「――あれ?」
「どうしました、イリヤスフィール?」
「お弁当の数が一つ、多いような……」
「そのようですね……、
という事は、今日の昼食は、いつもより沢山食べられ――」
「……セイバー、本気で言ってる?」
「――冗談に決まっています。
シロウが忘れた、と考えるのが妥当ですね」
「そうね〜……で、どうするの?」
「……学校まで、届けに行きましょう」
「――さんせ〜♪」
Fate/stay night SS
Welcome to lunch time!
「――失礼します」
「……っ!?」
四時限目の授業中――
それは……、
あまりにも唐突に現れた。
「セイ……バー?」
美しい金色の髪――
清楚な服を着た異国の少女――
その姿を見た瞬間、俺の頭は真っ白になった。
な、何故……、
どうして、セイバーが……、
頭の中で、疑問符がグルグルと回る。
そんな俺の動揺を知ってか知らずか……、
「エミヤシロウに、忘れ物を届けに来ました」
静寂に満ちた教室の中に、
セイバーは、軽く一礼してから、堂々と入って来た。
「…………」
クラス全員の奇異の視線が、セイバーに向けられる。
だが、セイバーには、
それに気後れする気配など、微塵にも感じられない。
いつも通りの、落ち着いた物腰で、教室内をグルリと見回す。
そして、セイバーは、未だ状況が掴めず、
呆然としている俺に目を止めると、無造作に、俺の傍へと寄ってきた。
そんなセイバーの姿を、他人事のように眺めつつ――
さすがは、アーサー王……、
大勢の人を前にしても、全然、動じてないな。
――なんて、ちょっと現実逃避してみたり。
「シロウ……?」
見れば、いつの間にか、
セイバーは、俺の目の前に立っていた。
「セ、セイバー……どうして、ここに……?」
ここに至って、ようやく、
我に返った俺は、震える声で、セイバーに訊ねる。
すると、セイバーは、軽く眉をしかめると……、
「先程も言ったでしょう……、
台所にコレがあったので、シロウに届けに来たんです」
そう言って、俺の弁当箱が入った、
巾着袋(俺の手作り)を、トンッと、俺の机の上に置いた。
それと同時に――
キ〜ンコ〜ン、カ〜ンコ〜ン――
まるで、狙ったようなタイミングで……、
四時限目の授業終了の……、
波瀾の昼休みの開始を告げるチャイムが鳴り響いた。
「――い、いくぞ、セイバー!!」
「えっ? シ、シロウ……!?」
チャイムが鳴るとと同時に、
まるで、逃げるように、先生は教室を出て行く。
――懸命な判断だ。
これから、起こるであろう騒動に、
巻き込まれない為には、速やかに、この場から離れる事が、最良の手段である。
俺も、それを見習い……、
キョトンとしているセイバーの手と、
弁当を掴むと、教室の出口へとダッシュした。
だが……、
俺の行動を読んでいたのか……、
「甘ぞ、衛宮……♪」
「――う゛っ!」
立ち塞がるは、弓道部の元主将――
三年へと進級した際、
クラスメートとなった『美綴 綾子』――
「見逃せ、美綴……」
「――やなこった」(ニヤリ)
それはもう……、
遠坂と同じくらいに意地悪な……、
――こんな面白い玩具、逃してなるものか。
絶対に、そんな事を考えているであろう、美綴を見て、
逃亡は困難だと悟った俺は、援軍を求めて、視線をさまよわせる。
そして、我が親友の一成に目を止めた。
どうやら、一成も、俺の行動を読んでいたらしい。
多分、手に握られているのは、生徒会室の鍵だろう。
教室を出ようとしていた俺に向かって、それを投げようと、手を振り上げた姿勢のまま固まっている。
そんな姿勢のまま、俺と目が合った一成は、
振り上げていた手を、ゆっくりと下ろし、小さく首を横に振る。
そして、「南無〜」と、合掌なんぞ、してくれやがった。
ならば、と――
俺は、ダメで元々で、もう一人の援軍に――
――これまた、進級の際に、同じクラスになった遠坂に目を向けた。
しかし……、
予想通りと言うか、何と言うか……、
「……♪」(ニヤニヤ)
「うわ……」(大汗)
さすがは「あかいあくま」……、
いつの間にか、俺とセイバーを囲む生徒達に混ざるように……、
三枝さん達、三人娘の後ろで、
美綴よりも、邪悪な笑みを浮かべていらっしゃる。
ダメだ……、
あれは、俺を助ける気なんて、毛頭無い。
第三者のフリして、特等席で、この事態を楽しむつもりだ。
くそう……、
当分、朝飯は和食にしてやる。
――って、こんな仕返ししか出来ない自分が情けないな。
「さて、衛宮……覚悟は良いわね?」
「……お手柔らかに」(泣)
逃げ場を失い……、
援軍も期待できず……、
いや、味方すらも敵に回っている、この状況……、
まさに、四面楚歌――
そんな状況の中……、
得意満面で、俺の前に立つ美綴は……、
まるで、裁判官の如く……、
「――それじゃあ、始めましょうか♪」
検察官も弁護士もいない……、
『質問責め』という名の、
一方的な裁判の開廷を宣言した。
美綴 「――取り敢えず、彼女の紹介からいきましょうか?」
士郎 「え、えっと……彼女は、セイバーといって……、
俺の親父の知り合いで……」
美綴 「弁当を届に来た、という事は……、
セイバーさんは、あんたと一緒に暮らしてるってこと?」
士郎 「あ、うっ……それは……」(汗)
セイバー 「キリツグとの約束なのです。
あらゆる脅威から、シロウを守って欲しい、と……」
美綴 「そ、それって……、
つまり、許婚とか、そういう意味なわけ……?」
士郎 「――ぶっ!?
