「――問おう。汝が、私のマスターか?」



 聖杯戦争――

 それは、あらゆる願いを叶えるという『聖杯』を巡り……、

 七人の魔術師が、七人の使い魔を召喚し、
最後の一人になるまで、闘い続けるというデス・ゲーム……、



「我が名は、サーヴァント『セイバー』……、
今、この時より、私は、貴方の剣となり、盾となりましょう」



 過去、幾度と無く、繰り返されてきた争い――

 今回も、また……、
 魔術師によって、サーヴァント達は召喚され……、

 ……命を賭けた、壮絶な闘いが始まろうとしている。



「ところで、マスター……」

「んっ? どうした、セイバー?」



 だが……、
 今回の闘いは……、

 ……今までとは、全く違うものになりそうだ。

 何故なら――








「……お腹が空きました」

「はいはい、今、何か作ってやるからな」








 サーヴァントは……、
 七人全員、お子様だったのだ。









Fate/stay night SS

Mage & Seven servant!










「……平和ね〜」

「平和だな〜……」








 休日の昼間――

 縁側に座った俺と遠坂は、
のんびりと、お茶を啜りながら、平穏を満喫していた。

 ポカポカと、暖かい日差し……、
 優しく頬を撫でる、心地良い風……、

 こんな日の、衛宮邸の庭先は、日向ぼっこをするには、格好の場所だ。

 見れば、一緒に、日向ぼっこをしていたイリヤは、
いつの間にか、遠坂の膝を枕にして、スヤスヤと眠ってしまっている。

 この穏やかな陽気に、眠気を誘われてたのだろう。

 何だかんだ言っても……、
 やっぱり、まだまだ子供だな……、

 そんなイリヤの姿に、笑みを浮かべつつ、
俺と遠坂は、庭で、元気一杯に闘うサーヴァント達に目を向けた。

 聖杯戦争――

 サーヴァント達が言うには、
それは、願いを叶える聖杯を得る為の、血で血を争う闘いらしい。

 しかし、衛宮邸の庭で闘う彼らの姿を見ると、とても、そうは思えない。

 どう見ても、幼い子供達が、
仲睦まじく戯れている様にしか見えない。

 なにせ――








「いきますっ! えくすかりば〜!」

 セイバーは、玩具の様に、
小さな剣を、ブンブンと、可愛らしく振り回し――





「あいあむ、ざ、ぶ〜ん、おぶ――え〜っと……」

 詠唱呪文が覚え切れないのか……、
 アーチャーは、呪文をメモった紙を、たどたどしく読み――





「ううっ、抜けねぇ〜!」

 地面に刺さった槍を引き抜こうと、
ランサーは、顔を真っ赤にして、ジタバタともがき――





「――べるれふぉ〜ん♪」

 ライダーは、ジャンケンで勝ち取った、
たった一台しかない三輪車を、ご機嫌で乗り回し――





「ワン、ツー、スリ〜!!」

 キャスターは、魔術とか言いつつ、
ローブの中から鳩を出して、マジックショーを展開し――





「――ま゛っ」

 花壇でも作るつもりなのか……、
 バーサーカーは、スコップ片手に、土を耕し――





「ゆくぞ、秘剣・燕返し!」

 とか言いつつ、何故か、
アサシンは、せっせと折り鶴を作り始め――





