「――むっ? 買い物か、セイバー?」

「アーチャー……貴方もですか?」

「我がマスターは、人遣いが荒くてな……、
サーヴァントを召使い扱いする魔術師など、彼女くらいだろう」

「だが、リンは優秀な魔術師だ。
貴方は、それを誇りに思うべきではないのですか?」

「それは否定せんがな……、
ところで、今日は、衛宮 士郎は一緒ではないのか?」

「ええ……イリヤスフィールに連れて行かれてしまいました」

「やれやれ……」

「むっ……何が言いたいのです?」

「セイバー、一つ忠告しておくが……」

「何ですか、アーチャー?」








「……油断していると、盗られるぞ?」

「あうっ……」









Fate/stay night SS

King's beautiful day!










 休日の午後――

 私は、買い物カゴを片手に、
馴染みの商店街へと足を運びました。

 散歩がてら、夕飯の買出しをする為です。

 いつもなら、シロウも一緒なのですが、
今日は、イリヤスフィールに連れて行かれてしまった為、単独行動となる。

 実は、一人で買い物をするのは初めてなので、少し緊張しているのですが……、

 まあ、シロウから貰った、
お買い物メモもありますし、何とかなるでしょう。

「こうして、少しずつ慣れていかねば……」

 未だ、現代社会に馴染んでいない自分……、
 それ考えると、シロウをイリヤスフィールに任せたのは良かったのかもしれない。

 なんて事を思いつつ、私は商店街へと到着する。

 そして……、
 まずは、野菜を買おうと、八百屋へ向かい……、



「――むっ? 買い物か、セイバー?」

「アーチャー……貴方もですか?」



 偶然にも……、

 私は、バッタリと、
サーヴァントのアーチャーに対面した。

 どうやら、彼も買い物が目的のようだ。

 その手にある買い物カゴの中には、
すでに、厳選された幾つかの食材が入っている。

 家事に長けた彼のことだ。
 きっと、安く、良質なモノを選んだのだろう。

 しかし――
 いつもの赤いコート姿に、買い物カゴとは――

 ――あまりにも、違和感が有りすぎです。

「店主……そこのトマトを貰おうか」

 それを自覚しているのか、いないのか……、

 アーチャーは、何食わぬ顔で、
淡々と、慣れた様子で、買い物をこなしていく。

 その姿の、なんと似合っている事か……、

 さすがは、シロウの未来――
 その可能性の一つ、と言ったところ――

 ――っと、いけません。

 ボ〜ッとしていないで、
私も、買い物を済ませてしまわねば!

「店主、申し訳無いが、これを用立てて頂きたい」

 私は、アーチャーが用事を済ませる頃合いを見計らい、
シロウから預かったお買い物メモを、八百屋の店主に渡した。

 そして、店主が食材を集める様子を、私は、悠然と構えて待つ。

 と、そこへ……、
 隣で、私の様子を見ていたアーチャーが……、



「やれやれ……まさに、王様だな」



 唐突に、肩を竦めると……、

 それはもう……、
 不愉快な笑みを浮かべながら、そう言ってきた。

「……何が言いたいのです?」

 明らかに、この身を愚弄している、その態度……、

 私は、店主から品物を受け取り、
代金を支払いながらも、横目でアーチャーを睨みつける。

 だが、アーチャーは、そんな私の視線を、サラリと受け流し……、

「食材の選び方も知らないのか、と言ったのだ。
まったく、そんな事では、いずれ、アイツに愛想を尽かされるぞ?」

「うぐっ……」

 アーチャーの指摘に、私は言葉を詰まらせる。

 ――確かに、彼の言う通りだ。

 私は、未だ、食材の良し悪しを見抜く術を持たない。
 そして、今回は、シロウも不在だ。

 その為、今回は、店主に、食材選びを委ねたのだが……、

 知らぬからといって、
いつまでも、そのままで良いとは限らない。

 ただでさえ、私は、女性としての魅力は、リンやサクラに及ばない、と言うのに……、

 こんな事では、英霊『食っちゃ寝』と呼ばれても反論出来ない。

 ってゆ〜か……、
 もしや、今の私は、タイガと同レベル?!

