「せんぱ〜いっ! 朝倉せんぱ〜いっ!!」

「――んっ? どうした、美春?」

「大変なんです! 一大事なんです!
どうか、どうか、美春に力を貸してください〜っ!」

「一大事って……何があったんだ?」

「それを説明してる時間も無いんです!
とにかく、今すぐ、人手が必要なんですよ〜っ!」

「人手って……どのくらい?」

「多ければ多いほどっ!」

「何だか、良く分からんが……、
ようするに、沢山、協力者を集めれば良いんだな?」

「はい! そうなんですよ〜!
そういうわけなので、先輩、宜しくお願いします!」

「お、おい……まだ、手伝うなんて一言も……」








「それでは、三十分後に、桜公園で――っ!!」

「……かったるい」









D.C.(ダ・カーポ) SS

和菓子が結ぶ恋心










 とまあ、そういうわけで――

 有無を言わせぬ、勢いに圧され……、
 済し崩し的に、俺は、美春に協力する派目になってしまった。

 イマイチ、事情がハッキリしないし――
 一体、何をやらされるのか分からないし――

 正直、かなりかったるいのだが……、

 だからと言って……、
 可愛い後輩の頼みを、無下に断るわけにもいかず……、

 取り敢えず――
 人手を集めるため――

 本校にある自分の教室へとやって来たのだが――



「水臭いぞ、朝倉! そういう事なら、
何故、真っ先に、同志である、この俺に声を掛けん!」



 教室に戻った俺は……、
 真っ先に、音夢の姿を見つけ……、

 音夢に事情を説明し、協力を求めていると、
何処からともなく現れた杉並が、そう言って、ポンッと、俺の肩を叩いた。

 さらに……、



「そうですよ。言ってくだされは、協力は惜しみませんのに……」

「そうそう。困った時は、お互い様っすよ」

「あや? 朝倉さん、お困りなのですか?」

「朝倉様の為ならば、わたしくも、
微力ながら、お力添えさせて頂きます!」

「朝倉君には、いつもお世話になってるし……」

「あ、あの……私も、純一さんのお手伝いを……」

     ・
     ・
     ・

 実は女の子だった『工藤 叶』――
 学園のアイドルである『白河 ことり』――
 ピンクのクマの異星人の『紫 和泉子』――
 自称、俺の許婚である『胡ノ宮 環』――
 新人漫画家の『彩珠 ななこ』――
 朝倉家の元メイドの『鷺澤 美咲』――



 といった、クラスメート組が……、
 ぞろぞろと、俺と音夢の周りに集まって来た。

「兄さん……随分と、おモテになるんですね?」(怒)

「ご、誤解だぞ、音夢! 俺は潔癖だっ!」(汗)

「ふ〜ん、そうですか〜」(怒)

 杉並以外……、
 集まってきたのは、皆、女の子……、

 しかも、我がクラスの綺麗どころばかり……、

 そんなの彼女達を前に、我が妹の音夢は、
頬をヒクヒクと引き攣らせ、怖い笑顔を浮かべて、俺を睨み付けてくる。

 そんな、裏モード全開の音夢に、
冷や汗を流しつつ、俺は、わざわざ集まってくれた一同を見回した。

「皆の気持ちは嬉しいが、別に無理して付き合わなくても良いんだぞ?」

 どうせ、美春のことである……、
 イチイチ大騒ぎするような用事では無いはずだ。

 そんな美春の都合に、わざわざ、皆の手を煩わせるわけにもいくまい。

 そうだな……、
 こんな事に付き合うのは、俺と音夢と……、

 ……あとは、せいぜい杉並くらいで充分だ。

 俺は、そう考えて、
皆の申し出を、丁重に断ろうとしたのだが……、

「まあ、良いではないか、朝倉……」

 そんな俺の言葉を遮るように、杉並が、ずずいっと前に出て来る。

「理由など、この際、どうでも良いのだ……、
ようするに、白河嬢達は、お前にかまって貰いたいのだろう」

「はあ……?」

「お前、ここ最近、朝倉妹とばかり一緒にいるだろう?
ここにいるお嬢さん方は、それが寂しくて仕方が無いのだよ」

「そんな馬鹿な……」

 と、杉並の言葉を鼻で笑いつつ……、
 でも、一応、確認するつもりで、俺は彼女達に目を向けた。

「「「「「「…………」」」」」」(ポッ☆)

