エンジェリックセレナーデ SS

        
夢の中で……







 カウジーとラスティが夫婦となり――
 新婚旅行へと旅立って、数日経ったある日の夜――





「……ん〜?」

 真夜中に、ふと、寝苦しさを感じ、ラスティは目を覚ました。

「――っ!?」

 途端、驚きのあまり、眠気が一気にフッ飛ぶ。
 何故なら、いつの間にやら、一緒に寝ていたカウジーに抱き枕にされていたからだ。

 小柄なラスティの体を、両腕でしっかりと抱きしめるカウジー。
 これでは、寝苦しさを覚えるのも、無理はないだろう。

 旅立ってからというもの、野宿ばかりだったのだが、
昨日、ようやく、フォンティーユから一番近い街に到着した。

 それで、宿屋に泊り、久し振りに、ベッドで気持ち良く寝られると思っていたのだが……、

「…………」(ポッ☆)

 だが、ラスティは、起こされてしまった事を不快に思ってはいないようだ。
 目覚めて、いきなり、愛しい相手の寝顔が目前にあり、ラスティは頬を赤らめている。

 結婚し、夫婦になったとはいえ、まだまだ初々しいラスティであった。

 ちなみに、一応、断わっておくが……、
 カウジーもラスティも、ちゃんと服は着ている。

 いくら夫婦とはいえ、12歳のラスティに手を出すほど、カウジーは外道ではなかったようだ。
 尤も、ラスティに言わせれば、歯痒いことこの上ないのかもしれないが……、

 それはともかく……、

「……♪」

 愛しい人のぬくもりに包まれて上機嫌なラスティは、そっと、カウジーの胸に頬を寄せる。

 伝わってくるカウジーの鼓動……、
 その心地良いリズムが、再び、ラスティに眠気を誘い始める。

 このまま、カウジーの鼓動を感じながら、
朝までまどろむのも悪くは無いかも、と思いつつ、ラスティは瞳を閉じる。

 その時……、

「んん……むにゃ……」

「……カウジーさん?」

 目覚めたラスティの気配を感じ取ったのか、僅かにカウジーが身を捩った。
 そして……、

「んん〜……サフィー……」

「…………」(怒)

 聞き捨てならないカウジーの寝言に、ラスティの愛らしい顔が引きつる。

 確かに、かつて彼のパートナーだったサフィーとカウジーとの絆は、
自分では割って入る事など出来ないくらいに深く、強いのは分かっている。

 今、自分とカウジーが一緒にいられるのは、
サフィーのおかげなのだということも理解している。

 しかし、分かっていても、理解していても……、

 自分という妻がいながら、寝言で他の女性の名前を呼んでいるのを、
納得し、了承できるほど、ラスティは聞き分けの良い女の子ではなかった。

「――よし」

 何かを決意したように、小さく、でも力強く頷くと、
ラスティは、そっと、カウジーの頬に両手を添え、自分の額をカウジーの額に当てる。

 そして、自分とカウジーの意識を同調させると……、
 そのまま、カウジーの夢の中へと……、

 ……夢の回廊へと、入っていった。








 夢の回廊――
 天界と現世の狭間――

 懐かしい湖畔の側で腰を下ろし、楽しげにお喋りをしているカウジーとサフィー。

 そんな二人の姿を発見したラスティは、
無言で歩み寄ると、半ば強引に二人の間に割って入り、そこに座り込む。

 さらに、これでもかとばかりに、力いっぱい、カウジーにしがみついた。

「ラ、ラスティ?」

「あらあら……」

 突然、現れたラスティに……、
 そして、そんな彼女の行動に、カウジーとサフィーは目を丸くする。

 しかし、天使になった(戻った)とはいえサフィーも同じ女性である。
 すぐにラスティの気持ちに気が付くと、クスッと苦笑を浮かべた。

「ごめんね、ラスティ」

「う〜……」

 頬を膨らませて、サフィーをちょっとキツく睨むラスティ。
 だが、サフィーの想いが分からないわけではないので、すぐに機嫌をなおす。

 それでも、カウジーから離れようとしないのが可愛く、
カウジーは、そんなラスティの頭を優しく撫でた。

「それにしても、意外とラスティって独占欲強いのね〜♪」

「だ、だって……」(ポッ☆)

