「――問おう。汝が、私のマスターか?」
聖杯戦争――
それは、あらゆる願いを叶えるという『聖杯』を巡り……、
七人の魔術師が、七人の使い魔を召喚し、
最後の一人になるまで、闘い続けるというデス・ゲーム……、
「我が名は、サーヴァント『セイバー』……、
今、この時より、私は、貴方の剣となり、盾となりましょう」
過去、幾度と無く、繰り返されてきた争い――
今回も、また……、
魔術師によって、サーヴァント達は召喚され……、
……命を賭けた、壮絶な闘いが始まろうとしている。
「セ、セイバー……」
「はい、何ですか、マスター?」
だが……、
今回の闘いは……、
……今までとは、全く違うものになりそうだ。
何故なら――
「……おしっこ」
「ああっ! ちょっと待って下さい!!」
マスターは……、
七人全員、お子様だったのだ。
Fate/stay night SS
Servant & Children!
「――で、どうするよ?」
深夜――
衛宮邸の庭にて――
マスターが全員お子様、という異例の事態に、
召喚されし、私達、サーヴァントは、緊急会議を開いていた。
ちなみに、マスター達は、とっくの昔に夢の中である。
なにせ、『良い子は寝る時間』は、もう過ぎている。
お子様な彼らが、私達に付き合って、起きていられるわけがない。
というか、こんなにも安らかに眠っているシロウ達の眠りを妨げる事など、誰が出来ようか。
もし、そのような輩がいるならば、問答無用で斬り捨てます。
場合によっては、宝具の使用も惜しみません。
まあ、それはともかく――
「どうするも何も……、
これでは、さすがに、闘いにはなりません」
「……同感だな」
寝ているシロウ達を起こしてしまわないよう……、
ランサーは、自分のマスターである、
パゼットの毛布を掛け直しながら、潜めた声で、今後の方針を、皆に訊ねる。
それに、真っ先に答えたのは、私……、
私の膝を枕にして眠る、我がマスター、
シロウの頭をそっと撫でつつ、私は軽く溜息をつく。
そして、そんな私に同意するのは、アーチャー。
胡座をかいた足の間に眠る、
凛の体をコートで包み、彼はウンウンと頷いている。
その小さなで、アーチャーのコートの裾を握る姿は、とても愛らしいが……、
うむ……、
やはり、私のシロウの方が可愛いですね。
と、シロウの寝顔に見惚れる、
私を余所に、英霊達の話を続いている。
「だが、聖杯はどうする? 私達が闘わねば、聖杯は現れぬのだろう?
尤も、私は、そんな物に興味は無いが……」
「そうだな……聖杯はともかく、俺は、思う存分、闘いたいぞ」
安らかに眠るルヴィアゼリッタを、優しげな眼差しで見つめるアサシン。
そのアサシンの言葉に、ランサーが、
我が意を得た、とばかりに不敵な笑みを浮かべる。
すると……、
「では、あなた達は、サクラを――っ!!」
「うるさいわよ、ライダー。宗一郎様が起きてしまうわ」
「…………」
血気盛んな二人の言葉を聞き、ライダーが言葉を荒げる。
興奮の余り、自然と声が大きくなったのだが、
キャスターの冷静な一言に、ライダーは、ハッと我に返った。
見れば、他の者達も、
彼女を責めるような視線を向けている。
もちろん、私も同様だ。
この以上、煩くしたら斬る、とばかりに、
私は、いつでも剣を抜けるように身構えつつ、鋭い眼光をライダーらとばす。
そんな視線に晒され、ライダーは、
バツが悪そうな表情で口を噤むと、小声で、ランサー達を糾弾した。
「サクラに危害を加えると言うなら、容赦はしませんよ?」
「そうね……宗一郎様を傷付けようだなんて……」
眠る桜の顔を、その豊満な胸に、
グイッと抱き寄せ、ランサー達を睨み付けるライダー。
そして、愛しげに宗一郎に頬を寄せたキャスターもまた、魔力を高めていく。
いや……、
彼女達だけではない。
私も、アーチャーも……、
さらには……、
いつの間に、後ろに移動したのか……、
「――ま゛っ」
その大きな腕に抱いていたイリヤを頭の上に置き、
自由になった両手で、ランサーとアサシンの頭を掴むバーサーカー。
彼が、その気になれば、
二人の頭など、アッサリと握りつぶしてしまうだろう。
その事実に、さすがの英霊二人も、冷や汗が出るのを隠せないようだ。
「ま、待て待て! ちょっと、落ち着け!