「…………」(怒)

 案の定、誰も、俺と目を合わそうとしない。

 ただ一人、音夢だけが……、
 何故か、さらに怒りゲージを上昇させて、俺に殺気を向けている。

「ほら、見ろ? 皆、違うって言ってるじゃないか」

「…………」

「おいっ……その『うわ〜、馬鹿?』って表情は何だ?」

「まあ、その件については、もういい……」

「質問に答えろっての!!」

 心底、呆れ果てた表情を浮かべる杉並を、俺はジト目で睨み付ける。

 そんな俺の抗議の視線を、
アッサリと無視して、杉並はドンドン話を進め始めた。

「さて、諸君! この鈍感おバカの話によると、
今から、三十分後に、桜公園で、わんこ嬢と合流するらしい」

「誰が、鈍感おバカだっ!?」

「俺は、水越姉妹に声を掛けてから行く為、少し遅れる。
諸君達は、先に、わんこ嬢の待つ合流場所へと向かっていてくれたまえ!
このミッションの成否は、諸君の双肩に掛かっている! 心して任務についてくれたまえっ!」

「――了解っす、杉並軍曹♪」

「うむっ! それでは、全員出動!!」

全軍抜刀〜♪ 全軍突撃〜♪オールハンドトゥ・ガンパレード

「もう、好きにしてくれ……」

 何処までも、俺を無視して……、
 調子に乗った杉並は、勝手に話を大きくしていく。

 ノリの良いことりは、杉並の言葉に、敬礼すると、音夢達を伴って、教室を出ていった。

 そして……、
 俺と杉並の二人だけが、教室に残される。

「白河嬢……この春を境に、キャラが変わったか?」

「そうか? 前から、あんな感じだぞ?」

「まあ、それはともかく……お前は、どうする?」

「俺は、さくらにも声を掛けていくよ。
あいつ、仲間外れにすると拗ねそうだし……」

 何かもう、色々と疲れた俺は……、
 そう言って、半ば自棄っぱち気味に溜息をつく。

 だが、そんな俺とは裏腹に、杉並は、とても楽しそうだ。

 まあ、こういうイベントが、
三度のメシより好きな奴だから、当然なのだが……、

「ふむ、では、お前は職員室だな。
俺も、水越姉妹を呼びに、音楽部の部室に行くとしよう」

「萌先輩はともかく、眞子が来るかな?」

「な〜に、お前の名前を出せは二つ返事だ」

「はいはい、好きにしてくれ」

「あと、月城嬢はどうする?」

「アリスなら、多分、美春が呼びに行ってるだろう」

「そうか……それでは、同志よ! また会おう!」

 それだけを爽やかに言い残し、杉並は、窓から外へと飛び出して行く。

 その姿を見送ってから、
俺は、重い足取りで、教室の外へと――

 ――って、ちょっと待て?

 確か、この教室って……、
 本校の二階にあったはずでは……、

「まあ、良いか……」

 あいつの事だ……、
 この程度の高さ飛び下りても、怪我なんてしないだろう。

 杉並の安否を気にするのは止めにして、俺は、とっとと教室を出る。

 そして……、

「この学園にも、一応、七不思議ってのがあるが……」

 あいつの存在の方が……、
 どんな不思議よりも、よっぽどミステリーだよな。

 と、そんな事を考えながら……、

 俺は、さくらがいるであろう、職員室へと向かった。
















「お〜い、さくら〜? いるか〜?」

「――ていっ!」


 
ポカッ!!


