エンジェリックセレナーデ SS

      
ラスティのラブレター?







 フォンティーユのふもとのいつもの川辺――
 俺がいつも野宿している場所――

 そこで、毎朝の日課であるフォルテールの調律をしていると……、


 
――ガサガサ


 これまた、毎度お馴染みの、
茂みを掻き分ける音が、俺の背後が聞こえてきた。

「やあ、おはよう、ラスティ」

「あ〜ぅ……」

 音の正体は分かりきっていたので、俺は調律する手を休めることなく、
振り返らぬまま、ラスティに声をかける。

 すると、ラスティは、トテトテと俺の側まで小走りで寄ってきて、ペコリと頭を下げた。

「さて……じゃあ、今日も始めようか?」

 調律を終え、指鳴らしに軽くイントロを奏でた後、俺はラスティに微笑みかける。

 いつものように、闇の日に行う、
定期コンサートへ向けての練習を始めようと思ったのだ。



 本当は、とても良い子なのに……、
 忌み嫌われる赤い瞳の為に、街の人達に迫害され続けてきたラスティ……、

 そんなラスティの誤解を解くため、ラスティが街の人々に受け入れて貰えるようになるために、
俺達は二ヶ月ほど前からコンサートを始めた。

 最初は、喋れないはずのラスティが歌を唄っていることを気味悪がっていたが……、

 徐々に、徐々に……、
 ラスティの、天使のように歌声に、街の人々の心は開かれて……、

 今では、すっかり街のアイドルとなり、
街の人々は、ラスティのコンサートを心待ちにするようになった。

 まあ、俺の演奏は、あまり期待されていないのが、
楽師としてちょっと悲しかったりするが……、



 まあ、それはともかく……、

 そんな街の人々の期待に応えるべく、
今日も練習をしようと、ラスティを促したのだが……、

「……(ふるふるふる)」

 どういうわけか、ラスティは大きく首を横に振った。
 そして、ちょっと頬を赤らめつつ、一枚の紙を俺に差し出す。

「これを読めば良いの?」

「あぅ……」

 何度も頷くラスティに急かされるように、俺は綺麗に折り畳まれた紙を開いた。
 そして、それに書かれた文面に目を通す。



 あなたのことが大好き――
 そう気付いた瞬間の――

    ・
    ・
    ・



「こ、これって……もしかして、ラブレター?」

「――っ!!(ぶんぶんぶん)」

 冒頭の文の内容に衝撃を受けた俺は、戸惑いながらラスティに訊ねる。

 すると、ラスティは怒ってしまったのか……、
 顔を真っ赤にして、それはもう凄い勢いで首を横に振る。

 ……そんなに必死に否定されると、ちょっと寂しい。

「あ、あははははは! そ、そうだよね?
今や街のアイドルのラスティが、俺なんかにラブレターを書くわけがないよな」

「……うー」

 照れ隠しに、大袈裟に笑う俺。
 そんな俺を、なんだか複雑そうな表情で睨むラスティ。

 なんだうろう?
 今度こそ、本当に怒っているような……、

 と、ラスティの反応に首を傾げつつ、俺は残りの文面を読み進めた。

「これは……そうか!
歌の歌詞だっ! ラスティが作詞したんだね?」

「あぅ……」(ポッ☆)

 俺の言葉に、恥ずかしそうに頷くラスティ。

 そうか……、
 これで新しい曲を作って欲しいってことだな。

 と、そう訊ねると、ラスティは、もう一度、コクリと頷く。

「わかった、任せてよ! でも、すぐには無理だから、ちょっと待っててね。
完成したら、次のコンサートでお披露目だっ!」

「あぅっ!」

 嬉しそうにニコリと微笑むラスティ。

 そんなラスティに笑みを返しつつ、
早速、曲のイメージを掴もうと、俺は、もう一度、その歌詞を読み上げた。

 そして、ふと、思ったことを口にする。

「でも、この歌詞って、本当にラブレターみたいだね?
もしかして、好きな人でもできたかな?」

「――っ!?」

 冗談のつもりで言ったのだか、なんと図星だったようだ。
 ラスティは大きく目を見開き、俯いてしまう。

「そうか〜……ラスティにも好きな人がね〜……、
で、その羨ましい子は、一体、誰なんだい? 俺が知っている子かな?」

 まあ、どうせ教えてはくれないんだろうけど……、
 と、内心で呟きつつ、からかい半分で訊ねてみる。

 すると、ラスティは……、

「う〜……」

 不機嫌そうに頬を膨らませ、ジト〜ッと俺を睨みつけると、
ぷいっとそっぽを向いて、走り去ってしまった。

「お、おい? ラスティ、ちょっと待ってよ!」

 いきなり走り去ってしまったラスティを追おうと、
俺は慌てて、フォルテールを片付ける。

 そして……、





「俺、何か怒らせるようなこと言ったか?」





 と、首を傾げながら、
俺はフォンティーユの街へと続く階段へと走り出したのだった。








<おわり>
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