「ふははははははははっ!!」

 後で降りられなくなって、泣くクセに、
ギルガメッシュは、燈篭ニ登って、無意味に笑い――








 ――とまあ、こんな調子である。

 この光景を見せられて、どうして、
『戦争』などと言う物騒な単語を連想できようか。

 否――
 出来るわけがない。

 彼らの姿は、微笑ましい、としか、表現のしようが無い。

 というわけで――

 サーヴァントが召喚されたにも関わらず……、

 俺達は、とても平穏な……、
 そして、とても賑やかな日常を送っていた。



「――シロウ!」

「おっと……どうした、セイバー?」



 唐突に、膝に軽い衝撃を覚え、俺は我に返る。

 何事か、と思えば、いつの間には、
セイバーが、俺の膝の上に、ちょこんと腰を下ろしていた。

「今日は、私が勝ちました! 聖杯をください!」

「ああ、なるほど……」

 嬉しそうに、俺を見上げる、
セイバーの言葉に、俺は納得する。

 あの状況で、どうやって勝ち負けが決まったのか知らないが……、

 どうやら、週に一度の『聖杯戦争』の、
今回の勝者は、セイバーという事になったらしい。

 見れば、庭にいるサーヴァント達は、皆、セイバーを羨ましげに見ている。

 やれやれ……、
 また、夕飯を少し豪勢にして、ご機嫌を取らないとな……、

 と、そんな事を考えながら、セイバーの頭を撫でていると……、

「お待たせしました〜♪ 聖杯ですよ〜♪」

 勝負がつくタイミングを見計らっていたのか……、
 奥の台所から、御盆にマグカップを乗せた、桜が現れた。

「――はい、どうぞ」

「ありがとう、サクラ♪」

 桜から、マグカップを受け取り、
それに濯がれた飲み物を、セイバーは嬉しそうに飲み始める。

 ――そう。
 これが、件の聖杯である。

 まあ、その正体は、
衛宮 士郎特製ミックスジュースなのだが……、

 どうやら、サーヴァント達は、これが、凄く気に入っているようで……、

 ようするに――
 彼らが言う聖杯戦争とは――

 ――単なる、ジュースの奪い合い、なのである。

「……英霊って、何なのかしらね?」

「俺に訊くなよ……」

 心底、呆れた様子の遠坂。

 そんな彼女の言葉に、
首を横に振りつつ、俺は、膝の上のセイバーに視線を落とす。

 両手でマグカップを持って……、
 コクコクと、美味しそうに、ジュースを飲んでいる。

 その姿が、何だか、とても可愛らしくて、
俺は、彼女を抱く腕に、ちょっとだけ力を込めた。

「シロウ……」

 それを感じたのか……、
 セイバーは、俺の胸に、背を預けてくる。

 瞳を閉じて――
 心地良さそうな、その表情――

 まるで、ここは、自分専用の特等席……、

 自分だけが……、
 座る事を許された王座であるかのよう……、

「さて、と――」

 そんなセイバーの頭に、
ポンッと手を乗せて、俺は、彼女に問い掛ける。

 なにせ、聖杯は願いを叶えるモノである。

 ならば、それを手にした、
セイバーの願いを叶えて上げなければならない。

 もちろん……、
 彼女のマスターである、俺の手で……、

「――セイバーの願いは、何なんだ?」

「そ、それは……」(ポッ☆)