「あうちっ!!」



 職員室――

 普段なら、絶対に近寄らない、その部屋に入り、
さくらの名を呼んだ途端、俺は、いきなり、暦先生にツッコミを入れられた。

「あのな、朝倉……気持ちは分かるが、
学校にいる時くらいは、ちゃんと、芳乃先生と呼ばんか」

「うい〜っす……」

 今、俺の頭を殴ったばかりの出席簿で、
肩をトントンと叩きながら、暦先生は、呆れ顔で言う。

 ううう……、
 わざわざ、角で殴りやがって……、

「それで……さくらは居ますか?」

「お前な、人の話を聞いて……、
まあ、いい……ほら、芳乃先生なら、窓際の席にいるよ」

「ども……」

 そんな暦先生に、恨みがましい目を向けつつ、俺は、さくらの所在を訊ねた。

 そして……、
 暦先生の言葉に従い、そちらを見ると……、



「すやすやすやすや……」

「…………」


 さくら『先生』は……、
 日当たりの良い窓際で……、

 それはもう、気持ち良さそうに、眠っておられた。

 このガキ……、
 職場で居眠りとは、良い度胸してやがるな。

「にゃ〜、にゃ〜、にゃ〜」

 しかも、さくらの頭の上で揺れている、コケシの様な珍獣(うたまる)が、何だか、凄く挑戦的だ。

「何で、誰も起こそうとしないんだ?」

 と、世の中の不条理に首を傾げつつ……、

 いつまでも、女の子の寝顔を、
拝見しているわけにもいかないので、俺は、さくらを起こす事にする。

「お〜い、さくら〜……」

「むにゃ、むにゃ……猫缶……」

 ちょっと遠慮がちに、俺はさくらの体を揺する。
 しかし、起きる気配は、全く無く、幸せそうに寝言を呟くだけだ。

 仕方ないので、もう少し強く揺すってみることに……、

「おい、さくら……起きろ……」

「うにゃにゃ〜……お目覚めのキスしてくれなきゃ起きないよ〜」


 
――ポカッ!


「うにゃっ!!」

 素敵に狸寝入りを決め込んでいたさくらの頭に、俺は拳を振り下ろした。

 軽く叩いたつもりだったが、
机に突っ伏していた分、衝撃が逃げず、思っていたよりも痛かったようだ。

 さくらは、ガバッと起き上がると、早速、俺に詰め寄ってくる。

「生徒が先生に暴力振るっちゃダメだよ!
内申書に響くぞ〜! 卒業出来なくしてやるぞ〜!」

「……逆なら良いのか?」

「それは愛の鞭だもん♪
特に、お兄ちゃんには愛情一杯♪」

「よし、決まった。俺が卒業したら、お前に、ターゲット・ロックオンだ」

「それって、噂に聞く卒リンってやつ?
まあ、お兄ちゃんに襲われるなら、ノープロブレムだけど」

「お前を襲わにゃならんほど、俺は飢えとらんわい」

「も〜、相変わらず、音夢ちゃんにらぶらぶなの?
ダメだよ〜、兄妹なんだから、イケナイこと考えちゃ〜」

 気にするな……、
 それについては、もう手遅れ……、

 なにせ……、
 ここ数日、一人で寝たこと無いし……、(爆)

 と、他人には、とても聞かせられないセリフを、内心で呟きつつ……、

 一応、さくらも目を覚ましたので、
俺は、脱線していた話を、本題に戻す事にする。

「ところで、さくら……お前、もう仕事は終わったのか?」

「まあ、明日の授業の準備は、お家でも出来るし……、
ボクは、非常勤だから、だいたい、いつも定時には帰れるよ」

「そうか……じゃあ、この後は暇か?」

「暇ってわけでもないけど……、
もしかして、デートのお誘いかな〜?」

「職員室で、先生をデートに誘えるような度胸は、俺にはない」

「ボクできるよ〜♪ ねえ、お兄ちゃん――」

「――断る」(キッパリ)

「そういうこと言うと、今度の休みに補習させちゃうぞ〜♪
さくら先生の特別個人授業♪ しかも、教科は保健体育〜♪」

「……そういうのは、公私混同と言うんじゃないのか?」

「違うよ〜、職権濫用♪」

「…………」

 何と言うか……、
 いい加減、コイツの相手をしているのが、かったるくなってきた。

 無邪気に喧嘩を売ってくるさくらに、俺は眉間のシワを、指で揉み解す。

 まあ、俺を慕ってくれる気持ちは嬉しいのだが……、

 そういう言動は……、
 もう少し、場所を弁えてもらいたい。

 というわけで……、

「……うりゃっ!!」


 
――ガシッ!