確かに、闘いたい、とは言ったが、ガキ共に手を出すつもりはねぇよ」
「同意見だ。私は無名なれど武士……、
幼子を手に掛けるなど、例え、主の命令でも行わぬ」
「ま゛っ……」
そう言って、引き攣った笑みを浮かべる、ランサーとアサシン。
その二人の言葉を信用したのだろう。
バーサーカーは、満足げに頷くと、二人の頭を離した。
「――では、この場は、一時休戦という事で良いですか?」
私は、英霊達の顔を、グルリと見回し、
彼らの様子から、意見は出揃った、と判断を下す。
そして、かつて、王であった時のように、
王者としての威厳を見せて、決定した方針を、皆に伝えた。
即ち――
今回の聖杯戦争は放棄する、と――
我らは、マスターを守る為に召喚された。
そして……、
守るべき主は、純真無垢な子供……、
我らは、マスターを勝利に導く為に召喚された。
だが……、
殺すべき相手もまた、純真無垢子供……、
……出来るわけがない。
どんな理由があろうと、我らは英雄なのだ。
何の罪も無い……、
未来を担う子供を、殺せるわけがない。
故に……、
その決定に……、
異を唱えるわけも無く……、
その夜――
ただ一人の犠牲を出す事も無いまま――
――聖杯戦争は、終わりを継げた。
……。
…………。
………………。
「――とまあ、そういう夢を見ました」
「夢オチかよっ!?」
「シロウ……誰に向かって言ってるのです?」
「いや、気にするな……」
ある日のこと――
セイバーは、朝から、妙に機嫌が良かった。
何か良い事でもあったのか、と、
俺は、朝食後のお茶を啜りつつ、その理由を訊ねたのだが……、
何でも、昨夜は、とても良い夢を見たそうで……、
ならば、と……、
今度は、夢の内容を訊ねれば……、
「また、随分と、おかしな夢を見たもんだな……?」
「ふふふっ、そうですね」
セイバーが語るにしては、あまりにも意外な、
そのブッ飛んだ夢の内容に、俺は、思わず苦笑してしまう。
なんか、聞き覚えの無い名前も、あったような気もするが……、
パゼット、とか……、
ルヴィアゼリッタ、とか……、
まあ、それはともかく――
セイバーの話を聞き、首を傾げる俺の言葉に、
コクコクと頷きながら、彼女もまた、柔らかな笑みをこぼす。
だが、その笑みは……、
訝しがる俺とは違い、何処か楽しそうだ。
「おそらく……タイガから借りた本の影響でしょう」
「――藤ねえから?
一体、どんな本を借りたんだ?」
「アルバム、というものです……、
シロウの、子供の頃の姿が、たくさん記されていました」
「げっ……」
セイバーの口から出た単語に、俺は呻く。
ふ、藤ねぇの奴……、
そんな危険物を、セイバーに見せたのか……、
俺のガキの頃の写真だなんて……、
うわぁ〜……、
なんか、無茶苦茶、恥ずかしいぞ。
ってゆ〜か、いつの間に、そんなモノを用意してたんだ?
あの藤ねえのことだ……、
きっと、トンデモナイ写真ばかりに違いない。
例えば、こんなのとか――
もしかしたら、あんなのとか――
いや、ヘタしたら、あんなものまで――
ああ〜……、
そう考えると、余計に恥ずかしくなってきた〜……、
「勘弁してくれよ、藤ねえ〜……」
あまりの恥ずかしさに、
俺は、テーブルに突っ伏して、頭を抱えてしまう。
「シロウ、何を恥ずかしがる事があるのです?」
だが、そんな俺を前に、
セイバーは、平然とした表情で……、
「写真の中のシロウは、他の誰よりも、健やかだった。
貴方は、それを、もっと誇るべきです」
「そ、そうかな……?」
「ええ……そ、それに……」
「それに……?」
「……とても、可愛かった」(ポッ☆)
「あ……うん」(照)
先程までの、毅然とした態度とは一変し……、
小さく呟くと……、
顔を真っ赤にして、俯くセイバー。
そんなセイバーの様子に、
俺もまた、照れクサくて、言葉を失ってしまう。
「…………」(照)
「…………」(照)
何となく、気まずい雰囲気……、
いや、だってさ……、
ガキの頃を自分を、可愛い、とか言われて……、
しかも、それを言ったのが、セイバーだなんて……、
もう、嬉しいやら……、
気恥ずかしいやら……、
「そ、それにしても――」
「な、何だっ?」
その沈黙に堪え兼ねたのだろう……、
セイバーは、話題を変えようと、
ややワザとらしくも、上擦った声を上げ――
「将来、シロウの子供が産まれたら、
きっと、素直で可愛い子供なのでしょうね」
「そ、そうだな……、
セイバーの子供は、きっと可愛いんだろうな」
……。
…………。
………………。
おお、神よ……、
どうやら、お互いに、
冷静さを取り戻していなかったようです。
――ってゆ〜か、よりにもよって、なんつ〜爆弾投下してるんだ、俺はっ!!
「シ、シロウ……今のは、その……」(真っ赤)
「あっ、いや……あれはだな……」(真っ赤)
さっきよりも、さらに気まずく……、
俺もセイバーも、二人して、
顔を耳まで真っ赤にして、まさにお見合い状態……、
しかも……、
世の中には、お約束の神様がいるらしく……、
こういう、間の悪い時に限って――
「ふ〜ん……面白そうな話してるわね?」(怒)
――あかいあくま、登場。
「ふ〜ん、赤ちゃんか〜……」
「せ、先輩……それって、どういう……」
「し、士郎……?」
――しかも、オマケ付き。
「……なんでさ?」(←作者注:運命です)
まあ、何だ……、
取り敢えず――終わった?(泣)
「キッチリ説明して貰いましょうか、
このエロ学派ぁぁぁぁぁぁぁ〜〜〜っ!!」
「それって、どういう事なんですか!
先輩っ、答えてくださぁぁぁ〜〜〜いっ!!」
「士郎の子? セイバーちゃんの子?
妊娠なんて、お姉ちゃんは認めませぇぇぇ〜んっ!」
「セイバーだけなんてズルイ!
わたしも、シロウの赤ちゃん産むぅぅぅ〜〜〜っ!!」
ああ、親父……、
俺、もうすぐ、そっちに行くかも……、(号泣)
<おわり>
<戻る>
「ううっ……生きてるって素晴らしい」(感涙)
「大丈夫ですか、シロウ?」
「あ、ああ……なんとか……」
「そうですか……、
ところで、先程の話ですが……」
「――えっ?」
「シロウが望むならば……、
私は、藪かではありませんので……」(ポッ☆)
「あ、あはははは……」(真っ赤)