 訊ねる俺の顔を見上げ、頬を赤らめるセイバー。

 俺と目が合い、恥ずかしそうに俯くと、
セイバーは、何やら、モジモジと指を絡ませる。

 そして……、
 意を決したのか……、

 真剣な眼差しで、もう一度、俺を見上げると……、



「シロウの……お嫁さんに……」

「――えっ?」



 セイバーの小さな呟き……、

 その意味を理解するよりも早く、
彼女の両手が、俺の頬に優しく添えられ……、
















 そして――

 唇に、柔らかな感触が――
















 ……。

 …………。

 ………………。
















「――ぅんっ?」

「目が覚めましたか……、
おはようございます、シロウ」

「ああ、おはよ……う?」



 朝――

 俺が、目を覚ますと、
すぐ目の前に、愛しい人がいた。

 どうやら、また、土蔵で眠ってしまったようだ。

 そんな、だらしない俺を、
わざわざ起こしに来てくれた彼女……、

 窓から差し込む朝日に、その美しい金髪を輝かせ……、

 俺の顔を覗き込むように、
傍に座ったセイバーが、優しく微笑んで、俺を見つめている。

「あ……」

 その姿の、あまりの美しさに、俺は、呆然と見惚れてしまっていた。

 そんな俺の様子を、訝しく思ったのか……、
 セイバーは、その形の良い眉を、キュッと寄せて、小首を傾げる。

「シロウ……どうしたのですか?」

「あ、ああ……ちょっと、夢を見てさ」

「夢、ですか……?」

 呆けていた理由を、
素直に言うのは、恥ずかしかったので……、

 俺は、尤らしい理由で、言葉を濁すことにする。

 どうやら、セイバーも、
一応、それで納得してくれたようだ。

「よほど、良い夢だったのですね……、
シロウの寝顔は、とても幸せそうだった」

 ――起こすのを、躊躇ってしまうくらいに。

 と、そう言って、彼女は肩を竦めて見せる。

 そのセイバーの反応に、内心で、
ホッと胸を撫で下ろしつつ、俺は、先程の夢の内容を思い出していた。

 何でまた……、
 あんな夢を見てしまったのか……、

 召喚されたサーヴァント達が、皆、子供だなんて……、

 まあ、昨日、セイバーから聞いた、
彼女が見たという夢の内容が、主な原因なんだろうけど……、

 ただ――
 それ以上に、印象に残っているのは――



 まさか、セイバーが、あんな事を言うなんて――

 ましてや――
 自分から、俺に――



「う〜む……」

「な、なな、何ですか、シロウ?」

 夢の中の出来事だというのに……、

 妙に、ハッキリと……、
 『あの感触』が唇に残っている。

 それが、何とも不思議で、俺は、無意識に、自分の唇に手を添える。

 そして……、
 そんな俺の仕草を見て……、

 ……何故か、やたらと狼狽えているセイバー。

 もしかして――

 いや――
 まさか、なぁ――

「あのさ、アルトリア……?」

「は、はははは、はいっ!?」

 俺が呼び掛けると、
挙動不審なセイバーの全身に緊張が走る。

「――何かあったのか?」

「い、いえいえ、何もっ!
日々、平穏、何事もありませんっ!!」

「そうか……なら、良いけど」

 俺の問い掛けに、ブンブンと、セイバーは首を振る。

 そして、顔を真っ赤にして、
彼女は、明後日の方を向いてしまった。

 これだけで、状況証拠は充分なんだけど……、

 まあ、何だ……、
 本人が言いたくないなら、別に良いか。

 セイバーの不信な態度は、
敢えて、無視し、俺は、体を起こすと、大きく伸びをする。

「さて、と……それじゃあ、朝食の準備をしないとな」

「ええ、急いだ方が良い……、
もう、サクラが、準備を始めてしまっていますから」

「――なに? それは、急がないとな」

「ですが、その前に……、
ちゃんと着替えてからにしてくださいね」

「ああ、わかってる」

 そんなやり取りをしつつ、俺達は、二人で土蔵から出る。

 と、そこへ――
 俺は、ふと、思い出したように――

     ・
     ・
     ・








「あっ、そうそう……アルトリア?」

「……何でしょう?」

「次は、ちゃんと起きてる時に頼むな」

「はい、わかりま――っ!?」
















「…………」(にこにこ)

「…………」(真っ赤)
















「シ、シシシ、シロウ〜〜〜ッ!!
あ、貴方という人はぁぁぁぁ〜〜〜〜っ!!」(怒)


「あはははははっ!!
悪かったっ! 悪かったって!!」

















 一体、何処から取り出したのか……、

 竹刀を持ったセイバーが、
それを振り回しながら、俺を追い駆けて来る。

 当然……、
 頬を朱に染めながら……、

 俺は、そんなセイバーから、逃れつつ……、

 良く晴れた――
 まるで、彼女のように澄み切った空を見上げ――
















「――隙ありぃぃぃ〜〜っ!!」


 
すぱかぁぁぁ〜〜〜んっ!!


「痛ってぇぇぇぇ〜〜〜〜っ!!」
















 ――うん!

 今日も、楽しい一日になりそうだ。(笑)








<おわり>


 あとがき

 今更、言うのもアレですが……、

 一応、ウチのサイトのFateSSは、全部、続いています。

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