「うにゃにゃっ!?」

 俺は、さくらの頭を鷲掴みにすると、
ズルズルと、職員室の外へと引っ張り出す。

「にぎゃ〜っ! 痛い痛い! 頭が抜けるぅぅぅぅ〜〜〜っ!!」

「はっはっはっ! お前に意見を求めた俺が馬鹿だったよ。
とにかく、来いっ! サッサと来いっ! 拒否権の行使は認めんっ!」

「うにゃにゃ〜っ! 攫われる〜っ!
白河先生、助けてぇぇぇぇぇぇぇ〜〜〜っ!!」

「……それじゃあ、暦先生、お騒がせしました」

「あ〜、気をつけて帰れよ」

「職場の同僚を見捨てるなぁぁぁぁ〜〜〜〜っ!!」

     ・
     ・
     ・



 こうして……、
 さくらの捕獲に成功した俺は……、

 先生達の生暖かい視線に見送られながら……、

 ジタバタと暴れるさくらと一緒に、
美春との集合場所である、桜公園へと急いだ。
















 そして――
 場所は、桜公園――

 俺とさくらの到着を、美春と音夢達が出迎えた。

 美春と杉並が、連れてきたのだろう。
 集まった皆の中には、アリスと水越姉妹の姿も見える。

 さらに……、
 ちょっと予想外の人物も……、



「お久しぶりです、朝倉さん」

「――明日美っ!?」



 ――そう。
 そこにいたのは……、

 初音島の外に住んでいる筈の……、
 『霧羽 香澄』の妹である明日美だったのだ。

「何で、明日美がここに……?」

「えっと……その……」(ポッ☆)

「ふむ……俺から話そう」

 確かに、再会の約束はしたものの……、
 まさか、このタイミングで現れるとは思っていなかった。

 正直、驚いた俺は、初音島来訪の理由を、明日美に訊ねる。

 すると、何故がモジモジとするだけで、
ハッキリしない明日美に代わり、杉並が口を開いた。

「水越姉妹を連れて、こちらに向かう途中で、偶然、出会ってな。
お前を訊ねて来た、と言うから、ついでに連れてきたのだ」

「いや、俺が聞きたいのは、そういう事じゃなくて……」

 微妙にズレた答えをする杉並を、俺は問い詰める。

 だが、またしても、杉並は、
俺を無視して、サッサと話題を変えてしまった。

「それにしても……揃いも揃って、全員で13人か……」

 桜公園に集まったメンツを、
グルリと見回し、杉並は、何やら言いたげにウンウンと頷く。

 そして、突然、俺の肩をガシッと掴んだかと思うと……、

「よくやったぞ、朝倉っ!
今、この瞬間、お前は『藤田 浩之』を超えたっ!」

「――誰だ、それはっ!?」

「まあ、それはともかく――」

「勝手に話を脱線させて、勝手に元に戻すなっ!」

「細かいことは気にするな」

「……一句、詩ってもいいか?」

「おおっ、朝倉の口から、そんな雅な言葉が……是非、聴かせてもらえるか?」

「『かったるい、嗚呼、かったるい、かったるい』……」

「この場にいる皆様の心情を捉えた、見事な詩ですわ、朝倉様……」

「兄さん……杉並君のペースに合わせちゃダメですよ」

 杉並の、あまりの傍若無人な振る舞いに、
思わず黄昏る俺を、音夢と環が励ましてくれる。

 そんな俺達の姿を見て、埒が開かないと判断したのだろう。

 ちょっとイライラした様子で、
眞子が、今回の企画発起者(?)である美春に、話を振った。

「それで。天枷さん……、
これだけの人を集めて、一体、何をするつもりなの?」

「はう〜! 美春は幸せ者です〜!
美春の為に、こんなに集まってくださるなんて〜……」

「はいはい、それは良いから、
チャッチャと理由を話しなさいな。急いでるんでしょう?

「あわわ、そうでしたっ!」

 予想以上の人数が集まった事に、感涙する美春。
 だが、眞子に急かされ、時間が無い事を思い出したのか、すぐに表情を引き締める。、

 そして……、
 美春は、ポケットに手を突っ込むと……、



「実は……コレなんですっ!!」



 中から取り出した広告を……、
 俺達、全員に見えるように、バッと広げてみせた。

 あっ……、
 なんか、オチが見えたような気がする。

 と、そんな事を考えながら、俺は、広告の内容を読み上げる。

 すると、案の定……、
 その広告には、こう書かれていた。
















 
本日、超特価セール!!

 
なんと、バナナ1房80円!!

 
お一人様、2房までっ!!
