な、何をっ……俺達は、まだ……」(真っ赤)
セイバー 「そ、そそ、そうです!
わ、私達は、今は、まだ、そのような……っ!!」(真っ赤)
美綴 「今は? まだ? ふ〜ん……♪」
士郎・セイバー 「…………」(真っ赤)
……。
…………。
………………。
氷室 「では、私も訊ねるとしよう。
セイバー嬢は、もう、衛宮に捧げてしまわれたのか?」
三枝 「か、鐘ちゃん! それは、ちょっとストレート過ぎ――」
セイバー 「――はい、もちろんです」(キッパリ)
士郎 「お、おい、セイバーっ!?」
薪寺 「うわっ! 平然と答えやがった!」
セイバー 「この身は、シロウの為にある……、
ならば、(剣を)捧げるのは、当然の事です」
氷室 「そうか……これは、私の中の衛宮像を、
大きく修正する必要がありそうだな」
セイバー 「……?」
士郎 「意味が違う……違うんだよ、セイバー」(泣)
……。
…………。
………………。
一成 「ふむ……まあ、衛宮の私生活を、
どうこう言うつもりは無いが、相手がセイバーさんなら、俺は賛成だ」
美綴 「――柳洞、その心は?」
一成 「最近の衛宮は、どういうわけか、遠坂と仲が良いからな。
もしや、と思い、危惧していたのだが……、
それは、どうやら、俺の杞憂でしかなかったようだ。
セイバーさんなら、安心して、衛宮を任せられる。善哉、善哉」
セイバー 「むむっ! それは聞き捨てなりませんね。
リン、以前から、言おうとは思っていましたが、
シロウとは、もう少し、節度を持って接してもらいたい」
凛 「ちょっと、何で、いきなり、私に話を振るの――」
セイバー 「そもそも、貴女は、シロウに甘え過ぎだ。
今朝だって、リンが寝坊しなければ、
シロウが慌てる事もなく、忘れ物などしなかったのです」
美綴 「ちょっと待った! という事は、
遠坂って、昨日、衛宮の家に泊まったわけ?!」(驚)
セイバー 「――あっ」
凛 「バカ……」
士郎 「セイバー、正直ってのは、美徳とは限らないんだぞ……」
セイバー 「シロウには、言われたくありません……」
美綴 「はいはい、内緒話はそのへんにして……、
三人とも、その辺のトコ、詳しく話して貰いましょうか?
特に、外泊なんて以ての外な、優等生の遠坂さん?」
士郎・セイバー・凛 「…………」(滝汗)
とまあ、そういうわけで――
セイバーの、思わぬ乱入によって、
俺達の私生活が、大きく露見する事となってしまった。
もちろん……、
魔術云々については、喋っていないが……、
それともかく――
皆からの質問責めのせいで、随分と時間を費やしてしまった。
昼休みの時間は、残り少ない。
急いで、弁当を食べようと、
俺は、セイバーと遠坂を伴い、屋上へ……、
・
・
・
「衛宮よ、ちょっと良いか?」
「――何だ、一成?」
「先程から、中庭の真ん中で、
お主達の名前を、大声で叫んでいる娘がいるようだが?」
「あっ、そういえば……」
「訊きたくないけど……どうしたの、セイバー?」(汗)
「シロウ、リン、申し訳無い……、
中庭に、イリヤスフィールを待たせていた事を忘れていました」
「「――はあっ!?」」
「シロウ〜! セイバ〜! リン〜!
早く、お弁当食べようよ〜!
すぐに出てきなさ〜〜〜〜い!!」
「おい、衛宮……、
お主、まさか、あんな童女にまで……」
「そんなわけあるかぁぁぁぁーーーーっ!!」(泣)
訂正――
どうやら、今日は、
昼食を食べてる暇は無いらしい。(涙)
<おわり>
あとがき
ようするに……、
学校にセイバーが来て、無自覚に爆弾投下する話です。
まあ、割りと良くあるパターンですね。
ちなみに、今回の題名の英文は間違ってるかも……、
Fate SSの題名は、全部、英語にしていきたいと思っているんですけど……、
――ボクは、英語が一番苦手な科目なのです。(馬鹿)