 ダ、ダメです……、
 このままでは、シロウを彼女達に奪われてしまうっ!

「くっ……私は、どうすれば……」

「ふむ……その様子だと、自覚はあるようだ」

 この身を襲う危機感に、私は歯噛みする。

 そんな私の様子を見て、アーチャーは、
軽く嘆息すると、諭すような口調で、語り掛けてきた。

「まあ、キミの性格なら、すぐに覚えられる。
次に、衛宮 士郎と買い物に来た時にでも、教えを請うが良い」

「ええ……ご忠告、感謝します」

 アーチャーの言葉に、私は素直に頷き、礼を述べる。

 そうですね……、
 彼の言う通り、それは、とても良い考えだ。

 シロウのことです……、
 きっと、喜んで教えてくれるでしょう。

 食材を手に持ち、一つ一つ、丁寧に説明するシロウ……、

 そんなシロウの姿を想像するだけで、
こちらも、ついつい、顔がほころんでしまいそうです。

 ふふふ……、
 次に買い物に来る日が楽しみですね。

「さて……それでは、私は帰らせて貰うぞ」

 言いたい事は全て言った、とばかりに……、
 アーチャーは、踵を返すと、スタスタと立ち去って行く。

 だが……、
 何か忘れモノでもしたのか……、

「ああ、そうそう……」

 と、妙にわざとらしく、こちらを振り返ると……、

 まるで、リンのような……、
 意地の悪い笑みを浮かべ……、



「先程、帰宅する衛宮 士郎とイリヤの姿を見た」

「……それが、何か?」

「急いで戻らないと、アイツが危ないのではないか?」

「――は?」



 謎の言葉を言い残し、去って行くアーチャー。

 その意図が分からず、
私は、首を傾げつつ、アーチャーを見送る。

 ――危険?
 何故、シロウが危険なのだ?

 聖杯戦争は、もう終わったのだ。

 シロウの身に危険が及ぶ事など、もう無いはず……、

 まあ、彼の固有結界の存在が、
不安要素ではあるが、それが時計塔に露見したとは考え難い。

 ならば……、
 現状で、シロウが危機に晒されるなど……、


 ……。

 …………。

 ………………。


 いや――
 ちょっと待て――

 アーチャーは、それ以前に、何と言った?


『――帰宅する衛宮 士郎とイリヤの姿を見た』


 ――そう。
 確かに、アーチャーは、そう言った。

 シロウとイリヤスフィールが帰宅した。

 それが、どうした、と言うのだ……、
 何故、それをして危険だ、と言うのか……、

 考えろ……、
 その理由を考えろ……、

 今、シロウとイリヤスフィールは、衛宮邸にいる。

 そして……、
 その場に、私はいない。

 つまり……、

 それが……、
 何を意味するのかと言うと……、

 今、シロウとイリヤスフィールは――
















 ――二人きり、という事だっ!!
















「――シロウッ!!」

 その事実に気付いた私は、全速力で走り出す。

 もちろん……、
 向かう先は自宅である衛宮邸だ。

 私とした事が、なんという不覚っ!
 シロウとイリヤスフィールを、二人だけにしてしまうとはっ!