『…………』(大汗)
















 全てを理解した瞬間――

 間違い無く……、
 俺達の時間は止まった。

 そんな中、俺は……、
 いや、その場にいる全員は……、

 ……自分の判断ミスを痛感した。

 ようするに……、
 美春の言う『一大事』というのは……、

 バナナの限定特価セールがあるから、
それの買出しに付き合え、というものだったわけた゜。

 しまった……、
 相手は、あの美春なのだ。

 こういう展開は、充分に、予測の範疇ではないか……、

「あ、あれ? 皆さん、どうしたんですか?」(汗)

 不穏な空気を感じ取ったのか……、
 広告を持った姿勢のまま、美春は笑顔を引き攣らせる。

 今、この場にいる全員の思いは一つ……、

 このバナナ狂……、
 どうしてくれようか……、

「ねえ、兄さん――」

「――わんこ嬢の始末を、どう着ける?」

「そうだな……」

「えっ? えっ? えっ?」

 どうやら、人騒がせな美春へのお仕置きは、俺に一任されたらしい。

 相変わらず、自分の置かれた状況を、
理解出来ていない美春を、ジト目で睨みつつ、俺はお仕置きの方法を思案する。

 そして……、



「――取り敢えず、バナナを買いに行くぞ」



 そう言うと、俺は、大量のバナナを購入するため……、

 皆に先立って……、
 商店街のスーパーへと向かった。
















 で、場所は変わって――

 ここは、桜公園の近くにある、海の見える高台――



「あやや、たまにはバナナも良いですね〜」

「はあ〜、こんな事でしたら、お鍋を持って来るべきでした〜」

「バ、バナナに鍋ですか……」

「お姉ちゃん……それは止めた方が良いと思うな」

「……もぐもぐ」

「うにゃにゃっ! うたまると頼子が取り合ってる〜!」

「頼子っ! 仲良くしなきゃダメでしょう!」

「にゃにゃにゃにゃにゃっ!」

「フギャーッ!!」

「悪いな、明日美……折角、来てくれたのに、こんな事になって……」

「いいえ、良いんです。とても楽しいですよ」

     ・
     ・
     ・




 大量のバナナを買い込み……、
 その高台の一角に陣取った俺達は……、

 ……第一回バナナパーティーを開催していた。

 まあ、パーティーといっても……、
 単に、皆でバナナを食べながら、お喋りをするだけなのだが……、

 しかし、十数人の美少女達が……、
 皆して、バナナを食べている、というのも……、

 何と言うか……、
 果てしなくシュールな光景である。

「どうしたの、兄さん……?」

「いや、何でもない……」

 ボ〜ッとしている俺の様子を見て、訝しく思ったのか……、

 隣に座る音夢が、俺の顔を、ヒョイッと覗き込んできた。

 そんな妹を直視できず、
俺は、慌てて、音夢から視線を逸らす。

 頼む、我が妹よ……、
 バナナを咥えたまま、小首を傾げるのは止めてくれ。

 お前、もう可愛すぎ……、
 ってゆ〜か、今夜は、それに決定っ!(何が?)

 と、そんなヤバイ事を考えつつ、
俺は、バナナパーティーの会場から、ちょっと離れた桜の木に目を向ける。

 そこには――



「あううう〜、美春のバナナが〜……」(滝涙)



 ――縄で繋がれた、わんこが一匹。(笑)

 その理由は簡単。
 俺が、バナナ禁止を言い渡したからだ。

 ――そう。
 これこそが、美春へのお仕置きなのだ。

 目の前にあるバナナを食べられない……、
 しかも、次々と、他の人に食べられてしまう……、

 美春は、その光景を、指を咥えて見ている事しか出来ない。

 それは、まさに……、
 美春にとっては、地獄の責め苦であろう。

「お願いです、お代官様〜……、
どうか、美春めに、寛大なお慈悲を〜……」

 その責め苦に、とうとう堪えられなくなったようだ。
 美春は、瞳をウルウルと潤ませながら、俺に懇願してくる。

 だが、そんな状況でも、ちゃんと言いつけを守って、
バナナに手を伸ばそうとしないあたり、さすがは忠犬と言ったところか……、

「……反省してるか?」

「はいです! それはもう、海よりも深く、空よりも高く!」

「ったく、しょうがね〜な〜」

 俺の言葉に、パタパタと尻尾を振って(比喩)、頷く美春。

 その忠節振りに、今回は、許してやる事にした俺は、
最後の一本のバナナを食べつつ、ゆっくりと美春に歩み寄る。

「美春も食べて良いんですかっ!」

「もう、最後の一本は、俺が食った」

「あううう〜……」(泣)

