらった重斧使いがいたりしたが……、


「何で、あたしが、カイトのことで、
こんなにイライラしなきゃ
いけないのよぉぉぉぉーーーーっ!!」



 わざわざSP回復アイテムまで使いながら、暴走を続けるブラックローズ。
 いや、これはもう、暴走というよりは、ただの八つ当たりなのかもしれない。

 ちなみに、さっきまで一緒に暴走していたなつめは、
SPが切れた時点で落ち着きを取り戻し、他のメンツと一緒に退避済みである。


「カイトの馬鹿! カイトの馬鹿!
カイトの馬鹿ぁぁぁぁぁぁぁーーーーっ!!」



 
ガガーンッ! ガガーンッ!

 
ズバババババァァァァァーーーッ!!


 本来なら、安全であるはずのルートタウンに、攻撃スキルが、
火葬チックに雨あられと振り注ぎ、『モンスター襲撃イベント』さながらの事態を展開していく。

 なにせ、レベルだけならフィアナの末裔と呼ばれる蒼天のバルムンク並だ。
 そのスキルの威力と被害は、ハンパではない。 

 そして、ついに、無関係のPCにまで被害が及び始め、
仲間達も『そろそろ止めた方が良いかもしれない』と覚悟を決め始める。

 と、その時――


「街中で暴れちゃダメでしょ〜っ!」

「にょええええーーーっ!!」


 暴れるブラックローズに、無造作に歩み寄ったミストラルが、状態変化スキルを放つ。
 それと同時に、ブラックローズの動きが、大剣を振り上げた格好のまま、ピタリッと止まった。

「もう、知らない人にまで迷惑かけるなんて、マナー違反だよ!」

「うっ……ゴメンナサイ……」

 スキルによって麻痺状態となり、身動きの取れないブラックローズの頭を、
杖でポクポクと叩きながら、お説教を始めるミストラル。

 さすがはお母さん予備軍……、
 このへんの貫禄は大したもので、ブラックローズの興奮を、一気に沈静化してしまった。

「ブラックローズって、意外とヤキモチ妬きさんなんだね〜……、
カイトと良子が、ちょっと仲良くしてるだけで、あんなに取り乱しちゃうなんて♪」

「あうっ……」(真っ赤)

 心底楽しそうに、ぷぷぷっと笑うミストラルの言葉に、
先程までの自分の行為を思い出し、赤面するブラックローズ。

「だってさ〜、カイトったら、
相棒のあたしよりも、良子にばっかり優しくするし……」

 慌てて、微妙に言い訳になっていない言い訳をしはじめるが……、

「……嫉妬」(ボソッ)

「ぜっっっったいに違うっ!! 嫉妬なんかしてないわよっ!!」

 さっきから無関心を決め込んでいた割りには、サラリと確信を突いてきた月長石の言葉に、
ムキになって反論していては、その言い訳に説得力などまるで無い。

 そんなブラックローズに、レイチェルは、
必死に笑いを堪えながら、気付け薬で彼女の状態を回復させる。

 そして、体の自由を取り戻したブラックローズに、一つ提案をした。

「素直やないな〜……、
だったら、カイト本人に訊いてみればええやんか?」

「訊く、って……何を?」

 もう、訂正する気力も無くなったのだろう……、
 多少、憮然とした表情を浮かべつつも、ブラックローズはレイチェルの言葉に耳を傾ける。

「そりゃあ、もちろん……、
カイトが良子のことを、どう想っとるかっちゅ〜ことに決まっとるやん」

「う〜ん……」

 レイチェルの話を聞き、剣を地面に突き刺し、腕を組んで思案するブラックローズ。

 そして、決心がついたのだろう……、
 ブラックローズは、先程までカイトがいた方に目を向けると……、

「ねえ、カイト? あんたが良子の事をどう想ってるか知らないけど、 
あんた、相棒のあたしを差し置いて、恋人持ちになったりなんて…………って、あれ?」

 そこまで言ったところで、ブラックローズは言葉を途切らせ、首を傾げる。
 何故なら、さっきまで、すぐ傍にいた筈のカイトの姿が、何処にも無かったのだ。

「……ねえ、カイトは?」

 取り敢えず、近場にいたマーローに、カイトの所在を訊ねる。
 すると、マーローから、予想外の答えが返って来た。

「カイトの野郎なら……、
『アウラの声が聞こえる』とか言って、バルムンクとカオスゲートの方に――」

「なんですとぉぉぉーーーっ!?
あんにゃろ、ドサクサに紛れて逃げやがったわねぇぇぇーーーーっ!!」

 『アウラ』という単語を聞いた途端、再びブラックローズの感情に火がついた。
 彼女は、地面に突き立てていた剣を抜くと、それを大きく振り被り、肩に担ぎ上げる。

「しかも、よりにもよって、アウラですってっ!?
こうしちゃいられないわっ! なつめ! 良子! 追い駆けるわよっ!!」

「「――はいっ!!」」

 つい先程まで、対立していたにも関わらず、
ブラックローズの言葉に、すぐさま頷く良子となつめ。

「あたしの相棒を、アウラなんかに渡してなるもんですかっ!!」

「同感ですっ!!」

「さあ、急いでまいりましょうっ!!」

 そして、三人は、他のPC達を蹴散らしながら、物凄い勢いで、
カオスゲートの方へと走っていく。

『…………』(大汗)

 その三人を、ただ呆然と見送る仲間一同。
 そして……、

「カイトに、夕暮れ竜の加護があらんことを……」

 と、色んな意味を込めて……、
 彼らは、決戦の地に向かったカイトの無事を、心から祈るのだった……、
















 一方、その頃――
 決戦の地に向かったカイト達は、というと――


「カイトォォォォーーーーッ!!
よくも、大事な話の途中で逃げ出してくれたわねぇぇぇぇーーーっ!!」


「うわぁぁぁぁぁーーーーっ!! 落ち着いて、ブラックローズッ!!
すぐそこにクビアが……クビアがぁぁぁぁぁーーーーっ!!」


「そんな事は、どうでも良いんですっ!!」

「わたくし達の質問に答えてくださいましっ!!」

「お前達っ! 敵が目の前にいるんだぞっ!?
もっと真面目に闘えぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーっ!!」


「宝塚モドキは黙ってなさぁぁぁぁーーーーーいっ!!」
















 その後……、

 彼らが、クビアに勝利出来たかどうかは定かではない……、








<おわり>
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