「でもね、浮気は男の甲斐性とも言うんだから、気にしちゃダメよ」

「そんな甲斐性いりませんっ!」

 頭を撫でられて気持ちよさそうにしているラスティを、サフィーがからかう。
 さらに……、





「仕方ないな〜。じゃあ、今日のところは、カウジーはラスティにかいしょう(返そう)」





 
ヒュ〜〜〜〜……


「……帰ろうか、ラスティ」

「……(コク)」

「どうして、そういうこと言うかな〜?」

 久し振りのサフィーギャグに、体を震わせ、立ち上がる二人。
 そんな二人に、憮然とするサフィー。

「まったく、サフィーは、いつまで経っても変わらないな」

「お互い様でしょ」

「クスクス……」

 もちろん、カウジーもラスティも、
本気で立ち去るつもりなどなく、すぐに腰を下ろす。

 そして、三人で、ひとしきり笑い合っところで……、
 
「さて、せっかくラスティも来てくれたことだし、昔のカウジーのことでも話してあげようかな♪」

「おいおい、そんなの別に面白くもなんとも――」

 さっきまで、カウジーとしていた思い出話に、再び、花を咲かせようとするサフィー。
 カウジーは、そんなサフィーの提案に難色を示したが……、

「聞かせて下さい……カウジーさんのこと、もっと知りたいです」

 そのラスティの言葉で、何も言えなくなってしまい……、
 カウジーは、照れ隠しのつもりか、ラスティの頭をちょっと乱暴に撫でる。

 そんな、アツアツの二人に、サフィーは一瞬、不機嫌そうな顔になるが、
すぐに悪戯っぽい笑みを浮かべると……、



「それじゃあ、手始めに、カウジーの女性関係からいってみましょうか♪」



 ……と、のたもうた。

「ちょっと待てっ!! なんだ、それはっ!?」

「なんだって……そりゃあ、もちろん、カウジーがこれまでの人生で、
無自覚に陥としてきた女の子達の話に決まってるじゃない♪」

「俺は、そんな真似はしていないっ!!」

「やれやれ……自覚が無いって罪よね〜……下は幼女から上は未亡人まで……、
今まで、カウジーのせいで何人の女の子が泣いてきたことか……」

「幼女ってのは、まあ、フィアのことだろうけど……その未亡人ってのは何だ?」

「つい最近、加わったのよ」

「――はあ?」

「つまり、場合によっては、カウジーはラスティのお父さんになってたかもしれないわけ」

 余談だが……、
 ラスティの母、シアリィは未亡人で、一児の母でありながら、まだまだ若々しい。

「カウジーさん……」(怒)

「ラ、ラスティ! ちょっと待てっ!
俺は何も知らない! 何も知らないぞっ!」

 サフィーの言葉を聞き、ジト目でカウジーを睨むラスティ。

「………………サフィーさん、続けてください」

 だが、取り敢えず、今は何も言わないことにしたのだろう。
 真剣な表情で、サフィーに話の続きを促す。

「そうねぇ〜♪ 他にも『色々』とあるから、ぜ〜んぶ話してあげる♪」

「おいっ! 一体、何を話すつもりだっ!?」

「あることないこと『色々』よ♪」

「い、色々って……」

「例えば、私がカウジーにされたこととか、私がカウジーにしてあげたこととか……」(ポッ☆)

「そんなことをラスティに話すなぁぁぁーーーっ!!」

「いいじゃない♪ これも女の嗜みよ♪ ねぇ、ラスティ?」

「はい、是非、お願いします」

「ラスティ〜〜〜〜〜」(泣)

 女の子二人で、すっかりノリノリになってしまっていることに、カウジーは涙する。
 そんなカウジーを見て、してやったりと笑みを浮かべつつ、サフィーはパチンと指を鳴らした。

 その途端、急速に、カウジーの意識は、夢の回廊から離れて行く。

「はいは〜い♪ それじゃあ、今から女の子同士の話をするから、
カウジーは、先に帰っててね〜♪」

「こらーーーっ! 戻せーーーーっ!! サフィーーーーーッ!!」

「さてさて♪ それじゃあ、まずはカウジーの初体験の話から〜♪」

「…………(ごくり)」

「やーーーめーーーーてーーーーくーーーーれーーーーっ!!」
















 そして、夜が明けて……、

 次の日の朝、目覚めたラスティは、
開口一番、カウジーに向かって、恥ずかしそうに呟いた。

「わ、わたし……頑張って、早く大きくなります」(ポッ☆)

「…………」(汗)








 こうして……、

 齢12歳にして、ラスティは、
すっかり耳年増になってしまったのであった。








<おわり>
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