「その代わり、とっておきのを、お前にやろう」

「まさか、朝倉先輩のバナナを食べろ、だなんて、えっちな事を言うのでは……、
まあ、美春としては、それも望むところですが……」

「はっはっはっ! それも捨て難いがな……」

 さり気無い、美春の爆弾発言を、
爽やかにスルーしつつ、俺は、美春の目前に握り拳を差し出した。

 そして……、
 手の中に、イメージを集中させ……、


 
――ポンッ☆


「ほれ……」

「わあっ! バナナ大福ですね♪」

 和菓子を生み出す能力――

 その能力を使い、食べたばかりの、
バナナのカロリーを消費して、出現させたバナナ大福を、美春に渡す。

 ちなみに、この能力については、
既に、皆の知るところなので、今更、隠す必要は無い。

 杉並に知られた時は、やたらと興味を示されたが……、

 と、それはともかく――

「これを食べれば、朝倉先輩の栄養が、そのまま美春の栄養になるんですね〜♪」

「馬鹿なこと言ってないで、サッサと食えっての」

「は〜い♪」

 俺が渡した大福を、嬉しそうに頬張る美春。

 そんな美春の頭を撫でてやっていると、
不意に、後ろから、ポンポンと肩を叩かれた。

 振り返れば……、
 そこには、物欲しそうな表情を浮かべた、音夢達が……、

 おいおい……、
 まさか、コイツら……、



「ねえ、兄さん……?」

「はい……何でしょう?」(汗)

「まさか、美春だけ、って事は無いですよね?」

「い、いや……でも、俺のカロリーが……」(大汗)

「――に・い・さ・ん?」(怒)

「あうあうあう……」(涙)



 どうやら……、
 俺の予想通りの展開っぽい……、

 音夢達の、怖いくらいに爽やかな笑みが、全てを物語っていた。



「それじゃあ、兄さん……お願いしますね♪」

「……らじゃ〜」(大泣)

     ・
     ・
     ・
















 とまあ、そういうわけで――

 音夢達の迫力に屈した俺は――
















「ボクは、出来るだけ柔らかくて、甘いのがいいな〜♪」

「だから、そういう意味深なセリフを言ってると、狼に――」

「ボク、赤ずきんちゃん〜♪ 狼のお兄ちゃん、食べて〜♪」

「マズそうだから、いらん」

「うにゃ〜! レディーに対して失礼だぞ〜!」








「わたくしは、栗饅頭が良いです」

「はいはい、っと……」

「ふふふっ……あの時と同じ味です」

「そ、そうだな……」








「叶は、桜餅で良いか……ほら」

「うん……ありがとう、朝倉君」

「まあ、生憎と、いつもの茶店ほど美味くは無いがな」

「ううん、そんなことないよ……」








「あたしは、あの時のモナカをお願いしますです」

「あのシャケ型の奴か……ほい、っと」

「あや〜、鮭モナカ〜♪」








「ふむ……ならば、俺は……」

「――手を出せ」(ボトボト)

「……何だ、これは?」

「くずきり……」

「――食えるかっ!!」





「じゃあ、私は、ドラ焼きに、きんつばに、栗羊羹に……」

「おい、音夢……少しは遠慮を――」

「――私の知らないところで、
随分と、たくさんの女の子と仲良くなってるみたいですけど?」

「うぐっ……」(汗)

「私という、立派な恋人がいながら……」

「……甘納豆や、胡桃餅もいかがでしょう?」

「はい♪ お願いしますね♪」

「しくしくしくしく……」(泣)
















 ……。

 …………。

 ………………。
















 たった今……、
 バナナで摂取したばかりの……、

 いや、それ以上のカロリーを消費して……、

 全員分の和菓子を……、
 ひたすら、作り続ける派目になったのであった。
















 うううう……、

 腹減ったよ〜……、(大泣)








<おわり>


あとがき

 ――はい?
 冒頭だけで、ネタが読める?

 そういうこと言う人、冷凍バナナで殴り殺します〜!(笑)

 それはともかく……、

 たまには、こういうネタの小出しみたいなSSも書いてて楽しいです。

 ただ、その分、文章にまとまりが無くなって、
妙にテンポが悪くなるのが、ちょっと痛いですけど……、(汗)

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