エンジェリックセレナーデ SS
ある朝の出来事
カウジーが、ファースン家の居候となって、数日が経ったある日のこと――
「――あう♪」
朝の日差しが差し込む明るい部屋に、少女の元気な声が響く。
その声の主は、もちろんラスティだ。
もうすぐ朝食が出来るから起こしてきて欲しい、とシアリィに頼まれ、
彼女は、カウジーの部屋へとやって来たのである。
だが……、
「ぐー……ぐー……」
カウジー、未だ爆睡中。
そんな彼の姿に、ラスティは可愛らしく頬を膨らませる。
と言っても、それも数瞬のこと……、
ラスティはニンマリと悪戯っぽく微笑むと、カウジーの毛布の端を掴むと……、
「あう♪」
問答無用で、彼を包む毛布を剥ぎ取った。
それはもう、嬉しそうに……、
しかし、今朝のカウジーは、ちょっと手強かった。
いつもなら、これで起きるのだが、今朝のカウジーは、未だに目を覚まそうとしないのである。
なにせ、カウジーは、昨夜は遅くまで作曲をしていたのだ。
絶対的に睡眠時間が少ないのだから、目覚め難いのは当然であろう。
だが、ラスティも、ここで引き下がるわけにはいかない。
何と言っても、今日は闇の日……、
街の人達も、そして、彼女自身も楽しみにしている定期コンサートの日なのだ。
だから、(ラスティ内部では人生の)パートナーとして、
演奏者(ラスティ内部では兼恋人)であるカウジーを寝坊させるわけにはいかないのだ。
「あ〜うっ! あ〜うっ!」
カウジーの体を揺すり、なんとか彼を起こそうと頑張るラスティ。
しかし、所詮は子供の力……、
どんなに頑張って揺すっても、カウジーを覚醒させるだけの刺激を与えられない。
いや、それどころか……、
その揺れが、さらにカウジーの眠気を促進してしまったようだ。
「ん〜……むにゃむにゃ」
カウジーは、枕に顔を埋め、より深い眠りへと墜ちていく。
「うう〜ん……」
「あう〜……」(ポッ☆)
布団を剥ぎ取られてしまい、眠れながらも、寒さは感じているのだろう。
小さく体を丸めるカウジーを見て、ちょっと可愛いかも、と、頬を赤らめるラスティ。
だが、すぐに本来の目的を思い出し、ブンブンッと頭を振って、落ち着きを取り戻すと、
ラスティは、より激しく、カウジーの体を揺さぶろうと、ベッドの上に身を乗り出す。
……と、それがいけなかった。
「う〜ん……」
――ガバッ!!
「あうっ!?」
ぬくもりを求めるかのように伸ばされたカウジーの手……、
その手が、ラスティに触れた途端、彼女は、カウジーによって抱き寄せられていた。
しかも、あろうことか……、
ラスティのまだまだ発展途上の胸に、カウジーは顔を埋めてしまった。
「――っ!? ――っ!? ――っ!?」
あまりのことに、パニックに陥るラスティ。
まあ、無理も無いだろう……、
一つ屋根の下に暮らしているとはいえ、ここまで急接近したことなど、今まで無く……、
せいぜい、外に出掛ける時に手を繋ぐ、くらいしかなかったのだから……、
「ん〜……ん〜……」
ちょっと名残り惜しくはあるものの……、
とにかく、カウジーの腕から逃れ様と、ラスティは身を捩る。
だが、無意識の内にそうなってしまうのだろう……、
ラスティの抵抗は最低限のものでしかなく、当然、カウジーの腕からは離れられない。
やはり、どうにも、このシチュエーションは捨て難いようだ。
「あう〜……♪」
すっかり抵抗を諦め、体から力を抜くラスティ。
そして、未だに自分の胸に頬を寄せて熟睡しているカウジーの頭を抱きながら、
日向の匂いがする、意外に柔らかな彼の黒髪を、そっと手で梳く。
――彼が目覚めるまで、こうしているのも悪くないかもしれない。
赤子をあやすように、カウジーの頭を撫で……、
幸せそうな笑みを浮かべながら、ラスティはそう思い始めていた。
しかし……、
本来の目的を忘れてしまうのは良くない。
思い出してみよう……、
ラスティが、カウジーの部屋に来た理由を……、
ラスティは、もうすぐ朝食が出来るから、とシアリィに言われ、
部屋で寝ているカウジーを起こしに来たのである。
しかし、いつまで待っても、二人は部屋から出てこない。
となれば、シアリィが、それを不思議に思い、様子を見に来るのは当然なわけで……、
「ラスティ? カウジーさんは、もう起きたの?」
すっかり気心が知れてしまっていたせいか……、
ノックもせずに、シアリィはカウジーの部屋へと入ってくる。
そして……、
「あらあら……」
「――あうっ!?」
その状況を目の当たりにし、シアリィは、一瞬、言葉を失い……、
そんな母を前に、ラスティは、思わず固まってしまう。
「あ、あ、う〜……」
必死に、誤解を解こうと、口をパクパクさせるラスティ。
しかし、カウジーの腕に抱かれたままでは、説得力は皆無である。
「う〜! う〜!」
その事に気付き、慌ててカウジーの腕から離れようと、ラスティは、今度は全力で身を動かす。
だが、それよりも早く……、
「――了承♪」
と、シアリィは、頬に手を当ててそう言うと、
満面の笑みを浮かべたまま、バタンッとドアを閉めてしまった。
……。
…………。
………………。
シアリィの言葉の意味を図りかね……、
部屋を出て行った母を、呆然と見送るラスティ。
そして、数瞬後……、
「あうううううーーーーーっ!!」
(違うのぉぉぉーーーーっ!!)
シアリィの言葉を理解したラスティの叫び声が、
ファースン家に響き渡ったのは……、
……まあ、言うまでもないだろう。
それはともかく、シアリィさん……、
あなた……、
それは、キャラが違いますよ。(汗)
<おわり>
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