 これが、リンやサクラならば、まだ良い。

 二人とも、強敵ではあるが、良識はある。
 それに、シロウも、彼女達を女性として意識している為、そう簡単に懐に入れようとはしない。

 しかし、イリヤスフィールは別だ。
 妹(都合の良い時だけ)であるが故、彼女に対して、シロウは完全に無防備。

 その立場を利用して、彼女が、どんな暴挙に出るかは、想像に難くない。

 なにせ、シロウの寝床に潜り込んだり、
入浴中に乱入しようとした珍事は、未だ記憶に新しいのだ。

「シロウ……無事でいてください!!」

 イリヤスフィール襲われるシロウの姿が、
脳裏に浮かび、私は、足に魔力を込めて、走る速度を上げる。

 その為、私は気付くことが出来なかった。

 もう一度、こちらを振り向いたアーチャーが……、



「アルトリア、俺を頼む……それと、幸せになれ」



 慌てて走り去る私を……、
 優しい笑みを浮かべ、見送っていた事に……、
























 結果だけ言おう――

 私は、大慌てで帰宅したわけだが……、

 どうやら、私の心配は、
ただの杞憂でしかなかったようだ。

 いや……、
 そう言い切るには、少し微妙か……、

 何故なら……、
 シロウとイリヤスフィールは……、



「す〜す〜……」

「スヤスヤ……」



 暖かい日の当たる縁側で……、

 気持ち良さそうに、
お昼寝をしていたのだから……、

 まあ、イリヤスフィールが、シロウの腕を枕にしていたり……、
 さらには、ピッタリと寄り添っているのは、正直、許せませんが……、

 ……ここは、大目に見る事にしましょう。

 彼女は、疲れているシロウの身を気遣って、
早々に、買い物(デートではありません)を切り上げて来たのでしょうから……、

「まったく、人の気も知らずに……」

 私は、シロウの部屋から、
大きめのタオルケットを持って来ると、二人の体に、そっと掛ける。

 そして、シロウの傍に腰を下ろすと……、



「こういうのは、少し照れクサイですね……」



 彼を起こしてしまわないように……、

 ゆっくりと……、
 シロウの頭を、自分の膝の上に乗せた。

 まあ、あれです……、
 ようするに、膝枕というモノです。(照)

 良く、公園などを散歩していると、若い男女が、こうしているのを目撃するのですが……、

 なるほど……、
 確かに、これは良いものです。

 何と言うか、とても、くすぐったい気持ちになる。

 それに……、
 胸の辺りが、ほんわかと温かく……、

「ふふふ……」

 私は、小さく微笑むと、
シロウの、少し堅い髪の毛を、手で梳く。

 そして、イリヤスフィールの、長く柔らかい髪も……、

「まあ、こういうのも良いでしょう……」

 本当は、シロウとお茶でも飲みながら……、
 ゆっくりと語り合って、過ごそうかと思っていたのですが……、

 たまには、こうして、静かに過ごすのも悪くはありません。

 と言うか、むしろ、この家は、
もう少し静かであるべきだ、と、私は思う。

 リンやサクラ――
 タイガにイリヤスフィール――

 それだけなら、まだしも……、

 アーチャーに、ランサーに、バーサーカーに……、
 さらには、ギルガメッシュまで……、

 とにかく……、
 この家には、人が集まりすぎる。

 まあ、それはそれで、楽しくはあるのですが……、

 そのせいで……その……、

 私とシロウとの……、
 二人だけの時間が、少なくなってしまうわけで……、(真っ赤)

 どうせ、今夜も、皆は集まって……、
 特に、今夜は、ギルガメッシュも来るでしょうから、騒がしくなりそうです。

 帰り道の途中、中華料理店『泰山』の前で、
唇を真っ赤に腫らして倒れているのを見かけましたからね。

 絶対に、口直し、とばかりに、シロウの料理を食べに来る筈です。

 ああ……、
 今から、目に浮かぶようです。

 そんな彼らの為に、奔走するシロウの姿が……、

 だから、せめて……、
 今、この時だけでも、彼に平穏を……、

 心と体の疲れを、癒してもらいたいから……、

 願わくば……、
 この身が、彼の『理想郷』となれますように……、

 貴方という『剣』が帰る『鞘』となれますように……、

 今も……、
 そして、これからも……、

 だから、シロウ――

 どうか――
 どうか、安らかに――

 この身に、全てを委ね――
















「アル……トリア……」

「はい……私は、ここにいますよ」

「……うん」
















 ――おやすみなさい、シロウ。








<おわり>


 あとがき

 調子に乗って、第四段〜♪

 何気に、前作の続きだったりします。

 アーチャーが、少し扱い難かったり……、
 普通に皮肉屋なら良いんだけど、士郎風味という事を考慮するとね〜。

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